第57混ぜ ミルフさんは鼻息が荒い
お待たせしました!
あまり進展は無いですが……よろしくお願いします!
運ばれて来る肉料理や魚料理を食べていたディールが満足したのは、およそ十万円分を食べた頃だった。
それでもまだまだ資金には余裕があり、普通なら食べ過ぎなくらいだが痛手にはならない料金である。
「うむうむ、美味しかったぞ!」
「うわぁ~、おねえちゃんすごいね! たくさんたべたね!」
「お主の父上の料理が美味であった故な! お主も小さいのに働き者よな、頑張るのだぞ」
ディールに頭を撫でられて、嬉しそうな顔をするリーちゃん。
普通なら微笑ましい場面に見えるのだが、つい力を込めすぎて握り潰してしまうのではないかと俺にとってはハラハラになる場面だった。
「ディールさん、食休みしたら行きましょうか。リーちゃん、何かさっぱりしたジュースを三人分お願い出来るかな?」
「うん! しょーしょーおまちください」
頼んだ物が到着する間に、最後のジュース代を含めた代金を先にママさんに払いに向かった。
この世界の金銭で厄介な問題なのが、あまりに高価過ぎる硬貨を持っていたとして、こういった食堂では両替やお釣りが無い事だ。
百万円の価値のある白銀貨を持って来たとて、お釣りが無かったりする。貴族御用達のお店でもない限り、金貨を用意している店なんてそうそう無いだろう。
だから、なるべくピッタリで支払うのがマナー。
「ママさん、おいくらですか?」
「そうね~、銀板二枚と銀か四枚くらいよ」
二万と四千円。ディールが食べた量や美味さからすると、かなり良心的な値段だ。
「お釣りは要りませんよ!」
「はいはい、丁度ですね」
言ってみたかった台詞をドヤ顔で言うも、ママさんに慣れた対応をされてしまい少し恥ずかしい。
だが、こういうふれあいも街の食堂での楽しみだろう。
「おい、ホムラよジュースが来たぞ! ぬわはははっ!」
木製のコップを掲げて見せてくるディール。果実ジュースが美味いのか、高笑いをしている。
吸血鬼なら血を好んで飲むイメージだが、ジュースあそこまで喜んでいるのなら今後も普通の飲み物で良いかもしれない。
(ディールさんに食休みとか必要ないのかも知れないな、飲んだら外に出ますかね)
「くははっ! 人の作る飯は美味いのよな、ホムラが連れて来てくれたらまた食べに来るぞ」
「おねえちゃん、またきてね!」
リーちゃんが言うなら、仕方ない。自炊が多いけど、また来るしかないな。
◇◇◇
お店を出て、お祭りの露店巡りを再開させると意外でも何でもない二人に出会った。
「クルス~! ほら、やっぱりこっちに居たネ!」
「エレノアの鼻はどうなってるのよ……」
一緒に買い物へと出掛ける予定を立てていたエレノアとミルフさん。
今日はいつもの冒険者としての装いではなく、二人とも村人AとBみたいな私服姿だった。
「おっ、ようやく起きたか」
「ン! おはようクルス! ビスコと……知らない子?」
動くのが面倒だと俺の背中に乗っているディールを見て、エレノアが首を傾げた。
はぐれられても困るし、軽いという理由で背負っていたディール。顔は完全に見えていない筈だが、その体躯の小ささだけでミルフさんの鼻息がやや荒れ始めた。
「お、おいホムラ……誘拐じゃないだろう?」
「目が怖いですよミルフさん。あと、ディールは俺達より歳上ですよ……ちょっとズレましょうか」
人通りの多い道から少し移動する。
「まぁ、面白い事は多くあったけど割愛する。簡潔に言うとディールさんは吸血鬼で百歳オーバー。でも、人族の住む場所での生活はほとんどした事が無いらしい。あと、ディールさんが飽きない限りパーティーに入って貰おうと思ってる」
ディールさんの能力的な説明はまだ未知数で詳しく話せない。生い立ちも詳しくは無いし、現状で伝えられる事をパッと伝えるとこんな感じになってしまう。
背中に乗せていたディールを降ろし、今度はディールにエレノアとミルフさんの説明をしなければな。
「ディール、こっちの褐色肌なのがエレノア……婚約者だ。で、もう一人の方がミルフさん。剣士だが可愛い物や可愛くて小さい子が好きな変態だ」
「よろしくネ! ディール……ちゃん? さん?」
「おい、ホムラ……誰が変態だって? 可愛い物を愛でる事の何が間違ってると言うのだ? ん?」
俺には高圧な態度をするミルフさんだが、その視線はディールに向かっている。
エレノアも歳上だが見た目が子供なディールの呼び方に悩んでいるみたいだ。
「ホムラ、お主に嫁がおったとはの~……意外よな!」
「まぁ、小さい頃にそう約束してたらしいですかね」
「エレノアと言ったよな? お主は妾をディールちゃんと呼んでも構わぬぞ。ミルフ……お主は目が危ないから駄目じゃ」
笑顔で握手を求めるエレノアに対し、絶望感漂う顔をするミルフさんだ。
本人は気付いて無いかもしれないが、マユエルにもちょっと怖がられているのを考えると少し可哀想かもしれない。
幼女相手にふンッ……ふンッ……と変態チックな状態になれば、嫌われるのも自業自得だろうけど。目もイッてしまっているし。
「うぅ……私はこんなにも可愛い子が好きなのにぃ」
「はいはい、今度またぬいぐるみ作ってあげますから。じゃあ、紹介も終わったし……いきますよ、ビスコ、ディール」
「んぬ? 仲間なのだろ? 一緒に行動はせんのか?」
歩き出そうとした所で裾を捕まれて、止められた。
そもそも動こうとしたのは俺だけだったみたいで、エレノアもビスコも一歩たりとも動いてはいなかった。
「クルス! こういう時は偶然の巡り合わせヨ? 一緒に行くのが吉!!」
「え? でも、二人で買い物の予定だっただろ?」
「私は構わんぞ、ディール……さんが仲間に加わるのなら交流は深めておかねばな」
ミルフさんの顔に生気が戻ってきた。ビスコは任せますと言わんばかりの表情を浮かべている。
(こっちも特に用事がある訳じゃないし一緒に行動するのもアリだが……)
集団の人数が増えれば増えるほど、積極性の足りない人が損をしていく。ビスコみたいに全体の流れを優先する奴とかが特に。
興味のある店に立ち寄れない場合の事を考えれば、別れる方が効率的だろう。
「ディールはそれでも大丈夫ですか?」
「妾はな。後はホムラだけみたいだぞ?」
「いや、俺もみんなで行くのは賛成ですよ。ただ……」
「クルス! 私、クルスと一緒が良イ!!」
みんなが良いのなら断る理由も無い。それに……エレノアのお願いなら尚更に。
「やっター!! クルスとお出掛け、クルスとお出掛け!」
エレノアの感情表現は大袈裟だ。ハグなんて挨拶みたいなもので、スキンシップは当然多い。
今も嬉しいと言いながら俺にハグ、ミルフにハグ、ビスコにハグし、少し屈んでディールともハグしている。
たしかに、お出掛けなんてイベントをしてやれる機会はあまり多く無かったし、人混みでのこの出会いは良い機会が巡って来た証しなのかもしれない。
「エレノア、あまり私達の事を忘れてもらっても困るぞ?」
「もちろんヨ! ミルフもクルスとお出掛け嬉しイ?」
「なっ!? 変な事を言うな、エレノア! お前の旦那だろっ!!」
「えへへー、クルス……ミルフが旦那だって!」
「そうだな」
怒った後は、もはや呆れたとでもいう雰囲気を出すミルフさん。
だが、エレノアが嬉しいのならそれがベストだ。
「ほれ、ホムラ。妾をおぶると良いぞ?」
「ディールさん! な、なんなら私が背負いますよ?」
「……や、じゃ」
またしても落ち込むミルフさん。打ち解けるまではまだしばらく時間が掛かるだろう。
おそらく、変態的な目が治るまで……。
ディールさんを背負うと、エレノアの先導で歩き始めた。
向かう店は洋服店や武器屋や道具屋らしい。王都の店はやはり普段活動している街よりも品も質も違ってくるらしく、ここで一気に買う予定らしい。
あまり贅沢は出来ないと、二ヶ月に一回くらい王都に買い物に来るが、それ以外は冒険者活動をしている街で調達しているみたいだ。
(荷物はマジックバッグで楽だけど……女性物の服屋とか暇なのがキツいな。使える布とか売ってあればいいけど)
――買い物に付き合わされた結果。肉体的よりも精神的疲労と引き換えに手に入れたのは、露店で買った暇潰し用の本くらいだ。
エレノアが腕を組んだり頬擦りしたりするのはプライスレス。それでもまだ、普段セーブしている分だけしか甘えていないらしい。
本人曰く「まだまだ足りないヨ!」……とのことだ。
エレノアが積極的な性格で良かった。消極的が二人だと、ここまでの仲になるまで時間が掛かり過ぎていただろうから。
「さて、暗くなる前にアトリエに帰ろう」
「お土産買わないといけないネ! キャサリン、マユエルちゃん、護衛さんの分!」
「ホムラ……妾もう眠いんだが?」
「寝てて良いですよ? アトリエに着いたら一度起こしますから」
一日中楽しそうだったディールさんも疲れたのだろう……しばらくすると反応も返って来なくなり寝てしまった。
マユエル達へのお土産はエレノアに任せて、その代金だけは俺が支払った。賭けで大金を得た話はしたが、その金の大部分は来るダンジョン探索用の資金にする予定である事も話した。
武器の調達や素材に道具、食費に宿泊費、諸経費……師匠の作ったダンジョンのある場所がこの王都からだと微妙に遠く、その移動費と何かと金が掛かる。
冒険者の様に、街から街へと行き資金調達しながら目指すという手段もあるが、些か時間が掛かり過ぎると思っていた。
そんな時に今日の賭けと出会ったディール……出来すぎなくらいに運命的だ。
師匠が勝手に俺の因果率を弄ってるとブッ飛んだ事すら思ったが……不可能じゃなさそうと考えた時点でその思考は放棄するに至った。
ディールとの出会いが仮に師匠のイタズラとしても、そこから先は俺の行動次第で変わるものだ。せっかくのパーティーに必要な人材だ……飽きられない様に接待していかねばな。
「クルス、マユエルちゃんは何が好きネ?」
「珍しい物とかだな」
「流石はクルスの生徒ヨ……」
明日の為に残ったマユエルと、それに付き合ったキャサリンさん達の分のお土産をテキトーに購入して、俺達はアトリエへと帰った。
◇◇
お祭りの本番は次から?になるかな?
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