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訪問

毎朝8時に更新。

 〈訪問〉


 狭い部屋の中で一人の女性が呻いていた。銀色の髪を振り乱し、激痛に耐える。

「頑張って下さい、後もう少しですから!」

「う、ああ!」

 最後の力を振り絞ると、彼女を苦しめていた存在は彼女の身体から抜け出した。

「姫様、女の子です」

「そう、……やっぱりね」

 玉の様な汗を額に浮かばせたまま彼女は、ホッとしたような寂しげな笑みで呟いた。母となった彼女は、湯浴みして綺麗になった我が子の顔を見せて貰う。

「ふふ、あの人そっくり」

「そうですか? 私は姫様に似ていると思いますけど?」

「間違いなく父親似よ、この子は」

 我が子を抱える女性に、彼女は優しい笑みを見せた。今までの苦労が報われた事に対して非常に喜んでいる。

「お子のお名前は決めてありますか?」

「名前……」

 母になった女性は暫く考え込んだが、良い名は思い浮かびそうにない。

「ファルティマーナ様に相談すれば良かったわね」

「いらっしゃいますよ」

 彼女がそう告げるや、部屋の中に更に女性が入って来た。二人でも狭く感じる部屋に三人目の入室とあっては、ますます窮屈になる。しかし、そのような事は気にしていられる状況ではない。

「ファルティマーナ様!」

「ルーディリート、気遣いは無用です。それよりも、この子の名は決まりましたか?」

「いえ、それは……」

 彼女は入って来た伯母に対して口籠もる。ファルティマーナはにっこりと微笑んだ。

「それでは、わたくしが名付けましょう」

 生まれたばかりで、あらゆる可能性を秘めた赤ん坊を見て、彼女は目を細めた。

「アル……、アイシャ……、そうね」

 古い言葉を幾つか口の中で繰り返していた彼女は、最後に頷いた。

「アリーシャ、と名付けましょう。フルネームは、アリーシャ・ヴェルロサリア・アーフリアノールね」

「ファルティマーナ様、それは!」

 ルーディリートは驚いた。名付けの法則からすれば確かにそうなるが、それでは父親が誰であるのか、ほとんどの者に知られてしまう。

「気にすることはありません。わたくしと同じで問題がありますか?」

 ファルティマーナの落ち着き払った態度に、ルーディリートも安堵する。

「ご配慮、感謝します」

 頭を下げた彼女に、伯母は言葉を続けた。

「ところでルーディリート、やはり城には戻りませんか?」

「それは、何度来られても同じです。私は戻るつもりはありません。それに、この子も産んでしまった今となっては……」

 彼女は母の里へ来ていた。城内で出産できないことはないが、そうすれば父親探しの厳しい追及があるのは明白で、それを避ける為に逃げて来たとも言えなくはない。

「そう……、あの子も寂しがっているのですけれど……」

 伯母の沈んだ声に、ルーディリートは言わんとするところを察して顔色を変えた。

since 2003

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