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第46混ぜ 人は吐いて強くなる



お待たせしました!

よろしくお願いします!(´ω`)




 


 ベミラマの森は広い。だが、一応地図はあるらしい。

 かなりざっくりとした地図だが、方角は間違っていないとシララさんの太鼓判が押されてあるらしい。


「えっと、ここがスタートで……ここの川でとりあえず休憩って感じかね? あー、こっちの湖も行っておきたいかなぁ」


 右手に着けている時計を魔力探知アプリに切り替えて、地図を見ながら自分の位置と行きたい場所に印を残しておく。

 これで万が一迷子になっても帰って来れない事はないだろう。

 薄く放った魔力が魔力を持つ生き物や物質を教えてくれる。森の手前には流石に魔物の反応は無いが、縮小されている見える範囲を拡大すると、生徒の位置や(まば)らに黄色の点が映っている。


「んー、これじゃあ……どれが誰で何がどれかも分からないか」


 近場ならば腕時計だけで事足りたかもしれないが、広大な森となると、やはり話は違ってくる。

 ――という事で、ポーチの中を漁って、この前改良を(ほどこ)しておいたタブレット端末を取り出した。


「先生、それ、なに!?」

「気になるか?」

「なる!」

「ふっふっふっ……秘密だ」

「うにゅ~!!」


 このタブレット端末。日本では動画を見たりメモ帳代わりにしていたが、この世界ではあまり使える時もなく……お蔵入りしていた物だ。

 だ! が! この度、改良をした事によって地図アプリや歩いて来た道に印を着けるなどのカーナビ的な機能が付いている。

 もしマユエルに何かあったら、一般人の俺なんかは死しか道がない。まぁ、その前に逃げるけど。

 ただ、マユエルに何かあれば後味が悪い。理由はそれだけだが……最善を尽くすには十分だろう。


「はい、起動っと」

「うにゅ……見せて」


 マユエルが俺の腕を掴み、ぐいっと下げようとしてくる。

 いつもより力が入っているという事は、余程気になるという事なのだろう。


「仕方ないなぁ……他言無用だぞ?」


 マユエルの身長からでも見えるように屈むと、何故かマユエルも屈んだ。ローブが地面に着く事は気にならないらしい。

 ホーム画面の地図アプリをタップする。出てくるのはデジタルチックな黒背景に緑の縦と横の線。


「ほら、マユエル。お前の方が魔力持ってるんだから、手を画面に触れて魔力を注いで」

「うにゅ……こう?」


 小さいお手てだが、えげつない魔力量だ。

 注がれる魔力によって、完成される地図の詳細さが変わってくる。それがどうだ、もう既にシララさんに頂いた地図は必要無いくらいになっていた。


「どういう仕組み?」

「仕組みぃ~? ただ、魔力を飛ばしてその反射を記してるだけだぞ」

「……どうやって飛ばす?」

「いや、お前だって魔法使うだろ? 魔力をイメージで可視化させて、変質させて、放出してる――それを変質させないで、ただ飛ばしているだけ」

「魔力集める……飛ばす?」

「そうそう! 手に集められる様になっただろ? それをただ飛ばす。まぁ、このタブレットを通してちょっと『電質』というか『伝質』にしているけど」


 まだ完全には納得して無い様子だが、手に高密度の魔力を集めている。


(おっ……?)


 俺と自分の手を交互に見て、何やら難しい顔をしている。


(さてはマユエル、めちゃくちゃ危ない事をしている自覚がないな?)


 (てのひら)を遠くの木に向けて、上下にぶんぶんと振っている。

 おそらく飛ばしたいのだろうが、それが上手くいかずに戸惑っている感じだ。仮にそのまま地面へと掌をぶつければ、シンプルに土が爆散するだろう。木に当てれば(えぐ)れるに違いない。

 視界に入る範囲だと、少し離れた所で魔法科の最後のパーティーに声を掛けているシララさんだけが、こちらの異常に気付いている。

 おそらく護衛の人達もどこからか監視はしているのだろうが、特に止めに来る様子は無い。


「くっくっく……流石の天才児も一発は無理みたいだな」

「うにゅ~! とーぶーのー!!」


 矢や球は放れば飛ぶ――だから、イメージもし易い。

 でも、漠然と魔力とイメージがあれば魔法が使えるとしか考えていない者達は、変質(プロセス)を甘くしか認識していない。

 つまり、魔力を飛ばすイメージが定まらない。

 空を飛んだ事の無い生き物が空を飛ぶ漠然としたイメージは出来ても、実際に飛んだ時の圧力や風や飛来物までは想像つかない様なものだ。


 魔力を飛ばすとなると……水を魔水に変える手順の時に、水にギリギリまで手を伸ばし、流し込んでいるあの感覚とも似て非なるから難しいのは確かだけど。


「錬金術にはあまり関係無いので、先生は教えませんよ。覚えたとて、使う場面は限られてるし」

「にににににぃ~」


 実を言うと、既にマユエルは拳銃という『お手本』を所持してはいるのだ。

 いつ気づくのか、ちょっとだけ楽しみにしておこうか。

 とりあえずタブレットの方の地図は完璧に近い。チェックポイントを幾つか付けて、ひとまず待機かな。


「マユエル、今の内にとりあえず地図を確認しとき」

「にゅにゅにゅにゅにゅ!」


 地図を縮小させ、全体を見る――森を抜けた先には海があるみたいだ。ただ、ジャングルさながらの森を抜けなくとも安全に海には行ける。

 だから、わざわざ危険な森を通る者なんてほぼ居ないだろう。

 この森へ来る者の大半は、素材を採取したり、魔物や動物を狩りに来る冒険者ぐらいだ。まぁ、過去にいろいろと探索されているだろうし、お宝が眠っているだとかの期待は薄い。


「先生、もう出発する?」

「そだな。シララ先生の合図待ちだ」


 マユエルは無駄に魔力を消費していると気付いて、飛ばす練習は割りとすぐにやめていた。


 俺達が最後になったのには、幾つかの配慮があってのことだ。

 一番生徒の多い魔法科と、一番少ない錬金術科はだいたい同じ場所でのスタート。それ以外の学科の生徒達は、別の離れた場所から入る事になっている。

 つまるところ、マユエルが王女だから。先に魔法科の生徒が入り、魔物が減った後に探索をしろという事である。

 マユエルはそういう事に関する頭の回転は速い。自分が最後の理由についても理解しているだろう。


「だが、安心しろマユエル。森に入っちまえばこっちのもんだ。さっさと課題を終わらせて、素材集めだ。いいな?」

「うにゅ!」


 元気な返事。とりあえず問題は無さそうだ。

 肩から掛ける拳銃のホルダーも装備したマユエル。俺も一通りの装備は整えてある。後は、森に入るだけだ。

 護衛は勝手について来るだろうし、森の中でも雇われた冒険者達がパーティーで徘徊しているとシララさんに聞いている。


「あっ、そうだ。マユエル、いつ何が起こるか分からないのが自然だ。逃げる時は逃げるぞ。生きる事を優先して行動するのがお約束な」

「分かったのよ」

「よろしい! あと……残念なお知らせだが、なるべく拳銃は使わせないからな?」

「うにゅ~!?」


 今日はキャロルさん以外の護衛が見ているから、念の為に。

 それに、動物にしろ魔物にしろ、貫通ダメージは素材を傷付ける。それなら、マユエルの精霊魔法を上手く使った方が良い。せっかくの水の精霊なのだから、な。


「お待たせ。ホムラちゃん、マユエルちゃん」

「やっとですね」

「えぇ。ホムラちゃんはしっかりサポートをお願いね。マユエルちゃんも楽しんで」

「はいなのよ~」


 シララさんに出発の合図を貰ってら俺達は森の方へと歩いて行った。


「じゃあ、森に入ったら走るからなぁ~。遅れずについて来る様に。レッツゴー」

「れっつごーなのよ~」


 ここで待機する事になっているシララさんや、給仕科の一部の生徒さんに手を振って、俺とマユエルは森へ入って行った。

 基礎体力が向上したかと言えば、それはまだまだではあるものの、それは俺がマユエルの様子を確認しながら進めば大丈夫だろう。

 入口付近の素材は帰りにでも採取するとして、まずは奥地を目指して行こうか。



 ◇◇◇



「マユエル、ゴーゴー」

「ごーごーなのよ~」


 木々の隙間を走り抜ける――俺が先導して、森を十数分ほど駆け抜けると、ちょっとした広場に躍り出た。

 魔物との遭遇率の低さには、安心を通り越して、俺もマユエルもガッカリしていた。

 ただ、マユエルの休憩には丁度良いタイミングであった為に、木を背に休憩にでもしようか。


(前日に冒険者が少し削ったらしいが……流石になぁ。タブレットを見てこっちから出向かないと……か)


 俺はポーチに入れていたタブレットを取り出して、周辺を見てみた。

 この広場に到着するまでに、恐る恐る歩いていた魔法科のパーティーの何組かとすれ違った訳だが……そいつらの居る場所にも、今俺達が居る場所の近くにも魔物の気配はほぼ無いに等しかった。

 普通の動物は居るだろうが、もう少し奥か東の方に行かねば魔物とは遭遇しないだろう。まぁ……行けばそれなりに戦う事にはなるだろうが。


「先生、綺麗な花あった。元気な声が聴こえる」

「それ、毒草な。でも使えるから持って帰ろう」


 マユエルから受け取った花『マカルヒ草』と言って、黄色い花弁には触れると痺れる作用のある粉が付いている。少量だとそれほど効果は無いが、集めてちょこっと手を加えれば、麻痺毒が完成する。

 綺麗な花には(とげ)がある。そして、毒もあるとはこの事だな。

 (よう)するに使い方の問題で、毒にも薬にも変える事が出来るのが俺達錬金術師だ。素材を『活かす』も『殺すも』も全ては発想と腕次第という話になる。


「マユエル、そろそろ魔物の方に行こうと思うけど……心の準備は大丈夫か?」

「うにゅ……先生が考えてくれた技なら、頭に入ってるのよ?」

「オーケー。自信は練習や訓練の先で生まれるものだ。そろそろ休憩も大丈夫だろ? 行ってみようか」


 マユエルの戦闘における、水属性の精霊を使役しての技。思い付く限りは考えてあげた。

 まぁ、圧倒的な魔力量で押し流す作戦なのだが……無詠唱でとか、最小限でとか、裏をかいてとか、そんなのは弱い者の作戦だと思っている。

 力ある者はただその力を振るえば良いだけだ。それが才能であり、正しい力の(もち)い方だ。

 小手先の技なんて自分には力が無いと言っているに等しい。そんなのはマユエルの英才教育上、必要はない。


「どうする? ここからは、マユエルが前で歩くか?」

「良いの~?」

「まぁ、ずっと俺が先導するのもな。いつ魔物が来るかも分からない緊張状態で進む大変さを覚える授業でもあるからな」

「精霊さんの力は使って良いの?」

「当たり前だろ。じゃなきゃ、お前がマユエルである意味が無くなる」


 力を隠すとかナンセンス。

 たしかに力を持つ者は余計な厄介事も背負いやすいが、そんなのは嫌だと断れない奴が悪い。ホムラ式教育では嫌は嫌、好きは好き、客は金、邪魔者はぴちゅん――そう教えていく。


「うにゅ!! 先生、ついて来る」

「あいよ」


 てるてる坊主のまま走るマユエル、なんだかその姿は森に住み着く妖怪みたいだ。

 妖怪『うにゅ』――出会ったら最後、うにゅうにゅ言いながらつけ回してくる。みたいな。


「とりあえず東の方に前進な」

「分かったのよ~」


 俺らが移動を開始すると、少し離れた場所で待機している三人の護衛達も動き出した。

 その様子をタブレットで確認して、マユエルの後を追い掛け始めた。


(ふむ……護衛が一人()ったな)


 普段ならそっち側の事情を気にする必要はないが、今は少し気になる。というか、しなければならない。


「先生、ついて来てる~?」

「来てる来てる」


 振り返るマユエルにそう返事をすると、また前を向いて走り出した。

 それからしばらく走り、ついに――その時がやって来た。


「先生! 来た、来たのよ~っ!!」

「そうだな。狼っぽい魔物か……たぶん、速いぞー。ガンバレー、マユエル、ガンバレー」


 マユエルが狼の魔物三匹と対峙する様子を、俺は見下ろして(・・・・・)いる。

 木に登り、安全な所から無責任に応援の声を飛ばす。


「う、うにゅ~!」

「おいおい、自分を守ってるだけじゃあ倒せないぞぉ」


 マユエルはまず、高密度の水で自分を囲った。

 狼が突進をしても突破出来ないのを見るに、教えた通り、水を操って横への流れを加え……直線の攻撃に対して上手く対処しているみたいだ。

 だが、それだけに集中していれば結局はじり貧になり負ける。


「へいへい、精霊ちゃんが泣いてますよぉ~」

「わかってるのよッ!」


 マユエルが両手を前に出し、頭の中でイメージを固めていっている。

 あのポーズはおそらく、アレを出すのだろう。でも、まぁ……あの技に限らず、マユエルの魔法は少し特殊だ。

 イメージや詠唱、それはたしかに人それぞれ十人十色ではあるものの、その中でも特殊と言ってもいいだろう。



「精霊さん、私の声に

水牢に閉じ(うにゅ)水牢に溺れる(うにゅ)――死の水(うにゅ)』!!」



 初めて聞いた時は意味が分からなかった。ま、今でもよく分からないが……それでもマユエルと精霊の間には通じるものがあるらしい。

 それでも技は発動しているのだから、『何故』とは言えても『あり得ない』とは言えなくなってしまう。

 マユエルの前に居た三匹の狼が、宙に浮く水の球体の中で……溺れていく。


「ふふふ。素材を(いた)めにくく、尚且つ血も見ない……中々に良い攻撃だな」

「わ、わ……うにゅ~! 成功したのよぉ~!!」


 ぐったりと動かなくなった狼達を地面に降ろし、マユエルは初めての戦闘を勝利で飾った。

 俺は木から飛び降り、喜んでいるマユエルの横を……通り過ぎて狼の元へと駆け寄った。


「ふふ、毛皮を()いで、牙を引き抜いて……おっと、その前に内蔵系や骨の確保が先だった!」

「せ、先生……?」

「マユエル、錬金術師の仕事はここからだぞ! 素材の採取だ。ほら、このタッパーを持って!」


 血を見ずに戦闘を終わらせたマユエルの前で、狼をナイフで解体していく。血が地面に広がる。

 タッパーの中にぽとっ……ぽとっ……と、血の付着した内蔵を次々に入れていく。


「……ぅぇ。先生……ギブなの……よ」

「そか。どうしても吐きそうになるなら、吐いて慣るしか無いぞ。倒せば都合よく、解体された綺麗な素材が出てくる事なんて無いしな。解体屋でやるか、自分でやるかの二択だ。素材が駄目になるくらいなら自分でやるしかないだろ?」


 とうとう我慢しきれなくなったのか、マユエルは木の根元へと走って嘔吐してしまった。

 最初はほとんどの人がそうなる。だから、気持ちは分かる。

 もし、本人が本気で嫌がるならさせはしないが……な。


「ふんふふーん。おっ、魔石もちゃんと確保しとかないとな」


 吐き続けるマユエルが落ち着くよりも先に、解体は終わった。

 マユエルは戦闘で勝利し、俺は素材がホクホク。中々の結果で終わったのではないだろうか。


「マユエル、初勝利としてこの魔石は持っておくと良い」

「いや……いらないのよ……」

「マジか!? 貰っちゃうよ? 良いの? 良いの?」

「……ぅっ。また吐きそうなのよ……」


 狼の死体を見てしまったマユエルが、また木の方へと走っていく。

 少しずつ、でもなるべく早く、精神を狂わせていって欲しい。まともが何かを忘れた頃には、マユエルもきっと立派な錬金術師になっているだろうな。


 ◇◇◇







誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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2020/1/11~。新作ラブコメです!٩(๑'﹏')و 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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