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月の華は蒼く咲く  作者: 斎木伯彦
戴冠式
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戴冠式

平日毎朝8時に更新。

「お兄様……」

 床に突っ伏して嗚咽を漏らす。かなりの時間が経過してから、扉を突き抜けて喚声が響き渡った。ハッとして顔を上げる。衛兵は扉を開けた。

「どうやらソフィア様が決定したようだな。もう通ってもよろしいです」

 今更という気もするが、それでもルーディリートは広間へふらつく足取りで入る。壇上では前の長が嬉しそうに広間の一族に手を振っていた。その隣にいる新しく長になったばかりのランティウスと、前のソフィアことファルティマーナは困惑顔だ。ランティウスの隣、本来ならば彼女が立っていたはずの場所には、金髪の女性が立っている。その新しいソフィアの顔には見覚えがあった。

「エリス、姉様?」

 彼女の異母姉妹であるエリス。彼女は巫女としてではなく男性たちに混じって術士の道を選んだはずだった。術士の道を選んだ彼女が、ソフィアとして壇上にいる。それは一族の慣例では有り得ない事態だ。長の正室は巫女であるのが望ましいのだから。

「……やっぱり未来は、変わらないのね」

 ルーディリートは(ほう)けたように呟いた。壇上にいるエリスは満面の笑みを浮かべて、眼下にいる一族にその笑みを振りまいている。

「今ここに、新しき長の誕生を高らかに宣言する」

 前の長の声が響き渡り、こうして戴冠式はその幕を閉じた。

「姫様、お帰りなさいませ。あ、もうソフィア様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」

 半ば放心状態で部屋に帰り着いたルーディリートを、ソニアが嬉しそうに出迎えた。その彼女に対してルーディリートは弱々しく首を横に振った。その様子で異変に気付いたソニアは表情を凍り付かせる。

「如何、なされました?」

「私……、私……」

 今にも泣き出しそうな彼女は、それ以上に言葉が続かない。

「まさか、若君が最後の最後で裏切られたのですか?」

「違うの……、違うのよソニア」

「それでは?」

「私が悪いの。途中で気分が優れなくて……」

 後はポツリポツリと今までのことを涙ながらに話すルーディリート。その話を聞き終えた時点でソニアは憤慨しているようだった。

「やはり、私がついているべきでした」

「ソニア、貴女がいても……」

「姫様は罠に掛けられたのです。ソフィア様を指名する儀式に、そのような無体な事はされません。せいぜいが人物の確認と不穏な男子を入れないだけ。姫様を入れないとなるとそれは……」

 ソニアの話を信じるならば、ルーディリートは意図的に入れてもらえなかったことになる。

「今から長に話をして来ます!」

「待って、ソニア!」

 血相を変えて飛び出しそうになった侍女を、ルーディリートは捕まえた。

「もう、いいのよ。お兄様はエリス姉様をお選びになった。私ではなく、エリス姉様を選んだの。だから、もう、いいのよ」

「姫様、しかしこれは……」

「ソニア、いい加減にして! どこに策略の証拠があるの? そのようなことを申し上げても、それはこの私の品位を貶めることにしかならないわ。そこまで考えられているのよ。私は、後は最後の可能性に賭けるわ。そうして、この計画を練った人に復讐するのよ」

「姫様……」

 悲壮な覚悟を決めた目の前の姫に、ソニアは同情を寄せた。自然と涙腺が緩む。

「だから、もういいの。済んだことでしょ?」

「姫様がそう仰られるのでしたら、私からこれ以上に申し上げることはごさいません」

「有難う、ソニア」

 ルーディリートは微笑んだが、それはどこか無理しているようにも思えた。

次回更新は4月13日です。

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