初めての人間界は物置から始まるようですね
「この私を・・・・人間世界に連れて行って、案内しなさい!!!」
「・・・・・・え?」
ええええええええええええええええええええええええええええ???!!!!!
*****
「つ、連れてくって・・・・・私がですか?」
「そう、あなたが。」
「ダンジョンの外に?!」
「外に。」
「ダンジョンの主を?!」
「主を。」
なんだこのオウム返し大会は。
「ムリムリムリムリ!無理ですって!」
「じゃああなた、帰れないよ?」
「っゔ・・・・確かにそうですけど・・・・だいたい最下層からどうやって出るんですか?出口に着くまで山ほど冒険者いますよ?」
まあそれも確かにそうか。冒険者ぐらい楽々蹴散らせばいいのだけど、それじゃ可哀想だし、意味もなく魔法ひけらかすなんて性に合わない。
「じゃあちょっと、転送魔法陣描くから待ってて。ダンジョンの出口ぐらいにつなげるようにするから。」
「・・・・・・はい?」
「だから、ダンジョン抜け出すぐらいの魔法陣だったらちょっと時間かかるから。それまで隅で待機・・・・」
「いやそういうことではなくて。・・・・え?そんな近所に買い物行くみたいな感覚で抜け出せるもんなんですか?」
「まあ結構魔力必要だから、冒険者にできるかはわからないけど。一応私、これでも階層主だしね。」
「・・・・じゃあどうして、今まで出ていかなかったんですか?」
「そ、それは・・・・まあ・・・」
一人で出て行くのが寂しかったから、なんて言葉、口が裂けても言えない。
「あれだよ、その・・・・知らない世界にいきなり突撃するなんて、何やらかすかわかんないでしょ?だからどうしても人間界出身の人が必要だったんだ・・・・それに階層主やめること自体は珍しくないよ。一つ上のドラゴンさんも、もう一つ上のダークエルフちゃんも百年くらい前に家出したし。やっぱダンジョン住み続けるのって、きついんだよねーーー。」
「えええええ・・・・・すごく軽いノリで言ってますけど大丈夫なんですかそれ?このダンジョンその内攻略されたりしません?」
そんなことを言っているうちに、魔法陣が出来上がった。けっこう精密に描き上げたし、あとは魔力を流し込むだけだ。詠唱はいらないだろう。
「それじゃ、フワフワ耳ちゃん。ここ立って?」
獣人の女の子を魔法陣の真ん中まで誘導する。
「よし、これで準備完了!しっかり掴まっててね。・・・・それじゃぁ・・・・はっっっっっ!!!」
手のひらに魔力を集中させ、地面に押し付ける。すると魔法陣が青白く光り、クルクルと回り始めた。
「行ってきまぁーーーーーーーーーーす!!」
そう叫ぶとどんどん意識が遠のき、空間の彼方へと吸い込まれていった。
******
シュン!!!
移動中の変な浮遊感が気持ち悪かったけど、無事ついたみたいだ。隣では獣人女の子がグロッキー状態になってる。大丈夫かな?・・・・・ん?そう言えば女の子の名前、聞いてなかったな。
「こんなタイミングでアレなんだけど、あなた名前なんていうの?」
「ゔゔ・・・・名前、ですか?奴隷に名前なんてつけられませんよ。せいぜい『オイそこのやつ』ぐらいです。」
え、人間界ってそんなことになってるの?流石に名前なきゃキャッチボールできないでしょ。それともこれが普通なんだろうか。
「ええと・・・・今まで一度も名前あったことないの?モンスターの私でもあるぐらいだよ?」
「生まれた時はありましたけど・・・・でもそれも昔の話です。」
「じゃあそれを教えてよ。いちいち『フワフワ耳ちゃん』って呼ぶのも面倒だし。」
「・・・・・・シャロン・・・・」
「・・・・ん?」
「シャロンという名前を・・・・親からもらいました。」
なんだちゃんとあるじゃん。しかも綺麗な響きの名前だ。もしかしてこの子は、今までずっと名前を名乗らせてもらえないようなところに住んでいたんだろうか。だとしたら、人間界は随分と殺伐としている。
「私は、ヨルハっていうんだ。よろしくね、シャロン。」
「・・・・・・はい・・・・はい!!」
あれ、なんでこの子泣きそうになってるんだろ。私変なこと言ったかな?こういう時はどう対応するべきなんだろうか。
「それにしても・・・・・ここ、どこなんだろね?」
そう言って、あたりを見回す。周りには木で作られた桶、棒にもふもふしたものが付いているやつ、あと紙の山とか・・・・・
「ここは多分、物置か何かですね。モップが置いてますし。外に出れば、冒険者ギルドの物置に着いちゃったんじゃないでしょうか。」
「・・・・・んん?ぎる・・・ど?何それ?」
ギルドだけじゃない。さっきのモップとかいう言葉も初耳だ。多分さっきの棒にもふもふが付いたやつを指すんだろうけども。
「ええっとですねぇ・・・・・とにかく見た方が早いと思いますよ!説明はそれからです!ヨルハさんは人間界初めてなんですよね?なら私にお任せください、完璧に案内して見せますから!」
おお・・・・!!なんだかわからないがシャロンがものすごくやる気だ!これは助かる!そうか、獣人は喜んだりすると耳がピクピク動くんだね。
「それではぁ・・・・・こちらが外の世界になります!どうぞ!」
ばたぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!
「おお・・・・・・これが・・・これが・・・・外の世界!!」
なんか全体的に木とかレンガで作られてる建物っぽいかな?カウンターの向こうでは・・・・おお!あのフードを被っているのはまさか、エルフという種族か!獣人に人間、それから小人族までいる!
・・・・んん?あれ?何か視線を感じるような?
一人でキョロキョロと見回し、せわしなく動いていると周りの人たちからやたらと見られているのに気づいた。その内の一人が、こちらにのしのしと近づいてくる。随分と体格が良く、いかにも冒険者といったような兜に鎧をつけている。
「よお嬢ちゃん、こんな胡散臭いところで何やってんだぁ?」
先程までの勢いは何処へやら、シャロンは後ろですっかり縮み上がっていた。
「ここらじゃ見ない髪色だ。金髪なんて貴族階級ぐらいだろ。・・・・・よほどいいとこの出身じゃねえか?なあ、お嬢ちゃん?」
これは・・・・開始早々ピンチ・・・・なのかな?