第59混ぜ 錬金術は楽しく面白いってこと
も、申し訳ねぇ……また祭りにはたどり着かなかったです……
でも!もう次はスタートですから!祭りのスタートからスタートですから!
よろしくお願いします!
「た、ただいまぁ~」
「クルス、お腹すいたヨ!」
「そ、その前に回復薬だ……今日は一段と容赦無かったな」
入口の扉が開いた音がして振り替えると、先頭で入ってきたのがフランであった。
帰宅した時に捕まりでもしたのか、エレノアやミルフさんと同じくボロボロの姿になっている。
「薬は机に置いてあるが……キャサリンさんは?」
「ツチヲナラス? って言ってたネ!」
ツチヲナラス――おそらく、土を均すだろう。
フランが加入したなら魔法で地面が抉れる事もあるかもしれない。
広域魔法がフランの持ち味で、防御魔法もお手の物だ……近接戦の出来る二人と遠距離のフランが相手となると、今日は流石のキャサリンさんも苦戦をしただろう。
「それで? 今日はどうだった?」
「聞いてよ従者! キャサリンったら『フラン様が居られるなら、私も遠距離武器を……』とか言って、マユエル様が持ってる武器の銃? ってやつを使い始めてーっ!!」
「防戦一方だった……と?」
「しょうがないでしょ!? 暗いし、詠唱も無しにバンバン撃ってくるし……それも二人と戦いながらよ!!」
フランの話が本当と言わんばかりに、エレノアはお手上げのポーズを取っていた。
仮にも上から三番目である赤ランク……戦闘面ならもうひとつランクが上の二人と、魔法師団や自主的にも日々訓練をしているフランを相手にして、まだ余裕をみせているキャサリンさんを一言で言えば――恐ろしい、だ。
「どうしてこの薄暗さの中で私の剣が避けられるのだ?」
「それは、私がメイドだからでございますよ」
「なっ――――」
ミルフさんの問いに答えたのは、外に居るはずのキャサリンさんだった。
背後を取られたミルフさんは、声を漏らしながら驚いた。いや、驚いたのはミルフさんだけじゃない。俺もエレノアもフランも一様に驚いてはいた。
音も鳴らさずアトリエに入り、気配を殺しながらミルフさんの背後を取ったのだ……驚くなという方が無理だろう。
「おっ? 人族のお手伝いになれば剣が避けられる様になるのか?」
「うにゅ、そんな事ない。メイドは給仕をする仕事」
奥で話していた二人だが、興味が湧いたのかディールがキャサリンさんの所まで走って事の真相を尋ねた。
普通に考えれば正しいのはマユエルだろう。メイドさんは家の雑用を含む主人の世話係という認識が世間一般であり、戦うメイドさんが居るとすれば、前職で戦う仕事に就いていた人でもない限りはあり得ない。
「そんな事はありませんよ、マユエル様。メイドとは主人を護る事も仕事の内です。掃除洗濯は最低限であり、自らを犠牲にしても主人を護るのがメイドです……まぁ、雇われメイドにそこまでを課すのもどうかとは思いますが」
要はメイドにも戦闘力は不可欠――それがキャサリンさんの仕事における流儀ってやつなのだろう。
何を持ってしてメイドか――それに対する答えを、俺は持ち合わせていない。メイド服を脱げばメイドでなくなるのか? 竹箒の代わりに銃を手にしたらメイドではないのか。
――それは分からない。だが『あなたにとってメイドとは?』……そう聞かれたなら間違いなく、迷いなく、俺はキャサリンさんと答えるだろう。
「他のメイドについてはフランやマユエルの方が詳しいと思うけど、俺にとってメイドはキャサリンさん一人だからなぁ。キャサリンさんが語るメイドがたとえ間違っていても、俺の中では正しい答えになる」
「……それ、俗に言う洗脳よね?」
「あら、フラン様はまだ元気が有り余ってるご様子――外、行きますか?」
「ひぃぃぃッ――!? な、何でもないですっ! 従者は何もおかしくないです! はいっ!!」
洗脳というよりは、教育。教育的指導。そして植え付けられたのが、メイドは上に位置する存在という常識だ。
「フラン、お前は自分で洗濯も掃除も出来ないんだから自分の家のメイド……ミリーさんとかには感謝しておいた方が良いぞ」
「で、出来るわよ!! 出来るもん! それに従者に言われなくとも、ミリーにはちゃんと感謝してるんだからっ!」
本当に出来るかどうかは知らない。だが、やっている姿を見たことが無いのも事実だ。
「クルス! 私はお片付け出来るヨ?」
「あぁ、偉いぞエレノア」
魔女さんの弟子として整理整頓は言われて来ただろうエレノア。見た目から大雑把に思われがちだが、きちっとした性格だ。
正確な陣を描く練習も、大雑把な人だと出来なかっただろうしな。
『偉いから』――その他に理由は無いけど、とりあえず頭を撫でておこう。
「ふっ……私は冒険者をそこそこやっているからな。掃除洗濯に料理も出来る」
「大味で焼いた臭み肉料理を料理とは認めません!」
「くっ……臭くなどない! ホムラ貴様、すぐ私に臭いって言うのをやめろ!」
臭み取りに香料を使えと教えたのにそれを使っている所を見たことが無い――エレノアから聞いた話だ。
狩ってきた動物の皮は丁寧に剥がすのに、後はテキトーに血抜きして焼くだけらしい。それでもエレノアが作るよりはマシなのだから、とんでもないペアで冒険者をやってるものだと心配になる。
「ディール、料理は出来ます?」
「ん? 妾か? 妾は食べる専門よな!」
「……はい。これでこのパーティーで料理が出来るのは俺とミルフさんだけなのが決定しました。ミルフさん、教えるので一緒に料理作りましょう」
「ソウダナ。ヨクカンガエタラソウダヨナー」
ビスコとマユエルはやろうと思えば出来るのに、ディールと同じく食べる専門と言って譲らない。
戦闘面ではかなり良いバランスになった俺達パーティーだが、戦闘面以外がかなり極端で負担がバラけない。
きっと、過労で倒れる最初の被害者が俺なのは間違いないだろうな……。
「……っと。料理はもう完成してるので三人は回復薬使ったら着替えて着てください。ディール、マユエル、ビスコは料理を運んでくださいなー」
「うにゅ~」
「おぉ!! ホムラが料理を作ると聞いた時、内心では疑っておったが……中々に美味そうよな!」
「ピザとステーキ肉ですか……なら飲み物は、大人がワインで子供はコーラが良いですかね」
マユエルがピザの乗った皿をテーブルまで運び、ディールは肉の乗った皿を運んで行く。
ビスコが飲み物を人数分用意してくれてるが、ここで言う大人とはアルコールを摂取して悪酔いしない人を指している。つまりは、がぶ飲みしないビスコと俺だけでキャサリンさんは飲めるのだが、有事の際に備えて飲まないのを基本としているらしい。
「クルス! 私もお酒!」
「ホムラ、私もワインを用意して貰おうか!」
仕切りの奥で着替えている二人から注文が聞こえるが、答えはノーである。
二人とも過程こそは違えど、酔うと最終的に暴れるという結末を迎える。
もちろん、グラス一杯でそんな事になる訳ではないがこのアトリエを内部から壊されても困るから今日は葡萄ジュースで我慢させる。
明日の大会を考えても、ジュースにしておいた方が良いだろうし。
「あー、ビスコ? 俺もやっぱりジュースにしておきますよ。この後で作らないといけない物があるので」
「ディールさんに頼んだ時のやつですか? そうですか……一人で飲んでも寂しいですから、私も今日はやめておきますかね」
それからしばらく晩御飯の時間としてワイワイ楽しく過ごした。
明日は休みを貰っているというフランも泊まるという事で、今日も俺とビスコは転移鏡を使ってもうひとつのアトリエで寝泊まりする事となった。
「じゃあ、俺は朝まで作業をするので」
「はい。先に休みますね、おやすみなさい」
ディールから貰った素材で翻訳通訳機の改良と、ディールへのお礼の品である『温度調節UVCローブ』を作るために、今日は徹夜だ。
一日二日の徹夜は栄養ドリンクを飲めば問題なくいける。
問題があるとするのなら、初めての素材を上手く扱えるかどうかの部分だ。だが、モチベーションは高い。
吸血鬼の素材を調べて最適な容量を試行錯誤『しなきゃ』……ではなく、『したい』と思っている。
明日の朝までに完成させるとするならば、時間的にもあまり多くの失敗は出来ない。一度の失敗から成功への鍵を幾つも拾わなければ、間に合わないだろう。
期限を自分で厳しくする理由は、ひとつだけ。
「その方が楽しいし、面白い」
さっそく準備に取り掛かった――。
◇◇◇
チュンチュンと鳥の声が聞こえ始め、いつの間にかアトリエにも陽の光が差し込んでいる時間になっていた。
「おはようございます、ホムラ。朝の礼拝に行ってきますね」
ビスコはそれだけを告げると、アトリエから外へ出て行った。もうすぐ完成しそうな翻訳通訳機から集中を切らさない様に、聞こえてはいたが返事はしなかった。
試行錯誤すること四回。それはつまり、念の為にと素材が手に入る度に増やしておいた翻訳通訳機がガラクタになった回数でもある。
今は五回目の挑戦をしているところだ。
ついでに言うと、ディールの耳と下を切り分けるギリギリが五等分だったから、これがラストチャンスでもある。
――ぐるぐるぐーる、ぐるぐるぐーる。
同じペースで掻き混ぜる事二時間弱。そろそろ、結果が分かる。
最初の失敗から四回目の失敗までにいろいろと考察を考え、考えて考えて考えた結果……最後の必要なピースを、自分の勘に頼った。
思い浮かばなかったという悔しさはあるが、この勘が仮に正しければ――またひとつ、成長する為の足掛かりになるのは間違いない。
「――――来たッ!!」
素材を入れた魔水が怪しげに光る。そして、徐々に収縮していく。
まだ、油断は出来ない。光が完全に収まる瞬間まで、爆発煤まみれになる可能性は残っている。
伝う汗を気にする余裕もなく、ただただ釜を見詰めた。
しゅ~~…………ポンッ!
ポップコーンが完成したみたいな、少し間抜けな音が響く。だが同時に、他には誰も居ないアトリエで、俺はガッツポーズをしていた。
「よしっ!! よしよし、百回に一回の勘が当たったぞ! 元となる素材が黒くないと駄目とか、吸血鬼は闇が好きすぎるだろ」
普段使っている翻訳通訳機は白を基調とした、イヤホン型だ。
最初の四回とも白色で、良いところまでは作れるのに最後の最後で爆発してしまっていた。
それで、ディールが黒のローブを着ていた事を思い出して、ほぼ勘だが黒を基調とした翻訳通訳機を使って……そして、今それが『間違いではない』と実証された。
種族で好きな色、嫌いな色が成功率に関わってくると仮定するなら、今後の錬金術で躓いた時にヒントになってくるだろう。
まだ検証の余地が残っているからマユエルには教えられないが、幾つか試して結果がでれば、正しくとも間違いであっても伝える価値はあるだろう。
「だいたいの種族は言語が一緒らしいが……他にも違う言語がある時は、翻訳通訳機も別で作っていく必要があるかもしれないな」
理想は全部をひとつの翻訳通訳機に詰め込んでしまう事だが、黒が合わない種族が居れば、今回のガラクタになったみたいに駄目になってしまう。
そのリスクを考えても、個別にその都度作っていくというのがベターだろう。
「ローブはちゃちゃっと出来たし、ビスコが戻ってきたら王都に行きますか。シララさんと打ち合わせもあるしな」
必要な物を纏めたりしていると、ビスコが戻って来た。
「あれ? せっかく王都を離れたのに教会には行かなかったんですか?」
「えぇ、今日はやめておきました」
「雑過ぎて浄化の力が無くなるのでは?」
「大丈夫ですよ。大事なのは心であり、常日頃の生き方です。神は見ていますからね」
雑談をしながら、ビスコの準備が整うのを待ち、揃って王都のアトリエへと移動した。
現在朝の六時、打ち合わせの時間までは少しだけ余裕はある。だが、新米審査員の俺が最後に登場するのは選んでくれたシララさんの顔に泥を塗りかねない。
「おはようございます」
転移鏡を通って、最初に目に入ったキャサリンさんに挨拶をしたが……アトリエをウロウロと彷徨う魂みたいな感じで歩いている人物が居た。
「う、うにゅ、うにゅにゅ……」
「落ち着け」
「先生、大変なのよ? 大変なのよ? 初めての国外訪問よりも大変なのよ?」
そんな事はない……とは本人では無いので言えないが、それにしても緊張し過ぎだろう。
「キャサリンさん、他のみんなは?」
「寝ております」
「寝てますか」
「はい。時間になれば私が起こしますので、ホムラ様は心配なさらずに大丈夫ですよ」
自分達の戦いも控えている日なのに……流石は冒険者と言えるだろうか。フランは、普段から特に何も考えてなさそうだからいつも通りだろうな。
緊張して寝れないというよりはマシ……という事にしておこうか。
「キャサリンさん、ディールが起きたらこのローブを渡しておいてください。素材のお礼です」
「かしこまりました」
「あと、朝食も置いておきますね」
アトリエでの用事も終わり、後は俺一人で競技場へと行くだけ。
だが、その前に先生として一言掛けてあげておかないといけなそうだ。
「マユエル!」
「う、うにゅ?」
「――先生を驚かせてみろ。それだけだ。先に行ってるからな……ギリギリで到着とか恥ずかしいから気を付けろよ」
勇気付けれたかは知らない。というか、そもそもそんな物は必要ない。
師匠の弟子である俺が教えている生徒だ。そこら辺の錬金術師に負ける様には教えてはいない。
本番で如何に期待していない観客を沸かせられるか――それがいかに楽しく面白いかって事、マユエルは今日知るだろう。
◇◇◇
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