第41混ぜ それ、うにゅなのよ?
お待たせしました!
よろしくお願いします!
※キャロルを獣人としていましたが、半獣人でした。ペコリ
そして翌日。今日から授業が始まる、出勤二日目。
昨日の内にいろいろと準備をして、本来なら朝は落ち着けるのだが……そろそろ学園へと出勤する時間だ。
珈琲でも飲んでもう少しゆっくりしたいのだが、キャサリンさんが運動不足の解消という名目で走らせようとした為に――今から出発しなければならない。
「ホムラ様、準備運動はお済みですか?」
そんな事を言うキャサリンさんの服装は、これから走るにも関わらずメイド服。まぁ、いつでもメイド服なのだが。
俺は白衣は着ずに、動きやすい服装に見た目よりもかなり多くの物が収納可能なポーチを腰に巻いて服装も整えた。
エレノアはまだクエストから帰って来てないみたいで、京野見送りは無いみたいで……少し残念だ。
「いつでも大丈夫ですよ」
「では、参りましょう。遅れずについて来てくださいね?」
「……頑張ります」
アトリエを飛び出して、すぐに立ち並ぶ建物の屋根上に飛び乗るキャサリンさんを見て、俺は溜め息を漏らした。
(普通の道を行って欲しかったけどなぁ……)
それでもついて行くしかないと『接着型壁歩き靴』で壁を駆け上がり、キャサリンさんの後を遅れずについて行く。
人を避けて走らなくて良いというメリットはあるものの、その分、ペースを上げるキャサリンさんのせいでシンプルに疲れる。
ただ、予想していた到着時間よりもだいぶ早めに学園へと到着する事が出来た。
汗だくの俺と、涼しい顔をしたキャサリンさんを訝しげに見る警備員さんにバッチを見せる。もしかすると、遅刻したから走って来た人と思われたかもしれない……。
学園へと入り、とりあえず校長室でシララさんに挨拶する。そこでキャサリンさんとは別れ、俺はアトリエへと向かう事にした。
◇◇
アトリエの中で冷たいお茶を飲みながら優雅に寛ぐ。少し休んだらビスコとキャサリンさんの為に昼食作りをしなければならない。
午後の授業に関しての準備は、まだ学生達は午前中の授業を受けてる頃だろうし、昼休みを挟む為、慌てる時間じゃない。
「昨日は中華だったし……今日は何にしようかね?」
ビスコもキャサリンさんも、午後からの事を考えるとサンドイッチみたいな食べ物の方が良いかもしれない。
片手間で食べられるし、アトリエで食べて行かなくても良くなるし。
「よし! 思い付いたからサンドイッチにしよう! えっと、材料、材料……っと」
お茶タイムを一旦止めて、ポーチから必要な物を取り出して錬金術の準備を始めた。
サンドイッチくらいなら普通に作っても良いのだが、三人前の分量となると錬金術でもたいして面倒臭さは変わらない。むしろ、掻き混ぜるだけの錬金術の方が少しは楽だろう。
「ぐーるぐーる、ぐるぐるぐる」
大きくゆっくりを二回、小さく速くを三回。このペースを守って混ぜること十数分――釜の中で、三人前ものサンドイッチが完成した。
試しに一つ、タマゴサンドを手に取って食べてみる。
「うん。普通だな」
美味くもなく不味くもなく。ただのタマゴサンドだった。好きな人は好きと言うかもしれないが、どうしようもなくタマゴサンドはタマゴサンドだ。
カーンカーンカーン――チャイムらしき鐘の音が三回ほど響いた。
「んー、これが終わりの合図か? じゃあ……これから昼休みってことかな?」
サンドイッチをビスコとキャサリンさん用に分けて、二人が来るのを待つ。
だが、最初にやって来たのはその二人では無かった。
「うにゅ~」
ガチャっとドアが解錠される音がして、マユエル=ミュニニ=シュレミンガルドその人が、アトリエに入って来た。
鍵は渡していたし、錬金術科の生徒だからアトリエに来るのは何もおかしい事じゃない。だが、普通なら食堂とか教室で昼御飯を食べてから来るものだろう。
「早いな。さすが、友達が居ないだけある」
「うにゅ~!!」
ただ、可哀想な事にマユエルには友達が居ない。自己申告だから周りの人がどう思っているのかは知らないが、真っ先にアトリエに来る理由は……つまり、そういう事なのだろう。
マユエルも言われて怒るくらいなら、ここに友達の一人でも連れて来れ欲しいものだ。
「冗談ではないけど、それは置いておいて……昼飯は?」
「持ってきたのよ」
「あるなら良い。うん。だから、サンドイッチを見るのはやめようね?」
「美味しそうなのよ?」
サンドイッチ達を見ながら、マユエルがそんな事を言い出した。
だが、また食べ物を渡そうとすれば護衛が窓を叩きに来るのだろう。
昨日は、ハイピスさんとはまた別の人が護衛に付く流れだったが……腕時計を確認すると、やはり外に誰かが居るみたいだ。
「自分のがあるだろ?」
「うにににに」
「諦めない顔をしても駄目だぞ、また厄介なのを呼びかね……」
バンッ――と窓を叩かれる音がして、嫌な予感を感じながら見てみると……また別の女が窓を叩いていた。今回はまだ何もしていないにも関わらず、だ。
「お前の所の護衛はどうなってんの? 人材不足なの?」
「キャロルなのよ~」
名前を聞いたとて、何かが変わる訳でもない。
むしろ、変な奴に意外にも可愛らしい名前が付いていた、という違和感が強くなっただけである。
マユエルにドアを開けて来る様に指示を出す。するとキャロルは、アトリエに入ると真っ直ぐに俺の方へと向かって来た。
「お嬢様が欲しがった物は、速やかに譲渡しなさい!!」
そう、一言だけ言い放った。ハイピスさんとは真逆のタイプらしい。
厳しめマユエルの行動を制限するハイピスさんとは逆に、マユエルの行動を甘やかして許すキャロルさん。両極端の二人だ。
「マユエル、お前の護衛は極端過ぎるぞ。もう少し間を取った奴を雇った方が良い」
「キャロルは優しい」
「お、お嬢様! 勿体無きお言葉です!!」
これは、きっとアレだな。先にキャロルがマユエルの側付きになって、誰かがこのままじゃ駄目だとハイピスさんを付けたのだろう。
王族についてはよく知らないけど、ちゃんとした人も中には居るらしい。
「はぁ……マユエル、駄目なものは駄目だ。欲しければ自分で作る事だな」
「貴様、お嬢様を悲しませるな!!」
「知らん」
「なにを~~ッ!!」
昨日のハイピスさんは年上の感じがしたが、このキャロルという奴はおそらく年下だろう。
背も低いし、声色も若い。マユエルよりは当然上だろうけど、まだ若いのには違いない。
それはつまり、若いけど王女の護衛に付けるくらいには優秀。そういう見方も出来るが……今のところそういう感じもしない。
「キャロル、すてい」
「はい、お嬢様!」
「何だか犬みたいな奴だな」
「誰が犬だ! 私は立派な半獣人だ!」
キャロルの言葉に耳を疑った。獣耳も尻尾も無い女が自分を半獣人と言っている状況に困惑している。
立派に国に調教された飼い犬である事を自嘲して獣人と言っているのだろうか? だとしたら、獣人さんに失礼な奴だ。
「疑っているみたいだな!」
「そりゃあ……まぁ?」
「見てろ――解除ッッ!!」
ピョコンピョコンと獣耳が生える――いや、急に現れたことから隠していたと言った方が正確かもしれない。それは、尻尾も同様に。
半獣人なら……その身体能力の高さや聴覚や嗅覚などが人よりも優れてる点で、確かに護衛にはピッタリな種族かもしれない。その中でも、その特徴ともいえる部分を消せる能力を持つとなれば尚更に。
「ほ~」
「……感想はそれだけか?」
「いや、それ以外に何があると?」
「あ、あるだろう! なんか、こう……凄いみたいな」
「あー、はいはい。凄い凄い」
「斬るぞ貴様!!」
だいたいは把握出来た。こいつはきっと放置してても問題ない奴だ。
「あと、前の人にも言ったけど護衛なら、アトリエの中に居て良いぞ……邪魔しないならな」
「フンッ! 貴様からの指図は受けないが、お嬢様の近くに居た方が良さそうだ」
そのタイミングでドアがノックされる。コンコンと二回だけ。
決して窓を叩くのが正式な合図では無いことを、ちゃんとマユエルから伝えて貰わなくてはならないな。何人くらい代わりが居るのかは分からない護衛達に。
「マユエル」
「はーい」
「お嬢様!? おい、お嬢様に雑用をさせるとは何事だ!」
「もう……流石に面倒だな。邪魔と判定しても良いレベル」
マユエルに何かを頼むと邪魔が入る。王女という立場はやはり可哀想なものみたいだ。
おそらく、自分で選んで自分で行動する事さえ制限されるのだろう。
「キャロルさん、ここではマユエルの行動に制限は無いんですよ。やりたい事でもさせない事はありますし、やりたくない事だってさせますし。邪魔をするなら、外で待機して貰います」
「うっ……しかし、お嬢様に雑用など……」
その隙を見計らったマユエルは、トタトタと走ってドアを開けた。二人一緒のタイミングだったのか、キャサリンさんとビスコは一緒だった。
マユエルに軽く礼を言うキャサリンさんと、仰々しく礼を伝えるビスコ。この世界だと普通なのはビスコなのだろうが……マユエルはそう嬉しくは無さそうな表情を浮かべていた。
(礼を告げた際に下を向くから、みんなその表情に気付かないんだろうな……)
隣を見ると、キャロルはまだ微妙な表情をしていた。ハイピスさんよりはまだやり易い気がして、威圧してくれたキャサリンさんには今更ながらに感謝しないといけない。
「キャサリンさん、ビスコ、サンドイッチを用意しておきましたので……持っていってくれて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、ホムラ様」
「お昼どうしようかと思っていたので助かりましたよ……。お金が入りましたら材料費くらい出しますね」
それから少し会話を交わし、二人は各自の持ち場へと戻って行った。
「材料費出せば、作ってくれる?」
どうしてもサンドイッチが食べたいのか、マユエルがそう提案してきた。王族だからもっと良い物を食べている筈なのに、不思議な子だ。
「出すなら……まぁ、良いけど。そんな美味しい物じゃないぞ? マユエルが普段から食べてる方が絶対に美味い」
「プリンも食べたい」
「あー、そっちメインだなさては」
「キャロル、お金持ってる?」
「あ、はい。少しなら……」
キャロルが財布を取り出して中から出てきた金額は、銅貨五枚。本当に少しだった。定食屋で安い定食を食べれる程度の金額しかない。
護衛なら、それなりの金額を貰えてると思ったのだが……この国って意外と貧乏なのだろうか。
「キャロルさん……意外と苦労してるんだな。金はいいから、マユエルと二人でお食べ……」
「おい、なんだその目は! 違うぞ、偶然だぞ! 今日たまたまお金が無かっただけだからな!!」
「お金……足りない?」
マユエルは別の心配しているが、そうじゃない。
金は足りてるっちゃ足りてるが、それを取るのが可哀想なだけだ。さすがに俺も、そこまで鬼じゃない。
「無理するなよ、キャロルさん。食べな、サンドイッチ、食べな」
俺はキャロルさんの肩にポンと手を置いて、サンドイッチを全部あげる事にした。
サンドイッチが無くても他に食料はあるし、特に問題はないからな。
「くっそ~、本当に失礼な奴だな!!」
「美味しいのよ~」
「お嬢様!? まずは私が毒味しませんと!!」
マユエルはツナサンドを手に取り、キャロルさんは照り焼きチキンサンドに手を付けた。
「……(ムシャムシャ)。な、なかなか美味しい……くっ」
「それは良かった。じゃあ、俺もご飯にしますんで……午後の授業まではゆっくりしておいてください」
「どこ行くの?」
「外だよ、外。良い天気だしな」
「私も行く。サンドイッチ? は、外で食べた方が美味しそう」
マユエルは中々に優秀みたいだな。サンドイッチは外、正解だ。
俺が鞄を取って外に出ようとすると、マユエルが今日もてるてる坊主みたいな格好のままついて来た。それつまり、キャロルもついて来るということだ。
三人で外に出ると、校庭の方では既に遊んでいる生徒をチラホラ見掛ける。
アトリエは学園の端の方にあるから滅多に人は来ない場所だ。落ち着いて食べれるという意味では、かなり良い場所と言える。
「この木陰あたりで良いかな」
「お嬢様、今なにか敷くものを……」
「大丈夫。先生、座って」
「ん? まぁ、座るけど」
木を背凭れにして、腰を降ろす。心地よい風が吹いて気持ちが良い。
このまま居眠りなんてしたら気持ちが良いに違いない。そんな事を考えていると……木を背凭れにした俺を背凭れにする様にして、猫みたいに、胡座をかいている俺の足の間にマユエルはちょこんと座った。
「お、おお、お嬢様ッ!!」
「キャロル、サンドイッチ~」
のんきにサンドイッチを頼んでいるが、キャロルの様子は慌ただしい。王族が平民と戯れる事がそもそも無いのかもしれない。
でも、奴隷だって居る世界において、王族が平民を椅子の代わりにするのは……まだ、可愛げがあるんじゃないだろうか。
「でも……重いし、食いづらいな」
「うにゅ!?」
「冗談だ。とりあえず休もうぜ」
「最低の冗談なのよ? うにゅなのよ?」
なるほど。どうやらマユエルは『うにゅ』らしい。
「あーあー!! やっと見付けたっ!! あんた昨日はよくも呼び出しといてぇ……えぇ~!? マ、マユエル様ァ!?」
金髪のアホ面が怒ったり驚いたり、とても大変そうだ。
たしかに昨日はすっぽかした。だが、最初に騒いだのはコイツだからセーフだな。
という事で……とりあえず休みますかね。
「って! あんたは何ゆったりしてんのよ!!」
「うにゅ~?」
「あっ、あっ、マユエル様では無くてですね……その、そこに座ってる奴のことででして……」
「ぷぷぷ」
「何笑ってるのよ!!」
「うにゅ~?」
「あー!! あーよ! もう、あーよっ!!」
こいつは『あー』らしい。異世界の若い子って難しいね。
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