第70混ぜ かなり便利な魔法だなぁ
お待たせしました!
よろしくお願いします!
「ホムラよ、帰ったぞー」
「おや、ずいぶん早いですね? お帰りなさい。でも今、ちょっと手を離せないので待っててくださいね」
ディールが偵察に向かってどれくらいの時間が過ぎただろうか?
俺がガスマスクを作り始めて、まだ二個目だ。つまり三十分は経過しているが、一時間は経っていないくらいである。
幾ら飛べるとはいえ……偵察にしてはやはり早すぎると思う。だが、あまり余計な事に思考を割いていると、簡単な錬金というか複製とはいえ失敗しかねない。一度、手元に集中し直した。
「……よし、とりあえずこれで最低個数はオッケーだな」
元々ある自分の顔全体を覆うガスマスク、それを複製した二つ。ミルフとディールの分も準備完了だ。
静かな時間が流れてくれたのは、ディールがジグソーパズルに夢中になってくれていたお陰である。力持ちであるディールだが、頭が悪いわけでは無く、むしろ地頭はかなり良い方だ。
今やっているジグソーパズルも最初に渡した物よりもかなりレベルは上がったものを使用している。
「ディール」
「おぉ、ようやく終わったかえ? あのな、妾、偵察してきただろ? だからな? プリンを所望するのじゃ」
硬いベッドの上、拡張テントの中からディールが顔を出しておねだりしてくる。
だが、まだ報告を受けていない。ご報告をあげるとしてもまずはそれからだ。
「かなり早かったみたいですけど……何か情報は得れましたか?」
「くっくっくー、今も見張っているのだぞ? ――眷族召喚」
ディールが手の上に小さい蝙蝠を顕現させる。
「これはな『偵察用』でな! 洞窟に配置して視てるから、大丈夫だぞ!」
「偵察用ですか……視界を同調出来るんですか?」
「ん? ドーチョーとはなんぞ?」
「あぁ……えっと、その蝙蝠の目を使って、遠くの場所とかを見れるのですか?」
「うむ! ちょっと無防備になるけどな? 切り替えたら見れるんだぞ」
俺がディールと限りなく同じ事をしようとするのなら、物体にカメラを取り付けて見張っておく必要があるだろう。それに、使用距離も限られるし異物が浮かんでいたり、地を這っていれば違和感しかない。
だからディールの能力は、距離的な話だけでもかなり優秀な能力だと思う。無防備というリスクはあるものの、近くに仲間が居る状況なら問題にならない。
「ちょっとその能力について詳しく教えて欲しいんですけど」
「うなぁ~プリン……」
「はいはい、すぐに用意しますよ」
ぐだぁ~として、待ちわびた感をこれでもかと表すディールにプリンとスプーンを渡してあげる。
明日の為にもうすでに寝ているミルフも、プリンを食べてから眠りに就いた。だからちょっとした嘘を今から吐いたとしても良心は全く痛まない。
「ディールだけ、特別に二つ食べて良いですよ」
「本当かっ!? 返せと言われてももう返さぬぞ!?」
一個目のプリンを飲み物かの様に口に放り込み、すぐ二個目に手を付け始めた。とても上機嫌になってくれる。
「そろそろ能力についての詳細を知りたいのですけど良いですか?」
「うむ! ……とは言っても、妾の魔力の固まりである故に少しずつ溶け出すのよな。攻撃されたら反撃は無理ぞ。ま、消えたらその感覚はあるけどなー」
リスク無しで監視カメラの様な能力を発動できるのはかなり都合が良い。声を拾えなくとも有力な情報源となる。
眷族召喚……おそらく種族特有の魔法ではないかと思う。人族はもちろん、魔法の扱いが上手いエルフ族ですら使えないだろう。
ディールが見せてくれたのは、偵察用。つまり、攻撃用なんてものもあると予想できる。だとすれば、使い方はもっと広がっていく。
かなり自由度の高い便利魔法だ……羨ましい。
タブレットと同期すれば遠隔操作で複数操作も可能かもしれない。しかしそれには一度地図アプリに地形を魔力を飛ばして登録しなければならない。
やはり……ディールの魔法には近付けるものの、応用力や効率を考えるとこれからも任せた方が良いかもしれない。
「どれくらい小さく出来ますか?」
「そうだのぉ~あめ玉くらいか? だが、小さいと長時間は保てんぞ?」
「充分ですね。これからも偵察を頼む事が増えるかも知れないので、その時はお願いしますね。今日はもうゆっくりしてくれて大丈夫ですよ」
「うむ! 任せておくと良いぞ。妾はパズルをしておくでな、出発する頃に教えてくれ」
そう言ってテントに引っ込んでいったディール。俺も作業を再開させる為に釜の前に立つ。
いつもの大釜ではなく、ギリギリ鞄に押し込める小さめのサイズの物だ。
正直に言えば、小さい釜は大釜よりも作業時間が長くなるし、作れる物も制限されるから使いたくは無い。だから旅は好きになれない。
メリットがあるとすれば、椅子に座ってでも掻き混ぜられる事くらいだろうか。
「早朝までにメンバー分のガスマスク……ギリギリかなぁ」
明日の事を考えるのなら、早めに寝るべきなのだろう。
だが、一度始めた作業を途中で止めて寝るのは何か気持ち悪い感覚がある。完成させてからではないと、どうも気になって寝付きが悪くなってしまう。
「明日はミルフさんにメインで戦って貰って、ディールをサポートに置けば……俺はミルフに回復薬を打ち込む役割になるか」
なら寝不足でも問題はない。そう結論付ける。
一日徹夜したからといって支障がある訳でもないが、戦闘中でも構わず欠伸は出てしまうだろうし、どうしても緊張感が無くなってしまう。
それなら元から戦闘には参加せず、サポートに回っていた方が良いだろう。面倒だし、盗賊くらい回復薬が無くなる前にミルフにどうにかして欲しいし。
(盗賊団が来てから一週間程度。被害が出て五日、ギルドが近くの大きい街に助けを求めたのは四日前だもんな……明日がギリよな)
誰かが派遣されて来るまでにもう一日、二日は掛かるだろう。盗賊団が鉱石を掘り出して持ち去るのもそろそろ……。つまり、盗賊が違法採掘した鉱石を奪うチャンスが明日しかない。
是が非でも、ミルフには依頼を受けた責任として盗賊を捕まえて報酬を稼いで貰わないといけない。ついでに鉱石も全て頂いていく。
――勝負は明日だな。
◇◇◇
日が昇り――早朝。
ガスマスクを完成させた俺は、ディールを呼んで部屋を片付けてからミルフの泊まっている部屋へと向かった。
「ミルフ、起きてますか?」
「あぁ、入っても大丈夫だ」
トントンとドアを叩いて聞くと、中から返事が届く。ちゃんと起きていたみたいだ。
ドアを開けて中に入ると、既に着替えて準備万端なミルフがベッドに腰掛けて剣の手入れをしていた。メイド服ではなく、冒険者としての格好だ。
「おはようございます」
「おはよう。ディールさんもおはようございます」
「うむ」
朝の挨拶を交わし、俺とディールも空いてるベッドに腰かける。
そしてさっそく、昨日から作っているガスマスクを二人に手渡した。
「これが……ホムラの作っていたアイテムか?」
「えぇ。使い方は簡単です。まずは隙間が無いように顔に着けて、頭の後ろにくる紐を引いて調節してください」
「こ、こうか……?」
「もっと……動いてもブレない様にギュッとです。はい、それだけでオッケーです。後は有害な成分を含んだ空気や香りもを浄化してくれますので」
刺激臭は目にもダメージがくる。だから、目元もしっかりと透明なガラスで防いである。
この世界ではあまりにも似つかわしく無い装備なのは間違いないが、風魔法で毒ガスを霧散させる役割に人員を割くのはもったいない。
世界観よりも命。アイテムはたしかに貴重品だが、使ってこそである。
「今から強烈な臭いのする気体を使って、その効果を試して貰います。まずは装備を外してください」
ミルフとディールがガスマスクを外したのを確認して、自分はガスマスクを着けたまま……とある気体を詰め込んだ試験瓶を取り出した。
「臭いですから、思いっきり吸い込む事はしないでくださいね? 行きますよ?」
そう先に注意をして、蓋を開けた。二人が瓶の方に近付いてくるが、すぐにその動きが止まる事になった。
「ぴょえーーーーッ!? 臭い!? 鼻が曲がるぅぅぅ」
「……ぅえ。ホムラ……ぉえ」
俺の方からも瓶を近付けた途端、ディールは必死に鼻を抑え、ミルフは吐きそうになっていた。
透明な気体の名前は『硫化水素』。その臭いは『腐卵臭』だ。
強烈な臭いを放つ気体だが、ガスマスクを着けている俺には効果が全く無い。アイテムが正常に作動しているという証明は出来た。
「ガスマスク、着けてみてください」
「……あれ、臭くない?」
ミルフはその効果を知り、驚いた顔をしている。やはり自分で体験した方が、アイテムを信じきれるというもの。必要な過程だったと思って貰わないとな。
「うぬ……。臭くは無い……無いはずなのだが……まだ鼻に残ってる気がするのよな?」
逆にディールはずっと顔を歪めていた。嗅いだことの無い香りに、鼻がビックリしているのだろう。
後で良い香りを吹き掛けてあげないと、ずっと渋い顔をし続けるかもしれないな。
「効果は分かって貰えたと思います」
試験ビンに蓋をして、窓を開けて空気を入れ換える。本当は窓を開けてから蓋を外すべきだったのだが、すっかり忘れていた。便利アイテムを手にするとこういう杜撰な部分がどうしても増えていく。
楽をするためにアイテムを作っているのだから当然の事なのだが、他の人とは感覚がどんどんズレていってしまうのか難点だろうか。
(まぁ、他の人に何を言われても気にする必要は無いけど)
瓶を鞄に入れ、ミルフとディールの呼吸が整うまで少し待って、本題へと入っていく。
「ミルフはとりあえずガスマスクを着けて動く事に短時間で慣れてください。ディールもですけど。あと、今日の戦闘の事ですが……」
臭いが消えた所で簡単な朝食も取りつつ、作戦会議をしていく。
ディールのお陰で細かい情報も集まり、いつでも先手を取れる用意がある。
あとは、敵と拐われた人を見間違えない様にする事や移動と突入のやり方など、細かい事を三人で決めていく。
「よし、そろそろ行こうか。ミルフ、何かチームの士気が上がるような一言を……どうぞ!」
「きゅ、急に言われてもだな……ううむ」
「妾はなー、食べ放題が良い」
ディールが、ただの個人的な願望を口にする。それを聞き逃さなかったのか、ミルフはふと閃いたかの様に表情が明るくなった。
「よし! ディールさんは食べ放題! ホムラは盗賊の持つ鉱石を持っていって良し!! これでどうだ!」
「……文句無し。でも、ディールの食べ放題は高く付きますよリーダー」
「……うっ」
勢いに任せて大きい事は言わない方が良いという教訓をみせてくれたリーダーに、俺は拍手を送った。
ディールは、もう今日のご馳走の事で頭が一杯になり始めたみたいで「ナントカの串焼き」とかを呟いている。
「行こうか。ミルフ、間違いなく敵の方が多いしお前は怪我をするだろう。でも俺達の加勢は期待するなよ。お前が敵を倒せ。怪我なら俺が必ず治してやるから、敵が強くてもお前が戦え」
「……分かっている。元は私が強くなる為の旅なのだ。それに……キャサリンさんより強い人なんてそうそう居ないだろう?」
覚悟は出来ている。なら、俺から言うことはもうない。あとは回復してやるだけだ。どんなに倒れても、切られても、薬がある内はすぐに治す。
昔、俺がやっていたスパルタ戦闘訓練に近い事をしてもらう。これは肉体的に辛いのだが、精神的にはもっと辛く厳しい。
ミルフの精神力で耐えられるか……それはその時にならないと分からない。
殻を破れるか、心が死ぬか――どっちに転ぶのだろうか。
俺達は宿を後にして、まずは採掘場のある鉱山の近くまで馬車で移動していった。
「ここからは慎重に行きましょう。全ての指揮はミルフに」
「分かった。罠に注意していく。この先は私語も必要最低限でいくからな」
「妾、お腹空いてきたかも」
「さっき朝ご飯食べたでしょ」
馬車から降りたら、もういつ戦闘になっても良いように構えておく。ディールに緊張感を求めても無意味だろうから、そこは放置だ。やる事はやってもらうからそれで良いという事で。
ミルフを先頭にして静かに歩いて行き、鉱山の幾つかある入口の一つに辿り着く。
「ディール、背中に」
「うむ。…………この先に人影は無いぞえ」
ディールが視点を眷族に切り替えながら歩くのは危ない為、俺が一時的に背負っていく。
ディールに頼んで、更に眷族を増やして鉱山の中へ放って貰った。各所に配置してより安全を確保する為に。
それを頼りにするつもり満々で、俺達は鉱山の中へと足を踏み入れていった。
◇◇
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
ミルフがボロボ……活躍は次ですかね!




