戴冠式
平日毎朝8時に更新。
「ソニア、席を外してもらえるかしら。ここから先は私とソフィア様の二人で話したいの。貴女には悪いけれど、でもこれは……」
「ソニア、この子の言う通りにして」
「畏まりました」
言い淀む主に代わってファルティマーナが指示する。ソニアは腑に落ちないながらも、指示通りに奥へ引き下がった。
「さて、何を話してくれる気になったのかしら?」
「実は、私……」
ルーディリートの声は震えていた。俯いてお腹を両手で押さえる。
「いるんです、ここに。このお腹の中に、あの人の子が……」
「え?」
突然の告白に、ファルティマーナは凍り付いたように動きを止めた。
「ですから、私は用を足しに行ったのではなく、戻していたんです。吐き気があって……」
「それは、本当にあの子の?」
「私、あの人としかそう言うことはしていません」
「そうね、疑ってごめんなさい」
「いえ、でも、疑われても当然だと思います。巫女が仕事中に、無理矢理襲われた話はよく聞きましたから」
「そうなの……」
「信じて下さい。あの日、ソフィア様が侍女たちを集めたあの夜に、私は……」
「あの日に?」
ファルティマーナが目を見開く。あの日に侍女たちを集めたのは、息子から頼まれたからだった。どうしても聞き耳を立てられたくない話があるから、集めておいてくれないかと。しかし、まさかそのような事態になっていたとは、全く予想できていなかった。
「そして、その時に見たんです」
「見たとは、未来を?」
「はい」
ルーディリートは真剣な眼差しで頷いた。
「あの人が長になる未来と、エリス姉様がソフィアになる未来。私は監獄塔に閉じ込められて、記憶を消される……」
「そのような暴挙、わたくしがさせません!」
しかしルーディリートは首を横に振った。
「未来は変わりません。ソフィア様も分かっていらっしゃいますでしょう? 未来は変わらないのです。あの人は地上に赴いて、帰っては来ません。待つのはもうたくさん。私はソフィアとして一族を導けるほど強くはありません。あの人がいない間の留守を守れるほど、強くはないのです。卑怯かもしれませんが、私はエリス姉様ならたとえ一人でも一族を導くだけの力量があると、判断したのです」
「それは、信じてもよろしいのですね?」
「この期に及んでまで、嘘は申しません」
「それにしたところで、貴女が身籠っている事を知ればあの子は……」




