第31混ぜ 試作一号をお届けに
お待たせしました!
よろしくお願いします!
誤字脱字の訂正、ありがとうございますm(__)m
「じゃあ、とりあえず……作るか」
素材は揃ったし、さっそくアイテム作りといきたいのだが、まずはエレノアにお昼御飯を作ってあげなければ。
これからミルフさんと出掛ける事を考えれば、少し多めに作っておいた方が良いだろう。ミルフさんには甘やかし過ぎと怒られそうだが……。
「クルス、似合ウ? 似合ウ?」
「ん? その服は……?」
「キャサリンが用意してくれたヨ! とっても動きやすイ!」
「そか。良かったな、よく似合ってる」
「むフフー」
エレノアに少し待っている用に伝えて、一日分の料理とおやつに焼き菓子を準備した。
「エレノア、俺が作ってあげるのは料理だけ。欲しい物があったら冒険者として稼いで、お金を払って注文すること。良いね?」
「私頑張ル! 早く一人前の冒険者になるから見ててネ?」
「あぁ、応援してる」
「じゃあ、少し家を空けるのヨ!」
エレノアがアトリエから離れて、俺とキャサリンさんの二人になる。
少し前まではこれが普通だったのに、エレノアが居ないだけで、静けさに少しだけ寂しさが加わった気がする。
ただ、今から俺も仕事の時間だ。いつまでも感傷に浸っている訳にもいかないし、気合いを入れていかないとな。
「キャサリンさん、今から仕事をしますので何かとよろしくお願いします!」
「かしこまりました。ご用がありましたら何でもお申し付けを」
「えっと……いきなりで悪いですけど、大釜に八割程の水をお願いしても良いですか?」
「もちろんです。すぐに準備致します」
錬金術の最中は身動きが出来ない。お腹が空いても、トイレに行きたくなっても、目を離したり少しその場を離れたりなんか出来ない。その瞬間に、ドカンだ。
だから、お客が来ても対応はキャサリンさんが頼りだし、お医者さんの手術の様に汗を拭いてもらわなければいけない。
(さて……試作だからざっくりと作っていくか)
鞄から大量に買ってきたネジの入った袋と、数字が記載されている調節ネジを取り出す。
種類毎に仕分けしたネジ入りの袋は、とりあえずでいろいろと買ってきた為に十袋を越えてしまっていた。
その中から、普段から使用頻度の高い方である『十字』の凹みが付いているネジと、六角ボルトを使ってみようと、一本ずつ元気な声が聞こえるヤツを選び取った。
そして、次の素材はミルフさんに準備をお願いした動物の心臓。
こちらも何種類か用意して貰って、タッパーに仕分けしてある。今回は、何となく跳躍兎の心臓を使用してみるつもりだ。
最後に、デザインをどうしようかと空いた時間に考えていたが、日常的に使う物と考えると、ミルフさんに贈ったぬいぐるみの様な形状にする訳にもいかない。
肌に触れていて尚且つ、うっかり落とさないデザインを思い浮かべ『腕輪』がベストではないかと、つい先日考えが至った。
調節ネジが付いている為、完成品の見た目は『腕輪』というより『時計』に見えるかもしれないな。
「素材はオッケー。うーん……『ぐるぐるぐーる』いや、安全に『ぐーるぐーるぐーる』でいくか?」
水を魔素水へと変える時の魔素を含ませる濃度や、掻き混ぜ方一つでも成功か失敗か、品質の高さに影響してくる。
調整や最初の素材選びからして、かなり難しい。その上、才能に左右され易いし、ひたすら経験を積んでいくしかない……だから、アイテムを作る錬金術師は人気が無いのかもしれないな。
「ホムラ様、準備が整いましたよ」
「ありがとうございます、キャサリンさん」
釜の近くに置いてある混ぜる為の棒を手に、まずは濃いめの魔素水を作り上げた。
そして、心臓の入ったタッパーを開け、刺激臭を感じながらも一つを掴んで魔素水に投入する。続けて、二本のネジ、調節ネジを入れ、最後に丁度良くミルフさんから渡されていた動物の皮をナイフで細く切ってから入れて終了。下準備は終わりだ。
「キャサリンさん、火を。後、その内で良いので薪の調達もお願いします」
「承知致しました。では、着火します」
キャサリンさんが、何処からともなく取り出したマッチ棒で火の準備をして、大釜の下に敷いてある薪へと火を移した。
それを確認して、俺は手にした棒で素材入りの魔素水を掻き混ぜ始めた。
後はひたすら一定の感覚で、作業をしていく。正確な完成時間の分からない単純作業を、完成するその時までずっと。
◇◇◇
「おっ……ようやくか」
掻き混ぜ始めてどのくらいの時間が経ったのか、経験からすると四時間は経過してない様にも思える。
ただ、やはり腕に掛かる負担はそこそこキツいものになっていた。精神的な辛さより、肉体的な辛さの方が俺にとってはキツいものがある。
――光輝く水面が視界を埋め尽くした。
釜に残っていたのは一つの完成したアイテムのみ……つまり、水も素材も上手く錬金できたという事だ。
とりあえず、アイテムを素手で掴んでみる。
(うん……吸われるな)
体内から感覚で言う気力、やる気、活力に近い何かが吸い取られていく。
錬金自体は前に作った物が基礎になっているし、失敗は無いと思っていたが、こうして作り上げた物が効果を発揮する瞬間というのは、いつだって嬉しく感じる。
「ホムラ様、お疲れ様でした」
「あ、はい。今、何時ですか?」
「ホムラ様が作業を開始なされてから、三時間と三八分ですから……午後の一時二四分でございますよ」
キャサリンさんなら、体内時計で正確な時間を教えてくれるのは知っていた。まさか、俺の作業の時間まで計っていてくれたとは……驚きというか、流石の一言だ。
「ん? あれ……?」
キャサリンさんを見ている俺の視界の端に、白い何かが映った。
アトリエに白物家電は無かった筈と思いつつも、首を少し回すとそこに相変わらずの美青年オーラを放っている人物が座っていた。
「お、おぉ……ビスコ! 来てたんですね」
「お邪魔していますよ、ホムラ。作業の途中で訪れたのですが、何やら真剣なご様子でしたので、キャサリンさんにお茶を用意して貰っていました」
たしかに机を見るとティーセットが置いてあった。お菓子にはクッキーが用意されているみたいで、既に残りが一枚となっていた。
もしかしたら、結構な時間待たせてしまったのかもしれない。
「そうですか。今しがた、とりあえず試作一号が完成したところです」
「流石ですね……私も頼まれていた事はやっておきましたよ。そのメモがこれです」
一枚の紙を受けとる。
それは、俺がビスコに頼んでおいて貰ったラランさんの魔力量を調べる為の実験の記録だった。
魔力が無くなってから、どれほどの時間で初級魔法を放てるか。
魔力ポーションで回復させて、初級魔法を何発放てるかなど……ざっくりとした実験の結果が記されていた。
あくまでひとつの指標とする為のものだったが、結果としてやっておいて良かったと思っている。
ひとつ作って分かったのが、予想よりは手応えがある事。
これならば……細かい調整に加え、何か閃きがあればすぐにでも完成しそうな気配さえある。
「ありがとうございます」
「フラン嬢にメモをうっかり水浸しにされる事さえなければ……もっと多くの実験結果を残せたのですが、ね」
遠い目をするビスコの苦労が、何となく目に浮かぶ。
『アイターッ! 転んだついでにお水こぼしちゃったァ!! ミリー!!』
『あらあら、お嬢様……ビスコ様、申し訳ありません。男爵家のお嬢様が転んだ上にメモに水を掛けてしまい……男爵家のお嬢様の代わりに私が謝罪をさせていただきます』
『い、いえ……あはは……』
――おそらく、こんな感じだろうか? 本当に苦労を掛けたかもしれない。『一度だけ』という言葉を言わない……と思うのは、流石に深読みし過ぎだろうか。
「……苦労を掛けましたね。ビスコ、まだお腹は空いてますか?」
「もちろんです! もしかして、お土産ですか!?」
「そうです。ジャンクなフードを買って来ましたので、一緒にお昼にしましょう。キャサリンさんも」
「では、炭酸のお飲み物を用意致しますね」
キャサリンさんは、よく分かっている。
お土産の入った鞄から、いろんなバーガーがある中で特に人気のバーガーをビスコには三つほど渡した。
俺は二つでキャサリンさんは一つ……炭酸ジュースを用意した途端、ビスコの目が輝き出した。
「こ、この香りこの形状……どうしてでしょうか、かぶり付きたくなりますね」
「ふっ……さすがはビスコ。まず、包みを開いて……そのままガブリですよ」
「は、はい……では、いただきます」
作りたての様な温かさを保っているバーガーを、俺達はお上品さの欠片もなく食べていく。
それが、一番美味しい食べ方であり作法でもあるからキャサリンさんも同じ様に食べていく。
「お、美味しい!! こ……これは……モグモグ……とても……ング」
「まだまだ大量に買ってますから、また別の日に出しますね」
「それは素敵な話ですね! ……どうしてか、この食べ物にはこの飲み物が一番合う……そんな感じがします」
飲み物もお気に召したご様子。お土産としてバーガーを買うなんてあまり無い事に思えるが、この世界にとって食に関するお土産は、何だって喜ばれそうな気がする。
身内だけで楽しむのがまた、より美味しく感じるスパイスになっているのかもしれないな。
「ホムラ、食べ終わったらどうしますか? 試作をララン嬢の元へ?」
「そう……ですね。一つ目くらいの感想は自分で聞いておきたいですし」
「なら、ここまで馬車を出してくれているタルトレット家の方が居ますし、すぐにでも行けますよ?」
「……その方にも何かお土産でも渡しますかね」
「紅茶を好んでいるという話をしましたから……焼き菓子とかの方が喜ばれるかと」
そんな話をしながら、バーガーを食べ終えた俺達はタルトレット家に向けて出発する事にした。
今回はキャサリンさんも同伴するらしく、御者さんやタルトレット家へのお土産のチョイスは全て任せておいた。
移動時間は、タルトレット家に泊まっていたビスコからここ一週間の話を聞く時間になった。
知り合ったばかりの人の屋敷に一週間も泊めてしまった事や、雑用をさせた事に対して僅かばかりの罪悪感を感じたが、本人は至って平気そうに話すのが救いだった。
元から宿無し金無しのビスコからすると、貴族家に住むという待遇は、めちゃくちゃ良かった……と言えるのかもしれないな。
「……まぁ、そんな感じで。あと、フラン嬢の学園の休みがそろそろ開けるらしく最近は課題を終わらせてないとかで忙しくしてますよ」
「ほー。ま、変わりない様で何よりです」
「えぇ……あ、もうそろそろ着きますね」
馬車に揺られてしばらく、外の景色をチラッと見たビスコがもう到着すると言った。
久し振りの街並みを、覚えている様な覚えていない様な感覚でぼんやりと見ていたが……王都に始めて来た時よりも、日本に戻っていた時間の方が長かったし、どうやらあまり覚えていないみたいだ。
関心の無い事については覚えが良くない、それは昔からだった。
だが、それで良いと今でも思っている。知りたい事だけを、興味のある事だけを追い求めるのが錬金術師だからな。
久し振りの屋敷は相変わらず大きく、玄関の前で降ろして貰うと、すぐ空を仰ぎ見た。
日本のビルやマンションが上に長いのは当然という認識なのだが、一軒家の住居でこの高さや幅は『流石は金持ち』って感じで何度も見上げてしまう。
こんだけ広い家を持った所で、管理に手間が掛かりそうだから必要とは思わないが、他人事であるが故に憧れに似た感情が顔に出てくる。
「従者ぁー!」
見上げていた屋敷の窓から、フランが叫んでいる。
体を窓から乗り出して、いろいろと何かを言っているが……落ちそうだ。
体を半分以上出して、両手で何かのジェスチャーをしているのに落ちないとは、中々のバランス感覚だな。その道のプロが見れば称賛に値する格好なのかもしれない。
(いや、体を前のめりにする道のプロって何だよ……)
自分にセルフツッコミを入れて、フランを一瞥してから屋敷に入っていった。
大方……後ろで必死に専属メイドのミリーさんが引っ張ってるってオチだろうしな。
屋敷に入ると、名前の知らないメイドさんが居た。
「ビスコ様、お帰りなさいませ。ホムラ様もお待ちしておりました」
「ホムラ、こちらはパリュレさんです。主にララン嬢の身の回りの世話をしている方です」
「そうですか。急で申し訳ないのですけど、ラランさんの都合は合いますか?」
「はい。ララン様もお待ちしておりましたので。さっそく部屋へ案内させていただきます」
チラッとキャサリンさんを見たが、何度か頷くという反応をしていた。同じメイドとして何かを観察しているのかもしれない。
屋敷を露骨に見渡す素振りは見せないが……僅かに眼球は動いていた。
俺達がパリュレさんの後に続いて歩き出してすぐに、駆けてくる足音が聞こえてきた。誰の足音なのかは、みんな同じ人物を思い浮かべた事だろう。
実際に来た人物は……予想通りだった。
「従者!! どこ行ってたのよ! 全然来ないから『あれ? さては神隠し? ついに神を怒らせたの? 怒りに触れて天誅なの?』――なんて心配しちゃったじゃない」
「……そうだな」
何て伝えたかはイマイチ思い出せないが、しばらく来ないという事は伝えた筈なのだが……とりあえず、フランからの俺の評価はだいたい把握した。俺は神を怒らせる様な人間らしいな。
「お、お嬢様……そんなに走ると私の体力が……あ、良かったです。ホムラ様に後は背負ってもらえる……」
「ど、どういう意味よミリー! それじゃ、まるで私がお荷物みたいじゃないっ!」
「そう言えば聞いたけどフラン、ビスコが記録してくれた紙を水浸しにしてくれたらしいな?」
「あっ……あーれー? ど、どどどうだったかしらねー? そ、そんな事よりお姉様の所に行くんでしょ? 急ぐわよっ」
めちゃくちゃ動揺したな。まぁ、別にたいして怒ってもいないが面白いから良しとしておこう。
先に走って行ったフランとミリーさんを追う様に、俺達もラランさんの部屋に向かった。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




