9話
『なんか付き合いたての私を見てるみたいで、ゆきがめっちゃ可愛く見える〜』
「やめてよ、ブス陰キャにそういうこと言わないで」
こんな恋愛沙汰に浮かれて恥ずかしい思いはしたくない。他に蒼葉は何か言ってなかっただろうか。それを聞こうと口を開いた瞬間。
『あっごめん!彼から電話のお誘い来ちゃったー♡ てことで話聞いてくれてありがと! またね!』
「えっ」
通話終了を告げる音が鳴る。急な部屋の静寂にふと寂しさが押し寄せ、紛らわすために蒼葉のトーク画面を開いた。
『バイト終わった! お前の友達わかっちゃったぜ』
ブサイクな猫がキランッと目を輝かせて獲物を狙うようなスタンプも続く。
小中同じ学校だった片思いの人とこの前偶然会って連絡先交換できたってすごい嬉しそうに話してたんだよ──。
りおの言葉が頭に流れる。うわ、恥ずかしい。青葉が小中学校から誰かに恋するって、ませてるな。返事をする手が震える。
『友達可愛いでしょ?』
『浅川さんでしょ?彼氏いるんだってね、すげぇ可愛い』
バイトと言いつつも仕事だからか、お互いさん付けで呼んでいることが分かった。
『可愛いよね、さっきまで電話してたんだけど彼氏の方行っちゃって』
『じゃあ俺と通話する?』
「な、なんでそうなるの…っ」
思わずスマホを壁に向かって投げそうになるのを必死に堪えて、文章を眺めた。
『まぁ嫌ならいいけど!笑』
そう言われるとどうしても断るのが申し訳なくなる。でも男の子と通話とかできるかな、私無愛想だって言われたし嫌われないかな。いや無愛想なキャラだから私だとは限らないし…えぇいっ、少しなら。送信。
「ああああああああ」
1人でグルグルと毛布に包まれる。1人で勘違いして馬鹿みたい、いや何に勘違いしてるんだって話にもなるけどさ…。
『やったぁ、かけるね!』
「え!? もう!?」
心の準備が整わない間に着信画面が表示されてしまった。まだイヤホンマイクは抜いてなかったから耳に着信音が刺さるように鳴る。心臓の鼓動は落ち着いてないけど、応答ボタンを押して冷静に声を出す。
「も、もしもし…」
『お、おう』
りおの明るく元気な声とはまた違って、低くて落ち着いたトーンの声が耳に入る。…蒼葉、すごい冷静じゃん…。
『浅川さん、俺の事なんか言ってた?』
「えっ蒼葉のこと? どうだっけな〜!」
明るく振舞うことを意識すると声が上ずってむしろやばい人に思われそう。あわあわしていると、電話の向こうで蒼葉が静かに笑うのが聞こえた。
「え、ちょ。何笑ってんのよ」
『浅川さん、何かゆきに吹き込んだな』
「何も言われてないし!惚気られて終わったから」
『ほんとか〜?』
「ほんと、だよ」
ちくしょ〜。イヤホンを右耳に挿しているからか、右耳だけ熱い。手で少し触る。冷たい手で耳が気持ちいいくらいに冷える。
『まぁ何を吹き込んだか知らんけど、何かしらは言われたんだろうな。それ覚悟で色々話してたし』
「今話したこと、ゆきには内緒にしてって言わなかったの…?」
『うん、内緒にしろっつっても、女子はなんでも喋りそうだからさ』
「確かに、女子ってそういう生き物かも」
『ゆきも女子だろ』
クスクスと笑いながら言う青葉を、なんとなく可愛いと思った。