5話
『なら良かった。目の前にゆきが現れて、気がついたら腕掴んでたから。力加減出来てなかったら悪かったなって』
え? 何これ。心配してくれてるの、か…?男女20歳の握力の差なんて知らないけど、そんな骨が折れるほどの馬鹿力なんてなかなか出ないでしょ。…驚きはしたけど。
『大丈夫だよ、上着着てたし。気にしないで』
そう送ると、可愛げのない猫がホッとした様子のスタンプが送られた。続いてメッセージが届く。
『俺、元カノに「あんた力強いんだから加減しなさい」って怒られてたんだよね』
「元カノ…」
心のどこかでホッとした自分がいた。今カノじゃなくて、元カノ。やっぱり世でいう『かっこいい』に当てはまる容姿だったのは、暗がりの中でもわかっていた。そりゃ彼女もできるわ。でも別れたのか。
『その子がひ弱なだけだったんじゃないの?』
送って直ぐに元カノさんに失礼なことを言ってしまったと思い送信取り消しをしようとした時、直ぐに返事が来た。暇なのか。
『実は俺もそう思ってる。笑』
『蒼葉だって男の子だろうし、女子と筋肉量が違うじゃん』
『お!俺の事男として見てくれてんだー』
「いやっえっちょっ」
動揺して文字を打つ手が止まった。1人で意味のわからないことを1人で言いつつ、いや本当のことを言っただけだからと自分をなだめた。
こうやってフレンドリーにどんなことも話してくれる人は友達も沢山いて、彼女もすぐできちゃうんだろうなぁ。蒼葉もりおみたいに誰かを好きになって、あぁこの人と一緒にいたいって思ったりするんだ。
私よりよっぽど人間らしい人達に囲まれて、全人類の中で1番恋愛と無関係であろう私の友達に2人ははもったいないと思う。逆にりおは友達でいてくれて、蒼葉は声をかけてくれて良かったと思う。でも蒼葉は何年ぶりに会ったから私が年齢=彼氏いない歴っていうのを知らないんだろうなぁ。知らなくていい。いや、雰囲気に滲み出てるかもしれない。
『別にそんなことない。』
素っ気なく返事をして時刻を見ると、起きてから1時間近く経過していた。まだ昨日の帰宅したままの服装だった私は、さすがに行動しなければと上着を脱いでハンガーにかけた。
りおはきっとこんなだらしない生活を送ってないんだろうなぁ。もっと規則正しくて、モデルさんのようなルーティーンなんだろうなぁ。
そう思うと行動する気も失せてしまい、また携帯に触る。どうしても携帯は手放せない。ほんと世の中は便利な世界になったものだな、とつくづく思う。
蒼葉のトーク画面を見ると、既読してからメッセージが返ってこなかった。既読無理とか傷つくって自分で言っておいて、自分で既読無視してるじゃん…。
続いていたメッセージが急に途切れるのは少し寂しさを感じる。私と話すのつまんないのかな、めんどくさいのかなと相手からしたらめんどくさい憶測をしてしまう。やめだ、やめやめ。何かして気を紛らわそう。
りおからメッセージが来てないことも確認して、私は入浴する準備をする。夜まで待ってもいいと考えもしたが、りおがデートだなんてこっちまで身だしなみを整えたくなる。なんだか人の恋バナを聞くのはくすぐったい。それでも羨ましくもあるのはなぜだろうか。