戴冠式
平日毎朝8時に更新。
「私、出来たの」
「え?」
意味が分からない。
「だから、このお腹には……」
「姫様!」
ソニアはその一言で全て理解していた。
「あ、相手は、誰なのですか?」
「ふふ、貴女もよく知っている人よ。今日の主役の、あの人」
「あ、あの人と?」
ソニアは驚かずにはいられなかった。確かに二人は仲が良かったが、それは別の意味で捉えていたからだ。そうすると今日のもう一人の主役は、目の前で微笑む彼女と言うことだ。
「それでは、戴冠式への衣裳は、通常よりもより一層、着飾らせて頂きます」
「お手柔らかにね」
微笑んだ彼女ではあったが、その表情にはどこか影が付きまとっていることには、ソニアも気付かなかった。
「それではルーディリート様が、新たな長の正室に迎えられますように、腕にヨリを掛けて着飾らせるわよ」
ソニアと共に三人の侍女たちは彼女を着飾らせてゆく。女性にのみ許された純白の衣裳と、肘まで覆う手袋、髪をまとめて結い上げ、銀製のティアラを載せる。顔全体へ白粉を薄く塗り、頬紅と口紅を入れた。最後に眉毛の形を整えて完成だ。
「出来ました」
「ん……」
侍女たちが離れて、ルーディリートが眼を開けた。そこには人形のように可憐な少女が佇むばかりだ。その可憐さに、ソニアは溜め息をついてしまう。
「どうして普段はあのような野暮ったい服しか着ないのでしょう。勿体ないですわ」
「ソニア、普段から着飾っていては、こういう時に有り難みが無いでしょ?」
「そのような問題ではありません」
冗談だとは分かっていても、ソニアは口を尖らせた。
「ソニアも着替えて。一緒に行くわよ」
「姫様、このような時こそ、その言葉遣いもお直し下さいませ」
「あら、そうね。それでは参ります故、貴女方もお着替えなさい」
「はい、畏まりました」
毅然とした態度で告げたルーディリートと、畏まるソニアたち。しかしどちらからともなく吹き出してしまう。
「私には似合わないわね。でも広間では笑わないでよ」
「はい、畏まりました」
ソニアは努めて神妙な表情と声を作ろうとするのだが、やはり笑いそうになってしまう。
「用意が出来次第、広間へ、戴冠式へ参ります」
ルーディリートの表情は、いつになく真剣だった。そして彼女に付き従うソニアの表情も自然と硬くなる。戴冠式とは、長の継承式だ。その儀式の最後に長は正室を指名する。
「機会は今年だけ」
ルーディリートは口の中で呟いた。長の妻として指名されるには、出産していてはならないからだ。




