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開花

平日毎朝8時に更新。

「姫様……!」

 寝台の上で体を起こした彼女に、ソニアが駆け寄った。

「ああ、良かった。もう二度とお目覚めにならないのかと思いました」

 寝台の端にすがり寄って泣き始める。ルーディリートには状況が理解できない。ふと目を落とすと手肌が荒れていた。ハッとして髪に手をやると、髪の毛もやや痛んでいる。

「ソニア、私……?」

「姫様、今はまだ横になっていて下さい。一週間も死線を彷徨っていたのですから」

「一週間?」

 そんなに経っていては、兄の成人の儀は終わっているはずだ。

「お兄様の成人の儀は?」

「はい、それはつつがなく終了致しました。途中に暴漢が乱入しましたが、幸い若君は難なく退(しりぞ)けまして、大事には至りませんでした」

「良かった……」

 ルーディリートはホッと胸を撫で下ろした。忠告が役に立ったのだ。しかしそれと同時に哀しさも浮かび上がって来た。彼女の見る夢は予知能力がある。そしてその的中率はほぼ百パーセント。多少は未来を変えることも可能のようだが、その大筋では変わらないようだ。

「ソニア、お兄様のところに行くわ。約束だもの」

「姫様、その前に医師の診断を受けて下さい。未だ感染の可能性があります故に」

「そうね、それではまずは医師の診断。それで何ともなければお兄様に会うわ」

 ルーディリートは今の今まで昏睡していたとは思えないほどに回復していた。微笑む彼女にそれまでの病魔の影は見受けられない。

「では、呼んで参ります」

 ソニアは足取りも軽く部屋から出て行った。その彼女の背中を見送ってルーディリートは寝台に横になる。ふと部屋の隅にある大花瓶に目をやった。

「あ……」

 彼女は慌てて身を起こす。その花瓶には青い花が活けられていたのだ。それはこの城の奥庭にしか咲かない花、禁断の花である青い薔薇。

「お兄様?」

 彼から過去に一度だけ贈られたことがある。その時はまだ幼かった為、その意味までは深く考えなかったのだが、今はその意味を知っている。それ故に彼女は少なからず苦悩した。

「どうして……、私は応えられないのに」

 気持ちの問題ではない。彼女が見た未来の情景がそれを許していないのだ。

「未来が変えられるとしても……」

 多大な努力を必要とする。しかし個人の欲望の為に、一族全体を巻き込むだけの勇気が彼女には無かった。

「母様の仰った通りね」

 彼女は幸せを願っても、幸せになれない。彼女の本当に愛する人に幸せになって欲しいのならば、その人の幸せを願うだけ。それが彼女にとっても、彼女の愛する人にとっても、幸せなのだと。そのようなことを言われた。

 幼い頃に言われたことと、現在見る未来の映像は奇妙な符合を見せる。結局、彼女は先見の能力という点では母親に比肩する存在なのだ。

「お兄様……」

 考えれば考えるだけ胸が締め付けられるような痛みに襲われる。それは恋と呼ばれるものなのだが、彼女には何なのか分からなかった。

次回更新は3月16日です。

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