第48混ぜ やはり王族には何かしらあるらしい
お待たせしました!
よろしくお願いします!
◇◇◇
「これでラストっと!」
食材を切り分け、鉄串に刺してバーベキューの準備は整った。
網焼きにする用の食材も、串焼きにする分とは別に準備してある。二人以上でも満足出来る量はあるな。
「マユエル、準備できたぞ~」
「はいなのよ~」
周囲を見渡すと、十匹近い魔物が倒れていた。どの魔物からも血の臭いはしない。
マユエルの頑張りを無駄にする行為かもしれないが、流石に食事中に襲われるのは面倒だから……魔物避けのアイテムを使おう。ついでに、魔物から素材も取らないとな。
「マユエル、火は点けてあるから先に焼いて食べてな」
「先生は~?」
「お前の倒した魔物のさ、素材を取ったら食べるよ」
マユエルと位置を入れ替える様に、今度は俺が魔物の方へと歩み寄って行く。
まずは、アイテムで魔物が増えない様にして……そして、死体漁りが如く倒れた魔物から取れるだけの素材を取っていく。
「うんうん。そこそこ満足な量が集まってきたな」
魔物の毛皮を剥ぎ取り、ツルツルになった魔物の売れる部位や錬金術で使える部位を丁寧に取ったら、後は魔石を回収して埋める。
動物達の方は食べれる部位を取り、必要無い部分は埋める。
一人だと時間は掛かるが、ひとつひとつ丁寧に作業を行っていく。
「先生、先生の分を焼いたのよ?」
「おっ、ありがとうマユエル」
明らかに焼き加減をミスって、ちょっと焦げてるが……せっかくなのでいただく。
生焼けはさすがに怖いが、少し焦げてるくらいなら気にしないで食べるタイプだ。
「うにゅ……一人つまんないのよ?」
「そうか。なら、ちょっと待て。あと少しで作業も終わるし……そしたら一緒に焼こうか」
「うにゅ! 先生、急ぐ!」
急がされて急ぐ俺じゃない。むしろ、より丁寧になるまである。
一体につき、どれだけ急いでも三分は掛かる。それを一体につき五分程使い……結局、全部の素材を回収し終えるまでに一時間くらいは掛かっていた。
当然、マユエルはご立腹である。
「お腹空いたのよっ!!」
「ごめんごめん。マユエルが手伝ってくれればもっも早く終わったけど……先生が悪かったよね、ごめんごめん」
「先生、すぐ意地悪言う! 良くない!!」
遅めの昼食になったが、串焼きもシンプルに焼いた肉も満足な味だった。結局は肉には焼肉のタレが、一番合う……そういう事だな。
◇◇◇
一息吐いて、午後の探索を再開させる。
帰りの時間を考えれば、あまり時間は無いが……あとはマユエルの好きに探索させようと思っている。
学校から支給された地図を渡して、マユエルの先導で森を歩いていく。
「先生、あっちに洞窟ある?」
「あー、たしかに洞窟というか洞穴的なものがあるっぽいな」
マユエルに聞かれ、タブレットで位置を確認して答えた。このまま真っ直ぐ進むと、洞穴と小さい滝のある場所に着きそうだ。
仮に川沿いを上って来た生徒が居たら、もしかすると合流するかもしれない地点になるだろうか。
「行くのか?」
「お土産探す」
「お土産か……川の近くなら綺麗な物が沢山あるかもな」
タブレットで見れる範囲を拡大してみる。
魔物の集団の存在は確認出来なかった。ただ……ポツンと一点だけ反応があった。
拡大する前の画面には入って居なかった印だが、位置は洞穴の少し奥か滝の上……崖を上がった少し先という位置だろうか。
「早く行くのよ!」
「……いや、ちょっと待てマユエル。何か怪しい反応がある」
「うにゅ? 怪しい~?」
そう、怪しい反応だ。
生徒達の護衛も兼ねて、森を冒険者が彷徨いているのは聞いている。でもそれは、パーティー単位の話でソロで動いているとは聞いていない。
魔物だとしても、こちらも冒険者と同じ様に基本的に群れで活動している。ソロとなれば、はぐれた魔物か強い魔物だと考えられる。
何にしても、怪しい。そして、こういう感は……よく当たると相場で決まっている。
「ちょっと警戒して行くぞ。マユエル、俺の横に……念のために消臭しておこう」
「……分かったのよ」
鼻が鋭敏な生き物なら、少し遅いかもしれない。魔力で探知する生き物なら効果は無い……だが、やらないよりはマシである。
臭いを消して、低姿勢のまま進んで川に出る少し手前で止まり、草陰から洞穴や崖の上に視線を向ける。
(やはり見える所には居ないか……タブレットの点にも動きは無いし)
相手も隠れて様子を窺っているかもしれない。
下手に動けない中で取れる行動は、およそ三つ考えられる。ジッと堪えて待つか、賭けに出て特攻を仕掛けるか、これも賭けだが……一目散に逃げる。この三つだろう。
マユエルが居るから無茶は出来ない……ここは無難に逃げの一手だろうか。
「――失礼します」
声で分かる。マユエルは驚いて振り返ったみたいだが、俺達に声を掛けて来たのは……マユエルの護衛であるキャロルさんだ。
ずっとついて来ていたのは知っていたし驚きは無い……が、声を掛けて来るのは、想定外だった。
俺が万全を期して望んだこの探索で、想定外が起きたという事は、つまり、王族側で何か異常事態が発生したということだ。
「キャロル……?」
「まずは報告を。本日、我々護衛は四人体制で執り行う予定でありましたが、一人……これまた急な話でありますが、第二王子の御厚意で腕の立つ護衛を付ける事となったのです。です……が、その者が森で姿を消しました」
「それってさ、だいぶ前の話でしょう? ……あー、そういう事。半獣人のキャロルさんは鼻が利きますしね」
このタイミングで知らせて来たというのは、つまり……タブレットに映るこの赤い点がその急遽増えた護衛なのだろう。
「裏切りですか? 平和そうに見えるのに……王族ってそんなゴタゴタなんですか?」
「うにゅ~……」
「おい! お嬢様に悲しそうな顔をさせるな!!」
「しーっ! 静かに!! ステイステイ……」
やはりマユエルには甘いキャロルさん。
だが、うるさい。そして、面倒事を持ち込まれても困る訳で……。
さて、逃げの一手だったのだが、どうやら事情があるらしい。そんなのは知ったこっちゃ無いが……知らないと後々面倒になる気がしてくる。
「はぁ……。それで、どうなんですか?」
「……国家機密だ」
「はい解散。勝手に滅んでくれ」
「おい、お嬢様が危険に曝されても良いのか!?」
「知らん。何せ一般市民だ、王族が死のうが貴族が死のうが関係ないね」
国の……王族の内部情報を部外者に出せる権限を、ただの護衛が持ってる筈がないのは流石に分かる。
ただ、情報は渡せないが危険から守れ……は筋が通ってないだろう。俺はハイリスクノーリターンみたいな慈善事業をしてはいない。
いつの間にかマユエルが暗殺され、学校に来なくなれば、多少の後悔をした後に速やかに学校での勤めが終了するだけ。国のゴタゴタも一般市民からすれば、その程度のものだ。
「お前……お嬢様への情は無いのか!!」
「まったく無いとは言わないが……情だけでは動かない。命は賭けられない」
「貴様……それでも男か!! 本ッッ当に情けない!!」
「護衛のお前達だけで守れば良いだろう。第二王子の護衛ねぇ……」
王族がゴタゴタ、第二王子の私兵。
情報は少ないが、マユエルが第三者王女という事は、国王、王妃、第一王子、第二王子、第一王女、第二王女、第三王女。年齢までは知らないが、少なくともこの人数になる。
王族のゴタゴタとなれば、考えられるのは王位継承、つまり次の国王に誰がなるかという話だ。
順当にいけば第一王子だろうが、能力や権力争いによっては第二王子を推薦する派閥なんてのも出てくるだろう。
マユエルと兄弟、姉妹の関係は良好とは言えなかった筈で……ふむ。仮定の話ではあるが少し見えて来たかもしれない。
(派閥に入れる……もしくは、亡き者に……ってところかね?)
王族の出てくる物語が溢れてる世界から来たからこそ、ただの一般市民には分からない事情も何となく分かるというものだ。
「マユエル、お前にもお見合とか婚約者の話とかってあるだろ?」
「おい、何の話をしている? 今はそんな場合では……」
「答えてくれるならキャロルさんでも良いですけど。最近、第一王子の派閥と第二王子の派閥から話が多くなってるのでは?」
「それは……」
「ビンゴかぁ……はっはっはー。マユエル、断り続けた先にあるのは暗殺だぞ」
仮に王子達が関与していなくとも、王子をトップに据えた派閥が出来てしまえばもう新国王の発表があるまでは止まらないだろう。
寝返る者が居たり、敵派閥同士で暗殺しあったり、泥沼化するだろう。
国王が何を考えてるのかは分からないが、息子や娘さえ無事なら他の貴族達はどうなっても良いと思っている可能性すらある。
まぁ……流石に一国の王として国力を低下させるまで放置するという事は無いと思う……思いたい。
「先生、私は……どうしたら良いの?」
「そうだなぁ~……どう頑張っても毒とかで簡単に死ぬからなぁ」
「うにゅ……王女やめたら、助かる?」
「いやいや、この世界は血筋が重要視されてるから。王族に産まれた時点でその存在を捨てる事は無理だぞ、たぶん」
教会に入るとかなら逃げられるだろうけど、それはそれで囚われ先が別になっただけだ。
「お嬢様、心配要りません。私達が命を賭けて御守り致しますので!」
「マユエル、死にたく無いなら蹴散らす事をお勧めする。事情は知らないが『自分は関わらないから関わるな』という姿勢を見せていくしかないと思うぞ。そっちの方が、やらずに死ぬよりも多少なりスッキリと死ねるだろう」
「貴様! もう、余計な事は何も言うな!!」
怒られたのでもう、止めておくか。
俺は仮定で話しているだけだし、死ぬ事態になっているとは限らないのだからな。
――洞穴から人が出て来た。どうやら、いつの間にか声が大きくなりすぎていたみたいだ。
「お、キャロルさん。さっそく命を賭ける時じゃない?」
「キッ……みんな、行くよ」
洞穴から出て来たのは体格の良い男。冒険者というよりは、傭兵の様な男だ。大剣を背負っている所を見るに、パワーで推していくタイプだろうか。
俺達を追い抜く様に、キャロルさんと他の護衛二人が茂みから出て行く。
その様子をマユエルは俺の白衣を握りながら見守っていた。
「心配か?」
「うにゅ……誰も死んで欲しく無いのよ? 争いなんて嫌なのよ?」
「ま、こうみえて先生も争いは嫌いだけどな。アトリエでずっと錬金術をやってた方が楽しいからな」
「先生、どうすれば良いの? どうすれば私もずっと錬金術できる?」
マユエルの瞳は真っ直ぐ俺に向けられていた。
王族のゴタゴタなんて興味ない。でも、ここには錬金術師の卵が居る。しかも金の卵だ。失うにはちょっと惜しい。
王家の話に手を出せば、厄介事は嫌でもやって来るだろう。それを無事に回避させる手段も考えなければ安易に手は出せない。
「はぁ……、そうだな。生徒が学べる環境を作ってやるのは先生の義務か」
「先生?」
「後で事情はこっそり教えろよ? あと、ヤバくなったら先生はすぐ消えるからなぁ~」
洞穴から出て来た第二王子の私兵と、キャロルさん達がもうすぐ対峙しようかという場面だった。
遠くから見ていても、一触即発になりそうな雰囲気だ。
どっちの味方をするかとなれば、今は仕方なくキャロルさん達に加勢する。
俺は――ポーチから『魔改造狙撃銃』を取り出し、構える。地面にうつ伏せ状態になり、レンズを通して対象を捕捉する。
(すぅー……。さん、に、いち――ぴちゅん!!)
誰にも気付かれない無音と無反動。
「……あぁ? がぁぁぁぁぁあああああああああッッ!?」
当たったかどうかは、当たった奴の反応で知るしか無い。頭に当たれば声も出せないだろうが、今は行動を制限させる為に足を撃ち抜いただけである。
「命中。久しぶりに使ったが、流石の性能だな」
「先生、先生、凄いのよ! 凄いのよ~」
「フッ」
「でも、先生……場が混乱してるのよ?」
キャロルさんの方を見れば、突然足から出血して倒れた男を不審がり、そして周囲への警戒までし始めていた。
その姿を見ているのも面白いが、出血死する前に第二王子の派閥で、マユエルの扱いがどうなっているのか聞いておく必要がある。
銃を片付けてから、マユエルと一緒にキャロルさん達の元へと向かった。
「おい、気を付けろ! 何者かが……」
「キャロル、大丈夫なのよ」
「お嬢……様?」
「そいつを撃ったのは俺ですよ」
「いや、しかし……何にも……私の耳も鼻も……」
「いや、キャロルさんもそういう武器があるのを知っているじゃないですか!」
マユエルに渡した銃の存在はキャロルさんも知っている。それでピンと来たのか、それ以上疑う事はしてこなかった。
「で、こいつはどうするんですか? 先に尋問しても良いですか?」
「いや……待ってくれ。先に私達に、させてくれないだろうか?」
「く……そっ。いてぇいてぇいてぇ!! 何だコレ……ッ、チクショ……」
「諦めろ、貴様が任務を放棄した時点で護衛失格だ。報告はさせて貰う。さて、何を企んでか話してもらおうか……」
思ったよりヌルい尋問だと思ったが、とりあえず自分の番になるまでは茶々を入れずに待つことにしようか。
くっくっく……キャサリンさん仕込みの拷問術が火を吹きそうだな。今までやったことは無いけど。
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