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第51混ぜ 世界が少し動かされた



お待たせしました!

いつもより少し長めです(´ω`)


よろしくお願いします!



 


 夜が明けて、朝がやってくる。

 昼出勤だから朝はゆっくり……とはいかず。いつも出勤までの短い時間は、錬金術に充てている。

 今日はマユエルたっての希望である、果実や木の実を使ったスイーツを作る予定。

 だが……授業時間を全てそれに費やすはとてつもなく勿体無い。だから今、せっせと下準備を可能な限り進めているのだ。


「謎果物たっぷりショートケーキと謎果物のロールケーキ……この辺が無難だな」


 謎果物と言っても、ちゃんと食べられる果物。味は、イチゴやミカンの様なものだから失敗するという事はないだろう。

 温度によって味が大幅に変わる果物があるのだが……不思議なことに美味いからケーキの材料に採用している。

 生地と生クリームの準備は出来た。最後の手間や盛り付けなんかはマユエルにやらせる為に、準備はここまでにしておく。


「よし。あとはパパっと資金稼ぎ用のアイテムを作って……学校に行きますか」


 ――コンコン。


「朝から誰ぞや……」


 アトリエの玄関が叩かれた。来客の予定は無いし、依頼者だろうか?

 いつもならキャサリンさんが対応してくれるところだが、残念な事に新鮮な卵を買いに行ってからまだ戻っていない。

 面倒という感情を胸にしまって、営業スマイルを作りながら来客者の元へと向かった。


「はいはい、どちら様でしょうか……ゲッ」

「露骨に嫌そうな顔をされると、さすがに……」

「あぁ、すみません。えっとたしか……シミラーマンさん?」


 国王に会いに行った時、国王の隣に居た若い男性。

 わざわざ出向いて来た理由は何だろうか?

 渡した住所が本物と確かめる為? 

 普通に、罪状を持って捕まえに来たという可能性もある。


「まだ挨拶をしていませんでしたね。国王陛下直属の護衛部隊『光の盾』に所属している、シミラーマン=フラッツェと申します」

「直属……ってことは、シミラーマンさんってエリートなんですか?」

「騎士学校を首席で卒業した後、騎士団の特務部隊に配属されて……あぁ、いえ! 私の事はいいのです。本日はホムラ様の元へ御礼をしに参上致しました」


 ホムラ様とか呼ばれても気持ち悪いのだが、用件は把握した。

 礼を言われる様な事は、万能薬しか心当たりが無い。まさか、もう飲んでいたというのは……なんか、正直に言えば驚きしかないけど。


「国王、前より元気になってるのでは?」

「えぇ、そのお礼です。まず、報告をさせていただきたいのですが……」

「どうぞ。……あ、アトリエには入れませんよ?」

「そ、そうですか……。では――」


 シミラーマンさんからの話は、国王が王子達に学生のマユエルを巻き込まない様に強く言ってくれたというもの。

 それがどれほど効力を持つのかは分からないが、無いよりはだいぶマシになるだろう。

 裏を操る貴族からすると、国王の体調の回復はかなり予定が狂う出来事だったと思う。かなり恨まれる事になりそうだが、とりあえず万能薬の出所は内緒……万能薬そのものを内緒にしていてくれるらしい。


(あまり信用はしない方が良さそうだがな……)


「国王陛下より、何か褒美を聞いてくるように頼まれたのですが……何かご要望はあるでしょうか?」

「そうですねぇ……欲しいものは沢山ありますし、即決して後で後悔するのも……あぁ、でも今決めないと駄目ですか?」

「今すぐとは言いませんが、あまり保留にしておくのもよろしくは無いかと」

「ですよねー。じゃあ……要望としては、錬金術の素材が第一位。第二位は金ですね。あって困る物じゃないこの二つでしょうか」


 高級品やこの辺では手に入りづらい素材でも、国王パワーで手に入る事を期待しての素材の要望。

 それが駄目そうならば、の金。金なら使い道は多いし、沢山あれば冒険者を雇って素材を採って来て貰えるし。

 ここで頭が良い人や、これからのキャリアを考える人なら繋がりとかを持とうとするのだろうが……そんなものは不要だ。というか、厄介でしかない。


「畏まりました。では、その旨をお伝えし、ご判断を頂いたらなるべく早く用意してまた参上致しますので」

「ご足労お掛けしますね。何か甘い物でも食べますか?」

「甘い物ですか!? ……こほん。申し訳ないホムラ様。手持ちは少ないのですが、妻へのプレゼントとして幾つか包んで貰えるだろうか?」

「別に今回は要らないですが……くれると言うなら貰っておきます。あと、別に俺は一般人なんで『様』は不要です」


 中をジロジロと見られるのはちょっと嫌だし、普通にドアを閉めてから保存してあるお菓子を幾つか持ち出した。

 シミラーマンさんも嫁さんが居るという事で、少しばかり多めに持っていって貰う事にした。ここまで言伝(ことづ)てをしてくれたお礼込みである。

 電話が無い世界じゃ、手紙が主流である。伝書鳩なんかも使っているらしい。

 だから、手紙関係の仕事をしている人やその送り主や受取人によっては、護衛依頼を受けれる冒険者は高ランクに限る事もあるらしい。

 つまり、信用がモノを言う世界――その辺りの事は、前に住んでいた世界よりも綺麗な部分だと言えるだろうか。


「お待たせしました。では、こちらをお持ちください」

「こんなに……しかも見たことの無い物ばかり……」

「ははは。見たこと無い物をこんなに持っていたら目を付けられますよ、シミラーマンさん。頑張って隠し持って帰ってくださいね」

「貴族の方々には見付かりたく無いものですね……。ホムラ殿、手持ちが少なくて申し訳ないのですが、お受け取りください」


 国王直属の護衛……思ったより安月給なのかな。それが正直に抱いた感想だった。少ないと言われてたから驚きは少ないけど。


「はい、受け取りました。次来た時に、もしアトリエに居なければ学校だと思うので」

「承知致しました。では、私はこの辺で失礼させて頂きます」


 結局は臨時ボーナス的な話だったな。

 こういう時にキャサリンさんが居てくれれば、もっと良いアイデアを出してくれただろうに……残念だった。

 シミラーマンさんが遠ざかるのを見送る訳でもなく、さっさとアトリエに入ってキャサリンさんを待つことにした。

 ……そして二十分。(とう)素材の買い物カゴを腕にぶら下げて、キャサリンさんが帰って来た。


「お帰りなさい」

「頼まれていた食材を買って参りました」

「ありがとうございます。先程、シミラーマンさんが来たんですよ」


 キャサリンさんが買ってきてくれた食材を魔法鞄にしまいながら、事の経緯を話した。

 キャサリンさんからすると、下手に報酬を言わずにもっと利子を付けてから最高のタイミングで脅しに掛かるべき……と、今日もまた勉強をさせて頂いた。

 やはりまだ、俺にはまだまだ人生経験が足りないらしい。


「まぁ、高級品に期待します」

「おや……ホムラ様、そろそろお時間では?」

「そー……ですね。じゃあ、そろそろ行きますか」


 荷物を抱え、走って行く為の軽い準備運動をしてから、俺とキャサリンさんは学校へ出勤して行った。



 ◇◇



 学校に到着したのはお昼休みに入った頃。

 キャサリンさんは職員室へと向かい、俺はアトリエへとやって来た。


「ちょっとーぉ! 従者!! 今日、ちょっと遅いんじゃないの!?」


 アトリエのドアを塞ぐ様に背中を預けながら立っている少女。みんなの頼れる先輩、フランだ。


「おいおい、学校では先生だぞ。それで……どうしたんだ?」

「従者は従者でしょ! お腹空いたっ!」

「いつから腹ペコキャラになったんだ? 食堂で食ってこいよ」

「私,気付いたのよ……。食堂と従者のご飯、どっちが美味しいのか……ってね」


 空を見上げ、物憂げに言ったところでどうにかなる問題じゃない。

 食堂のご飯が無料なのか有料なのか、利用してないから知らないが俺の作る飯は状況によって変わるがほぼ有料である。

 状況によってというのは、つまり――。


「ホムラ! 良かった……無事だったんですね」

「えぇ、キャサリンさんも居ますからね。ビスコ、お昼持ってきましたよ」


 こうして心配してくれるビスコは無料となる。

 心配してくれなくとも、ビスコとキャサリンさんは最初から無料だけど。


「ありがとうございます。それで……大丈夫だったんですか?」

「どうでしょうね……悪くは無いと思いたいですけど、どうなるかはこれからって感じです」

「ねぇ、ねぇ、何の話?」

「大人の話だ」


 ビスコには、とりあえず無事ということを説明しておいた。

 第一王子と第二王子の暴走だってありえるし、これからどうなるか分からないという現状なのは間違いない。だから説明も、今は無事という事しか言えない状況だ。


「気を付けてくださいよ……。何かあれば、すぐ言ってください」

「もちろん! 頼りにしてますよ!」


 ビスコがそろそろ戻ると言った矢先、アトリエのドアがゆっくりと開かれた。

 フランが寄っ掛かっているから、ギギギと音を立てながら開いたドアから、マユエルがちょこんと顔を覗かせていた。


「マ、マルエル様!? 失礼しました!」

「うにゅ……」

「ほら、フランが重いからドアを開けるだけで疲れてるぞ」

「誰が重いですってぇ!! 軽いわよ! 軽すぎるくらい軽いのよ!! ……って、誰が貧乳よ!!」


 一人で怒っているフランは置いておき、心配そうにこちらを見詰めるマユエルに近付いて頭をワシワシと無造作に撫でた。


「ではホムラ、放課後に弁当箱は持ってきますね」

「あ、はい。ほら、俺達もアトリエに入るぞ」

「わ、私は……?」

「……昼、食ってないんだろ? 今度から金払えよ」

「う、うんっ! 払う! 仕方ないから沢山払ってあげるわよ!」


 沢山払うくらい来るつもりなのだろうか……。それならいっそ、お小遣いがゼロになるくらい食べさせるというのも面白いかもしれない。

 アトリエに入ると、さっそくお昼ご飯が出てくると思ったのかフランは真っ先に椅子に座って待ち始めた。

 本来なら、マユエルに軽い説明をするのが先なのだが……キラキラした瞳が俺を見ている。


「……ほら、フラン。おにぎりでもお食べ。そして、少し大人しく待ってなさい」

「何味? ツナマヨ? 前に食べたツナマヨ? 私的には、従者が食べていた鮭? ってのも食べてみたいんだけど」

「それは……梅だな」

「ウメダナ? 何味よそれ……」

「ウメダナじゃない。梅、だ! 梅は梅味だ」

「まぁ、ツナマヨみたいなものなら何でも良いわ! いたただきま~す」


 ツナマヨ的なのをご所望だったか。先に心で謝っておこう、ゴメン。

 梅は子供舌そうなフランにはちょっと早すぎる味かもしれない。酸っぱいのが苦手なら、まず食えないだろうし。


「…………しゅっぱーーーーーーーーいっ!! どど、毒! これ、毒よ!! 絶対毒! し、死んじゃう!」

「ふむ。梅干しが苦手な人の反応はめちゃくちゃ面白いな。な、マユエル」

「先生、私も梅たべたい」

「おっ、チャレンジャーだな」


 数秒後、今度はマユエルの「うにゅ」がアトリエ内に響き渡った。

 その何にでも挑戦する心意気だけは認める。だが、中途半端なおにぎりの処理をするのは俺なんだぞ、と言いたい。

 二人の反応を見て、マユエルの護衛として今日も壁際に立っているキャロルさんも食べたそうにはしていないし。


「鮭とツナマヨもちゃんとあるぞ」

「従者、よくそんな酸っぱい物を食べようと思ったわね……舌、どうかしてんじゃないの?」

「いや、俺も子供の頃は苦手だったけど、いつの間にか平気になってて……気付いたら普通に美味いと感じる様になったけどなぁ」

「いや、従者って私と一つしか歳離れてないじゃないのよ……」

「ふっ……その一つがデカいんだよ。おっと、マユエルはお腹空かせておけよ」

「うにゅ!」


 バクバクとおにぎりを食べ始めて静かになったフランを少し放置して、マユエルに国王に会った事や頼んだ事、してあげた事を話してあげた。

 話し始めは不安そうだったマユエルも、最後の方には安心した様な顔をして……特に、国王の病気が治った部分を喜んでいた。


「ねぇ、今……セラシウム国王陛下の名前出てこなかった?」

「出てないぞ。セシウムという元素の話をしていただけだ」

「ふーん? まぁ、良いわ。お腹一杯になったから戻るわね」

「おう。しっかり学べよ若者」

「だから、一歳しか違わないでしょ! マユエル様、退室させて頂きますわ」


 俺への粗暴な言葉遣いとマユエルへのお辞儀を含めた丁寧な態度、それをしっかり使い分けるフランも……ちゃんと貴族の娘のいう事だな。


「うにゅにゅにゅにゅ……」

「ふっふっふ。邪魔者が居なくなったな」

「私は居りますが」

「……邪魔者は居ないな、マユエル」

「居ないのよ」


 フランが立ち去ってからすぐに、俺は朝に用意していたスポンジケーキや生クリーム、カットしたフルーツを机に並べていった。


「これはこれでちゃんと約束したからな」

「うにゅ! 作る? 作る?」

「最後の仕上げや盛り付けは好きなようにやって良いぞ。発想力を鍛える練習な」


 生徒が一人というのは、なんとやり易いことか。

 教師初心者にはありがたい人数、そして頭の良い生徒。教える内容もやる事も多い授業において、マユエルはとても優秀だ。


「クリーム美味しいのよ……」

「つまみ食いばかりしてると、足りなくなるぞ?」

「このクリームには金貨の価値があるのよ? ……キャロル、お金欲しい」

「マユエル様、今月のお小遣いは残り少ないですが……」


 金貨……この世界での価値で考えれば、金貨一枚で買える甘い物はそれほど多くは無い。だが、これを日本に持って行き、買い取って貰えば……質の良い糖分はかなりの量を確保できる。

 密輸と言われれば密輸になるのかもしれないが、裏社会でならどうとでもなる案件である。

 その金でまた米や甘い物を大量に買って、フランやマユエル、サリュさんにミルフさんに売り捌けば、これまたウィンウィンだ。


「良いの!」

「か、かしこまりました。すぐ用意致します」


 お小遣い制かつ、管理はキャロルさんらしい。

 王族のお小遣いって、つまりは献上物みたいなやつの一部だったりするのだろうか。遠慮なく貰うが……なんだか同じ一般市民の方から摂取しているとか考えてしまうと、申し訳なさがちょつぴり出てくる。

 だからと言って、貰わないという選択肢は無いけれど……。


「食べ終わったら、残りの時間は錬金術のお勉強にするぞ。明日からもどんどん厳しくな」

「明日から本気出すのよー!」

「良い言葉を聞いた……ふふふ」

「い、言わなければ良かったのよ……」


 本気を出してくれるのならば、多少の無茶なら軽々とやってくれるだろう。

 どれだけ強くなるのか、才能豊かな生徒を持つと楽しくなってくる。これが教師の醍醐味ってやつだろうか。

 師匠にとって俺は、そんな弟子だっただろうか?


「明日からが楽しみだなぁ~」

「うにゅなのよ~……」



 ――そして、二年の月日が流れた。


 師匠がどこかへ旅立ってから約三年。

 俺がこの世界に来て約五年、十八歳となった。

 キャサリンさんは担当する給仕科の生徒を教育し過ぎて、万能メイドの量産をしている。

 マユエルは四年生となり、早い入学を果たしていたマユエルはついに新入生と同じぐらいの十一歳と なった。

 ビスコは二十歳になって、益々イケメン具合が増している。

 フランは卒業後、魔法師団という軍に入った。魔法で成り上がった家としての誇りが……とか言っていた気がする。

 エレノアとミルフさんは、堅実に依頼を達成して冒険者ランクを赤に……今や上から数えた方が早いランクまで上げていた。


 そんな事は問題じゃない。今、急に空から降ってきた手紙の内容の前では、そんな経過時間の情報などどうでも良いことだ。


「キャサリンさん……流石にこれは……」

「えぇ。ついに彼女の楽しさへの欲求が世界を巻き込み始めたしたね」


 手紙の送り主は、師匠。

 今まで音沙汰の無かった師匠から急に送られて来た手紙。


『やぁ! ホムラにキャサリン、元気にやっているかな?

 これは二人宛に特別に書いた手紙だけど、他の国の王達にも似た手紙を送っているよ。


 本題から言うとだね~、神様と協力して憧れていたゲームの様な迷宮……所謂ダンジョンを作ったから、是非とも遊びに来てくれたまえ! 神様達を説得するのには骨が折れたけど、娯楽に飢えてるみたいだったから、なんとかね。

 話の通じない機械的に管理しているタイプだったら諦めてたかもしれないけど……なんとかなるものね!


 そうそう。ちゃんと報酬も用意してあるし、それぞれ特徴のあるダンジョンだ。楽しいけど命を落とす事もあるから、仲間を増やして挑んでね!


 ダンジョンはメインの大ダンジョンが五つあって、お試しとして作った小ダンジョンはいろんな場所へと作ったから……大ダンジョンの前に遊んでみるのも一興かと思うよ。

 大ダンジョンの位置……私はダンジョン都市と命名しているけど、封筒に入っている地図に場所は載せておくね。

 私もダンジョンで遊んでいるから、その内会える事を願っているよ!


 神の協力者であり、この(たび)世界の敵となった師匠より』



(――師匠、やっぱりまだまだ師匠には敵う気がしませんよ)



 この手紙に関して、中立国家としても存在している教会の元締め、宗教国家『ヤサミュベス』は各国へ「神を個人的な協力者と語る不届き者は敵である」という通達を世界中へと行った。

 神が存在しており、ごく稀に姿を現すというのは世間一般に知られている事だ。

 だからこそ、宗教国家は我が師匠を恐れたのか恨んだのか……何かしら感情を逆撫でされているのだろう。

 一ヶ月そこらで各国へ、中立国家として世界の敵である師匠への考えを発表する対応の速さに、怒りが表れていると思う。


 その報せを受けた各国の王は、騎士団や冒険者を派遣してダンジョンの存在を確かめたり調査へ乗り出すなど、慌ただしく動き始めた。


 良くも悪くも、世界が一人の人間によって動かされている。


 お偉いさんに関しては、今や誰も手紙の内容が嘘だとは思っていないだろう。

 王族であるマユエルに聞くところによると……神の協力者という部分は宗教国家の権利で消され、世間へと発表される事になったらしい。

 我が師匠は晴れて、ただの世界の敵となった訳だ。

 ギミックだらけのダンジョンを作り出す相手を、軽々しく討伐対象とする各国もどうかと思う。だがそれも、きっと師匠は楽しんでいるのだろう。


 手紙が来ても俺のやる事は学校へ行き、マユエルに錬金術を教える事だ。

 手紙が届いてから半年が経つ頃には、夢見る冒険者や仕事の増えた軍関係の人間、商人以外の一般人には一時的に盛り上がった出来事と化していた。


「先生、私もダンジョンに行く」

「ほら、集中しなさい。一秒間に二回掻き混ぜる……感覚を身体で覚えて」


 新二年生が錬金術科に入ることも無く、相変わらずの二人での授業だ。

 本格的な錬金術を教え始め、メキメキと実力を伸ばしているが……最近はやたらとダンジョンに興味を持って、行きたいと連日の様に言っていた。


「この半年で確かに、小さいダンジョンは幾つか攻略されて武器や装飾品が出回った」

「うにゅ、ロマンなのよ?」

「でも、大ダンジョンは未だに攻略されていない。しかも、最下層に到達したいう情報も無いだろ?」

「それも、ロマンなのよ?」


 五つの大ダンジョン。きっと、神様が五神だから師匠も五つ作ったのだろう。


 創造神――ラスピリア

 魔神――サタエル

 海神――ミュニニ

 地神――ベアスト

 空神――スカラプル


 その名前を取り、『ラスピリアダンジョン』『サタエルダンジョン』『ミュニニダンジョン』『ベアストダンジョン』『スカラプルダンジョン』と呼ばれている。


 情報は持ち帰った者達が金と引き換えに伝達しているが、物理攻撃無効であったり、環境変化の激しいダンジョンであったり、モンスターが強いダンジョンだったり……罠が多かったり。

 師匠が子供の様にはしゃいで作ったであろうダンジョンは、何かと制限の強いダンジョンとなっていた。


「ダンジョンの攻略に必要なのは、仲間だ」

「うにゅ……仲間?」

「そ。自分の足りない部分を補ってくれる存在。そして、それを一番効率的に出来る職業は?」

「……錬金術師!」

「凄腕の錬金術師の存在は、ダンジョンの後半になればなるほど必要になるだろうさ。……師匠はこの世界の錬金術師のレベルを底上げしようと考えていたんだな」

「……師匠?」

「……こほん。とりあえず話が分かったなら、ほら……ちゃんと掻き混ぜる! 遅れ始めてるぞ」


 ダンジョン攻略をすれば、途中までの攻略であってもその恩恵は大きいらしい。

 冒険者個人であっても国であっても、他よりも利益を得ようと躍起になっている頃だ。少しずつであっても、攻略は進んで行くだろう。

 それでも……まだ、慌てる時間では無い。

 エレノア、ビスコ、ミルフさん、フラン……そしてマユエル。既に連れて行きたい人には声を掛けて、少しでも強くなって貰うように修行をして貰っている。


 そして俺自身も……今より強くなる為に。キャサリンさんにお願いをして、学校の後はあの悪夢だと思っていた訓練の日々を繰り返している。


 とりあえず、マユエルが錬金術師として最低限の実力を身に付けるまでは……ダンジョンはお預けにするつもりだ。






※創造神の名前をラスピリアに変えました。


誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)

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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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