7話
昨日寝すぎたせいか、朝は5時という早朝に目覚めた。朝から顔を洗って朝食をとって歯を磨いて、とどこに行く訳でもないのに外出する時の真面目な朝の時間を過ごした。だらだらしているとお昼時になりそれに気づくと同時にスマホから着信音が鳴り響いた。イヤホンマイクを自分の部屋の机の上から取り、スマホに繋げて応答ボタンを押した。
「もしもし」
『やっほ〜! バイト疲れた〜、ゆきの声聞けてよかった〜!』
疲れを感じさせない、明るく元気な声が耳に刺さる。
「お疲れ様。昨日の惚気話の続き、してよ」
電話をすることになったのは、りおが惚気話を聞いて欲しいからだと理解していた私は話を促した。
『そうだったそうだった。喧嘩してたって言ってたじゃん? 彼イケメンでさ〜。付き合って2年の』
「2年!?」
思わず話を遮った。知らない、そんな長く付き合ってたなんて知らない。意外と私はりおのこと何も知らないんだな。
『そうだよー? 高校卒業の時に告白されて、私も好きだったからお願いしますって』
「うっわ…リアル…」
『それでね、指輪くれたって言ったじゃん。その時さ、オシャレなレストランにいたの。白い箱に入ってて、なんだろうって思ったら指輪でね? 裏には名前が刻んでたの』
「え、それ」
『そう! 彼は私と結婚する前提で付き合ってたから、このまま付き合って将来結婚してくれって。最初付き合った時は何をするにもぎこちなかったのに今では全然だよ』
キャーッと1人で電話越しに叫ぶりお。
本当はそれが普通なんだろうな。学生時代でなくとも付き合って、大人になったら結婚して、家族が出来て。りおはそうやって生きていくんだ。私とは大違い。
「それは…良かったね! 結婚式するなら呼んでよ?どこまでも行くからさ」
『呼ぶ呼ぶ〜! あ、私今すごい幸せなんだけどね? 幸せな人の周りには幸せが来るのかなって思うことが今日あったのよ!』
「りおの友達なのに私に幸せ全然やってこないけど、何があったの?」
嫌味のように言い放つと、ごめんごめんと必死に謝るりおの声が聞こえた。まぁ、私の幸せはりおと遊んだり惚気話を聞いたりすることだから全然いいんだけどね。言わないけど。
『バイト先にある男の子がいるんだけどさー、長身の、175から180はあるのかな。まぁすごい高いんだけど。すごいかっこいいけどかわいい系のキャラでさ、話すととっても面白いんだけど』
「バイト先にそんないい人いるんだ〜」
『あ、勿論彼の方が上だけどね?』
「わかったわかった、そんで?」
『小中同じ学校だった片思いの人とこの前偶然会って連絡先交換できたってすごい嬉しそうに話してたんだよ!』
思わず噴き出す。長身、かっこいいけど可愛い、話すと面白い、小中同じ学校だったって…すごい蒼葉に似てる人だな。しかも連絡先交換したって…。
名前、聞いてもいいかな。聞いて知らない人だったらどうしよう、でも聞いてみたい。
「その人の名前、教えて貰ってもいい?」
『いいけど? 吉岡くんって言うんだけど、──』
その名前を聞いた時、動揺しすぎてりおの言っていることが耳に入らなかった。