開花
平日毎朝8時に更新。
「お入りなさい」
部屋の中から柔らかな声が聞こえた。それと同時に扉が開かれる。ルーディリートは静々と部屋の中に進んだ。二人の侍女は扉の前で両脇に控えたままその場に残る。扉を閉めて、ルーディリートはソフィアに面と向かった。
「このような夜更けに御用とは、一体どうしたのかしら?」
「ソフィア様、人払いを願いできますか?」
「……、よろしいでしょう」
彼女の言葉に従って、傅いていた侍女たちが控えに下がった。それを確認してルーディリートは口を開く。
「ソフィア様、どうしてあのような事をなさったのですか?」
「はて、何のことかしら?」
ソフィアは聞かれた内容が分からぬとばかりに、口元を扇で隠した。それに対してルーディリートは短剣を出そうとも思ったが、ここでそれをすれば自らの立場が不利になることを悟り、思い止まる。彼女は矛先を変えることにした。
「私には、何の力もありません」
突然、話題を変えられて、ソフィアは驚きと共に声をあげた。
「そのようなことはありません、現に……」
言いかけて口元を扇で抑える。けれどもそれは遅かった。ルーディリートにその言葉尻を捕まえられる。
「現に、何なのですか?」
ソフィアは溜め息をついた。
「貴女の力を試すような真似をして、ごめんなさいね」
「試す?」
「クリス」
ソフィアに呼ばれて一人の女性が入って来る。その衣装は先程襲撃して来た者と同じだ。
「先程は失礼しました」
深々と頭を下げられて、ルーディリートはやっとで気付いた。
「さっきの……!」
「なかなかの蹴りでございました」
そう言いながら彼女は左腕を覆う布をめくる。彼女の左腕は赤く腫れ上がっていた。
「この娘は、闇の巫女。私の命を受けて、この城の不穏分子を駆逐するのが役目よ」
「私が不穏分子だとでも?」
「そうではありません。貴女の眠れる能力を試したかったのよ。それであのような乱暴な手段になってしまったのですけれど……」
「眠れる能力?」
「クリス、もうよろしくてよ」
ソフィアがクリスを下がらせる。彼女は一礼して出て行った。それを確認してから、ソフィアは再び口を開く。
「貴女には、先見の能力があります」
ルーディリートは小首を傾げた。その能力は聞いたことがなかったからだ。
「先見の能力は生れ付きのもの、貴女は貴女の母親と同様、その能力を色濃く受け継いでしまったのですね」
「ソフィア様?」
哀しげな口調で喋るソフィアに、彼女は不安なものを感じる。