第30混ぜ お久し振りですね
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
「クルスー? あまり人居ないのヨ?」
「たぶん、朝のラッシュの後だからだな。空いてるのは好都合だ」
とはいえ、受付には数人ずつの列が出来ていた。
俺は迷わずサリュさんの列に並び、順番を待った。
「次の方……って、ホムラ様! お待ちしておりました!!」
「あ、はい……何か、急に元気ですね?」
「えぇ、そりゃあもう……お菓子が来るのはいつになるのか、そればかり考えてしまい……大変な毎日でしたから」
キラキラとした瞳が何かを期待している様に見える。今すぐにその期待に応えても良いのだが、まずは仕事をして貰わないとご褒美は渡せない。
ミルフさんき頼んでいた物を預かってくれているはずだしな。
「後でお土産は渡しますよ。えっと……まず、冒険者登録して欲しいのですが」
「ホムラ様のですか?」
「いえ、この子の……ほら、エレノア」
「どもども、はじめましてヨ!」
「は、はじめまして?」
後ろに立っていたエレノアを前に出す。
エレノアは笑顔だけど、サリュさんはちょっと勢いに押されたのか、困惑気味の顔をしている。
「ホムラ様……の、お知り合いの方ですか?」
「いえ、嫁です」
「……はい?」
「いえ、だから、嫁です」
「ヨメデス?」
「嫁です」
「よ……嫁ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
サリュさんの声がギルド内に響き渡った。耳を塞ぐ程にうるさいのだが、そんなに驚くことだろうか?
この世界では晩婚の方が珍しく、早婚が普通だった筈だ。
学校に通う人は結婚がやや遅くなるのだろうが、若い内から働いている人は良い人との出会いがあれば結婚も早めにしているらしいし。
十五で婚約者が居るのは驚かれる程の事では無いはずなのだが……もしかして、急に嫁を連れて来たから驚いたのかもしれないな。
「す、すいません。つい声が」
「いえ……とりあえずエレノアの冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました。では、こちらの紙にご記入をお願いします。もしよろしければ、私が代筆しますが?」
「そう……ですね。お願いします」
勉強の成果をここで発揮しても良かったのだが、さすがにエレノアの前で文字の間違いとか指摘されたら恥ずかしいから止めておいた。
サリュさんからの質問に、エレノアが答えていく。と言っても、名前や年齢、得意な武器等の簡単な質問だけである。
質問を終えて、少し席を離れたサリュさんが持ってきた厚さ一センチ未満の板に、エレノアが血を一滴垂らしたところで登録は完了となったみたいだ。
エレノアがカードを受け取り、俺に渡してきた。
「いや、それはエレノアが持ってないと意味ないから。一応、身分証だから」
「うっかり、うっかりヨ……でも、カバンとか持ってきて無いネ」
「あー……そうだな。エレノア用のバッグも仕立てないといけないか」
「クルス作ってくれル!? 実用性を重視でお願いしたいネ!」
いきなり紛失しても大変だし、とりあえずカードは俺が預かっておく事にした。
かなり動くエレノア用にバッグはどんな形状にすれば良いかを考えていると、サリュさんが「コホン」と咳払いをした。
まだ説明の途中だった事に気付いて、俺とエレノアはサリュさんの方に向き直った。
「えー……そちらのカードですが、クエストを受けたり達成の報告する際に必要となりますので、無くさない様にお願いします。万が一紛失してしまった際は、速やかに報告をお願いしますね。では、冒険者ギルドについての説明をさせていただきます」
ギルドの利用の仕方や冒険者カードを持っている事の利点、緊急クエストについてや、ギルド金庫について詳しい話を聞かせて貰った。
「クルス、ちゃんと分かっタ?」
「バッチリ」
「あー……いえ、できればエレノア様に覚えておいて欲しいのですが」
「やってれば慣れてくるだろうから、大丈夫だよな?」
「大丈夫ヨ! ……たぶん。へへへ」
自信ないのか、笑って誤魔化している。まぁ、たぶん大丈夫だろう。
エレノアの件はこれで終わり、次が本題だ。ミルフさんはどれくらいの素材を持ってきてくれたのか。
「サリュさん、ミルフさんからの荷物を受け取っても?」
「えぇ。そうですね、確認もして欲しいので別室に移っていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
「――その後ろ姿はホムラか?」
サリュさんに三階にある応接室へと案内して貰う間際、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あっ、ミルフさん。お久し振り……ってクサッ!」
「く、臭くない!! キミは本当に失礼だな! おい、やめろっ……その手に持ってるやつで吹き掛けるな!!」
冒険者ギルドでは珍しく、小綺麗な格好を保っている女冒険者。腰に帯びた剣は相変わらず綺麗だ。
ただ、やはり血生臭い。冒険になれた者なら嗅ぎ慣れた臭いなのかもしれないが、近くで感じるとめちゃくちゃ臭い。だからつい、芳香剤を吹き掛けるのも仕方ないというものだ。
「クルス? この人はどなタ?」
「この人はミルフさん。仕事で使う素材の調達を依頼した冒険者さんね。ちょっと前に素材の調達をしに行くのに護衛になってくれて、そこからの付き合いになるかな?」
「いや、その件についても今回の件でも私はホムラに感謝しているぞ! お陰で青から緑ランクへ昇格できたのだからな!!」
ドヤ顔で冒険者カードを見せてくる。たしかに、ランクを表示している部分には緑と表記されていた。
少し前までは今のエレノアと同じ白ランクだったのに、一皮剥けて急成長……いや、元々実力はあったみたいだし、順当なのかもしれないな。
「おめでとうございます。では、また昇格祝いのぬいぐるみを作らないとですね」
「うむ! 期待しているぞ! ……そうだ、また素材を持ってきたんだった。お前に渡せば良いのか?」
「今サリュさんに荷物を貰うところだったんですが……一緒に応接室に行きませんか? 話もありますし」
「そうだな。では、ついて行こう。それより……隣の女の子は知り合いか?」
「あぁ、知り合いというか、嫁ですよ」
反応は、サリュさんよりもあっさりとしていた。あっさりと言うよりは、急な展開について行けてない感じではあるけど。
叫ばなかったのは、冒険者としての鍛練だろうか? なら、エレノアも冒険者をしていれば落ち着きというものを覚えるかもしれない。
(そうだ! ミルフさんにエレノアの指導役になってもらうのはどうだろうか? 同性の知り合いも出来るし、一石二鳥なのでは?)
俺はそんな事を考えながら、階段を上っていった。
◇◇
「おぉ、これだけの生々しい心臓が沢山あると……正直気持ち悪いですね」
「クルス、ぶっちゃけ過ぎヨ」
「まぁ……それはともかく。ミルフさん、ありがとうございます。報酬ですが、どうしますか? お金か、何か現物でになりますが」
応接室で、預けておいた鞄からタッパーに入れられた動物毎の臓物が机いっぱいに並んでいる。
ミルフさんは自分で集めた物だし、エレノアや俺は気持ち悪いと思うだけで、特に引く事はない。唯一、サリュさんだけが正常な反応を顔に出していた。
ミルフさんへの報酬は、金はある事だけを伝えて後払いにしておいた。どれだけ集めてくるのか分からなかったという部分が大半の理由だが、もしかするとまたぬいぐるみと言う可能性も捨てきれてなかったからだ。
「ふっふっふ……いろんな動物の毛皮も確保しておいたのだ。肉はギルドで買い取って貰ったからお金はあるし、良い回復薬もまだ残っているからな。ぬいぐるみを幾つか作ってくれ! 私が求めるのはそれだけだ」
鞄から律儀に洗って干された感のある毛皮を取り出して、見せてくる。
俺は耳打ちでエレノアに、ミルフさんが可愛い物好きというのを伝えると、何かシンパシー的なのを感じたのか積極的に話し掛けだした。
「ミルフ、私も可愛い物好きヨ!」
「そ、そうか……エレノアさんもそうなのだな」
「私、エレノアで良いネ。私はもうミルフって呼んでるヨ」
「そうか、では……エ、エレノアと呼ばせてもらおう」
男相手にも堂々とした立ち振舞いをしているミルフさんには珍しく、少し照れがある様子だ。
同性の、それも同い年くらいの人と話すのに慣れていないのだろうか? サリュさんの存在を考えるとそんな事はなさそうなのだが。
「サリュさん、ミルフさんって同性の友達居ないんですか?」
「お、おい! 何をふざけた事を抜かしているんだ!」
「そうですねぇ……男ばかりの環境の中で育ったみたいだし、冒険者になる様な女性は屈強な人か半獣人さんが多いから、エレノア様のような人族の女性は珍しいんだと思いますよ」
「ミルフ、私と友達……嫌?」
「ち、違っ!! 嫌じゃなくて……むしろ嬉しいというか、だな」
臓物を並べた机を挟んでだと、乙女チックな会話を繰り広げても全然キュンとは来ないみたいだ。
エレノアに友達が出来てくれるのは俺としても嬉しい事だ。エレノアも友達が出来れば、異世界での暮らしもより楽しくなるだろうし。
「クルス、私友達出来たヨ!」
「俺は二年掛かったけどなー、凄いなエレノアは」
「えっへン!」
「なぁ、その……二人は本当に夫婦、なのか?」
懐疑的な視線を向けて来るミルフさんに、俺とエレノアは頷いた。
これから冒険者になるエレノアだが、もしかして夫婦となるとデメリットでもあるのだろうか? 命の危険がある以上、気持ち的に高ランクのクエストは受けづらくなるのかもしれないが……。
「サリュさん、冒険者になる上で不都合とかありますかね?」
「いえ……まぁ、冒険者さんで所帯を持つ方もいらっしゃいますけど……そうですね、特に女性の方は結婚を期に引退なされる方がほとんどですが」
「なるほど。まぁ、なら大丈夫ですかね」
「大丈夫……なのですか?」
エレノア自身が生涯現役だという事と、師匠が出掛けたせいで実はまだ仮夫婦だという事を、サリュさんとミルフさんに話した。おそらくミルフさんも心配したであろう、エレノアの引退については結婚したとて大丈夫という事もついでに伝わったはずだ。
「まぁ、まさか幼い頃に約束しているとは……正直忘れていましたけど」
「まさか、ホムラが妻帯者だとはな……なんか負けた気分だ。絶対に結婚は不可能な部類の男だと思っていたのに」
「はっはっはー。まぁ……ぶっちゃけエレノアと会っていなかったらずっと独身だったかもしれませんね」
師匠が居て、キャサリンさんが居て、錬金術が出来て……そんな日々に満足していた。だから誰かと結婚したりなんてのは、そもそも深く考えた事すら無かった。
いずれもう少し大人になって、どこかで会った誰かか、キャサリンさんが紹介してくれた人と結婚するものだと思っていたぐらいだし。
それが日本に行く機会があって、エレノアと再開して、宝石を渡した事によって思いがけない展開になっていった。
今は、エレノアが居てくれる事によって満足度がかなり高くなったと自分でも実感がある。
料理が出来なくても、大雑把でも、ちょっとお馬鹿でも……錬金術に理解があるというだけで、ありがたいと存在だ。
「……っと、話がかなり脱線してましたね。ミルフさんにはぬいぐるみ作ってくるとして、サリュさん! お待ちかねのお土産ですよ」
俺は鞄から、お徳用チョコや洋菓子和菓子の入った袋を計三袋ほど取り出してサリュさんに渡した。
日本だと数千円のお菓子でも、この世界じゃ幾らの値段になるのか想像が出来ない。サリュさんの口が開いて塞がらないところを見るに、相当な値段がするのだろうな。
「あわ、あわわわわ……」
「ホ、ホムラ……キミはこれをいったいどこで仕入れた? もしや、自分で作ったのか?」
「内緒です」
「便利な言葉だなっ!! 見ろ! サリュが惚けてしまっているではないか!」
「ちなみに、その量で銀貨何枚ぐらいに?」
「バカッ! 味にもよるが、おそらく金貨……それ以上のレベルだ。こんなの持っているとしったら貴族に執拗に狙われるぞ……このままじゃ、サリュが危ないかもしれない」
その話が本当なら、お菓子を転売すれば億万長者も夢じゃない。俺がフランから依頼されたラランさん治す件は、金貨一枚で請け負った。それよりも儲かるのなら、今後は定期的にお菓子を売る仕事だけで生きていけるだろう。
ただ、ミルフさんの言う通りに珍しい物を欲する貴族達に目を付けられ、厄介事になるのは間違いないだろう。
……となると、やはりお菓子転売屋はナシか。本当に困った時の金策として、後は普通にお礼として配るくらいにしておいた方がよさそうだ。
「サリュ! 戻ってこい、サリュ!」
「あわわわ……はっ!! いけない、あまりの甘味に意識が飛んでいたわ。でもこの量……どうしましょう? ゆっくり食べたいけど、期限を考えると……」
「おい、ホムラ。お前のマジックバッグをサリュに貸してやれないか? 劣化しない優れものなのだろう?」
まぁ、たしかに。優れものですけども。いろいろとオプションを付けてないオーソドックスな物ではあるけど、その時点でかなり優れものではありますけど。
「では、ミルフさん。エレノアに冒険者の基礎を教えてあげてくれませんか? 代わりにバッグを貸し出しましょう」
「それで良いのか? 条件が簡単過ぎて疑ってしまうのだが……」
「それで良いですよ。エレノア、勝手に決めちゃったけど……どうだ? ミルフさんもソロだし二人の方が安心だと思って」
「私もそれで良いヨ! ミルフ先輩、お願いしますネ」
「わ、分かった! 私に任せておくと良い!!」
とりあえず、これで準備は整ったしこの街での用事も終わった。ここから俺はひたすらラランさんの為に錬金の時間となる。
エレノアを構ってやる時間も減るだろうと思って冒険者にしてみたのだが……丸く収まってくれて良かった。
実力もサバイバル力もあるエレノアだけど、冒険者としては初心者だ。慣れない事もあるだろうし、知らない事も多いだろう。その点において、ミルフさんと知り合いで助かったな。
「じゃあ、俺は帰るけど……エレノアはどうする?」
「私も準備したいから一旦帰るネ。ミルフ、ちょっと待ってて欲しいヨ」
「う、うむ……しばらく休憩したいと思ってたからな」
鞄にタッパーを詰めて、俺とエレノアは応接室を後にした。
帰りの道中で、今後の事を少し話しながら歩いていく。
師匠の居なくなったアトリエの管理をエレノアに任せるという話とか、いろんな秘密を迂闊にペラペラと話さないという事、あとは好きにすれば良い……なんて事を話しながら。
「……クルス? ミルフは友達? 友達以上?」
「んー? 友達って程でもないんじゃない? 友達の定義とか知らないけど。急にどうした?」
「どうもしてないネ、とりあえず私に任せるヨ」
「……? そうか、任せたぞ」
任せろというエレノアに「何が?」とは聞かずに、とりあえず任せておいた。
スッと俺の手を掴んで来たエレノアの手を握り返して、笑顔を向けてくるエレノアに微笑み返して、二人で歩いてアトリエまで帰って行った。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)




