第45混ぜ 森へ出発!
お待たせしました!
よろしくお願いします!
アトリエを出た早朝。生徒達の集まる校庭に向かうと、まだ集合時間前だというのに結構な人数が集まっていた。
今日の主役は二年生の生徒さん。マユエルはまだ八歳だが、普通の子達はみんな十一歳そこら……まぁ、まだ子供っちゃ子供だ。
眠そうにしている子、今から楽しみなのか元気な子、中には緊張している様子の子も居る。みんな一様にローブ姿ではあるものの、剣を携えていたり、杖を持っていたり……武器や道具を入れる鞄なんかはちがっていた。
「キャサリンさん。あれ……絶対に給仕科の生徒ですよね?」
「よくお分かりになられましたね。たしかに、私の受け持つ生徒達ですね」
他の子達がバラバラに待機している中で、給仕科の生徒さん達だけは、二列に並んで静かに待機していた。
(給仕科だけは全員揃ってるんじゃないか? キャサリンさんの短期間での指導が如実に出てるなぁ……)
「あ、新しい先生だわ!」
「ホントだぁ! たしか……れんきんじゅつ? の先生だったよね」
「れんきんじゅつ……ってどんなのなの?」
俺とキャサリンさんを発見した途端、何人かの女生徒がこちらに向けて走ってきた。
給仕科の生徒さん達は少し遠くから、俺とキャサリンさんに揃って一礼をしてくれていた。見事な一礼だ。
「はいはい、おはようおはよう」
「先生! 『れんきんじゅつ』って何ですか?」
「秘密でーす」
「えぇ~、何で秘密なんですか!」
「えっと、キミは何科の生徒さんかな?」
「私は魔法科です!」
「うんうん。なら今は、魔法の事について詳しくなれば良いと先生は思いますよ」
秘技――『お茶を濁す』。
朝から元気な子供の相手なんて疲れるだけだし、好奇心旺盛なのは良いことだけど俺がそれに応じるかどうかは、また別問題は訳で。
子供達はそれでも食い下がってくるが、泣かせない程度に上手く回避していく。そのまま校庭を突き抜け、生徒達の集まっている場所へとやって来た。
「はい注目! もうすぐ先生達も来ると思うので学科ごとに並んで待ちましょう! はい、給仕科みたいに二列で並んでください。まずは――」
これはシララさんにお願いされていた事。早く来ている生徒達をざっくりで良いから並ばせておいて欲しいと頼まれていた。
反骨精神の塊みたいな生徒は運良く居なかったみたいで、みんな指示通りに素直に並び始めてくれた。ちゃんと先生と認識されていて……少しだけホッとしたのは内緒だ。
キャサリンさんはさっそく給仕科の生徒達の前に立ち、何かお話をし始めていた。
「先生、先生は何歳ですかー?」
「何歳に見えます~?」
なんて、冗談混じりに返してみたら……答えてくれる子が思った以上に多かった。
「あんまり大人っぽくないよねー?」
「パパよりも若い! うーん、六年生と変わらないんじゃない?」
「でも、先生になるのって難しいってボボン先生が言ってたよー?」
無邪気に話している子達を見てると、何だか平和って感じがするな。
これから森に入るというのに、緊張感の欠片も感じられない。
(まぁ……今くらいはそれでも良いか)
それからしばらく質問責めにあっていると、先生方が次々に登校してきた。各学科で選ばれた六年生達も集まりつつあった。
「じゃあ、先生の出番はここまでという事で。みんな、頑張ってねー」
「はーい」
この後はシララさんのお話があったり、誰か知らないけど先生からの話があってから出発の流れになっている。
俺はポツンと端の方で待っているマユエルの方へと移動した。
「快晴なのにてるてる坊主とは趣深いな」
「うにゅ~? 先生人気者?」
「珍しいだけだろうよ。歳の近い先生ってのがな」
マユエルとそんな話をしていると、遠くからタタタっと誰かが走ってくる姿が見えた――白い髪に精悍な顔立ち。そして、修道服……ビスコだった。
「ホムラ、おはようございます」
「お、おー? どうしたんですか?」
「ふっふっふ。実はホムラを驚かせようと思いましてね、今日は私もご一緒するんですよ」
それはとても喜ばしい事ではあるけれど、女子生徒達が色めき立っている。
十一歳の年頃と十五、十六歳の年頃の女の子達がザワザワだ。
「ビスコ……は、何の役割なんです?」
「えぇ。それがどうやら、毎年ですね精神のケアをしてあげる必要があるらしくてですね……」
「なるほど。動物ないし魔物と遭遇する事になるでしょうからねぇ。逞しい子達は多いですけど、中には引きずる子も居るでしょうな」
貴族の子は狩りの経験が多かったりするし、平民の子も動物の死体は大丈夫だろう。だからきっと、メンタルケアな必要なのは主に女の子。
たしかに今回は、ビスコの出番って感じがするな。
「……って、マユエルとか駄目じゃね?」
「だめじゃない」
「いや、マユエルお前……狩りの経験は?」
「ない」
「動物を捌いたりは?」
「ない」
「生き物をぴちゅんした事も無いだろ?」
「ない」
無い――つまり、狩り初心者。
もしかしたら、簡単にやってのける可能性もあるが、それはそれで怖いからそうならないで欲しい。
薬草とかの植物採集なら問題ないだろうけど、生き物の素材の採集に関しては……自分で狩るか、死体漁りのどちらか。新鮮な素材を手に入れるには、結局一択になる――自分で狩るしかない。
「マユエル、慣れるしかない。こればっかりは本当に慣れるしかないぞ?」
「うにゅ?」
「今日は返り血パーティーになるなぁ……汚れ落とし液が無くならないと良いけど」
「物騒なのよぉ?」
これも先生の仕事の範囲なのかは分からない。
だけど、錬金術師にとって素材は命。言葉通り命を賭ける価値がある。道具、素材、経験値。これは命を賭けるべき代物。
マユエルはまだ若く、錬金術師にもなっていない若輩者。でも、今この瞬間とて錬金術師になろうとしていて……それはローブの下に隠してる拳銃が物語っている。
「戦闘訓練はしたけど、訓練と実戦は違うぞ。死ななきゃ助けてあげる……それだけは覚えておきな」
「分かったのよ!」
良い顔だ。これなら幾らかはマシな結果を残せるだろう。
(ま、何かあったら死ぬのは俺もなんですけどねぇ……)
その辺は注意しつつ、マユエルには力の使い方を覚えて貰う。それが出来れば今日は上出来だろう。
「皆さん、おはようございます」
シララ先生の話が始まった。そろそろ出発の時間みたいだな。
◇◇
「お前達、パーティー毎に集まって整列! 早く出来た学科から出発だぞー!」
いかにも肉体派の男性教諭が、二年生達に声を掛けている。その間に、俺達先生側も馬車の荷台に乗り込む準備を進めておく。
学校の前には豪勢というか、幾ら掛かったのか気になるくらいに馬車が停まっていた。
「ホムラちゃん達は最後尾の馬車に乗って貰えるかしら?」
「あ、はい。あの、シララ校長……もしかして、この行列で街中を行くんですか? 目立って仕方ないと思うんですけど」
「そう言えばホムラちゃんは王都出身じゃなかったわね。ちゃんと御触書を出してあるから大丈夫よ。毎年の事ですもの」
ひとつの馬車で五人は乗れるだろう。ざっと数えただけでも四十台近くはあるように思う。
荷物も多いから仕方がないとはいえ、こんな行列は年間でもそれほど多くは無いだろう。
「シララ校長先生。私も先生と一緒」
「マユエルちゃんは……そうね。ホムラ先生と一緒が良いわよね」
「お話中失礼致します。シララ様、給仕科の生徒十四名滞りなく乗車致しました」
やはり一番は給仕科の生徒さん達だった。
たしか、少し前に聞いた話だと……先頭を王都の騎士団の方が走り、先生と先生で生徒の乗る馬車を挟み、そして最後尾に騎士団や護衛方達という布陣で走るらしい。
安全かどうかなんて、結局は盗賊が出てしまえば関係の無い事だが……移動中の不祥事は流石に誰の責任にもならないだろう。責任者のシララさんだけは危ういが、生徒が怪我でもしない限りは問題にならないと思うし。
「キャサリンさんも一緒の馬車ですよね?」
「当然にございます。ホムラ様、ビスコ様、私の三名と聞いておりましたが……マユエル様を含めて四人でございますね」
「それじゃあ、もう乗りますか……って、ビスコはどこに?」
「先程、女子生徒に囲まれておりましたので、もう少し時間が掛かるかと」
ビスコはそのまま放置……という考えが一瞬だけ頭に浮かんだ。
そして、心がそれで良いと訴え掛けてきている。自分には素直でいた方が、きっと得。絶対にお得。
――という訳で、先に馬車に乗り込む事にした。出発までに来なければ他の馬車に乗ったと思えばいい話だ。
「先生、どれくらいで着く?」
「んー、知らん。近いらしいから、王都から出られればすぐじゃない?」
「わくわく」
「それは良かったな。到着までゆっくり休んどけよ~、昼飯は自分で用意しなきゃいけないみたいだしキツいぞ」
マユエルが雨避けテント付の荷台から顔を出してキョロキョロと外を見ている。戻ってきて座ったかと思えば、落ち着きが無い。
ぽわぽわしているから分かりづらいが、意外と緊張しているのかもしれない。
銃も改造してあげたし、後で回復薬も配られるだろうから心配事はあまり無いと思うのだが……もしかすると、緊張よりも好奇心なのかもしれない。
それから少しして、そろそろ出発というタイミングでビスコはやって来た。
マユエルが居る事に少しだけ驚きつつも、荷台に乗り込みすぐに腰を降ろした。
「ギリギリ間に合いましたね……」
「これだからイケメンは。べ、別に羨ましくなんて無いんだからね!」
「うにゅ~? ……うらやましくなんてないんだからね!」
「ホムラ、マユエル様に悪影響を与えるのはどうかと……」
ビスコの注意は最もだけど、こればかりはどうしようもない。マユエルが勝手に真似をするからだ。
たしかに俺は注意をしないけど、それは、注意するポイントが無いのだから。そんな事をすると『』俺の真似をするマユエルを俺が注意する』……みたいな、意味の分からない状況になる訳で。
「ビスコの格好良さも、女子生徒に悪影響では?」
「では~?」
「マ、マユエル様まで……。ですが、別に私の場合は何も問題はありません! 私がしっかりすれば良いのですから。しかしホムラの場合は……どうなってしまうか、想像がつきませんね」
「ビスコ、想像力は基本中の基本ですよ。えっと……」
仮にだが、このままマユエル悪影響が及んでしまえば最終的に国王様や王家の誰かしらが出てくるだろう。そして、圧力で解雇。アトリエの取り壊し、路頭に迷い、盗賊の道へ。
「うん。まぁ、盗賊も人生ですよ。キャサリンさん、一緒に一攫千金を狙っていきましょう」
「どういう想像力でそうなったんですかっ!?」
「えぇ、どこまでもお供致します」
「キャサリンさんは止める側であってください!!」
「宝物庫の場所は知ってる」
「駄目ですよ! マユエル様、ホントに駄目ですからね!?」
ガタンと揺れが起きて、慣性の法則が働いた。どうやらようやく出発したらしい。
出発したばかりだというのに、ビスコはもう既に、疲れている様子だった。
「あ、マユエル。武器ってどうしてる?」
「うにゅ、落ちない様に内側のポケットに入れてるのよ?」
「武器を挟んでおくというか、セットしておく為のホルダーを準備してあげたから森に入る前に着けてあげるよ」
「うにゅ! 先生、ありがとうなのよ~」
王都を出ても、盗賊や反乱軍、魔物の群れが現れる事は無かった。
何の問題も起きずに、一時間も経たずして近くの広く大きな森『ベミラマの森』に辿り着いた。
ここで、ビスコやキャサリンさんとは離れる事になる。ここからはもう仕事の時間。二人には二人の仕事があって、俺にも俺の仕事がある。
馬車での会話の中で、マユエルの初冒険のお土産話を持って帰って来るという約束をキャサリンさんとビスコと交わした。
それはマユエル次第になるだろうけど、とりあえずボチボチとマユエルの応援はするつもりだ。
そして……ちゃっかりと、自分用の素材採取でもしておく予定でもある。
たまにエレノアが、ミルフさんとのクエストのお土産として持って来てくれる事もあるが、何せ雑な採取をしてる事が多い。
せっかく新鮮な素材を手に入れるチャンスだ。これはもう、やるっきゃないでしょう。やるっきゃね!
◇◇◇
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