第54混ぜ 家出老少女吸血鬼
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
――翌日。
街の騒音などは無く、静かなアトリエで目が覚める。
この街の人も王都に向かった人が多いのだろうか。
ビスコは俺よりも先に起きていたらしく、ベッドには居ない。
「おや? ようやく起きましたか?」
「えぇ、おはようございます」
顔でも洗って来たのか、さっぱりした顔をしている。
今はだいたい七時過ぎぐらいだろうか。今日はビスコと街ブラをする予定だから、そう焦らなくても良いんだが……祭りの前日も王都ではいろいろとイベントをやっているらしいから、遊ぶなら早めに行動する方が良いだろう。
「顔洗って来ますね」
「その前にホムラ! ……朝食は何でしょうか?」
「……そうですね。どうせなら屋台で食べませんか?」
作りおきは常にあるけれど、お祭りの雰囲気優先するくらいの情緒はある。
顔を洗ったらさっそく王都に移ろうかね。
◇◇
「おはようございます~」
「おはようございます、ホムラ様。ただ……まだ皆様起きられていないので、お静かにお願い致します」
この世界の平均起床時間は遅くても六時くらいだと思うのだが……だいぶ遅起きだな。
お店をやっている人はもちろん、夜が早い分朝も早いのが普通だ。
エレノアとミルフさんは、一週間くらい時間掛けてやって来たから疲れているのかもしれないけど……。
「キャサリンさん、今日の予定は……?」
「マユエル様のお手伝いをしようかと思いますが」
「お願いします。じゃあ、朝と昼のご飯は置いておきますので、よろしくお願いしますね」
「承知しました」
起きていたらみんなと挨拶くらいはしたかったが……まぁ、マユエル以外は街で会う可能性もあるから大丈夫か。
「じゃあ、俺達は先に街へ行きますかね」
「ですね。今日はホムラに作って貰ったローブを着てみたしたが……似合うでしょうか?」
白を基調とした頭まですっぽりと覆えるフード付きのローブ。
イケメンなビスコの外出用に作った物だ。白い髪や教会のイメージでカラーは白にしておいた。
俺の白衣とちょっと被るが、まぁ……そこは仲良しという事で。
「似合ってますよ。白い服なんで、料理とかこぼさない様に気を付けてくださいね?」
「気を付けます」
「では、キャサリンさん。後はお願いしますね? エレノア達の買い物の費用は渡しておいてください」
「かしこまりました。ホムラ様、ビスコ様、行ってらっしゃいませ」
キャサリンさんの見送りで、アトリエを出る。
やはり王都は、中心部から少し離れたこのアトリエにさえ街の賑やかさが伝わってくる。
はぐれない様に気を付けていかないとな。
「どこから行きますか?」
「では、朝食に。商業区の方へ参りましょう!」
ビスコにフードを被せ、俺達は人波に混ざり溶け込んでいった。
いつもの倍以上の時間を歩き、ようやくお店の建ち並ぶ商業区へと辿り着いた。
「ふぅ……良い匂いはしますけど、やはり人の多さが気になりますね」
「普段も人が多い王都ですけど……これじゃ、宿とか足りないんじゃないですかね?」
どこかで見た覚えのある人が居たり、居なかったり。とにかく人が多い。
窃盗、強盗、喧嘩……これだけ人が多ければ、きっと街のどこかで行われているだろう。厄介事には近づかない様に自分で気を付けなければならない。
せっかくの楽しい祭りなんだし、楽しまなければ損だろう。
「まぁ、そんな事より……何を食べますか?」
「とりあえず軽い物を多く食べたいですね! せっかくお店が多いので」
「了解です。じゃあ、さっそく……あそこのスープ屋さんで胃を起こしましょう」
野菜少なめ味薄なスープを飲んで、ホッコリとする。そして、気になった屋台に立ち寄っては買ってはタッパーに入れ、ポーチへとしまう。
謎の肉の串焼き。謎の肉の煮込み。新鮮野菜のサラダ。惣菜パンみたいな物や茹でたタマゴ。いろいろと買い込んでいった。
食べ歩きが醍醐味みたいな感じではあるけど、残念ながらそれは無理だ。だから買い込んで、広場で食べようという話になった。
「デザートに甘い物も買いましょう」
「これ……昼飯込みですよね?」
「それはそれ、ですよ。……ホムラ、あっちから甘い匂いがします!」
(どんな鼻だ……人と屋台で臭さしか感じないぞ……)
ビスコについて行き、デザートに凍らせたフルーツのアイスやパンに甘い密が掛かっているだけのパンケーキ的なものを買った。
ビスコにとっては、これがまだ朝食の範囲と言うのだろう……。俺には昼までの分量があるかな。
「そろそろお腹も空きましたし、広場に行きますか」
「えぇ。そうだ、中央広場にしましょう! 大道芸の人やイベントをやっているらしいですし」
「お祭りですねぇ……」
王都に休憩やデートスポット的な広場は幾つかある。
その中でも、広場の中の広場が中央広場だ。フリーマーケットが開催出来るくらいには広い。
座れる場所を確保できるかは分からないが、イベントがあるのなら楽しめるかもしれない。
前を歩く剣士の剣がたまに足に当たったり、魔法師の杖に足を突っつかれるのを我慢しながら広場へと向かった。
「はい! よっ! いつもより多めに回しておりまーす!」
「さぁさぁ! 寄ってってくださーい」
「力自慢大会の受け付けはこちらですよー!」
――目だけでも楽しい状況。広場は特に盛り上がっていた。
端の方で芸を見せてお金を貰ってる人、何かを売っている人にこの後開催するイベントの受付をしてる人。
「どこか座れる場所は……」
「ホムラ、あっちの方はどうです?」
当然、数少ないベンチは埋まっている。
座れる場所を探して、ビスコが見付けた場所はレンガで囲まれている花壇だった。隅の壁際が少し空いていて、高さ的にも座るのに丁度良さそうだった。
「良いですね、広場も見渡せますし! 行きましょう行きましょう」
さっそくその場所に向かい、座って朝食にする。
「何から食べます?」
「では……私はサラダからにしましょうかね」
「あのな、妾はな、何でも良いんだぞ」
「はいはい。サラダと串焼き――」
(ん? 今なにかおかしな事……無かったか?)
ポーチから取り出したサラダをビスコに渡し、串焼きをマユエルくらいの女の子に渡した。
その女の子は嬉しそうに串焼きを頬張って……頬張っている。
「ほぉーぅ?」
「美味い~」
(見ず知らずの女の子に串焼きを奪われたが……まぁ、美味しそうに食べてる姿を見ると怒れないよなぁ)
全身ローブ姿。今のビスコに姿は近いが色が真っ黒で正反対。
見える顔色は、正直に言って良いとは言えない。血色は悪く、何も食べていないのか……そもそも迷子少女なのだろうか?
「ビスコ、子供の対応は任せます」
「はぁ……。マユエル様と同じ年頃の子ならホムラの方が良いかと思いますが」
「いや、そんな子供好きって訳じゃないんですが……まぁ、良いですよ。キミ迷子? あぁ、お母さん居る? そうか、じゃあね」
「一人で何言ってるんですか……お嬢さん、ご両親と一緒じゃないんですか?」
子供相手でも紳士的……流石はビスコ。
マユエルは賢くて大人しいから面倒では無かったが、子供は基本的に騒がしい。どちらかといえば、あまり得意じゃない。
「妾はそんな子供じゃないぞ! これでも齢百と十歳! 吸血鬼の真祖であーるっ!!」
「へぇー……今の子供はなりきりごっこが流行ってるんだな」
「嘘じゃなーいっ!! おい、人間! 食べ物をくれたから今は許してやるが、妾が本気を出せばこの怪力でポンするぞ!」
やはり、面倒だ。
論より証拠――それがなければ、嘘か本当かなんて到底知れたもんじゃない。
(まったく……テキトーにあしらってこの場をやり過ごすか)
「ビスコ、何か言ってやってください。そういう仕事でしょ?」
「…………ホムラ」
「嫌な間……。絶対に良い間じゃない……」
「えぇ、教会に居たのでそれなりに『魔』に関する事は分かる様になってるんですが……人族とは違った『魔』を感じます」
「妾も、そっちのローブからは嫌な雰囲気を感じるぞ! 遠い昔からある苦手なモノって感じ」
ビスコは元教会所属。この少女が本当に吸血鬼だとするのなら、たしかに因縁的な物が存在していてもおかしくは無い。
昼の支配者と夜の支配者と言われる両者。なんとなく嫌いな雰囲気を感じてしまうのは、仕方ないのかもしれない。
今は昔ほど種族差別が無いとはいえ、拭いきれない関係ではあるのだろう。
(一触即発じゃないのは助かるけど……)
「でもな、何となくだがな、他の街で会った奴よりは嫌いじゃないぞ?」
ビスコは先祖返り的な影響で、鬼手を持っている。それが少し良い方向に作用しているのかもしれない。
「幾つか聞いていい……いいですか?」
「うむ!」
「……では、この街には何しに?」
「あのなー、家出してなー、飛んで休んでしてたらなー、この街が賑わってたからなー、来たのだ」
家出と飛んで。まぁ、それくらいで驚いてたら話が進まなそうだからポーカーフェイスでいこうか。
「吸血鬼……何か証明できる物ってありますか?」
「分からん! これでも他種族と関わった事ないからなー、何が違うのかも良く分からんのだ! でも、二本だけ歯が鋭いぞ」
(吸血鬼っぽい! 血色の悪い肌もローブ姿も吸血鬼って事なら、何となく理屈も通る感じだな)
「年齢も?」
「そうだ! 本で読んだぞ! 人族は短命らしいな~可哀想だ」
「まぁ、それはそれで良いものですよ……。それにしても歳上かぁ」
『愚か者でも歳上は敬え』というのが我が師匠とキャサリンさんからの教え。
だから……それが例えこんな小さな女の子だとしても、それが歳上ならば敬意を表さねばならない。
幼く見えるが歳上。この世界では普通にあり得る事ではある。驚くが、受け入れていかねばな。
「家出吸血鬼歳上少女か……ふむ。そうですかそうですか……。悪い人間に捕まらない様に、気を付けて観光してくださいね!」
「ぬわっはっはー、妾は賢いから人間の言葉もすぐに覚えたのだぞ」
「それは凄いですね! きっとまだ楽しめる物がこの街にも沢山ありますよ!」
たしかに言葉を覚えるのは容易ではない。それだけで凄いと思う。
こんな少女の姿で一人旅というのは、何かと苦労があるのだろう。それをしているのも凄いと思う。
だが……もう少し、会話の雰囲気を察する能力を身に付けたらもっと良いと思う。直接言わない美学をば。
「……妾、長旅で疲れちゃったなー」
「……宿、空いてると良いですね。早めに宿を取らないと明日には本当に埋まっちゃうと思いますよ」
「…………」
「…………」
(まったく動かないぞ、この吸血鬼。もしかして、会話を察して動いてない?)
俺達が何処かへ行った方が良いのだろうか?
だが、せっかくの良い場所から動きたくは無い。
人間だろうと吸血鬼だろうと、百十歳なら百十年の月日を過ごしている訳で。
――だから、あまり寂しそうな顔とかしないで欲しい。
「ぴょえ~」
「なにその言葉!?」
「……言ってみただけ。妾、お腹空いた」
「ビスコとの出会いを繰り返しているみたいだ……」
王都のお祭り前日という日にち。空腹という状況。少し思い出す。
すると、食べ物くらいならあげても……という気持ちが湧いて出てきたりする。
「まぁ、師匠からの教えもありますし。食べ物はまだありますしね」
「良いのか!? くぷぷー、妾が懐いてやるぞ!」
食べ物を与えると、嬉しそうに食べ始める。
チラッと見える八重歯よりも鋭い牙が光って見える。
「疲れたから座るぞ人間! 人間は吸血鬼の僕になる運命なのだからなっ」
膝に座ってくる。とても軽く、平均の、十歳よりも軽い気はする。
「吸血鬼で歳上なんですよね? 歳下の人間に懐いて恥ずかしくは無いんですか?」
「恥ずかしく……ない!! 他と関わりが無かった分、今の妾の好奇心は子供と同じでな! でも、子供扱いはするのではないぞ?」
「はぁ……。まぁ、分かりました。では、ご飯食べたら頑張ってくださいね……一人旅」
「察しの悪い人間よな!!」
察しの悪い人間を演じているのだから、その評価は正しい。
容姿は子供、歳は老女、好奇心は子供……ならもう子供ではないだろうか?
家出少女なんて訳アリの存在を引き取る養護施設なんて開いてないし、家出少女も別に誰かに囲って貰うために家出した訳じゃないだろう。
家出とは、自分を縛る環境から抜け出したくても抜け出せない……そんな葛藤の末に起きる行動だ。一人になりたいから、なんて理由も多いと思う。
だから俺から養ってやるとか、一緒に来いなんて言えるわけも無い。犬猫を飼うとは訳が違う。
だから、便利とは思うが奴隷だって買ってない訳で……。
「質問の続きですが、フードを取ったらどうなるんですか? やっぱり灰に?」
「もが、もがもがもぐーぐ……(妾は凄いから、ピリッとするだけであーる)」
「何言ってるか分からないですが、灰にはならなそうですね」
食べ物を与えておけば大人しいものだ。今の内にビスコとこの吸血鬼少女をどうするか話し合っておいた方が良いだろう。
「ビスコ」
「もぐぐ……ゴクッ。はい、なんでしょう?」
「……この吸血鬼さんですけど、どう巻きましょうか?」
「目の前でその話をするんですね……ですが、良いのですか? この吸血鬼さんが本当に怪力なのだとしたら、ホムラの探していた力自慢という条件に合うのでは?」
たしかに魔法を含まない攻撃の出来る人材は探している。俺もナイフは使えるし、ビスコの鬼の手も少しは頼れるかもしれないが……今の所メイン物理アタッカーは剣士のミルフさんしかいない。正確には物理というか斬擊なんだけど。
師匠の事だから、魔法が使えないダンジョンステージだってあると考えられる。
その時に、ミルフさん一人だけだと負担が大き過ぎる。遅かれ早かれ戦線は崩れることになる。
その為に物理攻撃の出来る人材を探してはいるけれど――ビスコ、俺が言ったのは『力自慢で賢い』という条件ですよ。
「わっはっはー、まだ妾はお腹すいとるのだが?」
この図太さは凄いと思いますけどね。
ご都合主義٩(๑'﹏')و
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




