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第47混ぜ 任せても大丈夫だろう?



お待たせしました!

よろしくお願いします!



 


 初戦闘を終えて、解体で気分が悪くなっていたマユエルが回復するのを待ってから、また探索を再開させた。

 先程の戦闘で魔物の素材を手に入れたから、授業における最低限の合格ラインは越えることができた。

 だから後は自由に行動して、いろんな素材採集に専念できる。もちろん、魔物から取れる素材も集めたいから戦闘自体が終わった訳ではない。


「先生、木の実ある」

「マユエル、どんどん確保」

「うにゅ!」


 マユエルの身長だと跳んでも届かない高さにある木の実を、水の魔法を操って、たどたどしくも確保していく。

 まだまだとはいえ、順調に魔法の扱いにも慣れてきている。この調子なら、三年生になる頃には手足の様に魔法を使える様になるだろう。


「これは食べられる?」

「イチの実は甘酸っぱいから、スイーツにはもってこいの食材だな」

「スイーツ! 先生作って!」

「はいはい、明日になったらな」


 スイーツは別腹。それは異世界でも共通らしく、先程まで吐いていたとは思えないテンションだ。


「うーん……そろそろ移動しようか。ここら一帯にある素材は取ったと思うし」

「分かったのよ」


 森の先へ進みながら、どんどんマユエルが採取して、使える物と売る物に俺が仕分けし、劣化の進まないポーチに入れて保管しておく。

 だが、そろそろ魔物の素材も欲しい所だ。草や木の実より少し高値で売れるし、防具や武具の材料にもなるし。

 俺はタブレットの地図アプリで、近くに魔力を持って動いている点はないかと探した。


(近くに反応があるな……九つつ……生徒達のパーティーと魔物か?)


 点の配置からも、恐らく魔物と遭遇した魔法科の生徒だろうと予測を立てる。

 冒険者界隈では、横取りになる様な行為や魔物を擦り付ける行為はマナー違反とされている。

 だから気にしなくては良いのだが、マユエルに他の同級生達の実力を知っていて貰うのも悪くないだろうと思う。


「マユエル、ちょっと他のパーティーが居るみたいだから様子を見に行かないか? 単なる興味本位だが……」

「うにゅ、行くのよ~」

「他の子の実力とか、別にどうでも良いけどさ……知っておくと何かと生きやすいぞ」

「……難しい話は分からないのよ?」

「まぁ~たこの子は……分からない筈がないだろうに」


 方向転換をして、今いる位置よりも南の方へと進んで行く。

 目指す場所に近付いていくと、戦っている生徒達の声がどんどん聞こえてくる。


「マユエル、下に居ると巻き込まれかねないから、木に登って上から見るぞ」

「先生、登れないのよ……」

「分かってる。ほら、おんぶしてやるから……ここからは静かにな」


 小さく「うにゅ」と返事をしたマユエルが、背中にちゃんと乗ったのを確認して木に登っていく。というか、歩いていく。

 少し離れた場所の高い木の中腹の位置から見下ろすと、魔法科の子達の戦っている様子がよく見えた。


「ほらッ! 障壁(しょうへき)に集中しなさい! 攻撃チームも準備が整ったら一斉に放つのよ!!」


 後方から的確な指示を出している六年生。最初は目を疑ったが、よく見てもよく見なくても……あの(・・)フランだった。

 俺の中で、そろそろお転婆でアホの代名詞になりつつあるフランだが、後輩達の指導に関してはしっかりしている様子だ。

 もう一人の六年生らしき男子生徒は、周囲に異変が無いかキョロキョロと見渡している。


「まぁ、二年生であれだけ出来れば上出来だろうな」

「先生、私に厳しいのよ?」

「当たり前だろう? 魔法科の二年生なら、あの程度でもこれから成長すれば良いだけの話だが……錬金術科は学ぶ事が沢山ある。魔法も一般常識も植物についてもだ。マユエルには期待しているだけ、今のレベルで満足していたら先生困っちゃうぞ?」

「……うにゅ! 頑張るのよ!」


(……チョロい)


 嘘では無いが、全部が本当という訳でもない。マユエルの戦闘技術に至っては、しばらく満足していても良いくらいだ。

 そもそも精霊術師の時点で満足して良い。

 嘘も方便、優しい嘘……何でも良いが、やる気になってくれるならそれは良い事だ。


「はい、そこ! トドメを!!」


 フランの声に反応して、準備をしていた二年生達が一斉に魔法を放つ。

 素材を駄目にする下手な火魔法。素材を駄目にする下手な風魔法。素材を駄目にする下手な土魔法。……とてももったいない。

 本人達は魔物を無事に倒せた喜びの方が勝っているみたいで……まぁ、本人が良いならそれで良いのかもしれないが、素材は金になる、道具になる、食料になる。

 十歳、十一歳の子ならその変も意識しても欲しいものだがな。


「先生、フラン、見てる~?」

「あぁ、探知魔法で気付いたんだろうな。降りてみるか」


 降りて少し待つと、ガサガサという草を掻き分ける音の後にフランがやって来る。怒っている訳でも笑っている訳でもなく、ただ、疑問の顔(クエスチョンマーク)を浮かべていた。


「従者……何してんのよ? ま、まさか! 私を追い掛けて来た訳じゃ無いでしょうねっ!? いや、でも……従者の役割なら……」

「いや、たまたま近くに反応があったから見に来ただけだぞ? フランが居るとまでは分からなかったし」

「何よッ!!」

「何よ……って言われてもなぁ……」

「なぁ~」


 バレバレだったとは思うが、本人は隠れていたつもりなのだろう。

 マユエルが俺の背中から顔を出し、フランを驚かす様な感じで相槌を打ってくれる。


「マユエル様……とても可愛いらしいですが、その従者は危険ですのですぐ降りてくださいませ」

「危険とはなんだ、危険とは。マユエル、権力でこの男爵令嬢を国外追放にしよう」

「やめなさいよ従者!! ホントになるから、ホントになっちゃうからぁ!!」


 本当になっちゃうらしい。やはり第三王女とはいえ、男爵令嬢(次女)くらいなら簡単にぴちゃん出来てしまうのだな。


「まぁ、冗談はそこまでにして」

「……結局、従者とマユエル様は何をしているの? 魔物探し?」

「いや、もう魔物も倒したし素材も結構集めているからな。今はただ森を歩いてるだけだ」

「だけなのよぉ~」

「ずいぶんと早いわね……流石はマユエル様ですわ!」


 急に媚びを売るフランに、なんとなくチョップしておく。

 そして、別に疲れてはいないがマユエルに背中から降りてもらった。


「いたた……意味分かんないんだけど」

「意味は特に無いからな。それで、フランの方こそどうなんだ?」

「そうね、普通じゃないかしら? 自分の四年前を見ている感じね」

「ほー……え? 今、抜けて来て大丈夫なのか?」

「うん! もう一人の同級生が解体を教えているからね。周辺を警戒してくるって言って来たわ」


 この辺に魔物が居ない事は判っていただろうに。まぁ……俺も来てくれると思って待っていたが、つまりはサボりだな。

 ――よし。もう特に用事は無いし、さっさと別の場所に行こうかな。


「そかそか、順調ならそれで良し」

「なによ、結局私が心配だったんじゃない!」

「?」

「ちょ、本当に不思議そうな顔するの止めなさいよ!!」

「……はぁ。ここより北東に行けば魔物が沢山いる。川の方に行きたいならそのまま北に行けば良い」


 別に教えなくてもフランなら大丈夫だとは思う。……けど、なんとなくこのまま「はい、さよなら」というのも変な感じがしたから、それだけ教えていくことにした。


「もう、行くの?」

「まぁ。せっかくだからマユエルを鍛えたいしな」

「そう。情報助かったわ! 後で素材を分けてあげても良いわよ?」

「いや、あんな汚い倒し方した魔物の素材とか使えないから」


 最後にそうアドバイスをして、マユエルと共にその場を離れていく。

 後ろで何か言っているフランだが、せっかくのアドバイスを有効に使って欲しいものだな。



 ◇◇◇



 そろそろ正午という時間。

 俺が嘘を吐いたせいで、感情がおかしくなるキノコを疑う事なく食べたマユエルが……怒っているのに笑っているカオスな状況になっていた。


「お腹空いたし、お昼にでもするか?」

「アハハ、早く治してって言ってるのよ、うにひひひ」

「え? お腹空いてないの?」

「空いたのよ、アハハハハ」


 一口なら恐らく、十分(じゅっぷん)くらいで効果は無くなるだろう。

 治すクスリは当然持っているけれど、面白さを優先して放置をするのは仕方ないよな。


「いつもムスッとしているとの情報があったからな。そんな事は無いと思うんだが……ま、ちょっとだけ笑ってな。料理は作っておくからよ」

「うにひひひ~」


 今日の予定では、森の動物を仕留めて調理するという話がシララ校長からあった。

 作り置きしてある料理でも良かったのだが、それに従って先程捕まえた鳥と兎と森の食材を使って作っていく。


 まずは『どこでもキャンプセット』から調理器具を多数準備する。

 いつもは錬金釜でぐるぐるとやるのだが、実は俺……普通に料理も出来る系男子である。

 師匠、キャサリンさん、エレノアがアレだから、外出先でも俺がやらざるを得なかったという訳ではあるが……。


「まずは、頭を切り飛ばしまして~」


 ――バツン。


「血を綺麗に洗い流して~」


 ――ジャババババ。


「皮を剥いでいきますよ~」


 ――スッ。サッサッサ。


 赤黒色の兎が出てくる。ちょっと見た目の気持ち悪さがあるが、これは血の通う生き物なら皆同じだ。

 調理時間を短縮する為に、逆さまにして持ち歩いていて正解だったな。

 次に鳥を捌いていく。そう言えば昔……初めて鳥を絞めた時から数ヶ月は、生きている鳥を見る度に毎回悲しくなっていた記憶がある。

 今はもうそんな感情はあまり無い。きっと、罪悪感よりも感謝する事を覚えたからだろう。


「頭を飛ばして~、羽根を(むし)って~」


 羽根が時間の掛かる作業だが、なるべくスピーディーに毟り取って細かく残った毛はガスバーナーでチリチリにして落としていく。


「はぁ……はぁ……疲れたのよ」

「おっ、効果が切れたらのな。お疲れ様」

「うにゅなのよ!」


 ポンポンと背中を叩かれる。

 代わりに子供には刺激の強い、鳥と兎だったものを見せてやる。


「うにぃ~!?」

「慣れないと、森で自炊も出来ないぞ?」

「怖いのよ?」

「でも美味い。生き物に感謝して、ちゃんと味わってあげないと」


 煮たりソースを作るにはお腹がペコペコ過ぎた。だから今日は簡単に、森でバーベキューをしてみるつもりだ。

 森の山菜と鳥と兎の串焼き。中々のご馳走ではないだろつか。ただひとつ問題があるとすれば……。


「おー、やっぱり来たか。マユエル、遠い所から匂いを嗅ぎ付けて来た魔物だ。いけるか?」

「ご飯は死守するのよー!」

「早くともあと、二十分くらいは掛かるかなぁ。頼んだぞ?」


 戦闘はマユエルにお任せ。俺は調理を担当。

 魔物を寄せ付けないアイテムだってあるのだが、それだとマユエルの為にはならないと使わなかった。

 タブレットで確認すれば、この周辺に居た魔物は来ているし、普通の動物達も集まっているみたいだ。


(ま、頑張ってくださいなっと。さてさて、鉄串はどの辺に入れてたっけか……)


 戦闘の事は頭から追い出して、俺はバーベキューの準備に専念する事にした。






誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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