戴冠式
平日毎朝8時に更新。
しかし思考はそこで中断される。不意に部屋の外が騒々しくなったかと思うと、扉が荒々しく開け放たれたからだ。
「ソフィア様!」
「おどきなさいソニア! それからルーディリート! いつまでそのように殻に閉じ籠っているの。貴女の兄が、どれほど心配しているのか分かってるの?」
常にない語気と勢いで部屋に入って来たファルティマーナを、誰が制止できただろうか。あっと言う間に布団をめくり上げ、涙を流していた彼女を厳しい眼差しで見下ろした。
「何か弁明することはありますか? 貴女はランティウスを裏切った。戴冠式に出席しなかった事を、どう弁明するのですか?」
ファルティマーナの態度にルーディリートは惚けたような視線を返すしかできなかった。
「さあ何なりと言い訳をなさい。聞いてあげます。それで納得の行かない理由ならば、私は貴女を許してはおきません」
「ソフィア様、お待ち下さい。姫様は今……」
「どこが具合が悪いと言うの! このような健康的な娘のどこが、具合が悪いと言うの?」
ファルティマーナの口調は乱れている。それはやはり我が息子と、我が娘とまで思って育てて来た者が、結ばれると信じていたのが裏切られたせいだろう。今の彼女の精神状態は嵐の海の如く荒れている。
「申し訳ありません、ソフィア様」
ルーディリートは布団の上に座ると、深々と頭を下げた。
「私はソフィアの資格を得ると言う大それたことに恐れを抱いてしまったのです」
「姫様……」
本当の理由とは違う内容を言い出した主を諫めようとしたソニアに、ファルティマーナの厳しい視線が飛ぶ。それを受けてソニアは押し黙ってしまった。
「腑甲斐ない娘です。どうか追放処分にでもして下さい」
「それだけの覚悟ができていて、どうしてあの子を裏切ったのですか?」
ファルティマーナは幾分落ち着いたのか、諭すような口調で尋ね掛けた。
「それは……」
ルーディリートは言い淀む。咄嗟に考えついた言い訳では、それ以上の言葉は出て来ない。その彼女にファルティマーナは優しく語り掛けた。
「ソフィアとして務まるかどうかは、長をどれだけ愛しているかで決まります。個人の能力にも多少は左右されますが、根源的な問題は、長を想う心です。貴女は新しい長を快く思っていないのですか?」
ルーディリートは首を横に振って答える。
「それならば、貴女は堂々としてあの場にいれば良かったのです。何を恐れることがあるのですか? 新しい長は貴女を探して、広間を三周も回ってしまったと言うのに」
「三周もですか!」
ソニアが驚く。通常、長は二周目でソフィアを指名しなければならない。それを三周も回るというのは、異例中の異例だ。




