18-20.
18.
砂漠を渡るちっちゃな王子さまが出会ったのは、たったひとつの花だけだった。三つの花びらがあるだけの花。とてもちっぽけな花……。
「こんにちは」
ちっちゃな王子さまが言った。
「こんにちは」
花も言った。
「人間たちは、どこにいますか?」
ちっちゃな王子さまは礼儀正しく尋ねたんだ。
花はいつだったか、キャラバンが近くを通りがかるのを見たことがあった。
「人間たち? たぶん、六人か七人くらいはいるんじゃないかしら。何年か前に見かけたことがあるわ。でも、どこで会えるかはさっぱりわかんないわ。彼らは風に流されるものだから。根っこがないから、ずいぶんと不便なのねぇ」
「さようなら」
ちっちゃな王子さまが言った。
「さようなら」
花も言った。
19.
ちっちゃな王子さまは高い山に登った。それまで彼の知っている山と言えば、彼の膝の高さくらいまでしかない、三つの火山だけだった。そのうちの一つの死火山を、彼は腰掛けに使っていたくらいだった。
だから彼はこんな風に思ったんだ。
(こんなに高い山からだったら、この星全体を、全部の人間を、一度に見渡せるに違いないぞ……)
だけど、見えたのは鋭く研いだ刃のような尖った岩だけだった。
「こんにちは」
念のため、そう言ってみた。
「こんにちは……こんにちは……こんにちは……」
こだまが答えた。
「あなたは誰?」
王子さまは言った。
「あなたは誰……あなたは誰……あなたは誰……」
こだまが答えた。
「ボクの友達になってよ。ボクはひとりぼっちなんだ」
彼は言う。
「ボクはひとりぼっちなんだ……ボクはひとりぼっちなんだ……ボクはひとりぼっちなんだ……」
こだまが答えた。
(なんておかしな星なんだ!)
彼はそう思ったんだ。
(どこもかしこもからからで、とげとげしてて、塩っ辛い。それに、人間たちには想像力がまるでないんだ。ただ、人の言ったことをまるっきり繰り返すだけじゃないか。……ああ、あの花がいる、ボクの星だったら。彼女はいつも真っ先に自分から話していたっけ……)
20.
長いこと砂や、岩や、雪の上を抜けて歩き回っていたちっちゃな王子さまは、ついに一本の道を見つけたんだ。そして道というのはすべて、人間たちが住んでいるところに通じているものだ。
「こんにちは」
彼は言った。
そこは、バラが咲き乱れる庭だった。
「こんにちは」
バラたちが言った。
ちっちゃな王子さまはバラたちを見た。彼女たちはみんな、彼のあの花にそっくりだったんだ。
「あなたたちはいったい誰?」
彼は目を丸くして言った。
「あたしたちは、バラよ」
バラたちは答えた。
「ああ!」
ちっちゃな王子さまは何も言えなかったんだ……。
彼はとても哀しい気持ちだった。あの花は彼に、自分みたいなのは宇宙でたったひとつしかないものなんだと言ってたんだ。それなのにほら、見れば、全くそっくりなのが、この庭だけでも五千はあるんだ!
(彼女がこれを見たら、ひどく気を悪くするんだろうなぁ……)
彼はそう考えた。
(笑いものになりたくなくて、ひどく咳を繰り返して、それから死んだふりをするかもしれない。そしたら、ボクが助け起こしてあげるふりをしてやらなくちゃいけない。そうしないと、ボクを観念させてやろうと、本当に死んでしまうまでそうしているかもしれない……)
それから彼は、こうも考えたんだ。
(ボクは、たったひとつだけの花を持っているから立派なんだと思ってた。だけどボクは、ただのバラをひとつ持っているだけだったんだ。あとはボクの膝までの高さしかない三つの火山――一つは、たぶんいつまでも死火山のままだ――これじゃあボクは、立派な王子さまになんてなれやしないや……)
草の上に寝転んで、彼は泣いた。