第55混ぜ 一攫千金! 賭けってそういうものですよね
お待たせしました!
よろしくお願いします!
「えっと……本当に怪力なんですか?」
「うむ。ポンだぞ、ポン!」
腕を前に伸ばしてみせるが、その細腕にパワーがあるとは思えない。
辺りを見渡せば、俺の倍以上太い腕をした人だって居る。いくら種族が吸血鬼だからと言って……そう思いたくなる程の差を感じる。
だからこそあえて、勝てば本物という証拠にはなるかもしれない。
「もうすぐここで力自慢……内容は腕相撲みたいですが、大会があるらしいんですけど出てみますか? 優勝すれば賞金とかも出ると思いますし」
「腕相撲とはなんだ?」
「腕力勝負ってやつですよ。一度観ればルールは理解出きると思います……どうします?」
「よかろう! 人間と吸血鬼の種族の違いというのを見せ付けてやろう! じゃ、案内せよ」
ビスコに場所の確保をお願いして、受付の場所まで連れていく。
立つと尚更、身長はマユエルと変わらないぐらいだと思った。
「すみません、受付はまだ大丈夫ですか?」
「はい、ギリギリですが大丈夫ですが……力自慢大会の受付でよろしいのですね?」
細身の男と小さいローブを見れば、受付のお姉さんの疑問も理解はできる。
その上、出場するのが小さい方なのだから、もう一度驚かせてしまう事になるだろうな。
「はい、お願いします」
「では、こちらにお名前を……」
「おい、妾は字は読めんし書けんぞ?」
「そうですか。えっと……そういえばお名前は?」
「ディール・ヒメル・プレッツェル。くくく、父上母上に頂いた美しい名だろぅ?」
ちょっと書くのが面倒で、フルでは書かずにディールとだけ記入しておいた。
大会はもうまもなく始まるという事らしいので、ディールさんをその場に残し、俺はビスコの元へと戻った。
「あの吸血鬼さん、ディール・ヒメル・プレッツェルさんと言うらしいですよ」
「……プレッツェル? あの、プレッツェルですか!?」
「えっ、もしかして有名な一族とかですか?」
「……まぁ、その。あまり姿を見せない吸血鬼という種族の中で、この大陸でも名前が広まっている一族ですね。つまり……」
「昔大暴れしていたとかですか?」
「そういうことです。昔の話ではありますけど」
その一族から家出して来た……と。
果たしてそれを許す一族なのか、探して連れ戻そうとしている一族なのか、それだけでもいろいろと変わってくる。
もしかしてマユエルの友達になれる奴かもしれないと思ったが……厄介そうなら、連れて行くのはみんなにも迷惑が掛かるし駄目だ。
「それはまた、厄介ですね……」
「その心は?」
「昨日の、マユエルにも言った英雄の話を覚えてますか? 強いくて優しい奴は胡散臭いってやつですけど」
「覚えてますが……?」
強くて優しい奴は胡散臭い。優しいだけの奴なら問題ない。
強くて意地悪な奴は厄介。意地悪なだけの奴なら問題ない。
要は、強いという点がキーワードになってくる。
己を鍛えて強くなった者は尊敬に値するが、その強さが何らかの拍子で自分に向かった時の事を考えると……それはただの脅威にしかならない。
キャサリンさんが、意地でも俺に勉強をさせようとしたら逆らえないのと同じ。
手段として暴力が問題を解決させるのなら、強者は躊躇わずにその拳を振るうだろう。
弱いのが悪いという台詞も反論は出来ない――だから厄介。
その脅威が理不尽に舞い降りる事もある――だから厄介。
キャサリンさんに指導して貰っているとはいえ、単純な怪力というのは真っ向勝負となれば思ったより厄介なものである。
「仮に優勝したディールさんが、俺のビスコの首に手を当てて仲間に入れろと脅して来たらどうします?」
「…………。そんな事をする様には見えないのですが」
「手段としては手っ取り早く、不可能でも無いんですよ? だから、英雄みたいな強い奴は怖いんですよ。真っ向勝負で無敵に近いんですから」
「味方なら心強いですけど、敵なら……そうですね。ホムラの言う事も分かる気がします」
不安要素しか無い。そんなディールさんをどうするか、ビスコと話し合った。
逃げるか、大人しく待つか。
逃げた場合、見付かり次第ポンされる。
待った場合、どうにかなる可能性はまだ残っているかもしれない。
「ホムラが食べ物を与えるからこんな事に……」
「自然災害に巻き込まれたと思ってください」
『それでは只今より、力自慢大会を開催したいと思います! 参加者の方は広場中央に集まってください!』
大きな声が広場中に広がる。特殊な魔法かアイテムの効果だろう。
中央にドーナツ状に空間が広がり、観客も集まりだした。
「見えませんね」
「ですね。私達も動きましょうか」
どうにか中央が見える場所にまで移動する。
屈強な男達が中央でその筋肉を見せびらかしている中、明らかに小さいディールさんが目立っていた。
チラホラと心配する声が観客から聞こえているが、当の本人は隣のマッチョと同じく力こぶを見せ付けるポーズを取っていた。
「俺、初めてかもしれません……こんなに誰かに負けて欲しいと思うなんて。人族の範囲ならまだ技術で対応も出来ますし」
「圧勝したらどうします?」
「どうにか手懐け……俺を殺すと困る理由を探しますよ。錬金術師としてね」
例年の事なのかもしれないが、既に賭けが始まっていた。
今現在のオッズを見ると、この街でも有名らしいマッチョのオッズはやはり低く、一番見返りがデカいのは一番小さいディールさんであった。
(……まぁ、別に負けたらそれは良しだし? 勝ってもまぁ、ね?)
「ビスコ、ちょっと賭けて来ますね」
「まさか……実は、最初から金儲けの為に?」
「手持ち全てです!」
最初からの狙いでは無いが、こんなチャンスを見逃すのも勿体無い。
金は幾らあっても困らないし、むしろ錬金術師には金が要る。
何人か金蔓として確保してはいるが、知り合い価格で相場より安め売っているから儲けはあまり多くない。
学校のお給料も良い方ではあるが、どうしても普段の生活費に溶けていく。
それに、勝てばその一部をディールさんに渡す事で次の街へ行ってくれるかもしれないしな。
(……。やっぱり全部は止めておこうかな。ディールさんの勝負強さとか分かんないし)
賭けの直前でヒヨってしまう。
よくよく考えれば、このやり方は入念な下調べも無しに全部を掛けてしまう師匠のやり方だった。
少ししか入手していない情報に踊らされれば、負ける。師匠が魔女さんに勝てない物の一つが賭け事だった……。
無難に儲けて、良い感じに儲けるいつもの自分のやり方じゃなければ、変な因果率とかで負ける未来が直前になって視えてしまった。
「幾ら賭けるんだい?」
「金貨十枚、ディールさんに」
「ほ、本気か!? 十枚だと!?」
「大穴狙いさ」
金貨十枚。およそ百万円。
大穴狙いにしても賭けすぎな金額に、おっさんが驚いていた。
賭けの窓口は何ヵ所かあるみたいで、観客の大半は賭けに参加している様子だ。
……勝てばだが、一〇倍以上の金になって帰ってくる予定だ。
金貨十枚百万円の十倍。つまり、白銀貨一枚百万円が十枚一千万になって帰ってくる。
コイン換算だから感覚が狂ってしまうが、とんでもない金額だ。もしかすると、この大会に賭けた全員の金を回収する勢いかもしれない。
「勝てば大金持ちだな」
「お貴族様からしたらパーティー代にもならないでしょうがね」
「違いねぇ! ま、神様にでもお祈りするんだな。一回戦が始まる前にもっと人に声掛けて、資金を集めてやんよ」
「お願いします」
おっさんは別の客の対応へ向かい、俺はビスコの元へと戻った。
今は一回戦の組み合わせをくじ引きで決めている最中で、一番最初を引かせて貰えたらしいディールさんは一回戦最後の出番になったらしい。
「で、幾ら賭けたんです?」
「コツコツ貯めた手持ちの半分ですよ」
「……っ!? お、思い切りましたね? たしか、コソコソと資金を貯めていたのでは?」
「賭けってそういうものでしょ?」
ビスコは学校で働いた金の一部を昼飯代として俺に渡し、他は孤児院への寄付や雑費に充てているらしく貯金は無いらしい。
使い方がビスコの生き方に繋がっている為、止める気はない。今のところは大丈夫みたいだが、もし生活費が足りなければ貸すくらいはするつもりである。
『さぁ、お待たせしました! それでは一回戦! 鍛冶職人バスタ対海の男ウェルバーの戦いです!』
日頃から肉体労働で鍛えているだろう二人の男が睨み合い、衆人環視の中、中央に設置された台の上で手を握り会う。
もう勝負は始まっていると言わんばかりの雰囲気。
『では、参ります。さん……に……いち……始めッ!!』
「ふんっ――!!」
「はぁぁ――!!」
両者一斉に気合いの声と共に、相手の腕を倒そうと自慢の太腕に力を込める。
流血も何も無くただ、力のぶつかり合い。だが、拮抗する熱戦に、観客達の応援の声が響き渡る。
「おぉ……男ならパワーって感じですね」
「観客も男性が多いですし、やはり皆さんも憧れがあるのでしょうね」
ヒートアップする試合。だが、勝負の最後は一瞬だった。
少し集中が続かなかった海の男ウェルバーが、気を抜いた瞬間に一気にもっていかれた。
「うぉっしゃあああああ!!」
「クソッ、陸地じゃ不利だったか……」
一試合目から白熱する大会は、二試合目も三試合目も盛り上がり……ついに十試合目のディールさんの番がやって来た。
「おいおい……あの体格差で大丈夫か?」
「見ろよ! あの子の相手、前回チャンピオンのマッスルじゃないか?」
観客の声を拾いながら中央を見ていると、たしかに相手はチャンピオンでもおかしくない雰囲気が出ていた。
腕の太さ、手の大きさ……どの点でもディールさんより数倍デカい。
この組み合わせで、前回の結果なら……ディールさんのオッズが高くなるのも頷ける。
「腕折られるんじゃねーか……?」
「あぁ、棄権させるのが良いだろう」
ここまでの差があると、囃し立てるよりも心配の方が勝つみたいで、観客の熱気はやや下がっていた。
「ホムラ……本当にディールさんは大丈夫でしょうか?」
「本人の言ってる事が本当なら、ですけどね」
ディールさんはフードを深く被り、悠然と立っていた。
『さぁ、一回戦最後の試合は前回チャンピオンのマッスルさん対黒ローブのディールさんです。まずは、マッスルさんからお話を伺ってみましょう!』
「相手が子供だろうと、我が肉体に誓って勝つのみ!!」
格好いい台詞にポージングで観客を沸かせている。
ただ、みんなマッスルに注目しているから気付いて無いだろうが、チラッと見えたディールさんの瞳には……怒りが灯っていた。
(子供という部分が引っ掛かったのか……?)
齢百と十歳。肉体も好奇心も十歳程度ではあるが、子供扱いはされたくないと言っていた。
虚仮にされて怒らない魔族など、魔族ではないだろう。各種族は、その種族における誇りを大事にしていそうだし。
「私には魔族の怒りを感じるのですが……」
「戦い慣れている人とかは……察しているかもしれませんね、殺気というやつを」
「どうするんですか? このままだと大事件になりますよ?」
マッスルが殺される。警備が来る。ディールさん連行……つまり、別にマッスルがどうなろうが、俺達には関係ないから特に問題はない。
仮にディールさんが上手く逃亡したとして、やはりそれも俺達には関係ない話だ。
「仮にマッスルさんが死んだとして……ビスコに何か問題が?」
「駄目ですよホムラ。誰も知らないとしても、ディールさんを大会に参加させたのは私達です。問題は無くとも責任があります」
「……冗談ですよ! やだなぁ、俺もディールさんに賭けてるんだから棄権とか勘弁ですよ」
「今、ホムラは本気の目をしていたから言ったん! です! がっ!」
半分本気で半分は冗談だ。逃げ道はあって困ることは無い。
ビスコに言われてしまったら、どうにかしようという気持ちにはなる。無理な場合もあるけれど、今回のはどうにかなる案件だ。
ビスコの肩にポンっと手を置いてから、最前列に人の間を縫って飛び出した。
「ディールさん!」
「……うん? おぉ、そこに居ったか!」
「優勝したら美味い物を腹一杯食わせてあげますから、とりあえず腕相撲でぶっ飛ばしてください! 他の参加者が棄権するくらい思いっきりやって良いですよっ!」
「――くははっ! あい分かった!! その言葉、忘れるでないぞ」
上手く怒りを腕相撲という部分に向け、尚且つやる気も増幅させる。
他の客からは変な目で見られようとも、マッスルに思いっきり睨まれようとも、全ては金の為とディールさんの為だ。
(これでディールさんが負けたら赤っ恥だな)
ビスコからの話でほとんど疑ってはいなかったが、今はなんとなくディールさんが吸血鬼の真祖という事を信じているし……この試合も負けるとは思っていない。
不敵な笑みが、ディールの魅力を増幅させているのかもしれないな。
(対吸血鬼、対魅了のアイテムの準備もしておくか……)
『何やら保護者様の声援でしょうか? ディールさんには台に乗って貰い、試合を始めたいと思います!』
「悪いが俺は、相手が子供だろうがこの肉体に誓って手加減をするつもりはないぞ」
「構わぬ。お主こそ、暴言の数々……腕を折られたとて文句は言うまいな?」
『お互いに手を握り合いました!! それでは始めたいと思います! さん……』
「……あ? い、いてぇ……いてぇ、何だこのチカラは……っ」
「くく。文句は……言うまいな?」
『に……いち……始めッッ!!』
――勝負は呆気なく、瞬きをすれば終わっている程に一瞬で終わった。
机ごと相手の腕をへし折ったディールさんが、中央で悠然立っている。
「妾との約束は守るのだぞ?」
ディールさんは俺の方を向き、今日一番の笑顔を見せた。
観客は驚きで声も出せないのか、この大会を見学している人は多いというのに静けさに包まれている。
「約束は守りますよ。優勝したら、ですけどね」
「うむっ、約束は守ろう! そこのお主、次の試合はまだか?」
『え、え~っと……少々お待ち下さい』
司会を務めていた男はどこかへと走って行った。
その間に、ようやくこの事態を飲み込みたのか観客が騒ぎ出した。
不正やアイテムの使用を疑う声も飛び出している。
だが、俺は思う――アイテムを使おうが不正をしようが、力持ちには変わらないだろう、と。
錬金術師だからこその意見かもしれないのは分かっている。
誰もがこの意見に賛同してくれるとも思っていない。
(だがまぁ、今回は不正も何も無しだ。騒いだところで賭けた金は戻らないですよ~)
内心で笑い、周囲からの問い詰めは軽くあしらっておく。
数分して、司会の男が戻って来た。
『えー……参加していただいた方とお話をした結果、ディールさんに挑戦したいという方が三人程居ましたので、特別ルールに変更致します。挑戦者三名を倒せば、その時点でディールさんの優勝というルールで参りたいと思います!!』
俺は最前列を離れ、ビスコと共に賭けの時に話したおっさんを探しに向かった。
結果は見ずとも観客の反応でも、音だけでも知ることが出来る。
「引き返せませんね、ホムラ」
「……敵じゃない事を今は喜びましょう。はぁ……みんなになんて説明するかなぁ~」
おそらく、ディールさんは飽きるまでは俺達について来るだろう。それがどれくらいの長さかは分からないが、一日二日では無いだろう。
吸血鬼の体感時間で話を進められたら、それこそずっと付いて来る事もあり得る。
パーティーのメンバーにどう話せば良いか、今から考えを纏めておかないといけない。
「あ、たしかあのおっさんだ……すいませーん」
「お、おう坊主……ありゃ、いったい何だ?」
「神様に祈りが通じただけですよ。換金はどこですれば良いですか?」
「訳ありの顔しやがって。まぁ、勝ちは勝ちだ。俺もただの手伝いだし、素直におめでとうと言っておくよ。ついて来な、案内する」
話を終えたタイミングで、三回目の机が割れる音が広場に響いた。
金を受け取ってディールさんと合流したら、すぐにこの場を離れた方が良いかもしれない。
換金後を狙うチンピラみたいな奴等は、必ずと言って良いほど居る。せめて反撃するのにも、人気の少ない場所の方がお互いにとっても好都合だろう。
ビスコとその件も含めてこの後の事を話ながら、換金してくれる場所へと向かった。
「小さく全員に賭けてた奴は何人か居たが……こんな思いきった奴は兄ちゃんだけだぜぇ? こっちは大損だぁ」
「それにしては楽しそうですね?」
「これも賭けの醍醐味ってもんよ。ほら、持ってきな」
「どうも」
思ったより明るい人で良かった。
めちゃくちゃ強面で、暗い雰囲気の中での換金だと気まずいし。
「おっ、見つけたぞー! 早く美味しい物を食べさせるのだっ」
「はいはい。ディール様様ですからね」
「くくっ。お主はホムラで、お主はビスコであったな。特別に妾をディールと呼ぶことを許すぞ! そっちの方が人族は話しやすいのであろぅ?」
敬称略にして良いというのなら、ありがたくさせて貰おう。
これからは敬称略だが敬意は込めて、ディールと呼んでいこうか。
いや、ここはあえて……プレッツェルでも良いかもしれない。長いか、長いな。
「では、ディールと呼ばせて貰いますね」
「うむっ。して、ホムラよ……妾は疲れたから連れて行くと良い」
一千万円分の我が儘は、許していくつもりだ。
ディールを背負って、歩き出す。体重はかなり軽いのに、どこにあんなパワーを秘めているのだろうか? 種族の不思議だな。
「ホムラ……」
「はい。雑な追跡で分かりやすいですね」
「ぬぬ? どうしたのだ~?」
ディールに予期していた件が起きた事を伝えて、少しずつペースを上げていき、人波ではぐれない様に気を付けながら脇道へと逃げていく。
追跡には気付いたが、集団か個人かまでは流石に分からなかった。
ここから先は、幾つのグループを相手にしなきゃいけないのかを気にしながら動かないといけない。
「もし、相手が良い物を持っていたら逆にいただく勢いでいきましょう」
「それは……善悪的にどうなんですか?」
「人を襲う魔物と変わりませんよ。たまたま人の形をしているだけで」
「妾はホムラの考えに賛成! 分かりやすくて良い。……くく、そろそろ来るぞ?」
振り返ると街のゴロツキみたいな追跡者が二人、ナイフを手に追い掛けて来ていた。
とりあえず、後方はビスコとディールさんに任せますかね。
◇◇
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