第72混ぜ 応援のチカラ
お待たせしました!
よろしくお願いします!٩(๑'﹏')و
鬼気迫る様子で男どもを斬り伏せて、でも伝えてた通りにダメージは少なめに抑えてくれたミルフ。まだまだ余力はあるみたいだ。
そんなミルフを遠巻きに見ている鉱山で働かされていた男達も、今は作業を止めて助けが来たという実感を噛み締めていた。
そして俺は、地面に絵を描いているディールの横でタブレットを見ていた。
「ミルフ、奥から誰か来ますよ」
「分かった。ホムラ、回復を頼む」
「了解です」
座ったまま狙撃銃を構え、スコープでミルフに狙いを定め……引き金を引く。
銃口から緑色の液体がミルフへと噴出され、背中の中心に命中した。
「うぐっ……な、中々の衝撃だな?」
「まぁ、それは我慢してくださいな」
遠距離から回復させるデメリットとしてはお安いものだと思う。少しの衝撃ならすぐに忘れ去るだろうし。
「おいおい、こりゃ何の冗談だァ?」
緊張感が少し緩和したタイミングで、奥から二人の男が姿を現した。
一人は大柄で、髭を生やしたいかにも盗賊らしき男。腰には二本の斧をぶら下げている。ドワーフと聞いていたからもっとずんぐりむっくりな体躯かと思えば筋骨隆々としている。
そしてもう一人は……。
「おやおや、皆様情けないですねぇ。見るからに女性を相手に負けたご様子。ふふっ……棟梁さん? 貴方の部下の方達は、鍛え足りないのでは?」
胡散臭げな細目。頭と口元を布で覆い、細身で背はあまり高くない。
ゆったりとした服装で、武器は分からない。
ただ……危険度は明らかに上だった。
見た目じゃ分からないが、肌で感じた感覚がそう伝えてくる。
ゴツい人は強い。筋肉があれば強いのは確かな事だ。しかし、世の中それが全てでは無い。
技がある。術がある。細身でも剛力を対処できる事は不可能じゃない。
それに加え、この世界は魔力が豊富で見た目の強さなんて何の宛にもならない。
「数は減りましたけど、実力はさっきの手下達よりも明らかに上だな……ミルフは対処出来ますかね?」
「――飽きた! のぉ……ホムラよ? もう飽きたし早く帰って遊びたいぞ?」
「あれま……ミルフ! ディールが飽きてきたから早くしてください。あと、労働者の皆さんはさっさと逃げる! 早く!」
敵が強そう? だから何だ。危険度は圧倒的に暴れたディールの方が上だ。
細目細身の強そう程度の奴に構っている時間は無い。
労働者達に声を掛けたのは、当然優しさではない。居たら……盗賊が集めた鉱石を貰っていく時に気になるからな。
「ありがとう……ありがとうあんちゃん達!」
「家に帰れる……妻と息子に会えるッ!!」
「はいはい、帰った帰った。敵は倒して置いたから可能ならギルドまで持って帰ってくれると助かります」
何十人と捕らわれて囚われていた働く男達が次々と出て行く。ミルフが敵側に睨みを効かせてくれているからこそ、安全に脱出が出来ていた。
最後の一人が出て行き……戦う舞台は整った。
「ちょっともうディールの我慢が限界なんで、ミルフ! 巻いてください! ギリギリの戦いとかもういらないんで、巻いて巻いてっ」
手をぐるぐる回して、ミルフを急がせる。
敵前なのにこちらを振り返って呆れ返った顔を向けてくるが、時間が惜しい。
「ディール、ちょっと耳を貸してください」
「なんぞ? ……ふむふむ。それ、妾が言うのかぇぇ……?」
「はい。お饅頭を前払いで渡しておきましょう」
「うぬぬ……仕方なし。コホン――『ミルフお姉ちゃん、がんばってー』」
いつもより半音高いディールの声が響いた。そして、ものの数秒で決着が着いた。
たったひとつの応援で、今まで見たこと無いくらいの繊細で速い動きをミルフは可能にしていた。
魔力のほとんどを足へと回し、スピード特化の動きで盗賊のボスを一撃で倒した。顎を平手打ちで砕いていた。
そして、その隣の細男へ急転換からの回し蹴り。側頭部を振り抜いていた。
ただ、その表情は先程までの怒りに満ちた顔ではなく、眩しい程の笑顔であった――。
(笑いながら敵を倒す姿……キャサリンさんイズムが受け継がれてやがる……)
戦々恐々としてしまう。
キャサリンさんみたいな人は、この世に一人で十分だ……。
「ホムラ、ほらっ、さっさと縛ってくれ。ディールさぁ~ん、見てくれてましたかぁ?」
「お、おいホムラよ? 奴はどうしてあんなに気持ち悪い笑みを浮かべておるのだ?」
たしかに、気持ち悪いと言ってしまえば気持ち悪い笑顔だ。
可愛いものが好きなミルフさんからすると、ディールに応援されるというのは嬉しさの極み。少しばかり変になるのだって、仕方のない事なのだろうな。
言ってしまえばデレデレである。戦闘中とデレデレの落差が大き過ぎてやはりキモいかもしれない。
強くなるのであれば良いのかもしれないが、ディールもマユエルもきっと応援を嫌がるだろうな。
「ディールさん、さ! 約束通りご飯を食べに行きましょう! あっ、私が背負いましょうか?」
言えば最後、こんな風にグイグイ来ると知ってしまえば。
「ぬわぁ~、ホムラ助けよ! 助けよ~」
「ディールさんどうして逃げるのですか!? ディールさんのお陰で勝てたので感謝したいんですよぉ」
キリッとしているいつものミルフに戻るまで、まだしばらく時間が掛かりそうである。一人で先に動いておくか……。
――盗賊達に睡眠薬を嗅がせ、しっかり眠らせてからロープで巻き付けていく。
さすがに数十人を三人で持っていくのも大変で、ディールの眷族を頼りにさせて貰った。
蝙蝠タイプの眷族に盗賊を持たせ、ふよふよと浮かせて荷台のある馬車まで運んでいく。
「さてと……」
腰に着けたポーチから『魔力検知探知機』を取り出して、周辺の魔力を含む物体の探知を行った。
「ほうほう。あるな、むしろ反応がありすぎて範囲を縮小しないと分からないレベルだわ」
「ホムラよ、妾は先に外に出てるでな?」
「えぇ、目当ての物を手に入れたらすぐに行きます」
ディールとミルフは先に鉱山の出口へと迎い、俺は一人奥へと進んで行った。
奥は盗賊のボスが出て来た場所であり、拠点としていた場所らしく食料や布団なんかも置いてあった。
広めの部屋の片隅には木箱が五個も置いてあり、探知機の反応はそこが強く印されている。
俺はさっそく、箱の蓋を開けていった。
「よしよーし! これでアイテムの素材には困らないぞ!」
取れたてホヤホヤの岩に埋もれた鉱石達が箱にギッシリと詰められてあった。
赤っぽい石、青っぽい石、黄色っぽい石、透明な石。色とりどりの鉱石が光って視える。
大量の質の良い素材を目の前に、今ここで鉱石を削ったり磨いたりしたい欲に負けてしまいそうになる。
「はぁ~、良い。良い。本当に良い。捕まってた人達は大変だったかもしれないけど、よく集めてくれたとむしろお礼を言いたい……」
鉱石を種類ごとに分けていき、袋に入れてポーチへと収納していく。
軽い石、重い石、頑丈な石、脆い石……全てに使い道がある。それを想像するだけでアイディアが大量に湧いてくる。
アレコレ面白そうなアイテムが作れそうだ。早く帰りたい。万全な道具と体調の元、最高のアイテムを作りたい。
(そうなれば早く帰らないと。しばらくは他の事を無視してでも錬金術に没頭するぞ!)
ついでに、どこかから奪ってきたらしき宝石や金貨や衣類も貰っていく。
これは盗賊行為ではなく、ダンジョンに宝探しをしに来たみたいなものだからセーフである。ま、そんな些細な事をいちいち気にしないがな。
――当初の予定以上の成果にホクホクと満足しつつ、俺も鉱山を抜けていった。
一時間にも満たない冒険、日の光を全身に浴びる感動も薄いものだった。
「遅いぞホムラ」
「お待たせしました。帰りましょうか」
荷台は盗賊でいっぱいになっている為、馬の操縦席に三人で並んで座った。ミルフを真ん中にして俺とディールは端と端に。
今回は鉱石集めとミルフの羞恥心を取っ払う為のちょっとした旅で、思った以上の成果を得られた点は大満足だ。
特にミルフ……強い意思が宿ったみたいだし、きっともう心配せずともどんな状況でも戦えるはずだ。
「クエスト報酬は微々たるものになりそうですね」
「まぁ、一人あたり銀貨一枚という契約だったからなぁ。でも、ホムラが欲しがっていた鉱石はかなりの量が手に入ったのだろ?」
「えぇ。いろいろと捗りそうです」
「そうか。なら……少し頼みがある。武器を新調したい」
ミルフが自分の剣を腰から外して、俺に渡してくる。女性が扱う武器にしてはそこそこの重さがある。
渡された剣を鞘から抜くと、たしかに傷んでいるのが見て分かった。
武器は消耗品。そんな事は剣士であるミルフの方がよく理解していると思う。
それでも、自分が気に入った装備を少しでも長く使い続けたいという気持ちがあるのだろう。理解出来なくはない。
手に馴染んだ武器というのは、戦いにおいては大切な要素となってくる。ちょっとした違和感が隙に繋がる事だってあるのだから。
「良いんですか? 修理じゃなくて」
だからこそ、ミルフの新調したいという言葉に少しだけ驚いた。
剣は傷んでいるが、直せないという程では無い。腕の良い鍛冶師に頼めばそれで済む話だ。
それが新しくするとなると、それこそちょっとした冒険となる。しかも錬金術師に頼むのだから博打でもある。
「あぁ。私の速さを活かすのにこの剣は少し重いからな。あと、ちょうど良い硬さと長さの『相手を殺さないが倒せる』武器も欲しいと思っている」
今より軽い剣と鈍器の様な武器がミルフの希望みたいだ。
(速さを活かすならナイフか短剣を二本持つのもアリだが……)
それと、鈍器に関してはたしかにあると便利な事は多い。
ミルフはきっと、今日の戦いで剣が相手を捕まれる事を前提とした戦闘には向かないと考えたから手持ちに欲しいと思ったのだろう。
先端で殴打できる棍棒……槌矛の様な武器が希望には沿えるだろうか。
やや重いのが普通だけど、使う鉱石と作る人間の技術によっては軽くて振り回しやすいメイスも不可能じゃない。
「アイデアはあります。ミルフさんは短剣とナイフだったらどちらの長さの方が良いですか?」
「長さはあまり変えたく無いな。技の間合いもあるし。難しいかもしれないが軽量化を頼みたい」
「長さはそのままですね、了解です。速さを活かすなら二刀流もアリだと思いますけどね?」
「それはまた別の技術を習得せねばならないからなぁ……」
馬車に揺られながら、そんな話を二人でしていく。
ディールは武器や戦い方には興味が無いのか、太陽の光を遮るローブに丸まってモグモグとお菓子を食べていた。
ミルフから武器についてのイメージやアイデアを聞いたり、話し合ったりしていると、ミルフは可愛い物だけじゃなく装備への拘りも結構なものだと分かった。
武器だけでは足らず、次は防具の話、その次は冒険者の必須アイテムの話にまで広がっていった。
「あれ、先に逃がした人達に追い付いた?」
馬車を走らせて一〇分程。見覚えのある汚れた格好をした男達が歩いている姿を見付けた。
懸命に歩いてはいるものの、あまり速いとはいえないペース。おそらくロクな食事を与えられてはいなかったのだろう。睡眠不足という事も考えられる。
鉱山を出てからしばらくは、解放されたという高揚感から歩けたかもしれない。だけど、身体はちゃんと悲鳴をあげているみたいだ。
「そうか……連れ去られた皆さんは徒歩だもんな。どうするホムラ? 声を掛けるか?」
「……う~ん。それなら俺達が先に村へ戻って、村から馬車を出して貰った方が良いんじゃないですか? 報告も兼ねて。まだ馬車でも二〇分以上は掛かりますし、徒歩ならもっとでしょうし」
「なるほど。ならば、水と食料を渡してから急いで帰るとしよう。私達が帰るまで村の奥さんも子供達も不安だろうし」
馬を操るミルフがペースを少し上げて男達に追い付くと、少しばかりの食料を手渡して迎えを呼んでくるという事を伝えた。
その行いに、またしても男達から感謝の声が飛び交った。中にはミルフを女神と敬う者まで現れる始末だ……。
ミルフは少し照れ臭そうに馬車を走らた。それが馬にも伝わっているのか、先程よりも更に早さは上がっていた。
「よし、着いたぞ!」
「んなぁー? 妾はまだ眠たい……ぐぅー……」
そして、村に戻ってきた俺達は、助けた人達の話も兼ねて真っ直ぐギルドへと向かった。
静かにジッとしているのかと思いきや、ただ寝ているだけだったディール。放っておく訳にもいかず、ミルフは馬車を降りて行ったが、俺はディールと共に待機しておくことにした――。
◇◇
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