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第77混ぜ 飯の時間ですよ


お待たせですぅー


 

 まずは、勇者のプロフィールを把握する所から始める。さすがはシミラーマンさんで、勇者の名前や特徴を(あらかじ)め紙に用意してくれていた。


木戸(きど)鋭斗(えいと)……スライム?」

「本人がそう言うからね……私も少しだけ見せて貰ったんだけど、手が粘液状に変えていたよ。全身がその、スライム? になるらしい」

「ほぉ……また面白い能力ですね。他二人の女子が危機察知や防御スキルなのと比べると異質ですね。本人がそういう能力を希望したのか……はたまた誰かが決めたのか……」


 この世界にも元の世界にも粘液生物は基本的に存在はしていなかった。プレイした事は無いが、よくあるゲームの敵キャラとしては現れる事もあるらしいが……。

 物質としてのスライムなら伸びたり、凹んだり、くっ付いたりするのが存在してはいるけど、それが生物となると異常だ。異常というか奇妙だし、不思議だし、面白い。是非研究させて欲しいものた。


「粘液系ならば、呼吸器官のある生物に対しては圧倒的優位に立てるかもしれませんね。口と鼻を塞いでしまえば良いですし。それに、粘液として小さい隙間にも入れるのも便利ですね……正直、その能力を完璧に扱えるのなら初見殺しとして強いかと」

「なるほど……」

「問題点は弱点がどういうものがあるのか、という事と本人の資質ですかね。生き物を殺す事に抵抗がありすぎると使い物になりません」

「やはりそこになりますか……残念ながら、本人達は一角ウサギ程の大きさの生き物すら殺した事が無いらしく」


 ま、それは予想通りだ。普通に暮らしていればよほど田舎でも無い限りはそんなものだろう。

 快楽殺人鬼や異常者でないのなら、むやみやたらに生き物を殺す行為には誰だって嫌悪感を抱くはずだ。

 それを誰かの生活の為にとやってくれているのが、猟師さんや牧場で生き物を育ててくれている人達だ。

 食うために殺す。生きる為に殺す。死にたくないなら襲ってくる物を殺すしかない――それが、この世界の在り方だ。


(……ま、それで理解してくれる物分かりの良い子だったら楽だけどな。暗示を掛けるのは苦手だが……無理そうならやるしかないか)


 生きる為に、誰かを守る為に。そういう『仕方ない』と思える理由を植え付けてやれば、やれる事もある。

 真面目な奴や責任感の強い者ほど掛かりやすい暗示だ。バカじゃない事を祈って勇者達を待つしかない。


「……ま、男の子は使えるとしても、女の子二人は能力的にもダンジョンの攻略は無理そうですね」

「……えぇ、今から一人前の兵士として育てるにしてもどれくらい掛かるやら……難しいところです。こちらの事情で死にに行かせる事にはしたくありませんしね」


 上に立っている人間がこう言ってくれる国がどれほどあるだろうか。良い国だと思うよ、このシュレミンガルド王国は。

 他の国の事情には詳しくないが、ロクな国じゃない所もあるだろう。無事に勇者達が集まれる可能性がどれくらいあるか……。

 召喚された勇者達の最初のミッションは無事に国を出る事になるだろう。この国は止められたとはいえ、勇者を我が家に……という考えが当たり前に出るのだ。国のトップが率先していたら、もしかしたら全員が集まるというのは厳しくなるのかもしれない。

 あと、普通に死ぬ可能性だってある訳だしな。


「勇者の安全と国の事を考えると、女の子二人には国に残って生活水準の底上げをして貰うのが良いと思いますよ。食事、文化、芸術……女の子二人からとなると情報も少ないかもしれませんが、シララ校長に安全を守って貰えばお互いに良い関係になれるかと」

「ただでさえバラバラになっている状況で、その提案を受け入れて貰えるでしょうか? ……あ、いえ、もちろんホムラ様の提案そのものは大賛成なのですが」


 そこは考えが無い訳でもない。納得して貰えるかは別として。


「説得を任せて貰えるのなら、最善を尽くしますよ? ただ、ちょっとしたお願いを国王陛下には聞いて頂きたいのですが」

「……それは、マユエル様の事でございましょうか?」


 シミラーマンさんは流石に鋭い。察しが良くて助かる。

 わざわざ勇者を連れ立つ必要なんか、俺達には無い。マユエルだって最悪の場合、連れ去ってしまえば良い。転移鏡を使えば簡単に逃げ切れるだろうし。

 だが、そうしないのは単にこの国が嫌いじゃないから。特別好きという訳では無いけど過ごした日にち分の思い入れはある。

 だからこそ、独善的な恩返しの意味合いを込めて手順を踏んで大義名分を作ってからマユエルを連れて行こうとしているのだ。


「うにゅ~?」


 たしかにマユエルはまだ幼い。だが、精霊術師としても錬金術師としてもかなりの成長を遂げている。錬金術師としてはまだまだまだのまだではあるけど。


「マユエルも仲間だし、一緒にダンジョン行きたいよな?」

「うにゅなのよ!」

「妾はな~強いからな~、ホムラがどうしてもというなら、一緒に行ってやらんこともないのじゃがなぁ~」

「はいはい……ディールも力を貸してください」

「ぬわっはっはーっ! 仕方ないの! お菓子で手を打つのじゃ」

「……という事で、ここからは陛下を言いくるめる作戦会議にしましょう。シミラーマンさんも手伝ってくれると助かるんですが」


 やれやれ……と優しげな顔を向けてくるシミラーマンさん。ただ、絶対に反対という訳でもなさそうで、それだけでもありがたい。

 国王陛下から良い返事を貰うには勇者の後押しが効果的になると踏んでいる。だからまず、俺が錬金術(りょうり)と説得でで信頼を得なければならない。

 勇者達や国王陛下が帰ってくるまでの間、シミラーマンさんと計画を詰めていった――。


 ◇◇◇


 城内に慌ただしさが広がり、俺とマユエルとディールが待機していた部屋にも伝わってきた。

 すっかり空は暗くなり始め、そろそろ出番か来る頃かもしれない。まずは勇者達に食べたい物を聞いて、作って食べさせる。そこからだ。


「マユエル。この城にある錬金釜は至って普通……まぁ、その辺の店で売られてる一番高い値段ぐらいの価値はあるけど、まぁ普通だ」

「うにゅうにゅ」

「だからこそ、錬金術師の腕が見られるというものだ。基本的には最高の設備を用意する。けど、時には最悪の設備しか無いこともある。錬金術師なら、最悪の中でも最高のアイテムを作り出さないといけないよ。良いですね?」

「はいなのよー!」


 よし、今日の講義はこれで終わりとして――足音が近付いてくる。男性と女性が複数。

 恐らくはシミラーマンさんだろうと、警戒をやや解いて扉がノックされるのを待った。


「ホムラ様、ご準備はよろしいでしょうか? 陛下並びに勇者様の準備が整いました」

「今いきます! ほら、二人共行くよ。二人も食べるのなら、料理を運ぶくらいは手伝ってくれよ?」

「うにゅ!」

「えぇ~妾も働くのかぇぇ……」

「うにゅ……間違った。今後ともディールには有無を言わさず働かせるからな、力持ちだし」


 部屋を出て、シミラーマンさんの案内で陛下とその奥様、そして勇者達の待っている部屋へと向かった。コック長ホムラとして。衣装もそれっぽい白の帽子だけは身に付けている。俺が一番上に伸びていえ、マユエルとディールは同じ長さの物を。

 もちろん、マユエルとディールがそれを付ける必要性は無いのだが、雰囲気作りというやつだ。ディールなんかはフードの上に器用に乗せている。

 勇者には男の子と女の子……女の子は可愛い物が好きだからな、警戒心を解く係りとしては十分な効力を発揮してくれるだろう。


「おばんですぅー」

「うにゅですぅー」

「わっはっはー! 妾が何でも作ってやるからのっ」

「も、申し訳ありません陛下、奥様、勇者の皆様! 先程お話致しました……国を代表する料理人の方です」


 二人のせいでシミラーマンさんが頭を下げている。可哀想な……まったく。

 国王陛下夫妻は特にお変わりなく、初めて見る勇者達は長机の入口側に三人並んで位置していた。

 髪の長い女の子、肩口まで伸びている女の子、元気そうな男の子。高校生くらいの見た目だが、服装はこの国で上等なやつを着ている。

 マユエルやフードを深く被っている一人称に特徴のあるディールが居るのにも関わらず、視線が俺に集まっているのは、単に同じ黒髪だからだろう。

 居ない訳ではないけど、珍しくはあるからな。この世界だと、劣性遺伝なのかもしれない。


「国王陛下におかれましては……」

「よいよい、ホムラ。紹介しよう、こちらが勇者の皆様だ。加藤由香殿、三島夏希殿、木戸鋭斗殿だ」

「ホムラです。こちらは第三王女で私の弟子のマユエル。こっちのフードはディールです」


 こちら側の挨拶を済ませ、勇者達からも挨拶を返される。

 どこにでも居る普通の高校生だ。何の変哲も無い日常から、こんな非日常へと招かれて……自ら逃げてきた俺や師匠とは違い、戸惑いが凄いだろう。


(なんだか普通の高校生を見ていると、気が抜けてくるなぁ……まだ何も感じないぞ。戦いとは無縁過ぎる……)


 顔には出さず、かといってニコニコし過ぎず。困った事になればシミラーマンさんがどうにかしてくれるだろうという心構えで気軽にやっていく。


「勇者殿、この者はこの国で最高峰の料理人である。食べたい物を何でも頼むとよい」

「なんでも……?」


 国王様の一言に、勇者達は懐疑的になり、俺にはプレッシャーがのし掛かる。

 ここはひとつ、証拠として見せとくべきだろうか。


「これはー、僕が作った食後に食べるやつなんですけどもー」


 出来るだけアホっぽくというか、普通のやつを演出しつつ後ろ手でポーチからチョコレートケーキを取り出す。


「あっ、妾の好きなケーキ! パクッ!」

「…………なんちゅー早さだよ。一個無駄にしたじゃないか」


 改めてケーキを取り出して、勇者に見せる。やはりというか……即座に反応したのは女の子二人の方だった。男女グループで女性が多い場合は主導権、女性にありがちだ。……ありがちだ。

 だから女性をまずは虜にするのが作戦としてはベストだろう。甘い物は貴重であり、女性を魅了するには手っ取り早い手段である。


「これは私が作りました……えー、小麦粉の、えー……水と混ぜて焼いたりした甘いやつです」

「えっ、え、え……チョコレートケーキ!?」

「嘘っ、本当に?」

「……ま、すぐに片付けますが」


 人が興味を持つと隠したくなるし、興味が無さそうだと持たせたくなる。天の邪鬼が過ぎるかもしれないが、こういうの、やりたくなる時がたまにあるよね。


「……では、今のは食後にでも。まずはお食事の方を」

「あのっ、本当に何でも良いんですか!?」

「はい。完璧な再現が可能かは分かりませんが……」

「私、お米が食べたくて……あ、私達の国の主食で……その、(つぶ)状の白くて若干の甘味があって」

「あー……アレですね! はいはい! 他国で似た物を見た事がありますよ。作り方も大丈夫です」


 長い髪の女の子はお米をご所望……っと。やはり無くなって初めて気付くというやつだろうか。ウチは師匠が米とパンを半々くらいだったから特に拘ってはいなかったけど。

 知っているというテキトーな嘘を吐きつつ、米としか言わない女の子にどう提供してやろうかと頭を捻らせる。ケチャップでも混ぜてやろうかと悪魔が心の中で囁き始めた。


「それで……そちらの女性は?」

「あっ、私は……その、味のうす……繊細なものを」

「なるほど」


 確かに、基本的に大味ですもんね。調味料が運搬の問題で高価して貴重だし、使う時には盛大に使うから素材の大味か調味料で大味……繊細な素材を生かした料理なんてミルフを見ればお察しである。

 何か繊細な薄味の物を作ってやろう。


「して……男子は?」

「自分は……ラーメンを! 麺なんすけど、こう……スープは鶏ガラ醤油ベースだと嬉しいっす!」

「ラーメン……麺の太さは?」

「太めの縮れ麺っす! まさかラーメン食えるとは……くぅぅ~感動っす!」


 服の上からだと分かりにくいがスポーツマンらしく筋肉質で活発そうだ。運動神経は悪くなさそうで……まぁ、鍛えれば使い物にはなるだろう。

 元気で前向きそうなのも良いし、素直そうでもある。ちょっとおバカそうではあるが……下手に考えすぎる頭脳タイプよりマシだな。


「国王陛下夫妻は如何に致しましょうか?」

「ラーメンという響き……気にはなる。私はそれにしようか」

「あら、私はお米? というのを頂きたいですわ」

「かしこまりました。では、少々お時間を頂きます――マユエル、ディール、行きますよ」


 国王陛下はラーメンで、お妃様はお米……そもそも米単品を頼まれても困るのだが。お米はオカズをより美味しく頂く為の縁の下の力持ち的な存在で、濃い味があってのお米である。


(テキトーに肉料理と合わせるか? それともご飯のお供を用意するか?)


 頂いた注文に頭を悩ませながら、調理場では無く、用意して貰った錬金釜のある部屋へと歩き出した。


「マユエルとディールは何が良い?」

「うにゅ……ハンバーグ定食が良いのよ~」

「あのな! 妾はな! ん~……ホムラの飯なら何でも良いのじゃ!」


 全員違うと時間が掛かるし面倒臭いが、一応国の最重要人物への料理を作るのだから丁寧に作業しなければならない。

 毒味役のシミラーマンさんとその他複数のメイドさん達の分も作らないといけないから……ちょっと時間が掛かるし、前菜の用意はシミラーマンさんサイドに任せた方が良いだろう。

 辿り着いた部屋でさっそく、調理の準備をしていく。素材達の声を聞いて、活きの良い物をどんどん釜へと投入していく。


「ぐるぐるぐーる、ぐるぐーる」

「うにゅうにゅうーにゅ、うにゅうーにゅ」

「ちょっとテンポが遅いぞ。マユエル……成長期のお前の身体機能は日々進化していくから、常に自分の身体のことは意識しておけ」

「はいなのよ~」


 隣で俺の真似をして、掻き混ぜる振りをしているマユエルに指導を挟みながらも、早速一品目を完成させた。


「ホカホカの……ごはん!」

「しろしろなのよ~」


 さて、この調子で作っていきますかね――。


 ◇◇




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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