第4混ぜ クール系剣士に依頼を
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ブクマしてくださってる方もそうじゃない方も、とりあえず読んでくださり、ありがとうございます٩(๑'﹏')و
「ふぁ~ぁ……よく寝た」
疲れが抜けきるだけの睡眠が取れた。師匠が居ないだけで、こうもグッスリ眠れるとは。眠っている最中に、急に起こされる事が無いって素晴らしいことだったんだな。
「もう、お昼前か。行こうかな……冒険者ギルド」
太陽の位置からだいたいの時間を調べる。なんだかんだで師匠の言い付けを守ってしまう辺り、俺はやっぱり弟子なのだと自覚する。
一応、自分の装備はしっかりと整えておく。靴は壁をも歩ける『どこでもウォー君』、肩掛け鞄にはアイテムがしっかりと入っている。服装は別に普段着ではあるが、危険な場所に行くわけじゃないし、それで十分だろう。
準備を整えて、アトリエに鍵を掛けたら出発だ。安い賃金で護衛してくれる冒険者を探しにギルドまで。
この時間からの依頼だと、適任の冒険者が見付かるかは分からないけど、後は受付嬢にお任せだ。最悪……効率を無視して一人で行くのも視野に入れておかねばな。
◇◇◇
「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」
「あ、はい! えっと……近くの森へ素材を採取しに行きたいんですけど、それのお手伝いを。できるだけ早めの出発が良いですね……あと、できるだけ安く」
「はい。えっと、近くの森までですと、危険はそれほど無いかと思いますが……安くとなりますとランクの低い冒険者になってしまいますが……」
「あっ……可能なら明日も暇な人が良いですね。なるべく沢山の素材を集めときたいので。どれくらいで見付かりそうですか?」
「そうですね……指名のあるご依頼では無いので、受ける受けないは冒険者次第になってしまいます」
なるほど……冒険者個人に直接依頼も可能なのね。
でも、きっとお高いんでしょうな。そんな余裕は残念ながら無い……そもそも冒険者に仲の良い人も居ないしな。
「分かりました。一時間くらい待って来ない様でしたら……依頼は取り消しでお願いします」
「えぇ!? もしや、お一人で行かれるおつもりですか?」
「まぁ……いつ帰ってくるか分からないですけど、師匠に怒られるので」
「い、一時間ですね? 条件の合う冒険者の方に声を掛けますので、座ってお待ちください!」
なんか……脅してしまったみたいで申し訳ない。そんなつもりじゃ無かったけど。
依頼達成の際に冒険者の報酬となるお金を預けておき、受付から程近い横長の椅子に腰掛けた。格安で食べれるからだと思うが、今は一階よりも二階に人が集まっているみたいだった。
対応してくれた受付嬢――ネームプレートには『サリュ』と書かれていた――その人が、発行してくれたクエストの書かれた紙を早速ボードに張り付けてくれていた。
新しく発注されたクエストに、何人かの冒険者が集まってくる。
それを座って見ている俺だが、冒険者の反応でだいたいの会話内容が理解できた。
少し装備の良い二人組の冒険者は、おそらく報酬額にガッカリしているのだろう。きっと受けない。
若い男女五人組のパーティーも同様に、報酬額を五当分しなければならず、簡単な依頼だが割りに合わないと……そう話しているのだろう。
そして、どこか見覚えのある女の子。腰にぶら下げている剣も見覚えがある。というか……昨日の女の子だ。歳は近そうなのに、冒険者をしていて逞しいからか、歳上にも見える。
「頼むぞ……頼むぞ……」
俺は祈る。普段は難しい錬金をする際にも祈らないが、今は祈る。そして――やはり、信じられるのは自分の腕だけ……と思いしるのだった。
「この依頼を受けよう!」
彼女はボードから紙を引き剥がし、たまたま空いていた受付嬢サリュさんの元に一直線に移動した。ちなみにサリュさんは、数日前に彼女に絡まれた時も受付に居て、いざこざを知っている。
だからなのだろうが……チラチラとこちらを頻りに確認してくる。
「どうした? この条件で私は大丈夫だぞ? 少し報酬が安いが、明日も暇だしな」
「いえ、その……依頼主は男性でして、ね? ほら、女の子一人だと、ね?」
「不埒な男であれば……切り伏せるだけだ」
「いや、ダメよ!? 依頼主を切り伏せるとか絶対にダメだからね!?」
「近くの森に行くのに護衛なのだろ? なら、きっとそいつはひょろひょろで腕力に自信のない男に違いない。心配は無いよ」
受付のすぐ近くに座る俺、話は丸聞こえだ。受付嬢サリュさんの、彼女に対する「それ以上、口を開かないで」という顔が少し面白い。
まぁ、事実として素の状態での腕っぷしはある方じゃない。
遮蔽物の無い場所で、決闘の様に戦えば弱いだろう。師匠はそれでも強いのだが、俺はまだまだだ。
それでも二年間は森の中を迷いながら生活し、この世界の魔物と呼ばれる生物とも戦って来た。
それに加えて、日本でも『魔の者』との戦闘をしていた経験もある。だから、まったく自信が無いという訳でもないが……やはり師匠と比べると、まだまだ弱いと自分を判断するしかない。
アイテム有りの地形次第では、戦いを仕事としている人とも師匠の弟子として恥ずかしく無い勝負は出来るだろう……姑息な手も有りならば、いくらでも方法はあるからな。
――さて、そろそろ依頼を受けてくれるという彼女にご挨拶でも致しますか。安い金で請け負ってくれるなら、この際、誰でも良い。
「二度目まして! 依頼人のホムラと言います」
「…………頼りがいのありそうな依頼主様で私の出番とかないですね、これは。やはり、依頼を受けるのは……」
「――フフフッ。サリュさん、良い冒険者を紹介してくれてありがとうございます。馬車馬のごと……コホン、頼りっぱなしになりそうです」
決めた……なんとなく面白い事がありそうだし、ご一緒して貰おうか。
クール系で取っ付きにくそうだとか、すぐ剣を抜こうとする暴力的なところを無視して、目の前の面白いを優先させたいという気持ちが沸き上がってきたし。
決して、気まずい思いをさせようなんて、ね? まぁ……少しも無いと言ったら嘘になるけど、ね。
「あ、あははは……はぁ。ミルフ、何か得られるモノがあるやもしれませんし、というかそろそろ誰かと組む事も視野に入れて欲しいので……誰かと行動することにも慣れてくださいね?」
「くっ……私はソロで良い。でも、一度受けると言った依頼を断るのも……だが、この男……くっ」
受付嬢サリュさんから出た『ミルフ』という単語。おそらく、この今にも「殺せ!」と言い出しそうな女の子の名前だろうか。
ソロを極めようとしているのか、それとも……? 気にはなるところだが、ひとまずはペアを組むわけだから、お互いを知っておいた方が良いだろう。
「ミルフさんは剣士……で、よろしいのですよね?」
「そうだ。ホムラ……と言ったな。貴様はどこぞの商人の見習いか?」
「いえ、錬金術師ですよ?」
「――はぁ?」
「ですから、錬金術師です。錬金術師」
「サリュ……ここは笑う所なのか? 私には判断が難しい」
何だ、この空気。好きじゃないな。
昔、日本で師匠と魔法協会に訪れた時に似ている。錬金術なんて所詮は魔法の劣化版、一つのアイテムを作るにしても時間が掛かりすぎる、と言われた時みたいな。
あの時は師匠が向こうサイドのトップを軽く表現してボコボコにした事で、いろいろと終わった。今、このギルド内で師匠と同じ事をする訳にもいかない。もっと、平穏で穏便な方法で伝えなければ…………そうだ。
「錬金術のレベルだって、術師や剣士と同じでピンきりなんですよ……ね」
「うそでしょ……」
声を出したのはサリュさんの方だ。驚きのあまり、目がパッチリと開いている。
ただ壁を歩く。体勢を保つ為にちょっと腹筋を使うが、天井までだ。天井に行ったら頭に血が上りがちで気を付けないとヤバい。降りる時は背筋を、だ。
でも、今は少し壁で止まってやれば十分だろう。
「ミルフさん、どうぞ。笑っていいんですよ?」
『接着型壁歩き靴』は初めて自分で納得のいく出来で完成したアイテムだ。
この世界の素材は一級品だ。だが、残念な事に一級の腕を持つ錬金術師は少ないみたいで、まだ出会っていない。そしてやっぱり、秘匿されているレシピが多いみたいだ。
錬金術が小馬鹿にされる理由の一端は技術の秘匿に拘る術師本人にあるのだが、それを認める者はきっと少ないだろう。
この世界に錬金術の技術があった事に驚きと喜びはあったが、その性質も同じときたら……もう笑うしかない。
「……っこらせ。まぁ、これは便利アイテムなだけですけどね」
「サリュ……私の知ってる錬金術師じゃないんだが?」
「えぇ……特殊なアイテムの作成となると、王都の一等地にお店を出せるレベルかと。そ、そうです! ホムラさん、錬金術についての情報はギルドでも高く買い取りますが……」
「ははっ、そういうのは好感度を上げてからにしてくださいね? では、他の冒険者達の視線も増えて来ましたし……ミルフさん、そろそろ素材を集めに行きましょうか」
「あ、あぁ……」
受付嬢サリュさんに見送られながら、俺とミルフさんはギルドを後にした。
あからさまな方法で力を誇示した……つまり、イキってしまった事で微妙な空気が流れてしまった。カチンと来たとはいえ……ちょっと失敗だったな。良い方法かと思ったけど、全然違った。
師匠ならこの空気もあっさりと変えれるだろうが、俺には少し難題だ。とりあえず、謝っておくか。
「すいません、カチンと来たので強がりました」
「正直過ぎる謝罪だな……まぁ、私も発言に至らぬところがあった。申し訳ない」
「いえ、むしろイメージ通りなのでミルフさんはそれで良いかと」
「それは私が、普段から失言ばかりしていると?」
おっ、少し怒ったっぽい。
だが、自分で自分の発言について訂正した後ということで、そこまで強く出れないという……。なにそれ、やっぱりちょっと面白い人みたいだ。
「ミルフさんの普段は知らないので、何とも言えませんけど……してそうですね、失言」
「うぐっ……」
「思い当たる節はあるんですね……やっぱり」
「私をおちょくっているのか!? これでもボルゾイ流剣術の上級まで修めているんだぞっ!」
知らない流派だ。というか、流派を聞いてその技が分かってしまったら駄目なんじゃないだろうか?
錬金術師的な思考回路かもしれないが、知られてなければ知られてない程、それだけで武器になる。知られれば対処され、対抗される。
『未知であればあるほど怖いものだ。だから私は私の為に解き明かすのだよ』……これは師匠の言葉だ。
師匠の努力は自分だけの為……聞く人によっては利己的に思われるかもしれないが、それは至って普通の事だろう。努力をしないで結果だけを欲しがる奴は……爆散の刑で良いと思うし。
「気になるので、後で見せて貰えますか? ゾイゾイ流」
「ボルゾイ流だ! でも……きょ、興味があるというのなら、教えるのも吝かではない」
「いえ、そこまで興味は無いですよ? 気になるだけです」
「くっ……何なんだ貴様はっ! もう、何かドッと疲れるな……早く依頼を終わらせて帰りたい気分だ」
なるほど……なるほど、なるほど。
師匠と会話をしていたから……むしろ師匠としか会話をしていないからだろう。どうやら俺は下手クソらしい、人との会話ってヤツが。
慣れれば大丈夫、だと……思う。慣れればだけど。
「あの……道中だけど、会話して貰っても良いっすか?」
「依頼か?」
「そう……っすね。依頼で」
「そうか。くれぐれも、私を怒らせない様にしてくれ。良いな?」
つまりは、依頼でなければ話したくも無いって事ですか……そうっすか……。さすがに見た目綺麗な人に言われると凹む。
言質というか、依頼は通ったのだが、師匠と真逆のクール系な人と、何を話せば良いのか話題が見付からない。
……だからこそ、練習にはなるのかもしれないが。
どんな状況でも前向きな師匠……頑張ってそれに倣ってみますかね。
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