開花
平日毎朝8時に更新。
「先見の能力は、禁断の時空に関する能力。私たちは時空を操る技を全て封印しました。ですが、長の相談役として、その能力を扱うことは許されているのですよ。貴女の母がそうであったように、貴女も先見の能力を長の為に使いますか?」
「……、長の為だけに用いなければなりませんか?」
「もちろんです。長以外の者には、教えてはなりません」
「そうですか」
ルーディリートは逡巡した。長の為に使うことが許されるとは言っても、彼女の想い人が長になるのは、まだ先のことだ。それまで待てるかどうか、彼女には自信がない。
「折角ですが……」
「ルーディリート、長だけとは言いましても、将来長になる見込みの者にも用いてよろしいのですよ。当然、私にもね」
断ろうとした彼女の機先を制して、ソフィアは彼女の心を慮ってそう告げた。それでルーディリートは決心する。
「やります。先見の能力を使います」
「よろしい、では明日より、時空に関する技を貴女に授けます。ですが、この能力は長、または長に類する者からの依頼を受けない限りは、軽々しく使用することを禁じます。もしも、一族の命運がかかっているような時には、貴女の判断で使用しても構いませんが、その結果は長以外には漏らさないように」
「分かりました」
ルーディリートは重責が双肩にかかって来るのを自覚した。
それから彼女は新たな修業を始めた。しかし時空に関する方術は彼女の能力上限を遥かに凌駕するほどの術体系であった。最も簡単な術でさえも導士級の実力を要求される。
「私で、務まるのかしら……?」
つい弱気にもなる。それ以上に彼女の心に重くのしかかって来るのは、この術体系は使用者の寿命を縮めると言うことである。術そのものに問題があるのではなく、術を使用する際に時流から隔離されたりすることに問題がある。乱れた時間流は、使用者の時間をも乱れさせるのだ。禁忌になったこの体系を使いこなせたのは、偉大な巫女であり、天地大戦時の影の功労者とも言われる、初代ソフィアその人であったらしい。
「使わずに修得しろと言われてもね」
その事も彼女の負担になっている。時空魔法を多用すれば寿命を縮めるのだから、その言わんとするところは分からなくもない。
「……、お兄様の為に……」
彼女は自らの想い人の役に立つことを夢見て、決意を新たにしていた。
次回更新は3月9日です。