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第7混ぜ クエスト完了!


お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)


 


 跳躍兎は寒すぎず暑すぎない地域になら、どこにでも生息しているらしい。特徴は名前から察せられる脚力で、木々を上手く利用して跳ね回りながら逃げていく。

 狩猟の練習にはもってこいの相手とされているし、足の肉は少し硬いが、煮込んで柔らかくさえすれば、とても美味しくいただける。

 それ以外の部位の肉も、味や価格の面から一般家庭で人気の食材で……俺や師匠も森で彷徨(さまよ)っていた頃に、捕まえては美味しく食していた。


「木に(へこ)みがあるな……近くに居るかもしれない」

「魔物だったら『魔力検知探知機(みつけちった君)』が使えるんですけどね」

「……。一応聞くが、それはどんなアイテムだ?」

「ん? いや、普通に『魔力を内包するナニか』を見付けるアイテムですよ?」

「普通……か。普通って何だったっけなぁ?」


 俺と師匠がこの世界に来て感じた、空気中の魔素の密度が日本よりも濃いという案件。濃いと言っても人体には影響を及ぼすレベルでは無い。

 だが、場所によってはもっと濃密な魔素が溜まっている場所もあった。そこに住んでいる生き物は、魔素が心臓に溜まり魔核に変化――つまり、魔物と化していたのだ。

 その、魔素が濃くて魔物が多い場所を俺や師匠は『魔物の巣窟(ダンジョン)』と呼称している。


 魔族と呼ばれる種族が居る。昔は魔物を作り出していると確証のないまま糾弾(きゅうだん)され、争いになっていたらしい。今の時代ではすでに誤解も解けて、種族間での戦争は無くなったみたいだけど。

 ただ、未だに国家間や隣り合わせの領地同士みたいな争いはあるみたいだが。


「まぁでも、魔物になった動物って凶暴性が増しますし……レーダーに映る近さに居れば普通に向こうから襲ってきますよね」

「なら、意味あるのか? それ」

「宝探しとか……なら?」

「隠れている物を見付けるという使い方なら便利だな……ホムラの持つアイテムは貴重過ぎる。盗まれない様に気を付けた方が良いぞ?」


 あら……優しい。欲に目をくらませた冒険者やお貴族様なら、襲ってでも盗もうと考えるものなのに。

 実際に盗まれたとしても、俺以外には使えないアイテムの方が多いのだが、さすがに口封じに殺される事だけは本気で気を付けないといけない。


「俺が何者かに殺されでもしたら……ミルフさんへのぬいぐるみ作りも出来なくなりますね?」

「安心しろ、不細工なぬいぐるみを作った時点で私が斬ってあげる」

「可愛いぬいぐるみを作ったら?」

「今後、クエストを発注する時に私を指名できる権利をあげよう」

「タダですか?」

「指名料はな……居たぞ! すこし待ってろ」


 ウサギを見付けたのか、ミルフさんが一直線へ走っていく。

 十数メートル進んだ後に、木々を跳ね回るウサギと交戦に入った。

 その光景は、戦いというよりはただの狩りだった。ウサギの跳ぶ先を予測した彼女の剣が一閃。陽の光を反射する輝きが一瞬だけ見えたかと思えば、首を境目に上下に切り離されたウサギが地に落ちていった。


 その動きは白ランクの冒険者のものでは無い。本当に可愛い生き物を殺したくなかっただけみたいだ。

 覚悟をした彼女は……果たしてどれくらいの強さを持っているのだろうか。


「うぅ……斬ってしまった」


 彼女の居る場所まで駆け寄ると、そんな事を呟いていた。

 それよりも早く血抜き……それか、持ってきている袋に入れて俺のマジックバッグに収納したいのだが、そんな雰囲気では無かった。

 ウサギを地面に横たわらせて、祈りを捧げだした。それは謝罪なのか感謝なのか、それとも両方か。


「そのウサギは俺が預りますよ。ミルフさんは一歩を踏み出したんですから、そう悲観するべきでは無いですよ」

「絶対に可愛い物を作ってくれよ、ホムラ」

「えぇ、命が掛かってますからね」


 それからもう少し森を歩き、二匹のウサギから素材を採取した。

 途中に出会った大きめの虫に関しては容赦なく切り伏せていたのに、可愛いウサギになると毎回泣きそうになるミルフさんだ。たぶん、身体よりも精神が疲れているんじゃないかと思う。

 俺は俺で、幾つか素材を採取していた。今日は拠点に戻っても良さそうなくらいには収穫もできた。



 ◇◇◇



 拠点に決めた川の近くまで戻って来た俺達は、夜が来る前に枝を集めて焚き火の準備や料理の準備に取り掛かった。

 距離を置いた場所には、冒険者達が同じ様に野営の準備をし始めていた。余計なトラブルを避ける為に距離はあるから一応は安心しても良いだろう。


「ミルフさんって魔法とか使えますか?」

「私にはそっちの才能は無かったな。体内の魔力を体中に巡らせて身体機能の底上げがやっとだ」

「やはり珍しいんですね、魔法師となると」

「魔法技術ギルドと冒険者ギルドの人数差を比べれば、な」

「別のギルドに所属はしてても、パーティーは組めるんですよね?」

「組めるな。私は組んだことはないのだが」


 魔法を使える人と使えない人の最大の違いは何かと言えば、やはり才能の有無だろう。適正と言い換えてもいいかもしれない。

 誰にでも魔力を溜め込む機能は備わっていると言われているが、その溜め込む量は人それぞれだ。

 魔法とは魔力を別のカタチに変換する技術だ。魔力の少ない者には当然扱えない。例え魔力があったとしても、知識の無い者が具体的なものを表現できるはずがない。だから、才能。


 魔法師は才能がほとんどだ。それには当然、努力するという才能も含まれる。予測ではあるが、二百人に一人は魔法師になれる才能を有しているが、実際にそこから魔法師と呼べるまでになるのは六百人に一人くらいなものだ。

 およそ……学校に一人居るか居ないかのレベルだろう。学校に通ったことなんてないけど。

 魔法師の卵を集めれば三人に一人が魔法師になれて、残り二人はエセ魔法師と言ったレベルに終わる。険しい道だな。


「でも、正直な話……あっ、内緒にして欲しいんですけど、魔法師ってプライドが高い奴等が多いじゃないですか? そんなに好きじゃないんですよね」

「ホムラ……まさか、キミと意見が合うとはな」

「もちろん、尊敬できる人も居ますよ? でも、錬金術師を下に見てくるんですよね」

「なるほど……何かしら因縁があるのだな」


 努力して魔法使いになったのは凄いと思う。その努力のツラさは知らないけれど。だからと言って、釜を棒で掻き回している錬金術師を劣化と呼んでくるのは腹が立つ。


 アイテムを作る時間が必要なのはたしかだし、アイテムが切れたら役に立たなくなるのもそうかもしれない。

 だが、それは魔力切れになった魔法師も同じだろう。むしろ魔力切れになった魔法師の方が、お助けアイテムを装備している錬金術師よりも使い物にならないと言ってやりたい。

 日本で何回かパーティーを組んだことはあるが……最後まで好きにはなれなかったな。


「そろそろ肉を焼いていきましょうか。コンソメスープの準備も出来ましたし!」

「あぁ、お腹が空いてきたところだ」


 キャンプセットのアイテムのひとつ『火の上で浮く鉄板』を使って肉を焼いていく。


「どうだ? もう焼けたか?」

「えぇ……っと、こっちのは良さそうですね」

「うむ……んん~っ! 美味いぞ!」


 目で楽しめるし、食欲をそそる焼き肉を選んだのは、ミルフさんの表情を見れば正解だったと思う。

 決して何の手伝いもしなかった彼女だが、こうも美味しそうに食べられると許してしまいそうになるから美人は得だな。


「私はもう、十五だ! 酒が飲めるんだぞ! ホムラ、このお肉に合う酒は無いのか?」

「えぇっ!? 十五なんですか!?」

「そうだぞ。他国の事は知らないけが……この国の法では酒は十五歳からになってる」

「いや、そっちじゃないです。ミルフさんが十五歳ってホントですか? てっきり、歳上かと」

「……私が老けてるとでも?」

「いえ、大人びてると思ってですよ。同じ年齢でしたかぁ、俺も十五歳ですよ」


 同じ十五歳なのにこの差はなんなのかと考えてしまう。

 やはり、一人で行動しているという点が彼女を大人っぽくしたのだろうか? 俺には師匠という親同然の人が居るからな。


「残念ですが、お酒の準備はしていませんね。ブドウジュースならありますけど」

「いただこう」


 マジックバッグからグラスとジュースを取り出して、二人で乾杯をした。

 俺の鞄の中には他にもお菓子や炭酸ジュースも常備されているが、非常食みたいな物だし、彼女に食い尽くされそうなので隠しておくことにした。


「うぅ……美味しいよぉ……」

「えぇ……情緒不安定なんですか? なんか不気味なんで、泣かないでくださいよ」

「普段の野営ではもっと質素なものばかり食べてたし、普通の日でもこんなに良い物は食べないから……つい。あと、不気味とか言うなぁ……」

「はぁ……。ならさっさとランク上げて、クエストで稼げば良いじゃないですか?」

「そうする。ランクが上がったらキミにご馳走するから待っててくれ」

「はいはい。楽しみにしておきますよ。腹が空いたらアトリエにでも来てください、お茶菓子くらいなら出しますから」


 夕食が終わり、辺りが暗くなると本当にすることが無くなる。一人が見張り、一人は休むというのが普通らしいが、ミルフさんの好意で朝まで寝させてくれる事になった。


 ワンタッチで組立つ防護付きテントで、俺は身体を休めた。

 なんとなくやる気を見せている彼女に、テントがどれだけ頑丈で安全なのかを伝えるのが躊躇(ためら)われた結果、俺だけグッスリ寝てしまった。

 朝になって眠そうな顔を見て申し訳なさもあったが、彼女も冒険者だし気にしなくても良い筈だ……たぶん。


「よく、眠れたか?」

「あっ、はい!」

「帰りも少しだけ、ほんの少しだけ素材を取ってから帰るのか? それとも……?」


 ミルフさんの気持ちはよく分かります、早く帰りたいんですね。

 ぬいぐるみを作って欲しいが為に、早く帰ると俺に言わせたいんですね。――だが、お断わりです。

 目的である素材集めをしておかないと、俺が師匠に怒られるからだ。お昼には馬車が迎えに来るあの市場まで戻る予定ではあるが、その時間ギリギリまでは素材集めだ。


「ミルフさんが手伝ってくれれば……あるいは早く終わるかも」


 そう、ポツリと声を漏らしてみる。

 表情を(うかが)えば、先ほどまでの眠気が覚めたかの様な顔付きになっていた。少しでも早く移動しようと、うずうずしている。

 俺が案内をお願いすると「わかった」と言って、歩くペースを速くして森の中へと入って行った。


 ――ミルフさんのお陰で沢山の素材が集まった。

 太陽がそろそろ真上に来そうになった頃に、俺はミルフさんに「そろそろ帰りましょうか」と声を掛けたが……何故か彼女は膨れっ面である。


「だ、騙したな!」

「俺は『かも』と言っただけですよ。お手伝い、ありがとうございました」

「はぁ……キミはそういう奴だったな」

「クッキー要りますか?」

「私が食べ物で何でも許すとは思うなよ!?」

「要らないんですか?」

「……貰うが! 貰うが、これは……あれだ。ふんっ!」


 食べ物さえ用意すれば、最終的にミルフさんを操れると思っているのは内緒にしておこう。

 俺達は迎えの馬車に乗って、街へ戻ってきた。

 そして、そのままの足で冒険者ギルドへ報告をしに来ていた。


「あ、ミルフさん。サリュさんが居ましたよ」

「早く報告して帰ってくれ」

「まぁ、そう慌てなくても。毛皮も綺麗に洗えましたし、今から帰ってやれば、明日には完成しますよ」

「本当か!?」


 二人で話ながら、サリュさんが受付をしている列に並ぶ。前に二人並んでいるだけだから、そう時間は掛からないだろう。

 周囲の冒険者達がチラチラと視線を向けてくる。やはり、ミルフさんの存在は野郎が多い冒険者界隈で『砂漠に咲く一輪の花』みたいな存在なのだろうか?


「次の方、どうぞー……って、ミルフでしたか。依頼主様もお帰りなさい」

「どうも」

「サリュ、依頼は問題なしに終えた。それと……」

「それと?」

「ランクを上げたい。試験を受けさせてくれ」

「えぇっ!? でも、ミルフあなた……」

「大丈夫だ。問題は解決した……その点は、この出会いに感謝しても良い」


 そう言われて悪い気はしない。

 ミルフさんのランクが上がれば、難易度の高い依頼を受けれる様になる。そうすると、ぬいぐるみをエサに素材を取って来てくれて俺にも得がある。

 お互いの目的を叶える手段を持つ者同士、たしかにそう考えるならこの出会いに感謝してもいいかな。


「でも、次で落ちたら……ううん。ミルフが大丈夫と言うならそれを信じるわ。冒険者カード出して、依頼完了の手続きと試験の予定を入れておくわ……いつにする?」

「なるべく早くが良い。だいぶ足踏みしたからな」

「なら、明日の午前中の内に終わらせる? 跳躍兎なら近くの草原でも見付かるし。私が見届けるわ」

「よろしく頼む」

「頑張って下さいねミルフさん」


 ギルドに預けていた報酬がミルフさんに渡されて、ここで俺がやることはもう無くなった。

 帰ったら早速ぬいぐるみを作るつもりだが、普通のぬいぐるみを作っただけじゃ面白くはないだろうと、少し考えている。


「ホムラ、明日の午後には行くからな……そうだ! アトリエの場所を教えてくれ!」

「あぁ、北西通りにある『グリフト』っていうパン屋の左にある路地に入って二つ目の家です。玄関の扉に『錬金術師のアトリエ』って堂々と書いてありますから分かると思います」

「わかった。では、また明日な」

「はい、お待ちしてますよ」


 見送られるようにして冒険者ギルドを後にした。

 そこからアトリエまで歩く間、ぬいぐるみにどんなギミックを付け足すか……それだけを考えていた。



 



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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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