第3混ぜ 師匠……帰省するってよ
最初は連日の投稿が良いとかで、今日も投稿です!
よろしくお願いします!٩(๑'﹏')و
前にも何度か来たことはあるが、西部劇などではお馴染みのウェスタンドアのせいで外に居ても中の喧騒が聞こえてくる。
きっと、休みの冒険者達が暇を持て余しているのだろう。
この世界では平屋の様な一階しか無い建物が多い中、冒険者ギルドは三階建てだ。一階はクエスト受注や待機所のある受付。二階は冒険者達が安く飲み食いする大味料理の酒場。三階は関係者しか入れない仕様で、ギルド職員の休憩室やギルド長の部屋、何かしらの時の応接室が在るらしい。
今日訪れた理由は、様子見。クエストを発注する際の費用なんかを受付の人に聞くつもりでやって来た。
「さて……早くしないと師匠が腹ペコで怒っちゃうな」
建物の中に入って行く。私服の状態で入って行くのはやや目立つが、冒険者達も依頼人に絡む様な真似はさすがにしてこない。
受付で騒いでる女の子、クエストが貼り出されているボードの前で佇む男性、情報交換している雰囲気のベテラン風の冒険者達。
それらを一通り見渡して、受付の列へと並んだ。四つある窓口だが、今は人が少ないからか、三つしか使われていない。
その内の一個が騒いでいる少女のせいで塞がれていると言っても良い。
そこに並ぶのは賭けだ。他の二列の方が早い可能性もあるが、この少女の癇癪がこの後すぐに終わるかもしれない。
「よし、錬金術師は運も必要だしな。自分の時間を賭け金しようか」
隣の列に並ぶ冒険者達が口々に「またか……」「ガキが粋るな」なんて言葉を漏らしている。
少女と受付嬢の会話を拾うと、その少女はどうやら昇格試験に落ちたらしい。しかも二回目だとか。
試験が俺や師匠の属するギルドと同じなら、三回目も落ちれば最低一年は試験を受けられなくなる。つまり、割りと崖っぷちという状況みたいだ。
「ですから、何度も言ってる通り試験内容の変更はありません。全員が通る道ですので」
「しかしだな……それだと困るのだ。また落ちてしまうではないか!」
「そう、仰られましても……」
話だけを聞くならば、冒険者側のワガママだ。
そりゃ、受付嬢も困るだろうな。
長い髪をひとつに結び、腰には綺麗な鞘をした剣をぶら下げている。服装も動きやすやを重視しているのか、重々しい物は無さそうだ。
悪人にも見えないのが、受付嬢も対応に困る理由の一端かもしれない。
「あぁ、後ろに人も並びだしたので……」
受付嬢の言葉に少女が振り返る。人族の女の子だ。尻尾が生えているだとか、耳が尖っているだとか、そんな特徴はない。
だが、物騒で野蛮なイメージのある冒険者とは違い、顔が整っている。髪と瞳が暗めの青っぽいのが特徴的で、可愛いよりは綺麗系だ。クールビューティーってやつだな。
卑怯な手段や姑息な事を嫌いそうな雰囲気まであるのに、そこまでして食い下がっている理由に、少しだけ興味が出た。
錬金術師……というよりは師匠の弟子をしているせいで、俺にも悪い癖が移ってしまっている。興味が出たら、調べたくなる癖が。
「あの……失礼ですか、その試験内容とはどのようなものなのですか?」
「なんだ君は? 冒険者では無さそうだが……」
「まぁ、違いますけど。高ランクにもなると、そんなに難しいのかなぁ~と気になりまして」
周囲の冒険者、及び受付嬢から小さく笑い声が聞こえる。
少女の顔は真っ赤だった。……なるほど“逆”だったか。
「まさか……この私を嘲笑しに来たのだな?」
「ち、違いますよ! ね? だから……ね? その剣に添えた手は……放そう? ね?」
「貴様もどうせ、私が女でソロの冒険者だから舐めているのだろう? この剣の切れ味を試してやろうか?」
「ひぇっ……師匠とは別のヤバい人……あっ」
「ほぅ……覚悟は出来ているようだな?」
ギルド内の暴力は禁止の筈だし、本気でやるつもりは無いのだろうけど……周りの冒険者が煽る。やはり頭がおかしい奴等だ。こっちの“見た目”は無防備だというのに。
咄嗟の判断に自信がある方では無いけど、逃げるが勝ちという考えが頭に浮かび、すぐにも実行に移した。
当然、追い掛けられるだろうと思ったが誰にも追われぬまま、師匠の待つアトリエまで戻って来れたのだった。
「ただいま戻りました、師匠~。冒険者って頭がおかしいですよ、やっぱ!」
「うぉぉぉ! 出来た! 出来たぞぉ~!!」
「こっちもこっちだったか……」
アトリエに入ると、疲れきった表情を浮かべつつも新しいアイテムの完成に狂喜乱舞している師匠がそこには居た。一瞬でも、彼氏ができたのかと思った俺が間違っていた。
出来たと叫びながら、ここまで喜ぶのは“新”アイテムの時だけである。いつもはもっと簡潔で、アイテムの良し悪しの感想を言うだけなのだが。
それよりも、こっちに来て二年も経ったのに男の気配すら無い師匠……。まぁ、ほぼ旅をしていたから仕方ないけど。
「また、何か変なアイテムですか? それともドッキリアイテムですか?」
「いやいや、そんなもんじゃ無いって! これはヤバい! やっぱり私は天才ねぇ~。んふふっ!」
「はぁ……。で、いったい何を?」
「聞きたい? 聞きたい? あのねぇ~くふふ。ようやく『世界渡り』を改良して『世界繋ぎ』を作れちゃったんだよね! ホムラ、これでいつでも日本に戻れるよ!」
は? …………はぁぁぁ!?
今、師匠は何て言った? 改良した? したのか!? それよりも……出来たのか!?
特級禁忌アイテムを作るのは、いくらレシピがあっても条件や運が絡んで難しい。そんなアイテムを改良するのも同様の難易度だろうし、つまり……師匠は頭がおかしい。
「『世界渡り』を作るのですら億の確率なのに、それを改良したって……その上で日本に帰れるって……師匠! 俺にはもう、分かりません!」
「おやおや、思考放棄はいけないなぁ。キミねぇ……もっとプラスに考えようよ? 日本にある便利製品とこの世界にある珍しい素材と濃密な魔素……ワクワクするだろ? いや、してるだろ? しない奴は錬金術師の才能は無いからね」
ダメだ……師匠の言うとおりだ。俺は今――試したい事が一気に思い付いて、ワクワクしている。例えば日本に売ってあるモデルガンを改良して、この世界にある属性付きの魔石を銃弾とすれば……とかな。
結果は試してからじゃないと分からないが、想像が広がる。楽しい楽しい楽しい――。
「師匠! 早速行きましょう!」
「……と、キミなら言うと思ったけど駄目。まずは私が試して、無事に戻って来るかを確認する。良いね?」
「師匠、まさか俺の身を案じて……」
「そんな理由あるはず無いだろ!? 私が作ったんだ、私が一番に使うんだよ! わはは! 悔しかったら自分で作るんだね!」
「くっそ……正論過ぎてイライラが貯まるだけだ」
これ見よがしにアイテムを見せびらかし、満足した師匠はいくつかの課題を残して日本に旅だった。数日経てば一度戻ってくるらしい。
その間のアトリエの仕事はお休みだ。それでも、パン屋への納品は欠かさない様に言いつけられた。あとは自由に過ごせとのことらしいが……まぁ、それは明日から考えることにしようか。
◇◇
師匠が旅立って二日が経った。
師匠がいないということは、思うがままに錬金を試せるという話。いつもいっつも……横から感覚的なアドバイスをされて集中出来なかったのだ。
だからこの二日、魔法技術ギルドにアトリエの申請をしに行った事を除けば、師匠からの課題を終わらせようと素材を入れては大釜を棒で掻き回しまくった。難易度が高めで時間の掛かる課題のおかげで、自分の時間はほぼ取れなかったが……。
それでも後少しで終わりそうだし、その後はやっと自分の時間だ。腕が筋肉痛だし眠いけど、それでも錬金をしている時間は楽しかった。
「あと、二時間くらい掻き回せばとりあえず寝れるか……」
課題の最後、追尾系攻撃アイテムの作成だ。
『鳥の羽』『燃料』『火の魔石』『硝子』『鉱石』を魔素を操り含ませた水の『魔水』に入れる。そして、大釜に火を掛け混ぜる。
この世界にある素材での作り方は、日本で使用していた素材の代用品を探すのに手間取り、苦労したが、見付かりさえすれば後はいつも通りにすれば良かっただけだった。
ただ、入れる分量、混ぜるスピード、混ぜ続ける時間。“変化”が見えるタイミングを逃せば失敗するし、気を張り続けるのはかなりキツい。
「大丈夫……大丈夫……レシピ通りだ。後は、慎重に、慎重に……」
混ぜる混ぜる混ぜる。静かなアトリエの中で、流れる汗が釜に入らない様にだけ気を配る。
――そして約二時間後。
「……おっ! 良かった……ちゃんと光ったか」
釜の中が眩しいくらいに輝く。失敗の合図は魔水が黒っぽくなるから、光れば成功だ。
光が収まり、釜の中を覗くと羽の付いた赤く丸い石が二つ置いてあった。
「よしよし……品質も悪く無さそうだし、爆散しない様に鞄にしまっておこう」
師匠からの課題である『減ってきたアイテムの補充』は、これにて達成だ。
そしてようやく、自由時間を確保することが出来たのだ。
「ん……? なんだこれ?」
さっそく睡眠を……と思ってひとつしか無いベッドではなく、いつも使っているソファーの方に移動すると毛布の下に一枚のメモ用紙が置いてあった。
『課題、達成したかな? では、使った素材や面白い素材の調達よろしく! あ、これも課題ね? アイテムの補充に使った素材の補充さね!』
――なんて書かれた紙を見た気がするし、それをビリビリに破いた気もするけど、とりあえず俺は睡眠を優先させることにした。
明日起きて、もしやろうと思えばやろう。そんなユルい気持ちを抱えながら、微睡みの中へと沈んでいった。
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