第35混ぜ ひと休み、ひと休み
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
みんなそれぞれの買い物を終えて、ランドール氏を残して店を出る。荷物は配達が可能らしく、支払い含めていろいろとやってくれている。
貴族な買い物袋を持ったりはしない……のだろう。そもそも貴族は自分で荷物を持たないのかもしれない。優雅さに欠けるからだと思われる……どうでも良い気はするけれど。
そんな訳で、手ぶらのままだ。ランドール氏を待つ間、女性陣は次に何をするのか相談していた。
「やっぱり、劇が良いと思うわぁ~」
「駄目よ、お母さん。今日はホムラ様の為のお出掛けなんだから」
「えぇ~、私は魔法道具店に行きたいのにぃ……新しいローブが出てるの! 魔法付与されたやつ!」
そんな会話が聞こえる距離で、俺とビスコはただ待っていた。あの会話に自ら割り込むなんて愚行は犯さない。
ランドール家の良心であるラランさんは、話を尊重してくれるだろうが、後の二人が何を言うか分かったもんじゃない。特に奥様が……な。
「待たせた。それで、次はどこに行くか決まったかな?」
「それが、今まさに相談中ですね。奥様は劇を観に行きたいと仰って、フランは魔法道具店らしいです。ラランさんは特に意見は出してないですね」
「ふむ……ホムラ君はどこか行きたい所はあるかね?」
「何があるかも分かりませんからね……ただラランさんのお散歩に付き合ってるって感覚でいますし」
強いて言うのなら、もう戻りたいかな。お散歩が馬車移動だった時点で、別にもう良くね? と気持ちはなっていた。
特に行きたい場所も思い付かない。白い布を買って貰えたのはラッキーだったが、これ以上は流石に申し訳ない。思ったより良い値段がしたからな、布なのに。
「そうか……なら、だね。その……悪いのだが私の妻の意見を採用してくれると助かる。あれでもずっと……ラランとこうして出掛けるのを楽しみにしていたからね。もちろん私もだ」
「そこまでとは思いませんでしたけど……お力添えができた様で何よりです」
「ホムラ様、もっと自覚するべきですよ。病気……体質に対する答えを導いたのですから」
「キャサリンさんに言われるとなんか……凄い事をした気になりますね!」
別に大したことはしていない。ただ錬金術を、知っている知識を駆使しただけである。たしかに、師匠の名前に泥を塗らない様に最高を目指して道具を作ったが、それだけだ。本当に大したことはしていない。
(でも、キャサリンさんに褒められるのうれしぃぃ!)
戦闘メイドであり、各国で様々な諜報活動を行っているキャサリンさん。酸いも甘いも山程に経験しているし、尊敬している。
どれくらい尊敬しているかと言えば、師匠の次にキャサリンさんだ。まぁ、それ以外には特に尊敬している人は居ないけど。
「世界にそう多くは無い体質かもしれませんけど、魔力を吸い取るという性質……中々に使い道のあるアイテムでしょう。ランドール様、御入り用なら格安に致しますよ」
「う、うむ……手強い交渉相手になりそうであるな。話は是非ともホムラ君としたいのだが?」
「うふふ。私はホムラ様の一部ですから。害あるモノを排除するのが私の役目です」
話すのはあまり得意じゃない俺にとって、代わりを務めてくれるキャサリンさんの存在は大きい。
流石に分や場をわきまえる事は出来るが、それは結構頑張っている結果だ。
師匠やキャサリンさん以外に、気を使う必要性を本当は感じていない。エレノアには気を使う必要が無いから、そうしているだけだが……まぁ、そう育ってしまったのだから仕方ない。変える必要も感じないし。
「そうですね……これから仕事の依頼は全てキャサリンさんに任せる事にしますかね」
「はい、お任せください。どこで聞き付けたのか……アトリエを狙うゴミの始末より力を入れさせて頂きます」
(まさか、毎朝の『ちょっと散歩に言って参ります』って……)
服が汚れたり、髪が乱れた姿で戻って来たことは無いし、本当に散歩かと思っていたけど……まさか『掃除』に行っていたとは。
と言うか、アトリエを狙うとかあるのか……いつだろう。思い浮かぶのは、錬金術発表会終わりから尾行されていたか、貴族街の戻りを狙われていたのか。いつでもありそうで少し絞れない。情報が出回っているとしたら厄介だし、罠……いっとくかなぁ。
「まぁ、そんな感じで……とりあえず今から奥様の味方をしてきますね。ビスコ、ついて来てください」
「私は何を?」
「奥様をヨイショですよ。そういうの得意でしょ?」
「何か悪意を感じますが……分かりました。行きましょう」
俺の意見という事もあり、奥様の希望であるイケメン役者の出るという劇を観に行くことになった。
そこまで馬車へ行くと、それなりに人混みがあった。綺麗な衣装に身を纏った、優雅な人達。一言で言うなら『華やか』。もう一言付け加えると『関わりたくは無い』かな。
奥様が先陣を切って、道を歩いていく。お目当てなのか、行き着けの劇場でもあるのかは知らないけど、勝手知ったる如くズンズンと歩いていく。その歩きっぷりにも性格が表れている感じだ。
「キャサリンさん、劇って観たことがありますか?」
「えぇ。これはメイドの嗜みというよりは私の趣味ですが、有名な劇場からマイナーな劇場まで足を運んでいましたよ」
「語学も堪能ですもんね」
「語ると長いですから、また今度に致しましょう」
野外ステージや屋内ステージがあり、劇の種類も役者の演じる劇から人形劇、歌劇と多い。娯楽に飢えてる貴族を楽しませる為なのかだろう。
誰かのお墨み付きにでもなれれば、安泰だろうし……切磋琢磨は技術の向上には必須要素なのかもしれないな。タイプは違うけど俺とエレノアもそうだし。
「うふふ。ビスコさんは顔を伏せてくださいましねぇ? 取り合いになりますわぁ」
「ご忠告ありがとうございます」
「ホムラ様もお顔を伏せた方がよろしいかと思われますが」
「キャサリンさん……そう思ってくれるのはキャサリンさんだけですよ」
それから、奥様オススメという劇を観に行った。
物語のストーリーは貴族の女性がイケメンの平民と駆け落ちするという内容。ロミオとジュリエットに近い話だった。
楽しい時間の筈なのに、偶然隣の席に座ったランドール氏が微妙な顔をしていたのを見てしまい……奥様のオススメというのもあって、気まずさが少しだけ溢れてしまった。
まだ空は明るいが、無理は良くないとみんなにそれっぽい事を言って屋敷へと誘導したのは、我ながらナイスプレーだったのではないだろうか。
◇◇◇
屋敷に戻って来て、とりあえず休憩という流れになった。
さっさとランドール氏と報酬の話を纏めて、すぐにアトリエへ帰りたい気持ちがあった。だが、それを押し込めて『これはタルトレット家は歓迎してくれているんだ……』という言葉を何度も自分に言い聞かせる様に繰り返した。
必死に自分の中で残る理由を明確にしていないと、すぐに帰りたくなってしまう。自分のアトリエがやはり、一番落ち着くしな。
夕食までは自由にしてて良いと言われても、する事がない。それも帰りたくなる要因のひとつだ。
俺とキャサリンさんとビスコは、タルトレット邸の客間へと案内して貰っているが、ただ座っているだけである。
自由と言っても錬金術に使う釜が無い時点で、俺には自由なんて無い訳で……だから、我慢のせいでさっきからソワソワが止まらなくなっているのだ。『暇』に対する禁断症状と言ってもいい。
「ホムラ様、お茶をお淹れましょう。ティーセットを」 「何か落ち着けるやつをお願いします」
「ビスコ様は如何なされますか?」
「私には不要ですよ。今から少し、外に出てきますから。馬の世話ををさせて貰おうかと思いまして……約束もしてありますしね」
「承知致しました。行ってらっしゃいませ」
ビスコが部屋を出て行ってからすぐにキャサリンさんがお茶を準備してくれて、俺は和菓子を鞄から取り出した。
香り豊かな緑茶と、優しい味わいの和菓子。最高の取り合わせである。
そのティータイムがあってようやく、もうしばらくはここに留まるのも我慢しよう――という決断をするに至った。
早く帰って錬金術の勉強をした方がマシ……という気持ちは心の真ん中にある。でも今はちょっと落ち着いて、もう少しくらいゆっくりしても良いと思う気持ちも出てきた。
――コン、ガチャ。
「来てあげたんだけど!」
「フラン、危ない!! 右回れしてそのまま走れ!」
「えっ!? わ、分かったぁぁぁぁ……ぁぁ……」
普通の感覚なら『コンコン、ガチャ』であろう所を、半分ほど縮めてくるのは……なんとなくフランっぽい。だからつい、だ。
扉は若干開いたままだ。でもお陰で、ちゃんとフランが遠ざかっていく足音まで聞こえた。
「よし」
「ホムラ様? せっかく訪れてくださったのに、よろしいのですか?」
「どうせ、すぐに戻って来ますよ」
そう言ってから数秒も経たない内に、また足音が近付いて来た。一歩一歩をしっかり踏み込んで、怒りを表している様な感じの足音である。
「何がよッ!! これはプンスカ一等賞ものよ!?」
開口一番にそれである。怒っている事だけはなんとなく理解できるが、ビックリな語彙力のせいでイマイチ伝わってはこない。
こういう女性の騙し……対処方のひとつに甘い物を与えるという王道な手段がある。フランみたいな注意力や集中力が散漫しがちなタイプには、次々に何かを与えれば良いからとても楽だ。
「気持ちが荒ぶってる時は、やはり和菓子。お饅頭を食べなさい」
「なにそれ!? 茶色の……ホントに食べ物ぉ~? また騙そうとしてない?」
仕方なく、半分に割って中身を見せてあげる。中身は普通の餡子なのだが……本当に食べた事が無いのか、フランは未だに疑いの目をしていた。
「甘いし、美味いぞ?」
「は、半分だけ貰うわ! もう半分は従者が食べて! 私より先に食べて!」
「モグモグ……」
「躊躇いが無い!? 本当に食べ物なんだ……うぅ。は、はぐぅっ!!」
ゆっくり食べれば良いものを、フランは素っ頓狂な掛け声を出しながら、饅頭を一気に口へと放り込んだ。目は見開いたまま、もぐもぐと味わっている。
一度ゆっくりと瞳を閉じて、数秒の沈黙。
そして、部屋中に響く声で「美味ぁ~い!」と叫んだ。
「だろ?」
「うん! これ、なんて名前? 甘くて甘くて……甘いわ!」
「お饅頭だ。これは普通のお饅頭だが、お饅頭にもいろいろとあってな、白餡や栗餡。中身の種類もあれば、皮の方も種類は多いからな。凄いぞ」
「お、お姉様に教えなきゃ!」
「おっと、ストップだフラン。数には限りがある。お饅頭はおいそれと渡すわけにはいかない」
またしても走り出しそうなフランを、先手を打って止める。
お饅頭くらいなら錬金術でも作れるし、限りがあるなんて嘘だが……何となく面倒な予感がするからフランを行かせる訳にはいかない。
お菓子関係は、サリュさんに卸している分で既に利益は出ているし、新しく販売ルートを開拓するつもりは今の所ない。それに時間を持っていかれる様な事になれば、自分で自分の首を絞める事になりかねないからな。
サリュさんは一応、ギルド職員としてそれなりの給金を得ているが、お菓子に注ぎ込める分はそう多くない。だから、お菓子を売っていると言っても良い。
これが貴族なんて話になれば……個人だとしても、買う量がサリュさんの数倍、数十倍に増えるだろう。料金を吊り上げる対策をしても、買いそうで怖い。
「ど、どこのお店で売ってるの!? 貴族街近辺の菓子店にはそんなの無いわよ?」
「秘密だ」
「何でよ!! ケチ! ケチケチ!」
「お前が買い占めたら俺が買えなくなるだろ?」
「ぬぅ~……じゃあ、自分で見付けるもん!」
「見付かると良いな?」
「何よその言い方! 何か腹立つわねぇ……見付けたら買い占めてやるんだから、笑っていられるのも今の内なんだからね!」
非売品だと思うが、広い世界だ……きっとどこかの国に、似たようなお菓子はあるだろう。
それをフランが見付けられるかは分からないが、是非とも頑張って欲しいものだ。
「フラン様、お茶をお淹れいたしましょうか?」
「お願いするわ!」
ここまでやり取りをして、ようやく座ったフラン。
そのフランに対し、キャサリンさんは紅茶とミルクをを用意していた。
優雅に紅茶を飲むフランは貴族っほい感じもするが「美味しい」「美味しいわね」「美味しいじゃない」と、味わいの感想がワンパターン過ぎて、やはりお馬鹿なのを隠しきれていなかった。
「これ、お饅頭が合うんじゃない?」
「いや、ミルクティーならビスケットの方が合うだろ?」
「たしかに! ビスケットなら、私も持ってるんだからね! 羨ましがっても良いわよ?」
「ワー、ウラヤマシイナァー」
「ふふん!」
(今ので良いんだ……純粋なのか? 雑な対応をすると、逆になんか……ゴメンって感じになるな)
フランも参加したお茶会。
食べたり飲んだりは最初の方だけで、後半は主にフランの話を聞く機械となっていた。
気が付けば窓から見える景色もだいぶ青色が減り、オレンジ色や藍色が増えて来た。
夜の行動がそれほど多くないこの世界では、夕食は日が暮れる前の夕方に食べるのが多いみたいだ。今はもう慣れた事ではあるけど、この世界に来たばかりの最初の頃は、一部を除いてどのお店が閉まるのが早くてビックリした記憶がある。懐かしい記憶だ。
「それでね、それでね……何かお腹空いて来たわね」
「話をぶった切って言う程か……でも、そろそろじゃないのか?」
「ホムラ様、キャサリン様、お食事の用意が整いました」
おそらくだが、そろそろ誰かが呼びに来る頃合いだろう……と思っていた矢先だった。
ドアを叩いて部屋には入らず、部屋の前で伝えてくれている。
ちゃんとキャサリンさんもお呼びしてくれる辺り、やはりタルトレット家は良い貴族だと言えるだろう。他人のメイドでも、メイドはメイド。それが常識の筈だからな。
「その声はパリュレね! 入ってきて良いわよ?」
「……失礼致します。フラン様? ミリーが探しておりましたよ? おそらくは私と同じ用件だと思いますが」
「まぁ、細かいことは良いじゃない? ほら、従者行くわよ?」
「はいはい」
ようやく飯の時間。その後はランドール氏と少し話をして、帰宅という流れになっている。
だから今は、お腹が空いたという感覚よりも、ようやく帰れるという感覚の方が大きかった。
帰ったらミルフさんにぬいぐるみを作らないといけないし、エレノアの様子も確認しておかないといけない。
それ以外にも、やらないといけない事はまだまだある……。活を入れる為にも、タルトレット家のタダ飯で元気になって帰りますか。
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