第37混ぜ 入学式の朝
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
「どうだエレノア、先生っぽい?」
「全然ヨ? 先生は先生でもお医者さんっぽいネ。学校の先生じゃないヨ」
「まぁ、ただの白衣だもんな」
入学式の朝。まだ早朝にも関わらず、エレノアが見送りに来てくれた。
せっかくだから普段着にポーチを腰に巻き、その上から白衣を着た姿――つまりは、これからの『先生』としての格好を見せてみたが、エレノアは学校の先生ではないと言う。俺も同意見ではあるけど……。
まぁ、バッチさえ付けていれば服装は自由らしい。だから、出来るだけラフな格好にしてみた。
ビスコも今日はいかにも神官みたいな服装だ。キャサリンさんはいつも通りのメイド服である。
「今日は早く帰ってくル?」
「入学式だけらしいけど、いろいろとやる事があるらしいから……帰宅時間は未定だな。場所も微妙に遠いしね」
「分かったネ。私はミルフとクエスト受けてくるヨ」
「怪我しない様にな。じゃ、行ってくる」
「うン! ……っと、忘れ物ネ!」
忘れ物なんて無い……と思った矢先、右の頬に柔らかい感触が当たった。
「行ってらっしゃいヨ」
「行ってくる」
なるほど……忘れ物とは行ってきますのチューだったか。ちょっとだけ驚いたが、気合いが入った。
冷やかす様な視線が二つあるが、別に恥ずかしい事でもない。夫婦だからな。俺の師匠の許可はまだ取れてないけど。
アトリエの戸締まりをエレノアに任せて、俺とキャサリンさんとビスコは『国立王都第一学園』に向けて出発した。
◇◇◇
初日という事でキャサリンさんが借りていた馬車に乗り、片道一時間以上掛けて学園に辿り着いた。
王都は広い。東西南北――北はほぼお城の関係があるだけだが――いろんな建物があり、人がいる。
早朝でも人は居るが、まだ少ない時間帯での移動なのに……それでも、一時間以上の通勤時間が掛かった。普段はお昼頃に出勤すれば良いという話だが、自転車と学園までの道順をしっかり用意しておかないと、面倒臭くて行かなくなるかもしれない。
「なんか、東京駅みたいですね」
「外壁がレンガ造りの建物を全てそう例えるのはどうかと思いますよ?」
「とうきょう……えき?」
「いえ、何でも! とりあえず校長室にシララさんが居るみたいなので行きましょう」
大きな校門の前に、警備している人が二人立っている。流石に貴族も通うとだけあって、武装もしている。
話が通っているかは分からないが、話し掛けてみよう。
「すいません。今日から新任の講師として来たホムラと申します。こっちはキャサリンさんと、同じく働く事になっているビスコです」
「バッチはお持ちですか?」
厳しい顔をしたベテランっぽいおじさんに、シララさんから渡されていたバッチを見せる。
「拝借しても?」
「え? あぁ、はい……どうぞ?」
渡す意味がわからなかったがバッチを渡すと、おじさん警備員は表の紋様を確認して、裏も見て、最後に――淡い緑色に光らせた。
「なにその機能……」
「これは高名な錬金術師でもあるシララ様が職員の方に作る物であり、魔力を通すと光る細工がなされてある。本物の確認はこれでしますので、今後通る際はバッチを光らせる様に」
「はぁ……。今まで偽物を作った人も居たんじゃ無いですか?」
「たしかに、そんな不届き者も居たのだが……どれも偽物とすぐに分かる完成度でしかなかったな」
まぁ、錬金術師の数が少ないらしいし……錬金術師が作るギミックの付いた物が、身分を証明するアイテムとしては意外と優秀なのかもしれない。とても簡単に作れそうなのに。
錬金術師が、直接学園に侵入するつもりで作るケースは考えにくい。だからきっと、依頼されたから作ったのだろう。
それが今まで平気だと言うのは、依頼主が精巧な模様やギミックを知らなくて作れなかったか、単なる実力不足だったのだろう。
「そうですか。では、今後ともよろしくお願いします」
「えぇ。警備の者は時間や曜日で変わるから、他の者にも最初は挨拶をするといい。その歳で先生か……頑張れよ」
怖い人かと思ったが、意外と良い人だったな。
校門としての役割をしている大きな鉄格子は、登校時間にならないと開けない決まりになっているらしく、隣の小さな出入口から学園へと足を踏み入れた。
学園の近くに見える建物。近くにあるのはその建物のみだ。
きっとそれが、生徒達が暮らす宿舎なのだろう……何百人もの生徒が寝泊まりするだけあって、かなり大きめのが幾つか見える。
徒歩五分も掛からないだろうから、一時間以上掛けて来た俺からすると羨ましい限りだな。集団での生活は想像も出来ないけど。
「さて、校長室までの行き方は聞いてますからササッと行っちゃいましょう」
生徒用の入り口とは別に先生用のがあるらしく、そこで軽く靴に付いた砂や土を魔法で落としてから校内に入った。
外はレンガ造り、中は綺麗な木造の校舎はピカピカで、想像していた学校よりは幾分か綺麗。俺の気分もとても新鮮で、少し落ち着かない感じが心にあった。
寄り道したい気持ちもあったが、やるべき事を優先して真っ直ぐ校長室へと向かい、ドアをノックした。
「シララさん。ホムラです」
「まぁ! どうぞどうぞ早く入ってくださいな」
ドアを開ける。中は至ってシンプルで、棚には分厚い本がギッシリと並んでいた。シララさんは部屋に入った俺達の所に来ると、柔和な笑みと共に挨拶代わりのハグをしてくれた。
「どうぞどうぞ、座って? さっそくだけど、今日の入学式の手順を先に話すわ。キャサリンちゃん、お茶をお願い出来ますか?」
「もちろんです」
何度も顔を会わせている内に、すっかり仲良くなっているキャサリンさんとシララさん。最初は俺達をお客さんとして迎えてくれていたのだが、キャサリンさんの説得の末、気軽に任せる様な関係性にまで発展していた。
「式の終わりの方で、新任の先生から挨拶をする時間があるの。三人にはそこで挨拶をして貰うわ。軽い自己紹介程度で良いから、よろしくお願いしますね」
「よろしくお願いしま……ん? 三人?」
「えぇ。錬金術科のホムラちゃんに、シスター補助のビスコちゃん。そして給仕科の講師としてキャサリンちゃんの三人よ」
「えぇッ!? 初耳なんですケド!!」
全く知らなかった情報に、思わず叫んでいた。
どうりでバッチを三つ渡された訳だ。シララさんと話を纏めてくれたのはキャサリンさんだから、違和感なく受け取ったけど……普通ならいくらメイドとは言え、関係ない人物を敷地内に入れる訳がない。
貴族の子ですら、自分の意思で学園にメイドは連れて来ない。隠れて護衛が付いているという話しは聞いていたが、気付けるポイントは幾つかあったはずなのに見逃していた。
「給仕科の講師の方が腰を悪くしたらしく、代理ではありますが私が勤めさせていただく事になりました」
「シララさん、本気ですか?」
「えぇ。キャサリンちゃんなら基礎どころか、どこに出しても恥ずかしくない子達に成長するでしょう」
本当にそんな可愛く育つだろうか……。俺には武闘派の戦闘メイドが量産される未来しか見えない。
生徒はどんなにキツい授業でも、逃げ出す事さえ許されない。そして、気付けば守るべき主人を命懸けで守る為に戦うメイドさんが完成されているだろう。
二年生から六年生までは学年別で、午後から自分の選択した授業を受ける。だから、講師は一つの学科に最低五人は居る計算だ。
人気の学科はもう少し居るし、人気の無い学科は俺みたいに一人だったりする。
何が言いたいかと言うと……キャサリンさんに担当される生徒さんは御愁傷様でした。という事だ。
「シララ校長。入学式は何時からでしょうか? その前に私の上司となるシスターと顔合わせを済ませておきたいのですが……」
「入学式は九時からですから……少しだけ時間があるわね。ビスコちゃん、礼拝堂の場所は分かるかしら?」
「はい。場所は大丈夫です」
「そう? なら、行ってきて大丈夫よ」
「ありがとうございます。では、先に退出させて頂きますね」
勤勉なビスコらしい理由で、校長室を出て行った。俺には退出する理由も特に無く、用意してもらった紅茶を飲んで一息吐いた。
お茶を飲みながら入学式の少し前まで、授業の進め方や学校の事や生徒についてアレコレとシララさんに教えて貰っていた。
学校に通った事も無い俺だ。当然、先生の姿と言えば師匠やキャサリンさんしか思いつかない。それでも、二人のやり方は絶対に普通では無いと常識から判断ができた。
錬金術科は一人しか居ない。つまり、その選んでくれた子が別の学科に移動したり学校を辞めた場合、俺もクビになるのだ。
手探りにはなるが、せっかく錬金術科を選んでくれた子の為にも頑張って先生をやっていかないといけない。
(問題は錬金術がひたすら地味で退屈な作業という事……そこ以外でどうにかハートを掴まないとな)
「ビスコちゃんが戻って来たら、職員室で他の先生に挨拶でもしましょうか。最初から全員は覚えきれないと思うから、ホムラちゃんもあまり固くならなくて良いからね」
「分かりました。キャサリンさんもビスコも、シララさんも居ますから……大丈夫ですよ。そんなに緊張はしてないですし」
それから十分も経たない内にビスコが戻ってきた。無事にシスターとは挨拶できたみたいで、上手くやっていけそうだとか。
俺達はシララさんに連れられて、職員室までやって来た。先生は皆、若くても二十代で流石に十代は俺とビスコしか居ない。
生徒には平民と貴族が居る様だが、それは先生も同じみたいだ。あからさまに、貴族ですと言わんばかりの人が何人かは居た。
あまり歓待はしてくれていない様子なのが、見るだけで分かる。そして当然、女性職員の視線はビスコへ、男性職員の視線はキャサリンさんに注がれていた。
「では皆さん。新しく先生となる三人はまだまだ未熟な点が多いでしょうけど、温かく見守ってあげてください。それでは担任の先生は朝のホームルームへ行き、生徒を第一体育館へ移動させてください」
シララさんの話している言葉は、俺が作ったイヤホンの作用でそう聞こえているだけだ。
だから、実際は『ホームルーム』や『体育館』なんて言っては無いのだろう。……なんて、出る筈の無い言葉がこの世界の人から飛び出す度に、改めて思う程でもない事をついつい思ってしまう。
(イヤホンに頼り過ぎた結果……書くのは頑張ったが、聞くのは諦めたんだよな)
師匠からのアドバイスもあったが、自分でも便利な道具を作ったと思う。その反面、便利過ぎるアイテムで俺は怠けた。
面倒だからアイテムを作る。だが、アイテムに頼ってより面倒臭がりになる。自分を含めた錬金術師とは、とても残念な人種と言えるだろう。
錬金術は発想が肝だ。だが……その発想は、だいたいが『楽がしたい』という気持ちから生まれがちだ。
魔力回復を待つのが面倒だから魔力ポーションを作ったり、階段を上るのが面倒だから、壁を歩ける靴を作ってみたり。
これから受け持つ生徒が、どんな錬金術をやりたいかによって教える事も違ってくる。それでも在り方は変わらない。
良い部分だけを教えるなんてやり方は、きっと良くない。清濁併せ持っての錬金術師――それを教えた上で、その子なりの錬金術師としての道を歩いて貰おう。
「では、体育館へ行きましょうか」
他の先生達が動き出した後で、シララさんと共に入学式の始まる体育館へと移動し始めた。
(そう言えば……結局、錬金術科の生徒について教えてくれなかったな)
そこに意味があるのかないのかも分からないが、どっちでも良いか……とすぐに頭から疑問を消し去った。
今はそれよりも他に、小さいが問題がひとつある。大勢の人の前に立つなんてしたことが無い俺だ。下手に緊張しないか心配だった。
全員、爆弾系アイテム一個使えばドカンで終わりだろう。悪者や魔物なら……だけど。
そんな事が出来ない相手だからこそ、下手に緊張する可能性がある。
「キャサリンさん。大勢の前で、何か緊張しない方法ってあります?」
「ありますよ。ひとつは、自分を等身大よりも大きく見せようと思わない事。それか……」
「それか?」
「ホムラ様の場合ですと、全員を錬金術で使う素材と思う事ですね」
「なるほど!」
「いや、ホムラはそれで緊張が解けるんですか……」
完全に解ける。流石はキャサリンさんだ。
全員が素材なら、むしろ嬉々としてその声を聞いてあげようという気持ちにもなってくる。心の持ち様や心構えというのは、本当に不思議なものだ。
もうすぐ体育館らしき場所に着く。緊張するどころか、なんだか少し楽しくなってきた俺だった。
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ネット小説大賞の一次通れませんでした……残念です( ;∀;)
でも、頑張ります!




