第78混ぜ ちょっと拝借しますね……へへへ
お待たせですぅ~
シミラーマンさんやメイドさん達の舌を唸らせた後に、完成した食事をみんなの待つ部屋へと運んだ。
マユエルにドアを開けて貰い部屋に入ると、腹を空かせてキラキラとした瞳をした高校生達が待っていた。
「お待たせしましたー」
「うむ。さっそく、配膳を頼む」
驚きを演出させる為、台車に乗せて運んで来た料理は中身が見えない様にトレーとぴったり合う銀の蓋を上から被せてある。
国王陛下と木戸少年にはラーメンを、加藤と三島ガール、そして王妃には白米とそれに合うオカズを乗せたトレーを目の前に配膳していく。
特別に俺やマユエル、ディールも部屋での食事を許可して貰い、長い机の端の方で纏まって食べることにした。マユエルはおろしハンバーグ定食を、ディールはトマトパスタと焼いた肉を。俺も簡単に、焼いた肉に甘めのタレをびちゃ掛けしたものを作った。
「それでは、どうぞ召し上がって下さいませ」
声を掛けると同時に、蓋を開けた一同から感嘆の声が聞こえてきた。
「す、凄いっす! 想像以上の物が来た!」
「お、美味しそう……」
「うん、本当に凄いねっ……」
高校生達がそう言い、早速料理に手を伸ばし口に運んでいく。逆に、見慣れない料理に戸惑いを見せているのはこの国出身の国王陛下夫妻である。
俺はマユエルに合図して、二人の元に行って貰った。
「お父様、お母様、私が作法をお伝えします」
「う、うむ!」
「マユエル……お願いするわね」
「はい!」
両親を前にすると少し畏まるマユエル……だがまぁ、悪くはない雰囲気に見える。
「のぉ、ホムラよ? そう言えば妾、今日沢山お腹空いてるかも」
「はいはい。お代わりは後であげますから今はそれで我慢しておいてください」
「ムフーッ! 旅の疲れはやはり食事よなっ!」
食事は恙無く終わり、皆一様に満足している感じだ。第一段階はクリア、という感じだな。
早速、次の第二フェーズへと進む。胃袋が満たされれば人は緩むものだしな。シミラーマンさんに目で合図を送った。
「さて、勇者様方にはデザートを準備していますので少々お待ち下さい」
「陛下、奥さま、少しよろしいでしょうか……」
シミラーマンさんが陛下達を別室へ連れていき、勇者達にはデザートで時間を潰しておいて貰う。
その間に、昼間にシミラーマンさんと話した今後について陛下にも聞いて貰わなければならない。
交渉は苦手だ。だから、お願いするしかない。譲渡出来るものはするし、条件だって飲む。マユエルを外へ連れ出す為ならやれることをやるしかない。
「ふむ……して、話とは?」
「えぇ。もちろん勇者についての提案とお願いです」
「ほぅ……話は聞こう」
場所は王の執務室。そこで、俺は勇者について知った上での考えを伝えた。
女の子二人は能力的に足を引っ張る存在ということ。
ダンジョン都市で勇者達が合流したら起こりうること。
生活水準を上げる為にも女の子達には協力して貰った方が合理的だということ。
勇者として男の子一人にチームを率いて貰う形で俺達を同行させて欲しい件。
そして何より、マユエルを国の象徴として勇者一行に参加させて欲しい件。
シミラーマンさんとも話し合った事を改めて国王陛下に伝え、お願いをする。
他の事は正直に言えばどうでも良い……ただ、マユエルの件だけは頭を下げて頼み込む。もうマユエルは、ダンジョンの攻略には必ず必要となる人材だ。
大人になったら王族としての職務もしなければならないだろう、どういう道を選ぶかはマユエル次第だ。だけど、今だけは……自由に学ばせてあげたい先生心もある。世界の広さを知って欲しい先輩心もある。
「お願いします。マユエルに外で学ぶ機会をお与えください。俺の命に代えてもマユエルの命だけは守り通しますのでっ」
「うにゅ……先生……。お父様、お母様、お願いします……私を必要としてくれた先生に、みんなについて行きたい……です」
隣でマユエルも頭を下げている。不遜なディールは頭を下げないがジッとしているだけ偉い。
やはり答えは渋いのか、中々声が聞こえて来ない。
「あなた」
「うむ……しかしだな、まだ十一歳だろうて……」
「今日、私達の知らない事をマユエルは知っていたわ。それも楽しそうに教えてくれたでしょう?」
おそらく、食事の時の事を言っているのだと気付いた。聞こえてくる王妃の声は子を想うどこか優しさを含んだ母親としての声に感じた。
「私達と居るマユエルとホムラさん達と居るマユエル、どちらが本人の為になるか分かっているのでしょう?」
「…………あぁ。ホムラよ、お主はマユエルをどう視る?」
「とても才能豊かであるかと。錬金術師としても精霊術師としても。頭が良くて要領も良いですし……最近は自主性も芽生えて来ました。世界とご両親には愛されているかと……」
第二王子を含む他の兄や姉からの扱いについて軽く触れておく。
会った事の無い彼らを悪く言っても仕方の無いことだが、おそらく才能だけで言えばマユエルが一番だと考えている。
素材の声を聞けて、その上で精霊との親和性も高い――持って生まれた魔力量はフランに及ばないにしても、普通に考えれば化け物とされるレベルにある。
それが若干十一歳の女の子の話だ。……まぁ、錬金術師としての才能を育ててしまった俺が言うのもおかしな話かもしれないが。
「先生、言い過ぎなのよ? 照れるのよ?」
「ホ、ホムラ! 妾は? 妾も凄いよなぁ?」
「ディールはまぁ……何の情報も無く戦ったら無敵に近いですよ」
主に相手を痺れさせ麻痺させる魔眼が。
「脱線しました。伏してお願い申し上げます……マユエルを連れ出させてください」
「あなた、ここでの決断を間違えると……もう娘から父親とは思われないかもしれませんよ?」
「うっ……そ、それは困るな……ははっ……。ホムラよ、命を賭けて我が娘を守ると言っておったがそれは許さぬ。お主が我が娘を再び私の前へ連れて参れ。もちろん、仲間と共に……な」
「ハッ! 必ずや仲間と共に名誉をこの地へ献上させて頂きますっ」
膝を付き、頭を垂れて、国王へと誓う。人の渡り行くどうでもいい世界ではあるが、この国、この王はそこまで嫌いではない。
ダンジョンを踏破した出身国としての名誉や財程度なら、渡したって良いと思えるくらいには気に入った土地だ。
これで第二フェーズは無事に完了だ。残る第三フェーズ……勇者達をどう説得するか。
これはもう考えがあるから、きっと無事に終わるはずだ。マユエルがチームに加わった時点でオマケの様な作業になる。呑気にデザートを食べている所だろうから、一段落したら話し合いに向かいますかね。
◇◇
「どうも勇者様、ちょっと良いですか?」
「あ、コックさん……スイーツも最高に美味しかったです!」
女の子の一人がそう返してくれる。称賛の言葉は素直に受け取る
が、ここからはコック帽を外して話していく。
「さて、ここからは錬金術師として話させて貰う。まず、正直に聞くけど、戦ってダンジョンを攻略したい人は挙手を。あ、正直に言って貰って大丈夫だから」
「え……なんですか、急に?」
「錬金……術師?」
「はいっす! どっちみち、ダンジョンを攻略しないと俺達は帰れないっすからね」
女の子達に目配せをすると、おずおずと静かに手をあげる。求めているのはそういう横に合わせるという事じゃない。
やはり、向いてないというか普通の子達なのだろう。勇者とか言われて偉そうじゃないだけ好感は持てるが、戦闘では役に立たないだろう。どうして防御系のスキルなのかも疑問だし。
師匠が関わってるならそんなスキルはまず与えないだろう。面白く無いから。という事は自らで選んだ能力……守るだけでは勝てないと気付かなかったのだろうか。
「……正直で良いよ? 別に告げ口するとかそういう話じゃない。むしろ、戦いたくないならこの国に残るという選択肢を選ばせてやれるかもしれない」
「……えっ、マジっすか!?」
「木戸君だったね? 悪いけど最低限一人は連れて行くから、来るのなら戦う能力のある君はほぼ絶対だ。でも、戦いたくない子を連れて行ったって仕方がないだろ? なら、この国の発展に貢献するという形で安全な街中でダンジョンが攻略されるまで待って貰う事も出来る」
女の子二人は顔を見合わせ、小声で何か確認し合っている。
その間に、木戸君に向けて話の続きを聞かせる。
「この国の食文化はお察しだと思う。女の子二人の安全は国王陛下に頼んでどうにかして貰う。その代わりに君達の知識を使ってこの国の発展に協力して欲しい。出来ることで構わないし」
「お兄さん……何者っすか? どうしてそんな都合の良い事が出来るんすか?」
「君達じゃなく俺の都合を良くしようといろいろと動いてるからな。そっち側もいろいろ考える事があるだろうから相談して構わないよ。どう転んでも次の策は用意してるから個人的にはどっちでも良いし」
ジッ……と少しだけ、お互いに見詰め合って沈黙の時間が流れた。
「そうだ。相談に五分以上掛かるならアレ貸してくれ……そっちの世界にも何かしらお互いに連絡を取る物体があるんだろう? 魔力で繋げて、この世界でも使える仕様にしてあげる。一応、これも打算的だからいい人とか思わなくて結構だ」
最近の子は、戸惑うと復活までに時間が掛かるらしい。即断即決が好ましいけど、普通の高校生に深くは求めたりしない。
「えっと……ちょっと展開についていけないっすけど、確かに連絡を取るアイテムはあるっす。スマホって言って、遠くに居ても声や映像が繋がったりで……」
「はいはい。声が繋がる様になれば十分だろ?」
「……っす。でもどうやって? この世界に来て、当然圏外だからどうしようも無かったんすが」
「だから俺、錬金術師なんだって。同じアイテムを同じ魔力で繋げるくらい誰でも出来る。ま、失敗したらおじゃんだけど」
手を出すが、渡して来ない。何事にもリスクは付き物。そりゃ、失敗したら爆発して煤まみれ行きだ。
だが、その程度の事で失敗する錬金術師は錬金術師ではない。マユエルにだって出来る簡単な作業だ。
「5……4……3……」
「わ、分かったっす! 俺のと……加藤さんか三島さんのどっちか貸して欲しい! 何となく、ここで迷ったらこの人マジで次が無さそう!」
ご名答。結果として楽な道になる手段を選んでいるだけであって、やりたいとかどうしてもっていう訳じゃない。
「分かった、じゃあ……私のを……」
「この二つでお願いしゃす!」
「はいはい。じゃあ、その間に決めておいてね。女子二人はこの国に残って安全に街を楽しむか、三人ともダンジョンへ来て命の保証が無い戦いに身を投げるか。ちなみに、自分の与えられた能力を過信してるとすぐ死ぬからね? よく考えて、でも早くね?」
スマホを二つ手にして部屋を出ていく。
俺はあくまで事実を伝えただけ。捉え方は相手側によるだろうけど、事実は事実。普通に死ぬし、普通に殺さねばならない。
他の国の情報や勇者達についてはまだ分からないけど、個人的にはかなり優遇しているつもりだ。
個々人で見れば、能力のある勇者ぐらいの認識で構わないのだろうが、それが集団で行動されたりしたら流石に厄介な事にはなる。
勇者への資金提供や情報提供なんかで、ダンジョン内の攻略は効率的に行われるだろう。それが勇者という存在で一番厄介だと思う点だ。
俺達パーティーも、勇者が育つ前に攻略を急がないといけなくなったし……。この三人のお陰でマユエルを連れ出す事にはほぼ成功した様なものだけど、今のところメリットはそれだけだ。
なのに、デメリットはそこそこある。もし他の勇者と敵対した時の事も考えると厄介だ。殺したりしたら国単位での戦争へと発展しかねないし、相手に敵意があって狙われたりなんかしたら、能力によっては面倒な事になり得たりする。
準備を怠るつもりは無いが、なんせ……ひとつだけ、ウチのパーティーには頭脳担当が少な過ぎるという不安要素がある。
キャサリンさんが居てくれればと思うのだが、攻略に関しては手を貸しては貰えない。
「先生、それはなんなのよー?」
「あぁ、ただの連絡アイテムだよ。さて、コピーしますかね……へへへっ」
「おぉーっ! 悪巧みかえホムラよ……妾も悪いことするぞっ!」
部屋の外で待っていた二人を連れて、料理を作った大釜のある部屋へと戻ってくる。ディールに悪巧みなんて人聞きの悪い事を言われるが、悪巧みだから正解だ。
スマホを預かったのにはもう一つ理由がある。単にあの三人に連絡手段を提供するだけじゃない。そんなアイテムを導入しない俺じゃない。
基本的には人里からは離れた場所で暮らしていたし、タブレットを持っているから要らないと思っていたスマホだが、この世界では小型の通信機はかなり需要が高い代物になる。
これをパーティーの人数分複製して所持しておけば、役に立つ場面はかなり多いだろう。
「さぁて、ちゃちゃっとやりますかね! マユエル、ディール、お水を持ってきてください」
「うにゅ!」
「うむ! 妾に任せるのじゃ」
複製した通話が可能な簡素なスマホ――形状は得意のブレスレット型にしてみた。
各ブレスレットに個別の数字ボタンを振り分けて、対応するボタンを押せばその相手に通じる様にしてある。
これで、とりあえず紛失と盗難の心配は無い。戦いの中で壊れる可能性はあるけど、その時はまた誰かのを複製すれば良い話だ。
『あーあー、こちらホムラ。マユエル聞こえますか、どうぞ?』
『うにゅ~、ブレスレットから先生の声が聞こえるのよぉ?』
「わ、妾もやるのじゃ! ホムラよ、聞こえておるかえ?」
「あ、今はマユエルと繋がってるので入れませんよ?」
「ぬぅ~何故じゃ!? わ、妾も話しをしたいぞッ!」
全員同時通話については失念していた。それはまた次の機会にでも考えておくか。
とりあえずマユエルとディールには他のメンバーへの説明も兼ねて、先にこのブレスレット型スマホに慣れておいて貰う。というか、今から勇者のスマホ同士をリンクさせるから、その間は遊んでいて貰う。
勇者達の答えが決まっている事を願いながら、ちゃちゃっと簡単な作業を終わらせていく――。




