開花
平日毎朝8時に更新。
ルーディリートは人並み以上の努力を続けた。昼はソフィアの許を離れて光の魔法の訓練、夜はソフィアの許に戻り時空魔法の訓練と、休む間もないほどの修業だ。それは少しずつではあるが彼女の健康を害していた。
「最近の姫様は無理をなさり過ぎですわ」
ソニアが彼女の身体を気遣った。寝台で横になっているルーディリートに栄養剤を差し出しながら、心配そうな表情をする。しかし主は微笑むだけだ。
「ありがとう、ソニア。でもね、私は充実しているのよ。このぐらいで倒れてはいられないわ。落ち着いたら、すぐにソフィア様のところへ参ります。準備をしておいてね」
「なりません、姫様」
ソニアは慌てて首を横に振った。
「少し良くなっては出て行かれて、気分が優れず横になって……。その繰り返しではありませんか。せめて、もう一日の休養を」
ソニアの言葉は正論だった。充分に休養を摂り、修業に耐え得るほどの健康を取り戻してからの方が身体に良いのだ。それはルーディリートにも痛いほど分かっている。けれども休んではいられない。一日も早く、兄の役に立ちたいのだ。
「でも……」
「でもではありません。今日こそは充分に休んで頂きます。たとえ姫様の命令に逆らってでも、私は姫様のお体を心配致しております」
ルーディリートは侍女の言葉に心を打たれた。実際にソニアの言う通りなのだから、彼女には反論のしようがない。
「分かったわ。今日一日は横になっています。でも明日からはまた修業を再開しますから、その旨をソフィア様に伝えて来て頂戴」
「畏まりました」
ソニアは立ち上がって部屋から出て行く。彼女が出て行った後、ルーディリートは寝台から起き上がると、寝間着の上にガウンを羽織った。それからソニアの差し出して行った栄養剤を口にする。少し苦かった。
「良薬、口に苦し、ね」
辛抱して全てを飲み干す。器を卓上に戻して、衣裳棚に向かった。
「でもね、私は、寝ていられないのよ」
ルーディリートは着替えると、部屋を後にした。ややふらつく足取りだが、目的地まで行けないことはない。廊下を彷徨うような足取りで、彼女は目的地へ向かった。
修業の成果なのか、彼女は近頃、おかしな夢を見るようになっていた。或る人物について考えながら眠ると、その人物の未来の姿が見えるのだ。最初は偶然の一致と無視しようとしたが、それが度重なり、しかも的中するとあっては無視もできなくなっていた。身近な人物の場合は、それとなく忠告して危険を回避させたこともある。そのような彼女が今朝見た夢は、彼女の最も大切な人物の夢だった。多少の無理をしてでも伝えなければならない。そのような思いで、彼女は目的地に到着した。