第56混ぜ 利己的でエコ的
お待たせしました!
よろしくお願いしますー
妾をよろしくお願いしますー
「ビスコ、先回りされてないか確認してきます!」
「えっ!? ……あ、ちょっと!!」
追跡者二名をビスコに任せ、俺は逃げた先に待ち伏せされていないかの確認へ向かった。
「お、おぉ~! ホムラ、お主は壁を走れるのか!?」
「上から確認した方が奇襲しやすいですからね」
ディールを背負ったまま建物の屋根へと移り、曲がり角や路地に敵が潜んで居ないか探っていく。
残念な事に……相手は思ったより用意周到だったらしく、どの通路へ逃げようとも誰かしらとは鉢合わせになる様に配置されていた。つまりは後方との挟み撃ちが予定している狙いなのかもしれない。
(最初から賭けに勝った人間を襲うつもりで……たまたまそのピースとなったのが俺達だったのかね?)
相手はただのゴロツキ共か、はたまた背後に闇の組織があるのか……どちらにせよ迷惑な話だ。
下手に時間を掛けて逃げようとするよりは、さっさと一点突破で逃げ切った方が得策だろう。
問題はどこを突っ切るかという話だが……その選択肢はもう決まっている。
「ディール、ビスコの元へ戻りますよ。結果的に追手を倒して逃げた方が楽なので」
「うぬ? 襲われているのだろ? 人間程度、全員壊してしまえば良いのではないか?」
「まぁ、その通りなのですが……やり過ぎると俺達の方が捕まる可能性も生まれるので、今回は安全策でいきます」
全員を倒す時間は無い。そんな労力を割くモチベーションも無い。
仮に全員を倒したとして、俺が警備をしている騎士団や魔法師団の面々に襲われた側だと言っても信じて貰えるかは怪しい。
警備が俺達の言っている事が正しいかの判断する基準となるのは、その人の独断と偏見になる。
監視カメラみたいな物が無いから仕方ないとはいえ……つまりは、少々面倒な事になりかねない。
賄賂とか、賄賂とか、賄賂とか……。
「強い者が正義では無いのか? 面倒な種族よな」
「一人一人が強い吸血鬼さんと一緒にしないでくださいよ。こっちは下等生物の弱々人間ですよ?」
「なーっはっはっは! ホムラは道理を弁えておるな! 妾をもっと敬うと良いぞ?」
高笑いするディールさんのせいで位置がバレるかと思ったが、すぐに口を押さえたからか……冷や汗ものだがどうにかバレずに済んだ。
身を低くしながら、急いでビスコの元へと戻った。
「オラァ!」
「おい、早く倒して追い掛けるぞ。コイツを人質に奴から金を奪ってやる」
「……ハァ」
ビスコが苦戦をしているのか一瞬だけ心配したのだが、戦いの様子を見るとそんな事は無かったみたいだ。むしろ、厄介を押し付けられたかの様な顔をしていた。
人を相手にどの程度強く当てていいかの調整が難しいのか、本気を出せずにいる様な動きをしていた。相手の攻撃を弾いては少し間合いを取るという、決して本気で戦おうとはしていない動きだ。
いつも死霊相手に遠慮せずに魔法を放ったりしているビスコからすれば、生きている人間は苦手なのかもしれない。
「ビスコは大丈夫なのか?」
「えぇ。対人戦闘の経験が少ないですから、加減が上手く出来てないだけだと思います」
「変な奴だなー? グッとしてポンしてやれば良かろうに」
(いや、ディールさんのそれは人体が破裂するやつですよね?)
ディールさんは、言葉の軽さと攻撃の重さが釣り合っていない。
まぁ、この容姿からあんなパワーを生み出せると思える人はたぶん少ない。
この先、師匠がどんなダンジョンを用意しているのかは知らないけど、きっと……種族特性を生かしたダンジョンもあると予想出来る。
理由は簡単、面白いからだ。挑む側になれば、中々に厄介な要因にしかならないけれど……。
「ホムラ、さっきから何を書いているのだ?」
「あぁ……ただのメモですよ。ビスコが対人戦闘に不安アリとか、種族特性について調べておく……とかです」
「几帳面なんだな?」
「サポート役ですからね……っと、そろそろ助けて逃げますか」
思い付いた事を書き留めるメモは常に持ち歩いている。
メンバーに関する事から、何処の八百屋が安いという日常の事まで。次々と出てくる情報を後で纏めるために……と言いつつ、今はただの癖みたいな感じになっているけど。
そのメモをポーチに入れ、代わりに対人用威力に落とした『追跡型ミサイル弾』を二つ取り出す。
「ビスコ、少し離れて!」
「……っ! 分かりました!!」
「おぉ! 何ぞえ!? 飛んだぞえ!? 魔法かえ!?」
屋根の上からミサイル弾を飛ばして、すぐに飛び降りて走り出す。
ビスコも察してくれたのか、俺達に並走する様にして走り始めた。そのタイミングで――狙い通り、二人の追手に二つのミサイル弾が直撃した。
「グハッ!」
「ク、クソ……痛ッッ」
死にはしないダメージとは言え、少し宙を舞って地面へと叩きつけられてかなり痛いだろう。軽い火傷も負っただろうし。
「あ、意外と良いナイフ使ってますね? いただきです!」
「お、お主!? さっきやり過ぎは良くないって言ってなかったか? 瀕死の上、ナイフも取るのかえ?」
「大丈夫ですよ。今後、これに懲りて悪さをしないようにと祈っておきますから。ディール知ってますか? こうすれば、多少やり過ぎたとしても許される……この国のやり方ですよ」
「……嘘を教えるのはやめてください、ホムラ」
襲われて、自分で守って、勝者は敗者の持ち物を貰う。
これが魔物なら人は褒められるだろう。
だが、これが人になると事情がやや複雑となり、事情を知らない人から見れば誰かの者を奪った略奪者としか映らない。
負けた側が、襲った事実を隠蔽すればより最悪な事態になる。残念ながらそれが普通だ。
年に、何人が冤罪で処刑されているか分かったもんじゃない。
「ディール、人の国では綺麗事だけでは生きていけないのですよ。悲しい事に」
「妾は吸血鬼ゆえ、そもそも人族のルールに縛られる気は無いぞー」
綺麗事だけで生きていく人生……そもそも、そんなものを知らない。
錬金術師はどこまでも利己的。それが根底だ。
使える物はとことん使う究極のエコ。利己的でエコ、縮めて『利己エコ』だ。
ビスコとて、必要だから一緒にいて欲しいと思っているだけ。去るならば追わない。それだけだ。
「人の波に戻りますから、ビスコ、離れない様にしてくださいね」
「分かりました。先導は任せますよ」
「なぁなぁ、ホムラ。なぁなぁ、ホムラ。妾はお腹空いた感じ」
「ちょ、の、脳が揺れるから振らないで……」
待ち伏せや追手が他にも居ないとは限らないが、今もっとも警戒すべきはディールの空腹具合に間違いない。
だからこの際、ガッツリ食べられる安めの食堂へ向かう事にした。
行き着けではないけど自炊したく無い時に訪れる店へ。
◇◇◇
まだお昼前の時間帯というのもあってか、食堂『風乃亭』さんは混んで居なかった。
「いらっしゃい。空いてる所に座って」
配膳や客の相手はスラッとした美人のママさん、厨房は料理人でガタイの良いパパさんが担当している。
「い、いらっしゃいませ。ごちゅうもんはおきまりですか?」
そして、注文を取ってくれるのは二人の娘さんであるリーちゃんの担当だ。
美人ママさんとリーちゃんに癒しを求めて、この店を訪れる客も少なくは無いらしい。もちろん料理の味は良い。特に肉料理の種類が他の店より多いのが特徴だろう。
「ディールさん、どれくらい食べられます?」
「デカい魔物一頭は食べるぞ!」
「リーちゃん、お金はあるから肉料理と魚料理を沢山お願い。あと、人数分のパンも」
「えっと……おにく、おさかな、たくさん。あと……パン! おとーさーん!!」
リーちゃんが元気に厨房へと走っていく。これでもう少しすれば料理は運ばれて来るだろう。
後は、ディールさんがこの店の食材を食べ尽くすなんて事が起きなければ問題なしだ。
……まぁ、満たされなくともその前に次の店へと行けば、この店に迷惑を掛ける事にはならないと思う。
「ほうほう。人間の童は働き者なのだな」
「働かざる者、食うべからず……って言葉がありますからね」
「初めて聞く言葉ですね。ホムラの出身地にはそんな言葉があるのですか?」
ビスコまで知らない言葉だったか。もしかすると、この国というかこの世界にはそんな概念は無いのかもしれない……。
働かずとも、もしもの時は自給自足すれば良いだけだ。それで生活するのよくよく考えてみれば不可能では無い……冒険者達がその例でもある訳だ。
だから、平和な日本で使われている慣用句や諺なんかは、この世界だと通用しないのかもしれないな 。
「えぇ、まぁ……働かない奴に食わせる飯は無いって感じの意味です。ディールは働いてくれたので、沢山食べてくださいね」
「食うぞー! 妾は食いたい時に食いたいだけ食うのだー! ふふんっ!」
しばらく話していると、ママさんが最初の料理を運んで来てくれた。
「お待たせしましたー。ジーズズ産の牛ステーキです」
「おぉ、美味そう! 食べてよいのかー? もう食べてよいのかー?」
「良いですよ」
ありがたい事に三人分に皿を分けて運んで来てくれたのだが、次からはママさんに料理は一つの皿に纏めてくれて良いと頼んだ。
ディールが大食いであることや、俺とビスコはこのステーキだけで十分であるという事も一緒に伝えておく。
「本当に……沢山作っても良いのですか?」
「まぁ、疑いますよね。とりあえずお金はありますので、その辺の心配は大丈夫ですから」
ママさんとそう話している間に、ディールの目の前に置かれた皿からステーキは消えていた。
大食いな上に早食いと、些かマナーには欠ける部分はあるのだが、そんな事を気にするのは貴族くらいなものだろう。
俺達は、好きな物を好きな様に好きなだけ食べれば良いと思う。マナーや作法も大事なのかもしれないが、結局は雑な方がきっと美味いだろうし。
「どうぞ、俺のステーキも食べて良いですよ」
「ホムラは腹ペコでは無いのか?」
「えぇ、まぁ」
食べられない訳ではないが、ここで腹一杯になってしまうとせっかく屋台で買った物が勿体ない。
さすがにお店の中で買ってきた物を食べようとは思わないが、この後の移動するタイミングで食べようとは思っている。
それに……今はディールの食べっぷりを見ているだけで満腹になりそうな気もしている。
「ビスコ、ディールさんが食べてる間に先にこの後どうするか考えません?」
「そうですね。……でも、意外ですね? ホムラならディールさんの種族について調べるかと思いましたが」
「モガ、モグモグモク……(さん、は不要であるぞビスコ)」
「まぁ、気にならないと言えば嘘になりますが……さすがに女性を裸にして隅々まで調べる訳にはいかないでしょう?」
吸血鬼という種族について、ある程度の知識はある。
ただ、それは地球産の吸血鬼であってこちらの世界の吸血鬼が同じとは限らない。
魔眼はあるのか、銀の武器は苦手なのか、吸血するのか、眷族を作り出せるのか、どんな魔法を使うのか、回復力はどの程度か……。
まだまだ調べたい事は多くある。だが、それをディールで調べるのには少しだけ抵抗があった。
だから、本人が良いと言うのであれば隅々まで調べさせて貰うのだが……ディールから得る情報は、もっと簡易な物で良いと思っている。
(それに、一人を隅々まで調べたとて、種族全員そうと言えないだろうしな)
人だっていろんなタイプがある様に、おそらく吸血鬼にも様々なタイプがいると思う。
だから一人を深く知るよりも、全体を広く知る。知識を得るにはそうした方が正しいはずだ。
「おー? モガモガ……ホムラは妾が知りたいのかー?」
「ディールさんと言うよりは、吸血鬼という種族についてですね。あのパワーについてもそうですし……いろいろと」
「ぬわぁーるほどぉ! なら妾を観察すれば良いぞ。妾は吸血鬼の中の吸血鬼! つまり、吸血鬼と言えば妾なのだからなっ!」
上手く伝わってはいないらしいが、ディールの前にまた料理が運ばれて来る。そしてすぐにがっつくディールだ。
とりあえず吸血鬼は大食い……人の血からだけではなく、栄養を食事から摂れるという結構大事な情報はゲット出来た。
「では、観察させて貰いますね。ビスコ……この後どうしましょう」
「そうですね……。では露店巡りはどうでしょう? 露店は食べ物だけじゃなくて、工芸品や遠くの地域から素材を売りに来ている方も居ますから」
「昨日の夜みたいに変な素材を勢いで買わない様にしないとですね……」
今は懐がアツアツで、財布の紐がユルユルになりそうだ。
この辺りでは手に入りにくい素材があれば、それがどんなに利用価値が低くとも買いかねない。
だが、そういう素材に価値を付与するのが錬金術師。どんな素材であっても、別の素材と混ぜ合わせて新しく生まれ変わらせてあげられる職業。
ただまぁ……逆に言えばアイデアが閃かなければ、どんな価値のある素材であってもお蔵入りになる。
だからこその知識。そして、知恵。そう教えられたし、マユエルにも教えている。
「面白い本とか売ってあると嬉しいですけどね」
「私はどこかの民芸品なんか見れれば」
「妾はなー、そうだなー、別に何でも良い感じだぞ?」
次の料理が運ばれて来る。ただ、まだディールのお腹は満たされないみたいだ。
まだまだ次の予定に入るまでに、時間は掛かりそうだな。
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