第71混ぜ 誰かの代わりに
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よろしくお願いします!
迷路の様に広がっているらしい鉱山。通路と開けた場所とが在り……まるで蟻の巣の様な形状が奥へと形成されている。
タブレットを使って地図化したからこそ分かった事だ。挟まれる事を一番に警戒して歩いていく。
(ポツポツ……と点在してるな)
まずは、人の集まっている場所とディールの眷族が視ている場所を照らし合わせ、敵らしき者の位置を把握する。
明らかに盗賊っぽい奴等は赤でマークし、それが本当に敵か、ただの採掘者かの見分けはできない者達は黄色でマークしていった。そこは仕方がない……当たって砕けろの精神だ。
前情報で手に入れた敵の要る位置も把握しているし、ここからはもう戦うだけになる。
「だいぶバラけているな……こちらにとっては都合が良いです。ガスマスク着けての移動は大丈夫ですか?」
「うむ、それは問題無さそうだ。だが、思ったよりも通路の天井が低いぞ。私の剣はやや長めだし、気を付けなければな……」
声の響く洞窟内で騒がれても面倒である。短期で気絶させる戦闘スタイルがベストだろう。
敵の数や違法を確認できしだい、速攻で叩く。ミルフが。
「ミルフ、斬り飛ばして良いのは腕一本くらいまでにしてくださいね? 斬るより叩き付ける感じで倒してください」
「……可能な限りはやる。が、手を抜くのは難しい」
ミルフは自分の剣を振り回し、可動域を確認している。武器が長剣であるが故に、基本殺るか殺られるかがミルフの戦い方である。
殺してしまっても個人的には構わないのだが、報酬が減るのは避けたい。
対人戦闘で手加減をしようとするには、かなりのレベル差が無いと難しいのは分かる。初めて見る相手の戦闘力を測るのも難しいし……回復薬がある内はフォローするしかないか。
「その時はその時でいきましょう。戦闘が終わったらロープでぐるぐるに巻くので、次に行きましょう」
「うむ。ここから敵の親玉までは最短でケリを付けるぞ。洞窟が潰れないとも限らないしな!」
「では、進む方向は指示出しますので」
後ろから右へ左へ指示を出し、最短ルートで敵に向かっていく。
「ストップ。ここを曲がれば行き止まりに敵三人。目で確認出来ますか?」
「居るな。体格の良い男が三人。一般の採掘者ではなさそうだが、確認後――斬る」
道案内をすれば後はミルフの仕事。俺とディールは姿を見せずに待機しておく。仮に逃げたした時の保険であり、最初から姿を見せない方が女一人……敵も油断してくれるだろうし。
「うらぁぁぁ!!!!」
一瞬、そんな声が聞こえた。だが、次に聞こえて来た声は野太い呻き声だった。
ミルフの長所は素早さと体幹の良さ。それに剣を使っているとはいえ、キャサリンさんに鍛えられて近距離戦が苦手では無い。
狭い場所はミルフにとって、戦いづらい場所では無いのだろう。
「ホムラ、もう大丈夫だ。ロープで巻いてくれ」
「はいはい。……っと、ちゃんと手加減出来てるじゃないですか」
「あぁ、何か自分でも意外というかなんというか……。キャサリンさんと比べてしまうと、どうしても敵が遅い。剣を抜かなくとも体術だけでいけそうだ」
どうやら、自信は取り戻しつつあるみたいだ。
責任感、使命感、緊張……ミルフはそれを人一倍感じやすい。だからこそ土壇場で体が硬くなってしまっていた。
それは仕方の無いことだ。人それぞれ個性がある。
だから大事なのは、それとどう向き合うかだ。見ないようにして忘れてしまおうとするのでは無く、向き合い上手く付き合う事。
適度な責任感、適度な使命感、適度な緊張……それは、むしろプラスに働いていく。無気力と重圧の間、一番心が良い状態になる。
自分でその集中状態に入ってくれるならありがたいが、それがまだ難しいのなら……背負い過ぎる物を、俺が少しくらい持ってあげれば良い。
(エレノアやフランより、ミルフは全体を見れるタイプだからな。目の前の戦闘だけに集中すれば良い状況というのが少なかったんだろう)
「盗賊はここに置いておくのか?」
「えぇ。後で回収しに来ましょう。それより次ですよ、道案内や毒ガスは気にせず敵なら遠慮無く叩いてください」
「分かった。それは任せろ」
三人の盗賊を別々にロープで縛り、寝かせておく。そして、近くにあった木箱――その中にあった鉱石の全てを頂いていく。
そして次の場所へと向かい、同じ様に短期戦で倒していく。倒して、縛って、鉱石は貰う。
思ったよりも数が少なく、鉱石がそれだけ取れない物なのか、それとも別の場所に集められているのか疑問が残った。
後者なら……そこも抑えておかなければならない。場所を吐かせて先に手に入れなければ、ギルド側に押収されてしまう可能性があるからだ。
鉱石の違法採掘であれば敵ボスはギルドか、騎士団にでも移送されて尋問されるだろう。そうなれば俺が参加した意味がなくなる。
「んぬ? おいホムラよ」
「どうしました?」
「最奥の敵を見てた眷族が消えておる」
(消えた……? 土魔法に巻き込まれたか、それとも蝙蝠を見付けて消したか……)
「まぁ、後はその最奥のみです。拠点にしているのか敵は多いし場所もかなり広い……ミルフ」
「心配ない」
ここまで無傷とはいえ、次の敵は一気に数が増える。おそらく質だって上がるはずだ。
(だからこそ、成長することもある……か)
タブレットを見ながら進んで行き、敵の集まっている場所の手前まで辿り着く。
白っぽい煙が充満しているのが、おそらく毒ガスだろう。これのせいで捕まった人は逃げられないし、安易に助けにも入れない状況になっていた。
「行けますか?」
「あぁ、援護は頼むぞ!」
ガスの中へとミルフが突っ込み、その後を追いかける。
抜けた先に広がっていたのは、今までよりも広い空間。壁を掘り進めている疲れた顔をした男性達と、それを監視している側の男達。
俺達の存在に気付いたのか、一人が声を上げた。
「誰だっ!? どうやって入りやがった!」
その騒ぎに、全体の動きが止まる。
「冒険者だ。依頼を受けて、違法採掘者及び、捕らえた人の解放をしに来た。一応言っておく、大人しく投降しろ! さすれば命は取らない」
ミルフの宣言に、盗賊達は顔を見合わせて下品に笑う。
「おい、おいっ! だれかボスを呼んでこいよ! 良いカモが来たぞ!! それも上玉だっ。こりゃ、楽しめるぞぉ」
「ははっ、んで……後ろの男はどうする?」
「あぁん? さっさと殺しちまえば良いだろ? 生かすのは女だけで十分だ! 久しぶりの女だからなぁ、楽しまねぇとなぁ!」
鶴嘴や鍬の様な道具を持っていた人達……働かされていた男性達からは安堵の表情が見えない。
ザッと集まっている盗賊の人数だけでも二十は越えている。勝ち目なんて戦い慣れてない人程すぐに分かる。
「ホムラ。私は女だからと馬鹿にされるのが嫌いだ」
「……知ってますよ」
「盗賊は……いや、男共はいつもそうだ。女だから女だから女だから女だからっ!! そんなに見下して楽しいか!?」
この世界はまだ、男尊女卑は普通の感覚だ。男が働き、女は家を守る。
特別な技能が無い限り、生まれつきを除けば上の立場になる事などほとんど無い。しかも冒険者なんて仕事かも怪しい職業に就いていれば、より女性はナメられる。
男より筋力も無ければ体力も無い……と。それは個人によりけりだと分かっていても、どこかで女には負けるはずが無いと皆が思っている。
師匠やキャサリンさんに育てられた俺は、強い女性というのを知っているから卑下する事は無いが……ミルフも普段の冒険者生活で鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
「盗賊とはああいうものですよ。落ち着いて」
「数が数だけに手加減は出来そうに無い。ホムラ、手は出さなくて良い……ここは――――」
剣を抜き、構えに入るミルフ。表情はどこか怒りが含まれている。
戦いにおいて怒りは必要だ。剣道みたいな試合においては、怒りはむしろ余計な力となる。視野が狭まったり心拍数を無駄に上げたり。
ただ、殺し合いにおいて――怒りは原動力だ。許せない事を覆そうと抗う力となる。
しかし、今のミルフは少し……駄目だ。怒りを溜める場所が間違っている。
怒りは原動力だが、視野が狭まり強引さが増える事になるのも確かだ。
冷静さを欠けば隙となるし、迫力だけでは勝てない相手とぶつかった時にすぐ崩れる。
だから、怒りは頭にまで溜めてはいけない。心と体を怒りで燃やし、頭は冷静な状態、それが理想的だ。
(ん……さて、どう落ち着かせるか。それとも、一旦このまま戦わせる方が本人の為になるか?)
恐らく、怒りで多少の傷は気にせず突っ込む様になるだろう。ドーパミンやアドレナリンが大量に分泌されて無茶も平気でやるだろう。
(なら、俺は変わらず傷付いたミルフを回復させる役目。仮に敵が強くてボロボロになろうと、もう嫌になっても回復させようか)
ミルフに必要なのは『形振り構わない』って事かもしれない。
女だからという理由でナメられるこの世界で、女だからと言われない為にはまず、心で負けちゃいけない。
怒って怒って怒って怒って……抗い続けなければならない。女でも強いと言われる様な世界になるまで。
「ミルフ、一人ではやらせない。手は出す」
「……っ。貴様も、やはり!!」
「勘違いしないでください。仲間なんだから当然の事です。しかし、あくまで傷付いたミルフを回復させるだけですよ? 敵がどんなに強かろうと目の前で袋叩きに合おうが、死ぬ寸前までは助けません。ディールと共に逃げてます」
「――そう、だな。すまない、それで良い!」
「怒りは燃やせしていけ。捕らえる事なんて考えなくて良い。――もっと、剣と自分を信じろ」
俺はそう言って離れた場所に移動した。いざとなればディールに飛んで貰えば逃げる場所の確保は余裕だ。
俺の狙撃銃は魔力を込めて撃つ分には空中だろうと何処からだろうと、スコープで捉えた相手に自動追尾補正があるからあまり距離は関係は無いのだが、回復薬を液体挿入口から入れて撃つ場合、ちょっとしたデメリットがある。
まず、そのスコープが十全に使えない事。自動追尾がされなくなり、混戦だと敵に当たる可能性もありえる点。もうひとつは、離れすぎると対象に当たった時の衝撃がデカくなるというもの。別にそれで死ぬ訳では無いが、地味に嫌な痛さらしい。
「ディール、敵がこっちに来たらテキトーにミルフの方に送り返してください」
「分かった。あのな、それよりな、妾やっぱりお腹空いたかも」
「オラァ! テメー等、一斉に掛かれ! ボスが来る前に終わらせるぞ」
ミルフが敵陣に突っ込むのを横目で確認して、俺とディールは壁際に座った。
緊張感が無いと言われればそうなのかもしれないが、一番怒らせると厄介なディールがお腹空いて我慢が出来ないと言って聞かない。
ちょっと早いが、二人で先にお昼休憩を取ることにした。見晴らしは最悪の光景だけども、味に変化があるわけでも無いしな。
◇◇
斬る。斬る。斬る。敵が油断しているのなら、そこを突いていく。
斬る。斬る。斬る。誰よりも早く、力強く、流れる水の様に動いていく。
「ギャアアアアアアア!?」
「腕がァ!! 俺の腕ェェ!!」
隙が出来た者を、魔力を込めた蹴りで遠くまで飛ばす。遠くの地面に転がった敵は気にしない。弓や魔法はまだ使ってきていない。
使えないのか、使わないのか。だが、警戒だけはしておく。
頭に怒りが達しそうだったけど、ホムラの声で少し落ち着いた。でも、いつもより本能的だ。
目の前の下品で奪う事でしか生きられない畜生を、今は斬ることしか頭に無い。
「お、おい……やべぇ! 誰かボスを……ギャッ!!」
「くそっ……おい、纏めて掛かれ! たかが女一人だっ! 組伏せてしまえ!」
「――――お前は、お前達は、今までそうやって女性を物として扱ってきたのかっ!」
反吐が出る。ここでこの盗賊達をどうにかしても、この世界を変えるには至らない。
権力や暴力でいとも簡単に傷付けられてしまう。でも、少しでもこの先――未来で悲しむ人が減るのなら、私がここで戦う意味はあるのかもしれない。
誰かの代わりに、怒ってやれるのかもしれない。
ホムラやビスコの様に、分け隔てなく接してくれる男が増えれば良いと思う。
(そんな日が来るまで――私が、戦う勇気の無い人の分まで戦おう)
「ボルゾイ流剣技」
これまでの型。それを、キャサリンさんとの修練で身体の使い方を教わった。技にも磨きを掛けた。技の練度は今まで以上に上がっている。
そこにこれからは、私の気持ち『心』を乗せていく。
「一ノ型」
今、ここで私が完成に近付く。
剣を持つ手にはちゃんと怒りが宿っている。
「オメェ等! 掛かれぇ!!」
「オラァァッ!」
「死ネェェェェ!!」
心に宿る炎が、弱い私をどごまでも強くしてくれる――。
「これが、私だッッ――激昂の連!!」
◇◇◇
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!
↓↓↓新作ラブコメもよろしくお願いします!(´ω`)




