第27混ぜ 約束ヨ!
お待たせしました!
よろしくお願いします!(^ω^)
戦闘において言えば、長期戦になればなるほど不利になるのは俺の方だ。
アイテムが尽きてしまえば、普通にボコられるだろう。遠距離用のアイテムがあるからこそ、互角に戦っている様に見えるだけである。
俺はアイテムを作り出すのがメインの仕事で、エレノアは戦ったりするのがメインの仕事だ。日々『魔物』と戦うエレノアの方が純粋な戦闘力なら上だろう。
「――喰らえッ!!」
「炎の術式『炎朧』」
短剣に火薬を吸わせ、魔力を少し加えて火炎を放出させる。
それに対しエレノアも、両手に仕込んだカートリッジ式の刻まれた陣から火属性の術を選んで行使してきた。
陣を使う錬闘師にも普通なら得意な術がある。使えば使うほど発動速度や威力が上がる為、普通なら得意なものに絞って使うのだが……エレノアには苦手がない。それがかなり厄介な部分で、強みでもある。
普通に戦おうとしようものなら、対策のしようがない。強いて言えば、エレノアの知らない技を使うことだが……俺達はもう何百と戦ったりした仲だ。手の内はお互いにバレている。
(条件では圧倒的に不利……だが、秘策はある!!)
俺は木々の生い茂る場所へと逃げ込んだ。
「待つネ! 私からは逃げられないヨ!!」
平地での勝負は地形的に不利だ。
でも、森林の中ならば――俺の機動力が格段に良くなる。
それに、不意を突きやすくなるしエレノアの知力では目の前で起こる事の対処で布石にも気付かないだろう。
ハッキリと言ってしまえば、今回は負ける。その確信があった。
エレノアが予想以上に強くなってる点と単純な準備不足だ。対エレノア用の新アイテムとか作ってない時点で勝敗は決まっている様なものだ。
では、何故さっさと降参しないのかと言うと、エレノアに対してはライバルというプライドがあるからだ。
こいつには無様な姿を見せたくないと心の中で思っているから。
「くっ……ちょこまかト!」
木を蹴っては別の木に。反動を利用して、エレノアへの牽制となる攻撃も忘れずに行う。
特別性の靴のお陰で、落ちる事はない。ただ跳び移っている訳ではなく、ちゃんと最後の仕掛けとしてのアイテムを設置していく。
「土の術式……」
「させるかっ――!!」
手を地面に触れる直前に物を投げて阻害する。シンプルな攻撃ではあるが、術を発動させる集中力を欠かせるのには手っ取り早い技だ。
決死の覚悟でも無い限り、回避しないという選択肢は選らばないだろう。案の定、エレノアも回避を選んだ。
――そして、その隙に準備は整った。
「発動―『包囲爆撃・改』!!」
エレノアの着地する場所へ残りの全アイテムを使い、逃げ場の無い包囲攻撃を仕掛けた。
ドン……ドドドドドドドドドドッ――――。
最初の爆発系アイテムの破裂音から、連続して土が破ぜていく音が鳴り響いた。
周囲には白い煙がモクモクと増え続け、視界が遮られていく。
それを木の上から見下ろして、エレノアがどうなったかを待った。だが、何の音も気配も感じない。
「……やったか?」
「知らないカ? それフラグって言う……ネ!!」
声の聞こえた背後へ振り返った瞬間、両肩を掴まれ、そのまま地面へと叩き付けられた。
「……ァガッ!?」
「油断大敵――でも、危なかったヨ」
高過ぎる所に居た訳じゃない。それでも地面への落下は、肺から空気が抜けて息苦しくなり……その上シンプルに痛い。
切り傷や擦り傷ならすぐに直せる。打撲もイケる。
だが……脱臼や骨折は俺の手持ちの薬で治る怪我じゃない……。ビスコみたいな治癒魔法を使える術者に治して貰うのが、一番早く治せる手段だろう。
エレノアの体重が乗っていたのに加えて、やや左から落ちた結果……俺の左腕が折れて力が入らなくなった。
かろうじて右手は動く。これはまぁ、運が良かったな……。
「……重いからどいてくれ、エレノア」
「お、重くないヨッ! ふざけた事を言う口はこれネ!?」
「あたたたた……冗談だって」
「私、怒ってるヨ!?」
上に乗ったまま、動く様子のないエレノアだ。
怒っているらしいが……心当たりはまぁ、無いこともない。きっと、突然居なくなった件だろう。
事前に報せられる状況でも無かったし、あの時はああするしか無かった。
たしか……記憶が間違ってなければ、あの時点で俺が一つだけ多く勝ち越していた。エレノアからすると、勝ち逃げされた気分になったのかもしれない。
(エレノアは俺と師匠についてどう聞いているのだろうか……)
そもそもの話だ。以前に師匠がこっちに来た際に、魔女さんと会っていればエレノアが知っていてもおかしくはない。
エレノアの反応的に、いきなり戦いになったという事を思うと知っている雰囲気だが……一応聞いてみた方が良いか?
「エレノア、俺と師匠についてはどうなってる?」
「ふン! 教えてやる義理ないネ!」
「仕方ない……エレノア、俺はまだ奥の手を出していないぞ?」
「その前に私の拳がアゴを穿つヨ! 無駄な抵抗は止めるのが得策ネ」
俺はギリギリ動く右手でポケットから宝石を取り出した。
それはキャサリンさんから頂いた秘密兵器。『いざ』という時に使えと言われていた物だ。
この状況を考えると、全てお見通しというか……掌の上で転がされていた感じが半端ない。
よく考えてみれば、宝石はエレノアの好きな物である。
キラキラとしてる物や綺麗な物、エレノアはそういうのが小さい頃から好きだった。
「ほら、右手の。これやるから、今日は引き分けにしよう」
俺の右手の中身を強引に奪って、顔の前に持ってきて……エレノアが固まった。怒りの表情もどこかへ、今はただ放心している感じに見えた。
エレノアに渡したのは、細かく言うならば宝石というかダイアモンドの原石だ。加工しないとただの綺麗な石みたいなものだが、価格にすると億は余裕で越える大きさだ。
これをポンとくれるキャサリンさんは異常だが……おそらく向こうの世界で手に入れた物で、元手はそう掛かってないから俺にくれたのだろうな。
向こうの世界……原石から宝石にする技術がまだまだ未発達で、大きい石からかなり小さい宝石にしか加工ができていない。例えるなら、十センチが一センチくらいに減るぐらいだろうか。
そのせいで価格も、貴族しか手が出ない程につり上がっている。
あれなら……まだ俺の方が綺麗に加工できるだろうな。依頼が来ない限りはやらないけど。
「これ、ダイアモンド……」
「おう。ほら、キラキラした物とか好きだったろ? お詫びだ」
「覚えてて……くれたのネ? なら、許すのヨ」
「あぁ……あ? え、何を?」
「あの約束ヨ? 私に宝石くれる時は、結婚する時ッテ!」
いや、してないな。記憶にないもの。記憶にないからしてない証明も出来ないのだが……。
エレノアが宝石を大事そうに握っている。何とも言い出しづらい空気だが、それはそれだ。知らないものを知ってるというのは愚者だと昔の偉い人が言っていた。
「エレノア、ごめん。まったく記憶にないんだが?」
「クルスはお馬鹿だから忘れてるのヨ? ちょっと待つネ」
エレノアがスーツの内側から一枚の白い紙を取り出した。
そして、三つ折りにされた紙を開いて書いてある文字を俺に見せてくる。
そこには子供の字で、こう書かれていた。
『やくそく。わたしにキラキラくれたときに、けっこんします。ホムラ』
――やはり、記憶にないのだが?
だが、自分の名前『ホムラ』という部分だけは俺が書いた字だと分かってしまう。そこだけ文字の綺麗さから見ても、書いた人物が違うから。それ以外の所は、まだ日本語の勉強をしだしたばかりのエレノアが書いたのだろう……いや、だとしても何だこれは。恋のキューピッドもビックリな誓約書である。
「約束したのヨ? クルスのサインもちゃんと書いてあるネ!」
「これって……俺達が幾つの時の?」
「うーんと……六歳くらいだったはずヨ。クルスはたしか、錬金術のお勉強をしてた時?」
思い出せないのだが……おそらく、エレノアから名前を書いてとか言われて、片手間で書いたのだろう。書いてしまったのだろう。
いや、それでも。普通は子供の頃のおままごとみたいなものだと、歳を重ねるにつれて思うものだろうに。
するとあれか? 今までライバルと思って戦っていたのは俺だけだとでも言うのか? なにその、一周回って恥ずかしい勘違いは。
「よし、エレノア。とりあえず俺達はまだ結婚できる歳じゃないだろ? その件は次にタイミングがあった時にでも、話す事にしようじゃないか」
「クルス、そう言って別の場所に行くきでショ!? そして、戻って来ない気!」
「なるほど……俺をよく分かってるじゃないか、エレノア。それに、知ってるんだな。俺と師匠が別の場所に居るって」
「師匠から聞いたヨ! 私も行ク! ついて行くかラ!!」
エレノアの真紅の瞳が、本気の眼差しをしていた。
別に結婚が嫌な訳じゃないし、エレノアが嫌いな訳でもない。だが俺には、ついて来いと言えるだけの気持ちがある訳でもなかった。
やらねばならない事もあるし、金銭面で不安は無いけど、師匠やキャサリンさん以外の人と一緒に生きていくという感覚がイマイチ掴めないのだ。
「落ち着け、エレノア。とりあえずどこかで座って話そう……」
「仕方ない……ついて来るヨ、案内するネ」
ようやく上から退いてくれたエレノア。俺もエレノアも服は汚れている。着替えとか風呂とか、とりあえずサッパリしたい気持ちで、小屋へ向かって歩いて行くエレノアの後をついて行った。
◇◇◇
小屋は地下に続いていて、進むと生活感溢れる部屋へと行き着いた。
ここはエレノアが一人で住んでいるらしい。魔女さんから呼び出しがない限りは、ここで修行しながら生活をしているとか。
先にシャワーを借りて、今はエレノアが汚れを落としに行っている。
気休め程度の気持ちで傷薬を左腕に塗って、布で固定しておいた。
「クルス、私の裸見るカ?」
「いや、見ないから」
「あっはっは、冗談ヨ。ドキッとしたカ?」
ちゃんと服を着て出てきた事に安堵し、髪を術で乾かしながら椅子に座るエレノアに、相変わらずの器用さだと感心した。
「とりあえず先に、俺がやらないといけない事を話そうか」
そもそも、この場に案内したのがキャサリンさんの時点でエレノアは事情を知っていると断定して良かったかもしれない。
それを踏まえて、俺が何をしに来たかをエレノアに伝えた。話している最中に「ふむふむ」と相槌を打つ人の理解してなさは異常だが、とりあえず言うこととやることは伝えた。
「必要なのは、拠点と金ネ?」
「まぁ、そうだな。あと、大量に物を買うから車とかあった方が鞄に入れる時に目立たなくて良いんだけど……それは妥協する」
「拠点は此処に住むと良いヨ。お金も私が持ってるシ!」
「分かった。しばらく世話になるぞ、エレノア。金はいつか返す」
「もう共有財産だかラ、返済はいらないのヨ?」
真面目な顔してそんな事を言われると、返事に困ってしまう。
ただの予想だが……これはもうなし崩し的にどんどん話が進んで、いつの間にか敷かれたレールの上を走っているパターンなんじゃないかと、そう思ってしまうよね。
「なぁ、エレノア? 変なこと聞くけどさ、俺のこと好きなの?」
「好きヨ! クルスは私のこと好きカ?」
面と向かって好きと言ってくれる人なんて、家族以外じゃエレノアくらいかもしれない。
そう考えると、俺とエレノアが結ばれる事は偶然じゃなくて必然的だったのかもしれない。
俺とエレノアの結婚というレシピを用意して、作り始めたのは師匠や魔女さん、キャサリンさんなのかも知れないけど……まぁ、良いか。どうするかは、これからの俺次第なのだろうから。
「あぁ、そうだな。好きだ。一緒に暮らすか? エレノア」
「うんっ! 私は、クルスを十年も待ったのヨ。日本ではホムラみたいな人を『ヘタレ』と言うらしいネ」
「要らん知識ばかり覚えよってからに……」
褐色の肌、ダークブラウンの髪に真紅の瞳。錬闘師のエレノアが奥さんになってくれるみたいですよ、師匠。
――そんな報告をしたら、きっと泣いて喜んでくれるだろう。泣くのは弟子に先を越されたから……だろうけどね。
「そうだクルス、他に付き合ってる女の子が居るなら先に言っておくネ」
「えっ……何で? いや、居ないけどさ」
「私が一番上という序列を教えなければヨ! キャサリン言ってタ、向こうは『イップンタップン』テ」
「……ん? あぁ、なるほど。一夫多妻」
「それヨ! クルス……誰が言い寄っても私が一番?」
一夫多妻に寛容な所とか、ずっと好感度が高かった事とか、いろいろ突っ込みたい部分はあるけれど……そうだな。今はまだ気持ちだけが先行して、フワフワしている時だ。
言葉を重ねても心配になるのは仕方ない。必要なのは、安心できる形ある物だ。
心配そうな顔した女の子が目の前に要る……キャサリンさんの教えを実践する時が来たな。
「エレノア、手伝ってくれ。二人でダイアモンドを加工するぞ。一緒にお揃いの指輪を作ろう」
「……分かっタ! 一緒に、それ、大事なことヨ!!」
一緒になにかを……これはキャサリンさんの言うことだから正しいのは分かる。
けれど、やはり、なんだか……いろいろと難しい事が一気に増えた気がする。
今まで通りの対応で良いのか、それとも世間的なイメージを模倣して奥さんに対する対応をすれば良いのか、とか。
エレノアの出身は日本じゃないし、そこら辺の文化の違いとかも……考え出すと大変な事が山積みだな。それを乗り越えていかなければならないのだと、頭では分かっていても。
一緒に頑張っていこうという証――それが指輪だったりするのかもと、少しだけ考えてみたり。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
十五歳、異世界なら何でもできちゃう年齢ですよね!
エレノアちゃん、ファイトファイトー!




