戴冠式
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「そうですか、それでは貴女は随分とあの子に大事にされて来たのですね。ソフィアとして、貴女の伯母として、私は嬉しい限りです」
「ソフィア様にそう仰って頂けると、私も嬉しいです」
ルーディリートは質問したくなる衝動を抑えて、笑顔を作った。その彼女の胸の奥から込み上げて来るものがある。
「うっ……」
慌てて口元を抑えた。涙目になりながらも胸の奥から込み上げて来たものを、無理矢理奥へ戻す。ここ最近続いている症状だ。しかしそれ以外に不調はない。原因は、彼女自身は知っている。周囲の誰も気付いていないが。
「どうしました?」
「何でも……、何でもありません。大丈夫です」
「姫様……」
心配そうに見る伯母と侍女に、彼女は微笑み返した。
「本当に何でもないのですか? どこか具合が悪いのでは?」
「いえ、至って健康そのものです」
ルーディリートは強硬に否定する。
「それでは、戴冠式の用意もありますので、これにて失礼します」
「ええ、そうね」
ルーディリートはそれ以上に追及されるのを拒否して、ソフィアの前を辞去した。後にはソニアが続く。広間を出て暫くした所で、彼女は近くの手洗いに駆け込んだ。
「姫様!」
慌てて後を追ったソニアが見たのは、洗面台に顔を埋める主の姿だった。どうやら戻しているらしいと判断した彼女は、背中をさする。
「大丈夫ですか、姫様?」
戻しながらも、ルーディリートは頷いた。
「心配掛けるわね」
バツの悪そうな表情で呟く。
「姫様、どうかその理由をお聞かせ下さい。私どもの作る食事が口に合わないのでしたら……」
「そうじゃない! そうじゃないのよ、ソニア」
ルーディリートは強く否定した。しかしその表情は弱々しい。ソニアは腑に落ちない表情で尋ね返す。
「では、どうして近頃、吐き戻しが多いのですか?」
「そうね、貴女には話しておくべきね」
もっともな質問にルーディリートは観念する。自部屋に戻り、着付けの用意を他の侍女たちに任せて、彼女はソニアと二人だけになった。
「驚かないでね、ソニア」
「はい、姫様の不調の原因が何であれ、驚きませんし、誰にも話しません」
「絶対よ」
彼女は念を押す。ソニアは真剣な表情で頷いた。




