第69混ぜ 要は、それぞれの正義を貫くだけ
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馬車を置いてきたミルフが部屋に来て、三人で……ディールはベッドで横になっているだけだが、話し合いを始める事にした。話し合いの内容を簡単に言えば、情報の共有だ。
「まずは、盗賊の件から。ギルドで聞いた情報を教えてくれ」
「分かった。盗賊グループの名前は『ハマキラヤ』。炭鉱で主に鉱石を違法採掘しているグループで、そのリーダーがドワーフである『ハラント』という男だ。規模はそこそこ、としか情報が無かったな。屈強な男達で構成されたグループだと聞いた」
ドワーフと言えば、知り合いには居ないけれど見たことはある。基本的に酒さえ飲まなければ温厚な性格だったはずだが……それはピンきりという事だろう。人だってそうだしな。
ドワーフがリーダーなら、炭鉱を狙った違法行為も頷ける。なぜ悪の道に落ちてしまったのかは分からないが、それに関しては興味も無いし、考えるだけ無駄だろう。
「たしか、村の男達を拐ってるって話でしたよね?」
「あぁ、労働力にでもしているのだろう。魔法で採掘もしているらしいが、リスクのある行為だから可能な限りは人の手で掘り出していると思う」
「なるほど。というか、よく今まで捕まってませんね? 普通に考えるととっくに捕まっていても良さそうなグループですけど」
「それが奴等の厄介さでもあるんだが……」
ここで、さっき話していた毒ガスの話になるらしい。
炭鉱場では、人体に悪影響のあるガスが漏れだす事が度々ある。そのガスの発生源を見付けるのが上手い種族がドワーフだ。
奴等は、自分達の居る採掘場の入口を土魔法で上手く隠した上で、微量なガスをその入口の外に薄く漏れ出す様にしているらしい。
普通の冒険者は入口に気付かないし、少し腕に自信のある冒険者も安易に近付かない様になる。作戦としてはまぁまぁ上手いかもしれない。
ガス対策と、隠蔽された入口を当てる探知力が無ければ突破が難しく、そして、そんな冒険者は滅多に王都から離れた土地にはやって来ない。
「なるほど、ミルフも一人ではガスで中毒死ですものね。捕まらない訳です」
「わざわざ私を引き合いに出した件は……今は置いておこう」
「あのなー? 私はこう……すどーん! と殴ってしまえば良いと思うんじゃが……?」
「まぁ……手っ取り早さはありますけど、貴重な鉱石の事を考えると最後の最後に取る手段になりますかね」
鉱山から鉱山へと転々として、盗賊行為をやって来たのだろう。
鉱山をメインの収入源としている村や街からすると、そこを破壊してしまう作戦は取れないし、気付いた時には一部の鉱石が盗まれて消えている。
盗賊もむやみやたらにヒャッハーする時代じゃないのかもしれな
い。
盗賊にも――山賊、海賊、鉱賊、人拐い、泥棒……といろいろなタイプが居るけど、みんなそれぞれ毎日を頑張っている事には違いないはずだ。
鼬ごっこの様に、新しい作戦を立てては試していき、対策されたらまた新しい作戦を……繰り返して正義側と争っている。
生まれた時から既に、綺麗に生きれない人生を背負わされる者も多いと聞く。
貴族の子が貴族である様に、盗賊の子は盗賊になってしまう。
環境が人を『そうさせて』しまうというのが、この世界に来てからよく分かる。
だが――それはそれだ。俺には関係の無い話。
どんなに盗賊としてしか生きられないとしても、可哀想とは思わない。容赦はしない。討伐の依頼が出て、それを受けたのなら、こちら側もやるしかないのだから。
盗賊が正義になる事もあれば、貴族が悪になる事もある世の中だ。悪か正義かなんて、その基準は皆がそれぞれ持っておけばいい話。
要は、自分が正しいと思うことをすれば良いだけだ。それが間違っていれば、仲間や家族、師匠の誰かがきっとぶん殴ってくれるのだから。
(そう考えると、盗賊達……悪の道に進んでしまった者は、誰にも気付かせて貰えなったのだろうな……もしくは、気付いているのに引き返せないちっぽけなプライドがあるんだろう)
「盗賊達は全員捕まえてギルドに引き渡しましょう。ディール、殺してしまうのは無しなので、相手に手加減をしてくださいね」
「うぬ~、難しい……難しい……人は軽いでな、骨を何本かは砕いてしまうかもしれん」
「まぁ、そのくらいなら別に良いですよ。三本でも四本でも。運ぶのが面倒なので足の骨はあまり折らない様にお願いします」
「くっくっく……妾、ホムラのそういう所が気に入っておるぞ。殺さない様にはするからの、安心して欲しいのだ」
メンバー内で作戦の方向性は決まった。ミルフは微妙な顔をしているが、話を進めていく。
おそらく自分がリーダーなのに俺が主導権を握って作戦会議をしているのが面白く無いのだろうが、今はなるべく時短したいが為に気付かない振りをしておく。
「それで、です。俺はこれからガス対策のアイテム……ガスマスクの量産をします。元々持ってるアイテムなので、一晩だけ時間を下さい」
「ガスマスク……? よく分からんが、きっとまた凄いやつなのだろ? それはホムラに任せるとして……それなら私は、村で情報収集をしてこよう。何か敵の情報があるかもしれない」
「グッドです。自分の出来る事を分かっているのは良いことです。後はディールですが……」
「妾は何をしようぞ!?」
やる気を見せてくれているが……不安だ。ミルフと行動させるか、部屋に残しておくか。とりあえず何かを与えないと拗ねてしまいそうな感じがする。
ディールに出来る事……飛行、夜目、遠視。
「そうだ! 暗くなったら、鉱山の方まで飛んで貰って良いですか? 盗賊団らしき怪しい人が潜む場所を空から偵察して欲しいんですけど」
「偵察……とはなんじゃ? それは、殴って良いという事かえ?」
「いや、何というか……怪しい人が居たら、その人が居る場所とか移動して隠れた場所とかを相手にバレない様に確認して欲しいんです。確認しておけば、明日が楽になるので……夜の王であるディールに適任な役目なんですけど」
「夜の王! うははっ、妾に任せておくと良いのじゃ! 偵察とやらをやってみせるのよなっ」
ミルフにだけ聞こえる様なひそひそ声で、ディールに偵察のやり方を教える様に頼んでおく。何だが今のままだと普通に姿を発見されて面倒になりそうだから、その回避の為に。
暗闇に覆われた空からの偵察という、かなり優位に立てる能力がディールにはある。それを活かせば、今後も役に立つ場面が増えそうだ。
この旅に出てから……何やかんやで、みんなが出来る事を増やしている気がする。やはり冒険の効果は凄いと、今更ながら実感してきた。
「では、明日は普通に特攻を仕掛けます。遊びでも競技でも大会でも無く、実戦です。メインアタッカーはミルフになると思う……身体は休めといてくださいね」
「……分かった」
死ななければ助けてあげられる。……死ななければ。
緊張気味のミルフの為にも回復薬は多めに用意しておいた方が良いかもしれない。
明日の俺は、もしかするとミルフの為と謳い、あえて戦いに加勢しない可能性もある。強くなる為の経験になると判断すれば、自分の守りに徹してミルフに任せるかもしれない。
(敵が弱かったりすれば……何も心配しなくてもいいんだけどな。烏合の衆だとしても数が多いと厄介だよなぁ)
話し合いも終わりとなり、それぞれがやる事をやる為に動き始めた。
俺も、さっそく作業を行おうと二階の一人部屋へと向かっていた。
移動しながら最終的に思ったのは……よくこんな面倒なクエストを受けて来たものだ、というミルフへの嘆く気持ちだけだった。
ガスマスクの量産する機会があったのが、せめてもの気持ち的な救いだ。メンバーの人数分作っておこうかな……そうして時間を潰しておかないと、どうしても面倒臭さを忘れられないだろうし。
◇◇
深夜。優雅に空を飛び、ミルフに教えて貰った方向に進んでいた。
偵察という夜の王に任された任務。ホムラも大事と言っていた気がするし、ご褒美の為にもしっかりこなしてみせる――そう意気込んでいたけど……。
「やはり一人ではつまらんのよなぁ~、早く行って帰ってしまおうか」
空は広く、どこまでも続いている。人は脆弱で飛べもしない種族。この感動を知らずに死んでいく可哀想な種族……そう思っていた。
でも、ホムラは違った。空まで昇ってみせた。落ちていったが、生きていた。
人間を最初に見たときに思ったのは『貧弱』。自分の事すら自分で選べない人間がとにかく多くて、別の生き物なのだとより実感した。少しガッカリもした。
国というものに縛られ、生きているのではなく、生かされているだけの者達が大半だ。
我々吸血鬼とて、元を辿れば神が作りし種族で人族もそれは同じな筈。
なのに、どこで誰が間違えたのか……人間は群れた。群れて弱くなった。強い者と強い者が群れて、出来ない事は『しなくなっていった』。だから年月を得て一人一人が弱くなっていったし、弱い者と弱い者が群れて強くなる道理は無い。
人族の特筆すべき特性は『数』と『記録』だと、たしか……前にホムラは言っていた。膨大な人間が得た経験を次に繋げていく事でより進化していくらしい。
私から見れば、長命種じゃない時点で憐れんでしまう。けど、ホムラは「長命だったら俺は絶望するでしょうね、世界と自分に」と言っていた。その真意はよく分からない。
「そうしようそうしよう! 早く帰ってホムラからプリンを貰わねばなっ!」
人間にはあまり興味は無い。ごく稀にバケモノみたいに強い者が現れる可能性を宿しているが、それは一部であり結局は弱い種族である事に変わりないからだ。
でも……ホムラは、違うのだ。凄いから好きだ。何かのアイテムを作って、妾達の言葉すら話してみせた。
吸血鬼からすれば、強さは他と大差無い、けど凄い。変なアイテムを使えば、圧倒的な強者をも倒してしまう可能性だってある。凄い。
特に凄いのは料理だ。あの美味しさも数と記録がなし得た事なのだろうか……。毒を盛られてもおそらく気付かずに妾は食べる……怖い。でも、ホムラは仲間を大事にしているから心配していない。
「うぬ? ……あれは人間の男達かえ? ふむふむ……たしか、行き先を確認すれば良いのだったな!」
鉱山に近付いて来た時に、歩いている者共を発見した。あれが、ホムラ達が言っている盗賊かどうかの判断は出来ない。
けど、夜に活動しない人間が灯を持って動いている。とても怪しい光景だ。
ホムラがくれたローブは真っ黒だ。動けば空を仰ぎ見る者には見付かってしまうだろう。だからより高く行き、ジッとしておく必要がある。ミルフにもジッと観察する様に言われたし。
「しかし、待つのはなぁ~……退屈だなぁ~。麻痺光線で痺れさせて連れて帰っちゃダメだろうしなー……うぬ? そうだ! くっふっふ……『我が魔力を分け与えよう――眷族召喚』」
自分の魔力の一部を複数個に切り離し、姿形を造形していく。
『――キェキェ!』
「くっくっくー、お主達に仕事を任せるでな!」
暗闇と同化できる蝙蝠型の魔物を複数体召喚する。
眷族、そして召喚と言っても妾の魔力で産み出している魔力の固まりに過ぎない。だが、そのお陰で……同じ魔力であるからこそ、感覚の同調が可能になる。囮や人間の言葉を覚える為に、よく散りばめたりしたものだ。
妾くらいにもなると、魔獣レベルを召喚する事も可能だがデカ過ぎて観察には役立たないから、今はあえて小さい魔物達に妾の目となってもらう。
(これで妾は帰れるのじゃ! ふふふ、妾は賢いな!)
難点を上げるすれば、魔力に長けた者には違和感としてすぐに発見される事と、召喚した魔物は時間が経つにつれて空気中の魔素に溶け出してやがて消えてしまう事。
だが、例え破壊されたとしても妾にダメージが来る事は無し、妾の使える魔法の中でもかなり使い勝手の良い魔法だ。
「今度、ホムラにもっと良い使い道が無いか聞いてみようぞな! あ~、早く戦いたいなぁ!」
出来れば硬い物を殴りたい。しかし相手は人間とドワーフと聞く。期待は出来ない。鉱山を殴ったら怒られてしまうかもしれない……ホムラはすぐ食べ物を取り上げるでな。
(仕方ないからな、どこかで岩でも殴ってから帰るのじゃ)
ホムラといて退屈はしてないけど、身体を動かさないと鈍ってしまう。
村へ戻っていく道すがら、ちょうど良いサイズの岩や木を幾つか素手で殴って……妾、満足。少しだけ散らかして来てしまったが、満足はした。
でもそれが、一番大事な事よな。
◇◇
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