第28混ぜ 許可、そして帰還!
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
――気付けば、日本に戻って来てから数日が経過していた。
エレノアと一緒に買い物に出掛けたり、折れた腕を治癒して貰ったり、空いた時間でアイテムの補充をしたりしていた。
不思議なことに、あれだけライバルと思っていた奴でさえ、関係が変われば……ましてや婚約者ともなれば見方が変わってくる。
ざっくばらんで、恐れ知らず……そして、ガサツでお馬鹿と思っていたが、それすらも可愛く思えてくるのだ。
「クルス、料理焦げちゃったヨ! てへへネ……」
「エレノア、お前が作ってくれた事がもう嬉しいぞ。でも、昨日も言っただろ? ご飯は俺が作るって」
「ごめんヨ……でも胃袋掴む、大事なことネ」
なぜ俺の近くに居る女性は皆、料理が駄目なのだろうか……。
他に特化してというか、料理以外の修行に時間を費やしてきたからなのだろうけど、それにしても酷いものだ。
その分、俺の錬金料理スキルがぐんぐん上昇している訳だが、それが良いのかは、うん。女性陣の料理スキルが上がらない事を思うと、はっきり言って……微妙なところだな。
「おっト! そろそろ、行くのヨ? 師匠がお呼びネ」
「お、おぉ……でも、まだ、心の準備が」
最初の戦いの後から三日はエレノアと過ごす事に戸惑いなんかもあったのだが、不細工じゃなくても三日あればだいたい慣れるもので……念願のジャンクフードを食べたり、甘いお菓子を買い漁ったり、楽しい時間を過ごしていた。
そして、五日目の今日の寝起きに――「師匠からクルスもつれて来るように言われたネ」と、急にエレノアから告げられたのだ。
その瞬間、途端に現実感というものに襲われ……今もなお胃がキリキリしている。
朝食はあったとしても、きっと食べれなかっただろう。
エレノアと結婚すると決めた以上、普通に考えて親同然である魔女さんに挨拶に行かねばならないのは当然だと分かっていても、いざ会おうとすると、緊張感から行きたくないのが本心。
でも行かねばならぬと、持ってる中で一番の正装……上から白衣を羽織っているだけだが、魔女さんに合わせて格好も整えたというのに、小屋から出たくなくなっていた。
師匠が俺を溺愛してくれる様に、魔女さんもまた、エレノアを可愛がっているからな。
「大丈夫ネ! 師匠もクルスなら許してくれるはずヨ」
「遅れるのは駄目だし……行くしかないか。菓子折りも持ったし……よしっ! 行こう、エレノア」
エレノアの小屋から魔女さんのアトリエまでは、転移ドアを起動させれば直通らしい。
覚悟は決めた。ここから時間を掛けてしまえば、また行きたくない気持ちの方が強くなると、自分のことだからよく分かる。
エレノアにドアを起動してもらい、俺がドアノブに触れてドアを開けた。
「ここは師匠のアトリエの地下、師匠は上ヨ。クルス、手……繋ぐカ?」
「今は大丈夫だ。じゃあ……」
俺とエレノアが地下から上がる階段から、上に向かおうと動き出した瞬間に天井からドタドタという重く低い足音が聞こえて来た。
そして次の瞬間――階段を駆け降りて来た何者かに、俺とエレノア、両方揃ってタックルされていた。
いや、違うか……勢いが凄かったからそう思ったが、実際はハグなのだろうな、これは。
「師匠、つれて来たヨ! あと、苦しイ!」
「ありがとうエレノア。それにしても……大きくなったわねぇ~ホムラちゃん。久し振りぃ?」
「お久し振り……です……うぐッ」
首が……呼吸が……。
魔女さんは、スキンシップが激しい。スタイルの良いボディ……昔は豊満な胸が頭に乗る身長差だったのだが、俺も成長したせいか、バッチリ顔のど真ん中に来る様になっていた。
俺達から見て、右の乳に俺が左の乳にエレノアが押し付けられている。
「あらやだ、ごめんなさいね。ウフフ、つい……ね?」
「可愛くウインクしても駄目ヨ!」
三角のトンガリ帽にローブ。全身黒っぽい格好で今日も魔女っぽい魔女さんだ。
思い出の中の魔女さんと、寸分違わぬ姿だ。衰えを知らないのかと聞きたいくらい、その美貌は昔のままだった。最近、小皺を気にする様になった師匠が見たらあまりの理不尽さに、理不尽に怒りそうだ。
「魔女さん。その、今日はお話がありまして……あっ、その前にこれ……菓子折りです。どうぞ」
「あらあらご丁寧に。さ、話しはこんな場所じゃなくて上でお茶でも飲みながらしましょ?」
地下から地上へ。
階段を上った先は、書庫らしき場所だった。俺や師匠が持っている数を圧倒的に上回る大量の本が本棚にぎっしりと詰まってきた。
錬金術師なら誰もが一度は読んだことのある本から、英語で書かれている本、何語で書かれてるかパッと見じゃ分からない本まで沢山あった。
何気に……魔女さんのアトリエに訪れるのは初めての事だった。
今までは、魔女さん達が師匠を訪ねてくる事ばかりで、師匠はともかく、俺が行くことは無かったからな。
書庫を抜けて、豪邸ですと言わんばかりの通路を進み、テーブルと椅子が在るだけのシンプルな部屋へと招待された。
キャサリンさんが近くに居るから違和感はあまり感じないが、部屋の中で待機しているメイドさんというのは、やはり珍しいと思う。現在の錬金術師として、師匠と並び最高峰に君臨している人物の家なら当然なのだろうが……。
「まずは向こうの世界のこととか、そっちのお話を聞かせてホムラちゃん」
いきなり本題ではなく、閑話から話してというのは緊張している俺への優しさだろうか。
「師匠から聞いているのでは?」
「彼女は話しに偏りが過ぎるの。どうせなら、ちゃんとした話も聞いておきたいじゃない?」
「なるほど……では、師匠のアイテムで向こうの世界に辿り着いた所から話しますね」
一時間は越えるぐらい、何があって何を体験したかを話した。
エレノアは興味津々に、魔女さんは落ち着いた雰囲気のまま話を聞いていた。
「――それで、その問題を解決するために一度戻って来たんです」
「あらあら、ホムラちゃんもついに一人立ちなのねぇ……それは大変ね」
「まぁ、キャサリンさんが居ま――」
そこまで言い掛けて、閑話休題のタイミングはここじゃないかと閃きが走った。
「……居ますけど、やはり一人だと大変でして!」
「うふふ、そう焦らなくても分かってますよ。エレノアを連れて行きたいのでしょ?」
「あ……は、はい! その……魔女さんが一番可愛がってるのは分かってます。それでも、エレノアさんと結婚させてください!」
「師匠、私からもお願いヨ」
座って頭を下げるだけじゃ駄目だと、椅子から離れて日本式の……土下座をする。床に頭を擦り付けながら、お願いをする。
エレノアも俺に倣って、隣で土下座をしだした。
「あなた達……ほら、座って。ちゃんと気持ちは分かっているわ」
「じゃあ、師匠! 許してくれるカ?」
「そもそも反対する理由が無いわ。あなた達の事を誰よりも見てきたのよ? 強いて言うなら……師匠の『私達』が独身な事だけど……」
何か悲しい一言を聞いた気がしたが……ようやく、少しだけホッとした。
なるべく師匠達の前では夫婦感を出さない様にした方が良いかもしれない。
それは後でエレノアと話し合うとして……だ。俺やエレノアの結婚に関しては師匠の許しがあって、成立する。役所に婚姻届を出して夫婦となる訳じゃない。
つまり、まだ半分しか達成できてないのだが……たぶん、うちの師匠も似た感じで許してくれるだろう。
実質、エレノアの師匠である魔女さんに許可を頂けた時点で問題は無くなったと言っても過言じゃない。
「クルス! 私、嬉しイ!」
「俺もだよエレノア」
「二人共。私からひとつ、条件があります」
「……あ、はい。何でしょう」
条件という言葉に少し身構えてしまったが、魔女さんから出された条件とは、とても簡単なものだった。
『寂しいからたまに二人で帰ってくること』――それが、魔女さんが出したたったひとつの条件だった。
「はい、必ず」
「師匠! 私、頑張って良いお嫁さんになるヨ!」
「頑張るのよ、二人共……アドバイスは出来ないけどね……」
急に抱き着いてくるエレノアの頭を撫でて落ち着かせていると、目の光が薄くなっていく魔女さんが見えてしまった……。
怖いからあえて触れたりはしない。かと言って優先するのはエレノアだ……抱き着いてくるのを引き剥がす訳にもいかず、魔女さんをなるべく見ない様にするしか、俺にはできなかった。
(師匠はこの数倍は拗らせていると思うと……うわぁ)
その日は魔女さんの屋敷に泊めて貰える事となったのだが、エレノアと一緒に寝たいと言い出した魔女さんに、エレノアが連れて行かれてしまった。
まぁ、人様の家でアレコレするつもりは無かったが……まさか、本当は嫌がらせなのでは? と、軽く疑ってしまったのは仕方ないよな。
◇◇◇
「水よし、食料よし、お土産よし、ネジよし!」
「忘れてもまた来れば良いヨ! 早く行コ、違う世界楽しミ」
「エレノア、俺は戻ったらすぐ仕事に取り掛からないといけないから……翻訳機は作るからさ、しばらくは街でも見回って来なよ」
「うん、わかっタ!」
魔女さんの家で起床してから、別れの挨拶をして、エレノアの小屋へと戻って来た。
そこから、エレノアの道具や家具を、持っていく物と置いていく物に仕分けして、マジックバッグに詰める作業を二人でやり始めた。
わちゃわちゃと騒がしく動き回るエレノアが持ってきた物を、容赦なく断捨離するのが俺の担当だ。
エレノアに「想い出は小屋に置いていけ」と言って、だいぶ持ち物を削ってしまったと思う。
そこまでアトリエが広い訳でもないし、お気に入りの食器類とかは諦めて貰った。
行き来できる事を強く言って聞かせる事で、半ば強引に納得させたのだが……残念そうな表情を浮かべるエレノアに、ちょとだけ心苦しさを覚えた。
「じゃあ、近くに」
「はいヨー、触れれば良いネ?」
「近くに居るだけで大丈夫だぞ」
作業も昼前には終わり、自分が買って来た物の最終確認も終えた。鞄も持って、戸締まりもしっかりと確認し終えた。
こっちの世界でやる事はとりあえず終わりである。
後は――もう、向こうの世界へ帰るだけだ。
「じゃ、行こうか」
「うんッ!」
キラキラと光る『世界繋ぎ』を発動させる。
一瞬のブラックアウトと浮遊感。そして――。
見覚えのあるレンガ造りの家の近くに、放り出され、地面へと倒れ込んだ。ちゃんと……戻って来れたみたいだ。
使った場所に戻るという事は、次に日本に行く時は小屋の近くに出る可能性が高いかもと、今はどうでも良いことを考えていた。この移動方法にも慣れたという事だろう。
「大丈夫か、エレノア?」
「うぅ……なんかゆらゆらするヨ……」
「すぐに慣れる。でもほら、目の前のアトリエが目的地だから……うん、着いたぞ異世界に」
フラフラと立ち上がるエレノアが、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
その間に俺は、中に居るだろう師匠達を呼ぶためにアトリエへと向かった。
ドアを開くと……旅立つ前とは内装がまったく変わっていた。
何もなかった部屋の中には、家具で溢れていた。テーブルに椅子、棚……仕切りの板で区切られた空間があったり、錬金用の大きな釜まで置かれてあった。
「お帰りなさいませ、ホムラ様」
ドアの音で気付いたキャサリンさんが、仕切りの奥から現れた。
「ただいま……ずいぶんと変わりましたね」
「はい、このキャサリン失念していました。これではお客様が訪れた際に、ホムラ様が寝ていたら丸見えであると……」
(なるほど、その為に仕切りでいろいろと区切ってあるのか……)
アトリエに入ると、左側の一部が仕切られてあり、錬金で使う空間兼リビングは残りの部分という配置になっていた。
依頼はギルドや広場の掲示板まで自分で見に行くし、知らない人が直接来る機会は稀だろうが……それでも今の俺にとってはありがたい配慮であった。
立ち入り禁止のプライベート空間が無いのは、確かに落ち着かないからな。
「左側の仕切りの中に、ベッドや転移装置を用意していますので」
「あ、はい……ありがとうございます。それで……キャサリンさん。師匠は今どこに居ますか?」
「もうひとつのアトリエに居ると思いますが……ここ数日はこちらにも顔を出していませんので、ハッキリとしたことは何とも……」
「そうですか……分かりました。あっ、そうだ! お土産と報告したい事が」
「何を報告したいかは、だいたい理解しております。荷物の整理を致しますので、荷解きを先にしてしまいましょう……彼女も連れて来てくださいませホムラ様」
そう言えば……と。先に仕掛けて来たのはキャサリンさんだったと思い出して、今更感が出てきた。
一度外に出て、屋根上に居たエレノアを呼び寄せ、二人で中に戻った。
「キャサリン!」
「良かったですね、エレノア様」
「ン! お嫁さんにして貰えたヨ」
「あらあら」
会ってすぐ抱き着きに動くエレノアと、それを受け止めるキャサリンさん。
そこに割り込むことはせずに、俺は鞄から買ってきた物を取り出す作業に取り掛かった。
しばらく……いや、だいぶ時間が掛かったが、エレノアの話を聞き終えたキャサリンさんが片付けを代わってくれた。
俺にエレノア用の『翻訳通訳機』を作れという事らしく、その好意に甘えさせて貰う事にした。
「エレノア、とりあえずその格好は目立つから脱いでキャサリンさんから別の服を貰ってくれ」
「分かったヨ! ……んッ」
「…………(ジー)」
「そんなに凝視されると……は、恥ずかしいネ」
「いや……少し傷が目立つと思ってな」
下心でエレノアの着替え、下着姿を凝視していた訳じゃない。そんなのは今更って話だ。
それよりも気になったのが、錬闘師として戦って来た証というか、肩や脇腹に残る小さい傷痕。強くなる為の努力が少し感じ取れる。
そんな事でエレノアへの評価がどうこう変わる訳じゃない……顔半分が焼け爛れて醜く成り果ててしまったとしても、エレノアがエレノアである限り俺の気持ちは変わらない。
例えそんな事態になっても、エレノアが望むのなら最大限の俺らしい方法で問題は解決してやる予定だ。
言いたい事はそういうのじゃないのだが……つまり、エレノアがその小さいとはいえ、傷をどう思っているかだ。
「うぅ……傷はどうしてもヨ?」
「あぁ、だから綺麗に治したいなら薬を作るぞ?」
「ううン……これは修行の証。残しておきたいネ」
「そっか。そういう事なら何でも無い……良い身体だ」
「エヘヘ、褒められた、嬉しいのヨ」
お喋りもほどほどに、師匠を呼びに行くのも後回しにてアイテム作りを優先させた。
そして、空がオレンジ色に染まる頃にエレノア用にブラウン色にした『翻訳通訳機』を完成させた。贈り物というか生活必需品として着用を義務付けて、エレノアの耳に着けてあげた。
俺とエレノア……指には同じ指輪を、耳には同じ装飾品を。どんどん増えるペアルックな品に、自然と笑顔が浮かんでしまった。
「ホムラ様、お子様はいつ頃になる予定でしょうか?」
「ぶッ――!? き、急に何ですか?」
「キャサリン! それはナイショな話ネ!!」
「彼女の子を待つより、ホムラ様の方が早いかと思いまして……主のお子様の育てるのはメイドの喜びですので」
な、なるほど……だが、まだ子供は早いだろう。
生活の基盤はともかく、この世界の子育ての仕方だって知識があまりないし。まだ焦らなくても良いだろうと、俺は思っている。
「うーん、いつ頃という予定はないですよ? エレノアも俺もまだ親になるには早過ぎますし」
「そうでございますか……では、もう数年待つことにします」
決して諦めてない瞳、それがキャサリンさんから注がれている。
メイドとしての喜びと言われたが……キャサリンさん自身は結婚とかしないのだろうか?
聞いたとてはぐらかされそうだけど、年齢的にもそろ――いや、思うのすら止めておこうか。うんうん。決して睨まれたからとかじゃ、ないけどね!!
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