第38混ぜ 真っ当に歪んでます
お待たせしました!
これで20万字は越えましたかね!
よろしくお願いします!
◇◇
「それでは、新入生の入場です。拍手で迎え入れましょう」
体育館の端、それも登壇する場所の近くで先生達は並んで立っている。式と言ってもそれほど長くはやらないらしく、座っているのは見た目老女である校長のシララさんだけだ。
そして今、十歳くらいの新入生達が体育館へと新しいローブに包まれながら入って来た。それを俺も、いかにも慣れてる雰囲気で拍手をしながら迎え入れた。
だいたい一三〇人から一五〇人くらいは居るだろうか、体育館の前の方まで担任の先生の後ろをついて歩いて、そして整列していく。
毎年約この程度の人数は入学してくるらしい。入学の条件は入試を突破出来るか否かというもの。年齢的な問題も、下限は無いらしく上はだいたい十一歳で入学を果たすみたいだ。有力な貴族とお近づきになる為に、わざと遅く入学したり、早めに入学させようとする貴族に配慮した仕組みだ。
一般の生徒においては、十一歳あたりまでに入試を突破出来なければ、この第一学園を諦めて他の第二学園第三学園を目指すらしい。
この学園は、他の学校よりもバランスを重視しているらしく、強いだけとか、頭が良いだけの生徒は受かりにくいとか……。まぁ、たしかに高水準でバランス良ければそれが一番良いだろう。
「では、最初に校長からのお話があります」
「よいしょ。もう、立つのも大変になってきたわねぇ」
拡声器みたいな機能があるらしい筒を司会の先生が持っている。おそらくそれも、シララさんが作ったものなのだろう。
芝居を打ってから前に出たシララさんから、新入生に向けての話が始まった。校長の話というのは、イメージしか無いけど長ったらしく飽きてしまうものだと思っていた。だが、シララさんの話す事はすんなりと頭に入って来た。新入生達も真剣に耳を傾けている。
やはり有名人だからだろうか、凄い人なのだと改めて感じる。
「うふふ。それじゃあここで、皆さんと同じく今年度から新しく学園の講師をしてくれる三人の先生を紹介したいと思いますね」
シララさんが手招きをしてくれるのを見て、俺達も壇上へと上がって行った。俺が今年十六歳から十七歳になり、学園の最上級生が十五歳から十六歳になる……つまり、一個下だがほぼ同年代である。
そんな生徒達がズラリと並んでこちらに注目している。メイド服で目立つキャサリンさん、爽やかに微笑んでいるビスコ。そして……俺。
しかし、この中で一番目立つ訳じゃない筈の俺がとある理由から目立ってしまった。
「じゅ、じゅじゅ……なんで! 従者ァーー!?」
「はい、そこの騒がしい生徒。後で職員室に来るように」
考えていた中でもそこそこ上位の言ってみたかった台詞を言えた。あるかもとは思っていたが、フランの通っている学校とはここだったんだな。
今、この状況。フランも目立っているし、俺は悪目立ちしている。まぁ、気にしなくて良いだろうフランだしな。
「では、自己紹介していきます。この度、錬金術科の講師として勤めさせていただきます。名をホムラと言います。ほとんどの生徒とは関わりが無いかと思いますが、どうぞよろしく」
フランが人目も憚らずに、何かを言っているが俺のターンは終わりである。一歩下がって次にバトンを渡した。
「キャサリンと申します。給仕科の講師としてメイドを志す全ての生徒を立派なメイドにする為、全力で取り組んでいく所存です。どうぞ、よろしくお願い致します」
綺麗な姿勢、綺麗な声、綺麗なお辞儀。その一挙一動に生徒のみならず、先生達まで見蕩れていた。
そしてまた、フランは何かを言っていた。キャサリンさんも無視している。
「初めまし……」
「きゃー!!」
「カッコいい~!!」
「あの、はじ……」
「きゃーーーッ!!」
はい、ちょっと寝ます。俺はゆっくりと目を閉じて、この騒ぎが終わるまで大人しくしている事にした。
耳に付けたイヤホンに、音楽を流す機能を付与しておいて正解だったな。悔しくなんてないんだからね。
◇◇◇
キャサリンさんから聞いた話だと、先生方がどうにかこうにか女子生徒を静かにさせて、無事にビスコも挨拶を終えたらしい。
今は入学式も終わり、校長室へと戻って来ていた。俺だけだが……。
一度みんなで職員室へと戻ったのだが、ビスコは礼拝堂へ行き、キャサリンさんは仕事内容を覚える為に動きだしていた。他の先生方も、担任の先生は各々の教室へと行き、職員室に残っている先生方もさっそく仕事へと取り掛かっていた。
そんな中で、俺だけはシララさんと共に校長室へ来ていた。決してサボりではなく、シララさんが管理していたという学園内にあるアトリエの鍵を仮に来たのだ。
「ほれほれ、ホムラちゃん。これじゃてね」
「この珠が? あぁ……なるほど。施しているんですね……流石に多彩ですね」
「うふふ。ホムラちゃん? 流石にの意味を聞いても良いかねぇ……お婆ちゃんに教えてちょうだい?」
「……じゃあ、アトリエに行ってみますね!」
俺はシララさんから預かった珠を手に握ったまま、逃げる様にドアの方へ――。
「ほい」
――シララさんの声の後に、ガチャリと金属音が鳴った。
振り返ってみれば「オホホ」と嗤うシララさんの姿があった。そう、錬金術師のシララさんだ。気になったらとことん突き詰めるに決まっている。
俺は試しにドアを押したり引いたり横にスライドさせたり……叩いたり蹴ったりした結果、分かったのは頑丈過ぎる程に頑丈という事だけ。
流石にここで爆弾を使うわけにいかない。シララさんはシララさんで、何かをしてくる訳ではなく、俺がどう動くか試している様子だ。
(ふむ……遠隔で操作できる様に作られたドアか。発動の際に微力だが魔力の揺れを感じたから、きっと……どこかに感応している部品があるはず)
手持ちの道具で魔力のあるモノを捉えるアイテムがある。しかし、それを見てもドア全体に魔力を通してあるのが確認出来ただけで、効果はあまり無かった。
その早過ぎとも言えるだろうタイミングで、俺は自力でドアを開けるのは諦めた。破壊という方法を選べないのなら、もう選ばない。むしろ……選んで貰う方が早い。
「あー、そうだそうだ。そろそろお腹が空いたなぁ」
「んん~?」
猿芝居もかくやという感じで、俺は演技をしながら鞄を漁っていろいろと取り出す。主に、お肌に良いとされる食べ物を。そして、ついでに師匠やキャサリンさんに言われるがままに作った保湿成分たっぷりのクリーム等を。
「あ、そういえば最近乾燥もするし、クリームでも塗っておくか。ああー、凄い潤うぅ~」
「ホ、ホムラちゃん? やり方としてズルいと思うのよ?」
「あはは。ズルいは錬金術師にとっては褒め言葉ですね。過程があっての結果というのは理解しています。ですが、やはり大事なのは結果ですから――今はドアが開けば何でも良い。それだけですよ」
「やはりホムラちゃんも真っ当な錬金術師なんじゃねぇ……。ちなみに、幾つくらいの開け方を思い付いたのかい?」
「どれも暴力的な解決法になりますけど、手持ちのアイテムを使った開け方なら……三つですかね」
真っ当な錬金術師。それはつまり、普通の人から見たら歪んでいるという事。かなりの皮肉である。
たしかに思い付いた方法が、爆弾を使って壊すやり方、シララさんから鍵となる何かを奪うやり方、ドアに含まれている魔力を吸い取ってしまうやり方という、強引なものだけである。最初から正攻法で攻略しようとしない辺りは、歪んでいると言えてしまう。
「ほい――これでドアは開いたからね。ホムラちゃんなら、本当に壊してしまうだろうし」
「まぁ、手持ちだとあれが一番マシだったので……シララさんの技術の高さを少しでも知れて良かったです」
「そうかいそうかい。それでのホムラちゃん? 先程のクリームじゃが……」
「えぇ、かなりの自信作ですよ。何度も作らさせましたから……ね」
「うむ。ホムラちゃんの手、先程のクリームを塗った部分が潤ってて……効果が目に見えるとはこの事なのね」
シララさんがエルフの姿になれば、それはもう美しい姿になる。 それでもエルフ界隈だとかなり年齢は上の方だとシララさんから直接聞いていた。だからまぁ、お肌のケアを大切にしているのは理解できるし、それを悪用してわざとらしくクリームを使って見せたりしたのだ。
そしたら、案の定……シララさんはドアを開けてくれた。
――意地悪を言おう。クリームは使って見せただけだ。ただ、使って見せただけなのだ。
何故かドアを開ける為にクリームで買収したという空気になっているが、俺はそんな事を口にしてはいない。
例えば、不自然に一口分だけ減った自分の飲み物があったとする。
誰かが飲んだから減った場合と、誰かが溢したから減った場合、その他の方法によって減った場合などが考えられるだろう。
一口減ったという結果は同じとしでも、過程が違うと心理的な捉え方が変わってくる。だから、過程を重要視する人の気持ちも分かるには分かる。
だがしかし、やはり錬金術師としては結果の方を重要視するのが普通だ。一口分減っている飲み物が在るのなら、それが在ると認識するだけである。ドアが閉まっているなら閉まっている。開いているなら開いている、と。
わざわざ減った理由を深くは考えない。考え出したら、それこそ数十数百のパターンを考え出すというか、思い付いて深みにハマるだけと知っているから。
だから単純に、結果で満足するかどうかが錬金術師だ。
「じゃ、ドアが開いたのでアトリエに行ってみますね」
「ホムラちゃ……ん?」
つまるところ、俺がクリームをシララさんに差し出したからドアが開いたという図式になっているが、それは正しくない。
正しくは、ドアはシララさんが勝手に開けてくれた……なのだ。
――と、長々しくつまらない説明を考えてみたが、きっと俺以外に納得する人は居ないだろう。
それをシララさんにそのまま伝えてしまえば、叱られるくらいに歪んだ思考をしているし。
「……俺は説明や冗談が下手みたいです。まぁ、量産品ですからクリームは置いていきますね」
「うふふ。ホムラちゃんは、『正しい』よりも『間違いじゃない』事を考えるタイプなのね。選択肢を広げていく考え方は良いと思うわ」
「ただの屁理屈ですよ。『クリームを出しただけで、シララさんがドアを開けた』なんてまさにですし。どういう反応でどうなるか分かった上でやってますから……自分でも悪どいと思います」
「それでも、ホムラちゃんは『結果』クリームをプレゼントしてくれたわ。うふふ、ありがとうね」
それを言われると……一本取られたという気持ちになる。
優しさで構成されているのではないかと思うシララさんに、口で勝てるにはまだ人生経験が足りなそうだ。
◇◇
「えっと……こっちの方に……あれか!」
学園の端の方に、危険な場所と言わんばかりに、切り離された場所にポツンとアトリエは建てられていた。
入り口の前にくると、ドアの中心部に凹みを確認できた。おそらく、ここに渡された珠を嵌めるのだろう。
「やはり、開かないか」
試しにドアノブを掴んで開けようとしてみるも、ビクともしない。さっきのドアと同じ仕掛けがされているのだろうな。
設備に関しては、何の心配を無くなった。そもそもそんなにしていなかったけど……。
俺は珠を凹んでいる部分にに嵌めた。さっきも聞いたガチャリという音。ドアノブを捻って押すと、ビクともしなかったドアがすんなりと開いた。
「おぉ~、思ったより広いな。道具も一通りそろってるみたいだし」
広めな竈――俺が暖炉を広げた様な所と思っていた場所は、キャサリンさんに聞くとそう言う名前らしい――そこには、ちゃんと大きい釜も用意されてあり、壁際には薪もある。やはり水を汲みに外には出ないといけないが、近くに井戸があるのも確認済みだから問題はない。
他にも本やよく使う道具なんかも置いてあり、今すぐにでもアトリエを開ける設備が整っていた。
一応、自分が普段から使っているかき混ぜる為の棒は持ってきた。
ここに、複製した転移鏡を置ければかなり時短になるのだが……校門で出入りのチェックをしているからやっていいのか不安がある。
新任の先生が来ていないのに校内には居るとなれば、警備の人が怒られるかもしれない。何も悪くないのに怒られるのは、流石に可哀想に思えて、実行に移すのを躊躇ってしまうな。
「まぁ、自転車通学か人力車か馬車か……最初の内はどれかで来るとするか。それよりも……」
せっかく道具が揃っているし、素材は鞄の中にある。試運転がてら、キャサリンさん達の為にも昼飯を作っておこうかと思った。
俺はメニューを何にしようか考えながら、さっそく準備に取り掛かった。
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