第33混ぜ 無意識の領域
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ビスコからの話を聞き終えて、俺は錬金する為に釜の前へと戻った。
あの親子の相手はビスコとキャサリンさんがやってくれるみたいだし、俺は気にせず作業に集中する。
ビスコからの情報を元に、ラランさんに合うアイテムを目指して釜を掻き混ぜていく。
「ふむ、なるほど……ホムラ君はそんな子供の頃から錬金術一本なのか」
「えぇ、来る日も来る日もでございましたね」
「それに比べて娘のフランは……。我が家系は代々魔法の才能だけは豊かで、フランもそうなのだがね……私としてはもう少し落ち着きと学問の方を頑張って欲しいのだが、これがなかなか……」
「が、頑張ってるわよ! ただ、ちょっと難しいから手間取ってるだけで……魔法の成績なら学年でも上位だもん!」
混ぜる……混ぜる。一心不乱に釜を掻き混ぜていく。
「ホムラ様の学業も私がしっかりと叩き込みましたので……オホホ」
(ぐっ……何か、強い思い出が脳内を……集中しなければ)
「それは才能豊かで羨ましい限りですなぁ」
「えぇ~? 従者って頭良いの~? 本当にぃ~?」
「その他、一通りの武術も叩き込んだつもりなのですが……そちらの才能はあまり無かった様でして」
耳に届く声が、雑音となって集中していた思考が鈍くなっていく。
武術……なんて聞こえたが、あれは果たして武術と呼べるものだったのか甚だ疑問である。
『基本は最後に立っていた者の勝利です。痛みに慣れましょう』
――ひたすら殴られ続けた記憶。
『速く、速く……素早さは戦いにおいて重要ですよ。避けましょう』
――ひたすら殴られ続けた記憶。
『結局……投げ、突き、蹴り、身体で覚えるのが一番です。いきますよ?』
――死にかけるまで戦わされた記憶。
お陰で痛みには強くなったと思う。速さに関しても、エレノアとそれなりに戦えるくらいにはな。
ただ……それ以来、自分の身体で戦うのが嫌になっていた。
手持ちが無くなったり、それに類似したどうしようもない状況になれば、仕方なくキャサリンさん仕込みの徒手空拳で対処もやむを得ないが……ギリギリまでは自分の手は汚したくないのだ。
自分がキャサリンさんと同じ、手を血に染めて愉悦に浸る悪鬼羅刹になってしまうのではないかと……なんか、不安になるからだ。
「な、なら! 私でも従者に勝てる?」
「そうですね……ホムラ様はお優しいですので、女性だからと言って遠慮は致しません。もしかすると良い勝負が出来るかもしれませんが……結果は分かりかねますね」
「えぇッ!? 遠慮しないのが優しさなの? ちっとも優しくないんだけどっ!?」
会話が止まる気配はない。なら、もう俺が集中力を高めるしか雑音を消す方法は無いみたいだ。
掻き混ぜながらも、深く深く呼吸をして、意識を集中させていく。
視界が狭まるが、今はそれで良い。そして、ゆっくりと音が遠ざかっていった。『無』ではない。微かに空気が震えるのを耳と肌で感じ取れる。
――入った。
このアイテムを作り出してからは、まだ一回も入れていなかったその無意識の先にある領域に、踏み込んだ。
(あぁ……これは、うん。とても心地良い……)
自然体のまま、錬金術の真理を覗いては溶け込んでいく感覚。全てに包まれ、全てに広がっていく不思議な感覚。
そして、次に意識が覚醒した時には、何故か俺は自分の手にアイテムを掴んでいた。
いつ手に持ったかすら自分では分からないが、アイテムの特性である魔力を吸われているという感覚で、時間の経過に気が付いたと言っていい。
「できた……」
「ホムラ?」
「ホムラ様?」
俺のポツリと吐き出した声に反応したのは、ビスコとキャサリンさん。
二人の居る方に顔を向けると、俺の視界の中央でスヤスヤと、何をしに来たのか忘れて寝ているタルトレット親子を見付けて一瞬だけムカッとしたが、すぐに意識から外した。
今はそれよりも重要な事があったからだ。
「ビスコ、確認ですが……ラランさんは試作四三号が一番しっくりくると言ってたんですよね?」
「えぇ、まぁ。魔力の吸われる感覚がほぼ無いらしく、他のとそれと比較してもまだ四三号を使っているみたいですね」
「よしっ……。すぐにタルトレット邸へ行きましょう」
「なにやら自信が溢れている様ですが……」
「そうですね。ある意味、集中させてくれたこの親子に感謝を述べても良いくらいには。お陰で、一歩先に踏み込めましたから」
俺はアイテムを鞄に入れ、それとこの親子への『お礼の品』もついでに鞄に入れておいた。
キャサリンさんにランドール氏とフランを起こす様に頼み、ビスコには馬車の御者さんの所へ走って貰った。
(それにしてもまぁ……今までの自分の最高値に近い品質だな)
当然、違うアイテムの品質を比べたとて、何ら意味は無いのかもしれない。言うならば『ジャンクフード』と『高級フレンチ』と『家庭の味』の品質を比べている様なものだからだ。
同じ五〇という評価でもそれぞれのカテゴリーで五〇という評価なだけで、同列に並べて良い訳じゃない。
それでも共通しているのが一つある――品質が高ければ高いほど、素晴らしいという評価になることだ。
俺や師匠の歩んでいる錬金術は、誰でも学べる学問ではあるものの、不確定要素がとても多い。
生まれつきの才能、適性、知識、経験、素材。それに、運なんてものも加わる。他にも、細かい要素だって幾つかある。
だが稀に、その不確定要素がピタッとバランス良く噛み合う時があり、上手く組み合わさった時には……そのアイテムの品質は自分の予想を大きく越えて高くなっているのだ。
今までは、それが偶然である事が多かった。
だが今日は違う。ちょっとしたキッカケはあったものの、自分からその偶然に踏み込んだという感覚が、今も俺の全てに少しだけ残っていた。
(これは成長……ってやつで良いのかな? 聞きたい時に限って師匠は居ないんだよなぁ)
軽く、溜め息に近い感じで息を吐き出した。
師匠へのガッカリ感と、中々起きない……起きてもすぐに動こうとしないタルトレット親子を見ての、やはりガッカリ感で。
「馬車の方の準備は整いましたよ?」
「すぐに行きます」
戻ってきたビスコの後を追って、キャサリンさんに目配せをしてから先にアトリエを出た。
そして、やや遅れる様にしてキャサリンさんと共に来た眠そうな親子は、ゆっくりとした動きで歩いてやって来ては、ゆっくりとした動きで馬車に乗り込んだ。
「出発致します」
乗り込んですぐに、そんな声が聞こえてくる。
なるほど……どうやら馬と御者さんだけは、俊敏みたいだな。
◇◇◇
「お邪魔しますよ」
「いらっしゃいませ、ホムラ様」
タルトレット邸に着いて、いきなりラランさんの部屋にまで案内してもらい、部屋へと入った。
ランドール氏とフランは着替えがあるとかで、今は別行動。ビスコとキャサリンさんだけだと、無駄話が無く、とても静かで良い。
「体調はどうです?」
「はい。ここ数日は屋敷の中も出歩けて……二日も三日も体に怠さが無いというのが久しぶりで……本当にありがとうございます」
「でもまだ吸われる感覚があるんですよね? 持ってきましたよ! ラランさん専用のアイテムを!!」
鞄からアイテムを取り出す。
真っ白のシュシュ。見えにくい位置に小さい調節ネジの付いてある『腕輪型魔力吸引補助機』……いや――『魔力調整補助髪飾り』。
もうラランさん専用のアイテムだし、腕輪と言うよりはただのシュシュだ。
今ラランさんが持っているのを回収して、新しい物を渡す。反応はあからさまに違った。
「えっと……何も、変化は無いですね。えっ……無い!?」
「うしっ! 完璧な調整です。ただ一つ言うならば……」
ラランさんが使った魔力は回復しない。増える分と吸い取る分が均衡しているから当然の事ではあるのだが。
だから、回復させたいなら外さなければいけない。回復用のダイアルを組み込めば良い話ではあるのだが……難易度が更に上がる事を考えて、やめておいたのだ。
その説明をラランさんにすると「問題ありません」とあっけらかんに笑って見せてくれた。
「なら、クエスト完了ですかね。フランから金貨を貰って帰るとしますよ」
「も、もう帰ってしまわれるのですか? せめて、お夕飯をご一緒出来たらと……」
「それは良き考えです! 私は賛成ですよホムラ!」
「お腹空いてるだけでしょうに……キャサリンさんはどうです?」
「ホムラ様の指示に従うまでです」
なら、せっかくだしご馳走になった方が食費的にも良いかもしれない。
まだランドール氏と『報酬』の話も残っている事だし。
「でも、そうすると暇になりますね……。ビスコ、キャサリンさんどこかで時間でも潰してからご飯だけいただきに来ますか?」
「そ、それでしたら……その、貴族街をお散歩するというのはどうでしょうか!?」
「貴族街って面白いんですか?」
「え、いえ……その、詳しい事は私も知らないのですが……貴族御用達のお店とかあるので、ホムラ様の気に入る良い商品とかあるかもしれません、よ?」
「なるほど。貴族街の店は高級店ですし、行く機会はそうそう無いですね……面白いかもしれません」
一般市民である俺達が普段から利用する店も、高級店の二号店みたいな形であるにはある。が、やはり価値的な話しではランクが下がっているのも確かだ。
市民には市民に合う店が残るのは当然の話で、つまり貴族達が利用する店というのは、それなりの商品が揃えてあるという事に繋がる。
唯一、市民も貴族も集まる闇市というのがあるらしいが……まだ利用はしていない。今度、暇な時にでもキャサリンさんに下調べに行って貰おうと思っている。
「では、玄関で待っていますので」
「準備が整い次第、すぐに参りますね。パリュレ、手伝って」
「はい。お召し物の準備はお任せを」
先に玄関で待っていると、家用の服に着替えたフランとランドール氏が遅れてやって来ては、何やらいちゃもんを付けてまた着替えに走っていった。どうやら、二人もついて来るらしい。
「ビスコ、たしかここの奥様に気に入られてるんですよね? ここで雇って貰ったらどうです?」
「執事としてですか?」
「それか、お抱えの神官として……とか?」
「神官という立場でしたら、どの家にも属してはいけない決まりがあるんですよね。教会は中立ですから」
「でも、形だけでしょう?」
「……痛い所ですね。まぁ、その通りなんですけど」
苦笑いを浮かべるビスコだが、もうビスコ自身は教会を追い出された立場だ。
そこまで律儀に守る必要があるのか俺からすると疑問なのだが、ビスコはそういう所をしっかり守るタイプなのは知っている。だから、本人が嫌がるのなら、無理にとは言えない。
(まぁ、暇潰しのただの雑談だしな。本気で言っている訳でもないし……)
本気ではないが、広い部屋と食事が付いてくるのなら、俺のアトリエに居るよりも良いのでは? という気持ちはちょっとだけある。
食費が、凄いからな。タルトレット家の方が、俺の所よりもビスコを満足させてくれるだろう……という思惑がほとんどだけど。
「ビスコはこれからどうするんですか? クエストを受けたり?」
「そう……ですね。お金を稼がなければいけませんし、ホムラ、一緒にどうですか?」
「ビスコ様、申し訳ありません。ホムラ様のご友人であるビスコ様からのお誘いは大変喜ばしいのですが……しばらくホムラ様にはご予定が御座いますので」
「予定ですか?」
「はい。学校の先生です!」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
ビスコらしからぬ叫び声が空へ響いていった。
学校の先生……言うならば錬金術科の講師という立場になるらいし話は、どうやら本当らしい。
いつから勤めるのか、何をすれば良いのかについては、キャサリンさんが話を纏めてくれているみたいだ。この国トップの錬金術であり、エルフでもあり……そして、学校の校長でもあるシララさんと。だからまだ、詳しい事は俺も知らない。
週に五日、授業のある時に顔を出せばそれで良いらしいという、ざっくりした勤務内容だけは知っているけど……。
学校に通った事の無い俺に――立場は違えど――師匠とキャサリンさんが通える様に手筈を整えてくれた。せっかくの話でもあるし、受けるつもりではいるのだが……人に物を教えられるのかという不安があった。
「閃きました」
「……キャサリンさん? それは良い閃きですか? 悪い閃きですか?」
「ホムラ様は異な事を仰いますね? ただ、ビスコ様も学校で非常勤講師として……礼拝堂でお勤めになられては如何かと思ったまでですよ。悩みを持つ子供は多いですからね」
「たしかに……でも、女学生が集まる未来しか視えないのですが?」
「ビスコ様に、迷える子羊を導く意思があれば女学生による誘惑に振り回される事もないでしょう」
提案自体は、とても良いものに思える。ビスコと連絡を取り易くなるし、ビスコにも給料は出るだろうし一石二鳥。
問題はシララさんの許可が出るかどうかだが……。
「ビスコ様さえよろしければ、上手くやりますが?」
――という事らしい。問題は無いみたいだな。
「皆様、お待たせ致しました」
後ろからラランさんの声が聞こえて、俺達のお喋りは一時中断となった。
ランドール氏とフランが居ない内に出掛けてしまえればどれほど楽か……そんな事を考えながら、残る二人を待つことにした。
もうすぐ(あと数話後?)、王都に来てからのアタフタは終わって、学園編に突入するって感じです!
学園編と言っても人気の無い錬金術科の講師ですから、暇なのかもしれませんが……ね(´ω`)
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




