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契り

平日毎朝8時に更新。

 それから幾許(いくばく)かの時が流れ、年末になった。

「姫様?」

 朝食を終えて、ただならぬ様子の主にソニアが声を掛けた。ルーディリートは何かを堪えているようで、目尻に薄らと涙を溜めている。口元に手を当てたと思ったら、そのまま手洗いへ駆け込んだ。暫くしてから戻って来る。

「如何なさりましたか?」

 ソニアは気が気ではない。吐き気があると言うのは、昨日の食べ物に問題があったと言うことだ。それは即ち、身の回りを世話する彼女たちの責任だ。しかし、ルーディリートは優しく微笑んだ。

「何でもないわ、それよりソニア、今日は何だか酢漬けが食べたいわ。いいかしら?」

「今日も、ですか?」

 ソニアは眉根を寄せた。ここ最近、ルーディリートは二日と置かずに酢漬けか、酢の利いた食べ物を要求する。それは今までにないことだった。

「姫様、偏食なさらずに、満遍なく食事なさるのが大切ですよ」

「それは、分かってるけどね……」

 ソニアの言葉にルーディリートは、しおらしくうなだれた。自らの身体は自分自身がよく分かっている。分かっているが故に偏食してはならないことも、充分過ぎるほどに理解できているのだ。だが、身体は欲しいものは欲しいと要求するように創られている。彼女は上目遣いでソニアを見た。

「お願い。ね、ソニア」

 ソニアはこの仕草に弱かった。仕えるべき姫にお願いと言われては、それを断れるはずもない。結局ソニアは折れて要求を呑み込んだ。

「分かりました。その代わり、献立はこちらで決めさせて頂きます」

「ありがとう! やっぱりソニアに頼んで良かったわ」

 ルーディリートは幼い頃に戻ったかのようにはしゃぐ。それでふとソニアは郷愁に囚われた。

「あの頃と全くお変わりなく、姫様はご成長なさったのですね」

 独りごちてみる。

「でも、ここまで我儘を仰ったことは、無かったはずですけれども……?」

 ソニアは首を(かし)げた。ルーディリートはそれほど注文の多い姫ではない。自らできることは自分でやり、どうしても無理なことか、頼んだ方が早いことを侍女たちに命じるだけで、食事の内容なども彼女に任せ切りだった。それがここ最近は食べる量が減り、更には内容にまで注文をつける。何かが変だった。

「それじゃ、務めに行くわ」

 ルーディリートは微笑むと、自らの巫女部屋へいそいそと出掛けて行った。

「元気に育ってよ……」

 彼女は自らのお腹を撫でながら呟く。再び込み上げて来るものがあるが、それは何とか押し止めた。巫女部屋で一息入れる。

「ルー、いるか?」

「お兄様!」

 朝一番に顔を出したのは誰あろう、彼女の想い人だった。

「近頃、様子がおかしいと聞いたものだからな」

「ご心配頂きまして、誠に恐縮です。ですが、何程のこともありませぬ故、ご安心下さいませ」

「他人行儀はやめろ」

 心配そうな兄の顔を見ていられなかった彼女は、故意に彼を憮然とさせる。それは図に当たった。

「申し訳ありませんが、ここに入ったからには私は巫女。貴方の妹ではありません。それを努忘れなきように願い申し上げます」

「……分かっている」

 ますます憮然とした表情になりながら、ランティウスは椅子に腰掛けた。彼にしてみれば、ここは彼女の顔を見る為に大手を振るって訪れられる、唯一の場所だ。そこで他人行儀に話されたのでは、折角の楽しい気分も台無しだ。

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