開花
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「お覚悟!」
扉を開けた女性はソニアを突き飛ばした。そのままの勢いで黒づくめの女性は短剣を振りかざし、椅子に腰掛けるルーディリートに迫る。彼女の胸に深々と短剣が突き刺さった。しかし、そこで違和感に気付く。
「引っ掛かったわね……」
「しまった!」
「ソニア、扉を閉めて!」
刺客は短剣を抜こうとするが、それは深く突き刺さっており、どうしても抜けない。ルーディリートは寝間着姿のまま、刺客に向けて挑んでゆく。刺客は彼女の飛び蹴りを左腕で受け止めた。
「誰に頼まれたの!」
「チッ……」
刺客は舌打ちして抜けない短剣を諦めた。踵を返して逃げの体勢に移行する。扉の前にいたソニアが捕まえようと手を伸ばした。しかしその手をあっさりとすり抜けて、刺客は外へと逃がれる。廊下を走ってゆく音を追い掛けてルーディリートが部屋を出た時には、既に刺客の姿は見えなくなっていた。彼女は諦めて部屋に戻る。
「申し訳ありません。私が……」
「いいのよソニア。あれでは誰も捕まえられないわ。それよりも、これをどうにかしないとね」
ルーディリートが指差したところには、未だに深々と短剣が突き刺さっている椅子があった。ソニアはもしもそこに本当にルーディリートが座っていたとしたらと考え、その結果に思い至り身震いする。
「姫様、ご無事で何よりです」
「ソニア、すぐにお兄様をお呼びして」
「はい、畏まりました」
侍女の一人を使いに走らせる。自らはルーディリートから離れないつもりだ。彼を待つ間に、二人がかりで短剣を引き抜いた。
暫くしてランティウスがやって来る。
「どうした、このような夜更けに?」
「ソニア、席を外していてもらえるかしら?」
「姫様!」
ソニアは驚いたが、済まなそうな表情のルーディリートの顔を見て、渋々ながらもその命令に従った。後には兄妹だけが残る。
「お兄様、これを見て頂きたいのです」
彼女は先程の短剣を差し出す。
「これが、どうかしたのか?」
兄は不思議そうに、短剣と妹の顔を見比べた。
「もういいですわ。よく分かりましたから」
ルーディリートは短剣をしまいながら、微笑んだ。
「ごめんなさい、少しでもお兄様を疑ったりして……」
「どうしたと言うのだ?」
「実は……」
ルーディリートは先程のことを説明した。
「そのようなことが……」
ランティウスは愕然とした。まさか自らが住む城の中に、そのような刺客が紛れているとは思いも寄らなかったのだ。