表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の華は蒼く咲く  作者: 斎木伯彦
戴冠式
31/56

戴冠式

平日毎朝8時に更新。

 それから幾日か過ぎたある日、ルーディリートの許にソフィアルテからの呼び出しがかかった。

「ソフィア、ルテ……?」

「ファルティマーナ様のことです。エリス様は未だソフィアとしての責務を果たすことはできないでしょうから、指南役として残っておられるのです。それがソフィアとしては最後のお務めだとか」

 侍女の説明を受けてルーディリートは困惑顔になった。恐らく戴冠式にいなかったことを問い質されるのだろう。それを思うと憂欝になる。

「ソニア、私は気分が優れないから、誰とも会えないと言っておいて頂戴」

「姫様、それは……!」

「いいの、しばらくは誰にも会いたくないわ。それに誰かに本当のことを話してしまっては、一族に不安を与えてしまうでしょ? 私が締め出されていたと知ったら、お兄様もファルティマーナ様も黙っていられる方ではありませんから」

「畏まりました。使いの者には上手く言い繕っておきます。どうかご安心してお休み下さいませ」

「ソニア、いつも悪いわね」

「いいえ、私は姫様のお役に立てるのが嬉しいのです」

 ソニアの微笑みは真からのものであるらしい。忠義を尽くしてくれる彼女に、ルーディリートは申し訳ない気持ちになった。

「それでは寝台で横になっていて下さいませ。元気に椅子に腰掛けていらしては、すぐに露見してしまいますから」

「そうね」

 ルーディリートは寝台に横になる。目を閉じて今までのことを思い返していた。母が亡くなり、ファルティマーナの(もと)へ引き取られた事。兄や姉に出会った事。それから巫女の修業を重ね、先見(さきみ)の能力を開花させた。巫女として初めて務めたその夜、純潔を失った事。想いを遂げたあの時、この未来を見通していたはずだった。だから悲しいはずはない。それなのに。

「どうして、涙が溢れるの?」

 覚悟を決めていたのではないか。この日に涙を流さないように、それまでに枕を濡らした夜は何だったのだろう。兄の顔が彼女の目蓋の裏に幾つも見える。真剣な眼差し、優しい笑顔、そして悲しい顔。その全てが彼女の心を押し潰そうとする。

「私は、お兄様を裏切ったのよ……」

 戴冠式の最中(さなか)に席を離れたのは不可抗力だったとは言え、兄にしてみれば彼女の方が裏切ったように思っていたとしても仕方のない事だろう。その事が彼女の心を責めたて、そして暗い領域へと誘う。いっそのこと姿を消してしまいたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ