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月の華は蒼く咲く  作者: 斎木伯彦
別れ、そして出会い
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別れ、そして出会い

平日毎朝8時に更新。

「長の表敬である」

 扉の向こうから声がした。侍女たちが扉の前に(かしず)くと、ソニアがその扉を開ける。先頭に長、即ちルーディリートの父親が堂々とした足取りで入って来た。その後ろから若い男性が続けて入り、ソフィアと見慣れない金髪女性、更に少女が入って来る。

「ルーディリートよ、新しい部屋はどうだ?」

 父から尋ねられても、彼女は答えなかった。状況を理解していないのだから、答えようもないが。ソニアが機転を利かせて、代わりに答える。

「誠に恐れながらも、長様に申し上げます。ルーディリート様はこちらに到着なさって以来、大いにご満悦の様子。長様のお心を煩わすことは、何一つございませんかと思い、僭越ながらも述べさせて頂きます」

「そうか、それは何より。だが、幾分か緊張しておるようだな。あの鈴のような声が聞きたかったのだが、仕方あるまい。これからは若年ながらも公の場に立つこともあろう。今のようによく補佐してやってくれ」

「有り難きお言葉、感謝の念で一杯でございます」

 ソニアは深々と頭を下げた。普通ならば出過ぎた行為として一喝されるのだが、仕える主が幼い為に、大目に見て貰えたのだ。

「さて、本来ならば一巡りせねば行わぬのだが、今回は急なこと故、多少早いながらも、兄弟たちを紹介しておこう」

 長の声に従うように、ソフィアと、もう一人の成人女性が前に進み出た。

「こちらはルーディリートも知っての通り、ソフィアこと、ファルティマーナだ」

 ソフィアは微笑みを浮かべて軽く頭を下げた。それに対してルーディリートも応える。

「そして、こちらがカミナーニャ、お前の母と同じく、私の妻だ」

 目付きの鋭い金髪女性が婉然と微笑んだ。その彼女たちの隣に、少年と少女が進み出る。

「息子のランティウス。ルーディリートにとっては兄になる。ソフィアの息子だ」

 既に一人前に近い風貌を漂わせている彼は、銀色の髪を短く刈り込み、その身には黒を基調とした防御服を着用している。スラリとした身体は程よく鍛えられているのだろう、身のこなしには隙のようなものはなかった。顔立ちは母親似で、ルーディリートとも似通っている。

「こちらがエリス。やはり姉になる。カミナーニャの娘だ」

 彼女は未だ少女としてのあどけなさを残しているが、やや冷たい印象を抱かせる。その切れ長の目と金髪は、明らかに母親譲りだろう。

「それでは……」

「父上」

 長が何か言うより早く、ランティウスが口を開いた。

「聞けば荷物を侍女たちが運び込むとのこと、このランティウス、勝手ながらその指揮を執りたいと願います」

「ほう……」

 長は、目の前にいる息子の目の奥を覗き込んだ。黒く澄んだ瞳には邪気は感じられない。

「良かろう、後には嫌でも人を動かさなければならぬ身だ、その練習をしておくが良い」

 長は大きく頷いて彼の進言を了承した。

「では、ランティウスはここに置いてゆく。ルーディリートよ、この兄に何でも頼むが良いぞ」

 マントを翻して、長は出て行った。その後ろに粛々とカミナーニャ母娘が連れだって出て行く。ソフィアが出たのを最後に、扉が閉じられた。

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