開花
平日毎朝8時に更新。
〈開花〉
月日は流れ、ルーディリートは巫女としての修業に励んでいた。彼女はあまり出来の良い方ではなく、ソフィアから直接指導を受けているにも拘らず、なかなか芽を出そうとはしない。
「おかしいですわね、もうそろそろ一人前に近づいても、よろしい頃ですのに……」
ソフィアは困惑していた。ルーディリートと同じ頃に指導を始めた娘は、既に巫女見習いとして違う巫女に指導を任せている。彼女だけが未だに残っていた。
「今日はもうよろしいですわ。部屋に戻ってお休みなさい」
「はい、ソフィア様」
少女のあどけなさを残すものの、ルーディリートの身体は既に成人の域に近づいている。十五にもなれば、すっかり女らしくなり、城内の男性の間でも噂になっている程だ。彼女に誰も手を出さないのは、ひとえに長の娘であると言う理由しかない。それがなければ、彼女のようにのんびりした性格の娘が無事でいられる程、この城の風紀が守られているとは言い難かった。
「それでは、失礼させて頂きます」
丁重に辞儀を済ませて、ルーディリートは部屋に戻る。戻るとすぐに侍女を呼び寄せた。
「ソニア、いいかしら?」
「はい、姫様」
ソニアは、彼女が巫女の修業に出るようになってから、呼び方を変えていた。
「どうも、誰か来そうな気がするの。着替えを手伝って」
「はい」
ソニアはいつものことと、すぐに着替えを持って来た。姫としとの普段着である衣裳は、一人では着ることができないので、ソニアに手伝ってもらいながら、着付けを始める。
「ソニア!」
「何ですか、姫様?」
突然叫んだ彼女を、ソニアは訝しげに見つめた。
「あ、ごめんなさい、やっぱりこれじゃなくて、寝間着に着替えるわ」
「……そうですか」
ソニアは少し怪訝そうな表情をしたものの、彼女の注文には応える。
「もしも誰か来たら、通して構わないわよ。私はベッドの上にいるけど」
「そのようなことをして、本当に誰か来たらどうなさるのですか?」
「いいのよ、大丈夫。その時は魔法の練習をしてたって言うから」
ルーディリートはそう言うと、幻影の魔法を椅子にかけて、そこに彼女そっくりの像を座らせる。それから寝台に向かった。
「あくまでも、私がそこにいるように振る舞ってよ」
「畏まりました」
諦めたような表情でソニアは頷く。ルーディリートが寝台に転がるのとほぼ同じタイミングで、ドアがノックされた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「ランティウス様の使者でございます。どうかお開け下さいませ」
「姫様、どうなされますか?」
「入れて頂戴」
寝台の上からルーディリートはやや硬質な声で答えた。ソニアは普段通りに扉を開ける。
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