11-12.
11.
二つ目の星にはひとりのうぬぼれ屋が住んでいた。
「おお、おお! 俺様のファンがやってきたぞ!」
ちっちゃな王子さまを見つけて、遠くからうぬぼれ屋が叫んだ。
というのも、うぬぼれ屋にとって他の人間はみんな、彼のファンなんだ。
「こんにちは」
ちっちゃな王子さまが言った。
「おかしな帽子をかぶってますね」
「これはあいさつのための帽子なのさ」
うぬぼれ屋は彼に答える。
「誰かに拍手喝采された時のためのものさ。あいにくとだれ一人ここを通らないんだけどね」
「そうなの?」
ちっちゃな王子さまは、よくわからないまま答えた。
「拍手してごらんよ」
うぬぼれ屋が勧めるので、ちっちゃな王子さまは拍手してみた。
するとうぬぼれ屋は、帽子を持ち上げてつつましく挨拶をしてみせる。
(これは、王様の時より面白いかもしれないなぁ)
ちっちゃな王子さまは心の中で思った。そして、もう一度拍手してみたんだ。するとうぬぼれ屋ももう一度帽子を持ち上げて挨拶をする。
でもそれを五分も続けると、ちっちゃな王子さまはこの単調な遊びに飽きちゃったんだ。
「その帽子を落っことすにはどうしたらいいかな?」
ちっちゃな王子さまは彼に尋ねてみた。
けれど、うぬぼれ屋にはそれが聞こえちゃいないみたいだった。うぬぼれ屋には褒め言葉しか聞こえないんだ。
「あんた、本当に俺様を尊敬しているかい?」
彼は王子さまに尋ねる。
「尊敬するってどういうこと?」
「尊敬するってのは、俺様がこの星の中でいちばんかっこよくて、いちばんおしゃれで、それからいちばん金持ちでいちばん頭がいいってのを認める、ってことさ」
「でも、君の星には君しかいないじゃない!」
「それでもさ、俺様を喜ばしてくれよ。俺様を尊敬してくれよ!」
「わかった、尊敬するよ」
ちっちゃな王子さまは肩をすくめてそう言った。
「でもそんなの、何が面白いの?」
そうして、ちっちゃな王子さまはそこを離れた。
(大人ってのはまったく、おかしなものだなぁ)
旅を続けながら彼は、心から純粋に、そんなふうに思ったんだ。
12.
次の星に住んでいたのは、大酒呑みだ。そこを訪れたのはほんの短い時間だったんだけど、ちっちゃな王子さまはすっかり沈んだ気持ちになってしまった。
「そこで何してるの?」
中身の入った瓶と入っていない瓶をいくつも並べて、黙って席に着いている大酒呑みに、彼は尋ねたんだ。
「飲んでいるんだ」
暗い顔をして、大酒呑みは答えた。
「どうして飲んでいるの?」
「忘れるためだ」
「忘れるって、何を?」
ちっちゃな王子さまはなんだか気の毒な気分になってきて、そう尋ねた。
「恥ずかしいことを、忘れるためだ」
大酒呑みはうつむきながら、そう打ち明けたんだ。
「何が恥ずかしいの?」
ちっちゃな王子さまは、彼を助けてあげたい気持ちになって、聞いてみた。
「飲んでいることが、恥ずかしいんだ!」
大酒呑みはそれだけ言うとむっつりと黙りこんで、一言も口を利かなくなってしまったんだ。
ちっちゃな王子さまはすっかり戸惑ってしまって、そこを離れたんだった。
(おとなってやっぱり、すごくすごくおかしいや)
心の中で呟きながら、彼はまた旅を続けたのだった。