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1.

イラストを掲載できないのが残念ですが。

本をお持ちの方は、翻訳の違いを確かめてみてください。


あるいはこちらをご覧ください。

http://www.alz.jp/221b/aozora/le_petit_prince.html


レオン・ウェルトに


 この本をある大人のひとに(ささ)げることを、子供たちには許してほしい。これには大事なわけがある。その大人はぼくの世界で一番の親友なんだ。他にもわけはある。その大人は、子供のための本だってみんなきちんと分かるひとだ。それから三つ目のわけは、その大人が今、フランスに住んでいて()えと寒さに苦しんでいること。彼には(なぐさ)めが必要なんだ。

 もしこれだけの言い訳でも足りないって言うなら、ぼくはこの本を、かつて子供だった大人のひとに捧げることにしよう。大人はみんな、最初は子供だったんだ(それを覚えている大人は、ほとんどいないんだけど)。

 ぼくの献辞(けんじ)を、こう書き替えることにしよう。


ちっちゃな少年だった頃の、

レオン・ウェルトに



1.

 ぼくが六歳だった時、ものすごい絵を見たことがある。それは、前人未踏の森について書いた『本当の話』という本の中にあったもので、猛獣を飲み込んだ巨大な蛇を描いたものだった。これが、その絵の写しだ。


 本にはこうあった。「大ヘビは獲物を噛まずに丸呑みにする。それから、六ヶ月もの間大ヘビは動かず、獲物を消化するための眠りにつくのだ」

 それを見たぼくは、ジャングルでの冒険に思いを馳せた。そして色鉛筆でもってぼくの初めての絵を完成させたんだ。それが、ぼくの作品第一号になった。

 ここに、その絵がある。


 ぼくはこの傑作を大人たちに見せて尋ねたんだ。この絵が怖いかどうか、ってこと。

 だけど大人たちは、こう答えた。

「帽子なんかの、どこが怖いって言うのさ?」

 ぼくの絵はもちろん、帽子なんかを描いたんじゃない。ぼくは、まさに象を消化している最中の大ヘビを描いたんだ。

 仕方ないからぼくは、大人たちが理解できるように大ヘビの内側を付け加えた。大人たちってのは、いつもいつも説明してやらなくちゃいけないもんなんだよなぁ。

 その、作品第二号がこれ。


 それを見た大人たちは、大ヘビの内側だの外側だのそんなことはどうでもいいから、もっと地理とか歴史とか、計算とか文法とかそういうものに興味を持ちなさい、とぼくに助言してくれた。

 つまりそれが、ぼくが六歳にして画家という偉大な職業をすっぱりあきらめることにした理由だったってわけ。作品第一号と第二号を少しも分かってもらえなくてぼくは、がっかりしちゃったんだ。大人たちってのは自分では何にもわかんなくて、子供たちはいちいち全部説明してあげなくちゃいけなくなるからくたびれちゃうんだよね。


 そんなわけでぼくは別の職業を選ばなくちゃいけなくなって、飛行機のパイロットになることにした。世界中のあちこちを飛び回ったんだ。

 そうそう、地理は確かにぼくの役に立った。おかげでぼくは、ひとめ見ただけで中国とアリゾナを見分けることができたからね。それは、夜中に道に迷った時なんかにとても役に立ったんだ。

 そんなこんなで、ぼくはそれから、たくさんのまじめな人たちとつきあっていくことになった。山ほどの大人たちの中で暮らすことになったわけだ。彼らの暮らしをとても身近なところから見たりもした。だけど、その経験は大人たちに対するぼくの考えを大して変えはしなかったんだ。

 多少は物分りの良さそうな人を見かけると、ぼくはある実験をしてみた。いつも持ち歩いていたぼくの作品第一号を見せたんだ。その人が本当に物分りがいい人なのかどうか、確かめてみたかったからね。

 だけど、答えはいつもこうだった。

「それは、帽子だね」

 そういうわけだから、ぼくはもう大ヘビの話も、前人未踏の森の話も、星の話もしなくなったんだ。彼らのレベルにぼくを合わせてあげたってこと。ぼくがトランプ遊びやら、ゴルフやら、政治やら、ネクタイなんかの話をすると、大人たちはおお、こいつは物分りのいいやつだなんて思って満足したもんさ。


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